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三百四十九話
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――――美少年にかしずかれて、彼は玉座に座った。その頭上には糸で吊るされた剣がある。
いかなる栄華や平穏が訪れようと、この世界は常に危険と隣合わせなのだ。
王は彼にそう説き伏せた。
しかし――――本当の脅威はその言葉以上に、王の間近にあった。
数年後、彼は断罪者となった。
王を国賊とみなして処刑した。法の番人であった彼に与えられた称号はエグゼキューショナー。
常に死の臭いをまき散らしながら、貴族たちにもてはやされ贅に溺れた者の末路は因果応報、自分が裁きを下した者たちの家族により報復を受け、その生涯に幕を閉じた。
ダモクレスの剣が落ちてくる。
それも一本ではなく無数の刃からなる死の雨だった。
シルクエッタたちは防御壁を構築しようと魔力をワンドに集中させていた。
四人を庇えるほどの分厚い外壁、皆で協力すれば、出来ない事はないが圧倒的時間が足りない。
分厚いものではダメだ、成形に時間がかかり充分な強度を保てない。
薄膜をいくつも重ね盾にするしか選択肢はないだろう。
ギデオンが時間を稼ぐべく、エゼルキュ―トと対立していた。
煙管から吐き出した煙の中からがサキュバスが出現し、ギドオンに魅了を仕掛けてくる。
「邪魔すんなよ! 色欲魔」
すぐさまクドがサキュバスを斬り捨てた。
人型の魔物であろうと、その剣に情けなどはない。
嫌悪の目を向けながら双剣を構えている。
「クド、ラスを呼んでくれ」不意にギデオンが五人目の彼の名を持ちだした。
エゼルキュ―トが息を吸い込み、猛毒の息を吐き出す。
雷鋼糸の雷撃と炎帝剣の火炎が交わり爆発が生じる。
アークデーモニアの本体ごと爆炎が辺りを包み込み、毒の空気を瞬時に消し飛ばした。
「聞き間違いじゃないだろうなぁ? アイツを呼べだって!?」
「ああ、その為に布石は打っておいたんだ。シルクエッタとエルビアンカには悪いが、いくら頑張ってプロテクションを重ねがけたところで、空から迫ってくる悪意の刃を耐えきることは無理に等しいと思う。こうした時のために保険として彼を残してきたんだ」
「なるほど……そういうことか! けれど成功するのか? 失敗したらどうにもならないぞ」
「大丈夫だ! 僕の嗅覚を信じろ。そう遠くない場所から蜜蝋の香りがする。ラスが準備してくれている証拠だ」
「ふん、どうせ。このままだと高確率であの世行きだ。だったら乗ってやるよ、その博打! さっさと俺たちを引っ張り上げろ、ラスキュイ!!」
クドが叫んだ途端、空間に亀裂が生じ穴が開いた。
来た時とは逆に今度は問答無用で穴の内部へと吸い上げられてゆく。
聖歌隊の四人は、エゼルキュ―トが創り上げた異空間から脱出することに成功した。
穴をくぐり抜けると彼らは、オーリエ・クラウゼの地下空洞に戻ってきていた。
「ちょっと! 何なのよ。いきなり過ぎて心臓に悪いわよ!!」
「そうカッカするなってエルビアンカ。戻ってこられただけでも良しとしようぜ」
「いやっ、その原因はクド、アンタにあるんだけど……」
帰還するなり、息をつく聖歌隊メンバー。
ただし、それは一時しのぎに過ぎない。
事態は急転し、よりややこしいカタチとなってきた。
「た、助かったんだよね……ただ、これで万事解決ではないよね?」
「そのとおりだ、シルクエッタ。一度、悪魔に目をつけられたんだ、君たちを容易に逃がすわけがない。必ず、追いかけてくる!」
空洞内で待機していたラスキュイがそう警告を発しながら合流した。
これで特務班が全員集合したカタチとなった。
五人――――そう、四人でも三人でもなく五人であることが微かに残された希望の灯火となる。
「準備のほうはどうなんだ?」
「ああ、バッチリだ。計画していた通り、魔法陣を敷くことが出来た。なにぶん、手探りなところもあるから出来栄えは期待するなよ」
ギデオンが頷くとラスはビィスの大穴があった部屋へと一向を案内した。
「嘘でしょっ? 穴が消えているわ……」
前回とは違う部屋の変化にエルビアンカが戸惑いの声を上げた。
クドとシルクエッタは無言のまま部屋の床に書き込まれた魔法陣に目を通していた。
「別に驚くことでもないさ。あのアークデーモニアがいた場所自体が亜空間結界になっているんだ。ビィスの大穴もその一部、つまり最初からここには無いモノだったんだよ」
ラスから説明を受けたエルビアンカは「まさに怪異よね……」と受け入れにくい話に言葉を詰まらせていた。
「ビィスの大穴も今はどこにあるのか分からない。けれど、あの異界は依然としてここと繋がっているはずだ。奴はこの大部屋に出現するはず、そこを叩くぞ!」
