異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百六十四話

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 妄想と狂言が入り混じるクドの瞳に映るのは、都合の良い世界のみ。
 いくら話し合おうとしても、誰の言葉も彼の心には響かない。

「もっと、面白いもの見せてやろう。テイク ア ストレージ」

 表情なき顔で能力を発動させる。空間の切れ目から黄金の細長い棒が飛び出してゆく。
 次第に露わになる、棒は槍の柄の部分だった。
 最後に幅のある波状刃が出現するとシルクエッタが無言で手に取った。

「お前ら、これがなんだと思う?」

 クドの言いぶりからしてロクなモノではないことは察しが付く。
 細やかな彫金が施され艶やかな宝石が散りばめられた槍は、武器としてみるにはかなり高価だ。
 肝心の刃も曇り一つないガラスのように洗練された光沢を放ち見る者を圧倒させる。
 ただ単に光っているのではない。
 己が価値を示すように美しさを前面に出し槍が骨董品でないことを強調しているかのようだ。

「これは、この迷宮遺跡の奥に保管されていた女神の矛だよ。本物かは知らないが、矛というよりはランスと言ったほうが相応しい形状をしている」
「ミルティナスの……それをシルクエッタに持たせてどうするつもりだ!?」
「簡単なことさ。神官の力でどれだけ矛が真価を発揮できるか検証する。上手くゆけば、ミルティナスの力の一端を物にすることができるかもな」

 最後の探し物が思わぬカタチで出てきた。
 ミルティナスの行方を辿るには、何としても矛を入手するしかない。その上で、聖獣であるジェイク呼び寄せる必要がある。ミラーボード、聖獣、矛、三つが揃い初めて意味を成すパズルもいよいよ佳境を迎えていた。

 シルクエッタが柄を握り締めると矛自体が凄まじい神力を放出した。
 まるで壊れた蛇口のように矛から吹き荒れる力。ミルティナスの矛はシルクエッタの魔力に触発され半ば暴走気味な反応を示していた。
 思惑どおりに事が運び、クドの顔が綻ぶ。

「シルキー、そいつらを始末しろ!!」

 依然としてチルルに操られたまま、シルクエッタが矛を振るう。
 神力により微気圧振動を発生させ空気抵抗を受けた矛先が真っ赤に染まる。
 一振りで熱線が地を走り、すべてを焼き切る。

「上等だ、受けてたってやるぜ!」

 強がるオッドだが、口元は強張ったままイヤな汗が頬を伝う。
 いくら誤魔化そうとも相手は神器持ち、明確な力の差を感じ取れないほど彼も鈍くはない。

「オッド、シルクエッタは操られているだけだ! 踊り子の奴を叩かないと彼女を傷つけてしまう!!」
「わーてるって、けどよ……どう切り抜ければいいんだよ。ブロッサムや鳥の先輩もヤべーことになっているし、お前は動けない。俺やパスバインだけでどうにかするには、あの矛を奪い取るしかねぇだろっ!!」
「待ってください!」

 焦りで苛立ち始めるオッドの肩を叩くのはパスバインだった。
 神器に対する畏れから感情任せになってしまっている彼を制し仮面の女官は告げた。

「彼女のことは私がどうにかします。オッド殿は負傷した二人を救出してください! ギデ殿―――」
「ああ、もう少しで拘束は取れる。クドは僕が止めるからシルクエッタのことを頼む」
「ええ、保証は致し兼ねませんが……できる限りのことはするつもりです」

 酒の入った筒を手に取るとパスバインは一気に飲み干した。
 酔えば酔うほど強くなるのがバトルドランカーの真骨頂だ。踊れば踊るほど自身を強化するチルルのバンデム・タンデムと非常に類似した先天性の体質だ。

 神器の一撃は災禍級ではあるが、幸いにも使い手は素人同然だ。
 無理やり操作しても、やはり攻撃のモーションに遅れが生じる。
 その隙を見定めパスバインはシルクエッタの方に向かって疾走しだした。
 敵を迎撃するために粗々しく矛を振り回し、突きを放つが動きが散漫で大振りだ。
 ある程度、攻撃を読み確実に詰め寄っていく。
 長物を扱う以上、近接戦に持ち込めばパスバインの方が優位に立てる。

「そう易々と行かせないぞ」

 チルルの鮮烈な蹴りがパスバインの腹部に命中した。
 シルクエッタとの距離を縮めることよりも、阻害してくる敵の対処に手を焼く羽目となった。
 このまま振り出しに戻るのかとギデオンは固唾を飲んだ。
 状況悪化を懸念しても、杞憂に過ぎないことも稀にある。

「んなっ!!」

 ギデオンの不安を払拭するようにパスバインは平然と立っていた。
 逆に慌てだしたのはチルルの方だ。
 蹴り出した足を腕と脇腹の間にガッチリとホールドされた彼女は動きがとれなくなってしまった。
 間髪入れずに、投げ飛ばされたチルルは地面へと身体を叩きつけられ白目を向いていた。
 人間を自動で傀儡できても術者が被弾する範囲に居る場合はキケンと判断し、まったくもって機能しない。
 皮肉にもホロウダンサーにとって自ら課したルールこそが大きな落とし穴となっていた。
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