異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百六十一話

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「オッドぉ、お魚が泳いでいる」

 水面を指さしながらオッドの背中でウネがはしゃぐ。ランタンの光で照らしてみると、確かに魚影が見え隠れしている。どうやら、ここの水質は彼らが想像しているよりは幾分かはマシなようだ。

「コラ、あんまし暴れると落ちるぞ」
「ゴーゴー、オッド~!」
「俺は馬かよ……ん? どうかしたんか?」

 ウネとオッドのやり取りをパスバインは興味深げに見ていた。

「そりゃ、珍しい組み合わせだからな。人と魔族が一緒に行動しているなんて普通はあり得ないだろう」
「いや、もとはお前が連れてきたんだろうがい!!」

 我関せず、あっけらかんとしたギデオンの態度に、オッドのツッコミが冴える。
 時折、惚け癖がでるギデオンはたんに悪ふざけしているのか、それとも素なのか誰も分からない。
 ウケが良かったのか、パスバインの仮面越しからクスッと笑い声が聞こえた。

「すみません。あまりにも二人が仲良しなので……まるで兄妹みたい」
「うん? 僕はオッドと兄弟になったつもりはないぞ」
「どんだけ早とちりしてんだよ! 話の流れからして俺とウネの話だろうが……」

 束の間の談笑、普段なら心休まる一時となるはずだ。現在、迷宮遺跡第六層……別ルートで進んだため大分、ショートカットができた。
 地下水路を抜け出ると、また過酷な現実に引き戻される。

「ギデ、あれってローブを着込んだ草刈りのおっさんじゃないよな……」

 切り絵のように物のアウトラインだけが色濃く強調される。アートの世界観を放つ光と影の庭園。
 人影らしき物が花畑の中で蠢ている。

「グリムリーパ―だ。鎌には気をつけろ、即死効果付与されているから斬られたらアウトだと思え」
「んな奴と、どう戦えって言うんだよ」

 若干、尻込むオッドに「こうして戦うんだ」と手解きする。

「敵数は二体、同時に来ます!」

 パスバインが後方から叫ぶ。
 直後、死の恐手は足音も立てずにスッと左右からギデオンを挟み撃ちにしてきた。
 鎌を頭上に振り上げようする、グリムリーパーの手元に猟銃のリコイルパッドが勢いよく食い込んだ。
 銃で殴られた衝撃で鎌を柄を掴んでいた手元がわずかに緩むと迅速に死神の鎌を奪取する。
 その間、わずか一秒足らず。
 息つく暇もなく、今度はもう一方のグリムリーパーが攻撃を仕掛けてきた。
 鎌の斬撃を的確な角度で受け流しつつ、無防備となったところでローブごと一刀両断する。
 武器を失った残りの一体は、魔法を詠唱しようとしていた。
 危険を察知したパスバインが容赦なくグリムリーパーの頭部へと蹴り入れる。
 バランスを崩したところで鎌を振るうギデオンにより仕留められた。

「えげつねぇ、戦い方だな。おい」
「誰だ!?」

 庭園の奥から唐突に声がした。
 ふいに目の前に現れた人物にギデオンは心当たりがあった。

「アンタは、クドと一緒にいた……おっさん」
「こう見えても、まだ二十代なんだが……まぁ、いい。他の二人は初めましてだな。俺の名はヒューズ・デルニア。高貴なる不徳アーデルヴァイスの一人だ」
「アーデルヴァイスだと? 傭兵団の時は別名だったような気がするが?」
「それな、元々の俺らのリーダーは別にいたんだが、クドが傭兵団ごと俺たちを取り込んだのよ。俺やオルドレールは、そん時の生き残りって奴だが、大半の奴らはクドに始末された」

 短髪の髪を手で掻きながら、青年ヒューズは抑揚よくようなく淡々と語る。
 奇妙な不気味さの輪郭がハッキリと浮かんでくる。
 傭兵団の仲間が殺害されたというのにヒューズは何一つ、感じていないようだ。
 どうしてクドの蛮行を受け入れられたのか、分からないし納得もできないところだ。

「ヒューズだったな。どうしてクドを支持する? アンタは仲間が殺されて何とも思わなかったのか? おかしいだろう!?」
「仲間ねぇ……カン違いしているようだが、クドが殺したわけじゃない、クドを殺そうとした俺たちが全滅寸前まで追い込まれたんだよ。最高に痺れたぜぇ―――!! チルルの姉御と二人だけ無双する姿は、まさに悪鬼羅刹だった。思い返すだけで金玉縮こまっちまう……俺らの憧れなんだよ、あの二人は。弱者を虐げるだけの、マフィアの手下みたいになって日々、汚い仕事やセコイ仕事をするなんざ、まっぴらごめんだ」

「悪の美学という奴か」
「それそれ、俺には純然たる悪の道が似合っているわけよ!」

 得意気に語るヒューズ。ギデオンの記憶に間違いがなければ、この男は戦闘を苦手としていたはずだ。
 走るのだけは速かったが、とりわけ他には秀でた力はない。
 明らかに前線に出てくるタイプだとは思えないが……。

「というわけで、先へと行きたいのなら俺を倒してからにしな!」
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