部屋の中央にいたメンバーたちに向かって、ギデオンはエゼルキュ―トとの戦いに終止符を打つと宣言した。
いかなる栄華や平穏が訪れようと、この世界は常に危険と隣合わせなのだ。
王は彼にそう説き伏せた。
しかし――――本当の脅威はその言葉以上に、王の間近にあった。
数年後、彼は断罪者となった。
王を国賊とみなして処刑した。法の番人であった彼に与えられた称号はエグゼキューショナー。
常に死の臭いをまき散らしながら、貴族たちにもてはやされ贅に溺れた者の末路は因果応報、自分が裁きを下した者たちの家族により報復を受け、その生涯に幕を閉じた。
ダモクレスの剣が落ちてくる。
それも一本ではなく無数の刃からなる死の雨だった。
シルクエッタたちは防御壁を構築しようと魔力をワンドに集中させていた。
四人を庇えるほどの分厚い外壁、皆で協力すれば、出来ない事はないが圧倒的時間が足りない。
分厚いものではダメだ、成形に時間がかかり充分な強度を保てない。
薄膜をいくつも重ね盾にするしか選択肢はないだろう。
ギデオンが時間を稼ぐべく、エゼルキュ―トと対立していた。
煙管から吐き出した煙の中からがサキュバスが出現し、ギドオンに魅了を仕掛けてくる。
「邪魔すんなよ! 色欲魔」
すぐさまクドがサキュバスを斬り捨てた。
人型の魔物であろうと、その剣に情けなどはない。
嫌悪の目を向けながら双剣を構えている。
「クド、ラスを呼んでくれ」不意にギデオンが五人目の彼の名を持ちだした。
エゼルキュ―トが息を吸い込み、猛毒の息を吐き出す。
雷鋼糸の雷撃と炎帝剣の火炎が交わり爆発が生じる。
アークデーモニアの本体ごと爆炎が辺りを包み込み、毒の空気を瞬時に消し飛ばした。
「聞き間違いじゃないだろうなぁ? アイツを呼べだって!?」
「ああ、その為に布石は打っておいたんだ。シルクエッタとエルビアンカには悪いが、いくら頑張ってプロテクションを重ねがけたところで、空から迫ってくる悪意の刃を耐えきることは無理に等しいと思う。こうした時のために保険として彼を残してきたんだ」
「なるほど……そういうことか! けれど成功するのか? 失敗したらどうにもならないぞ」
「大丈夫だ! 僕の嗅覚を信じろ。そう遠くない場所から蜜蝋の香りがする。ラスが準備してくれている証拠だ」
「ふん、どうせ。このままだと高確率であの世行きだ。だったら乗ってやるよ、その博打! さっさと俺たちを引っ張り上げろ、ラスキュイ!!」
クドが叫んだ途端、空間に亀裂が生じ穴が開いた。
来た時とは逆に今度は問答無用で穴の内部へと吸い上げられてゆく。
聖歌隊の四人は、エゼルキュ―トが創り上げた異空間から脱出することに成功した。
穴をくぐり抜けると彼らは、オーリエ・クラウゼの地下空洞に戻ってきていた。
「ちょっと! 何なのよ。いきなり過ぎて心臓に悪いわよ!!」
「そうカッカするなってエルビアンカ。戻ってこられただけでも良しとしようぜ」
「いやっ、その原因はクド、アンタにあるんだけど……」
帰還するなり、息をつく聖歌隊メンバー。
ただし、それは一時しのぎに過ぎない。
事態は急転し、よりややこしいカタチとなってきた。
「た、助かったんだよね……ただ、これで万事解決ではないよね?」
「そのとおりだ、シルクエッタ。一度、悪魔に目をつけられたんだ、君たちを容易に逃がすわけがない。必ず、追いかけてくる!」
空洞内で待機していたラスキュイがそう警告を発しながら合流した。
これで特務班が全員集合したカタチとなった。
五人――――そう、四人でも三人でもなく五人であることが微かに残された希望の灯火となる。
「準備のほうはどうなんだ?」
「ああ、バッチリだ。計画していた通り、魔法陣を敷くことが出来た。なにぶん、手探りなところもあるから出来栄えは期待するなよ」
ギデオンが頷くとラスはビィスの大穴があった部屋へと一向を案内した。
「嘘でしょっ? 穴が消えているわ……」
前回とは違う部屋の変化にエルビアンカが戸惑いの声を上げた。
クドとシルクエッタは無言のまま部屋の床に書き込まれた魔法陣に目を通していた。
「別に驚くことでもないさ。あのアークデーモニアがいた場所自体が亜空間結界になっているんだ。ビィスの大穴もその一部、つまり最初からここには無いモノだったんだよ」
ラスから説明を受けたエルビアンカは「まさに怪異よね……」と受け入れにくい話に言葉を詰まらせていた。
「ビィスの大穴も今はどこにあるのか分からない。けれど、あの異界は依然としてここと繋がっているはずだ。奴はこの大部屋に出現するはず、そこを叩くぞ!」
部屋の中央にいたメンバーたちに向かって、ギデオンはエゼルキュ―トとの戦いに終止符を打つと宣言した。
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