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三百六十三話
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ヒューズ・デルニアがもっとも忌み嫌うモノ……。
言うまでもなく、それは人を見下す人間だ。
ヒューズ自身、傭兵団時代には最悪と言っても過言ではない記憶しかない。
思い出ではなく、記憶、そう記録程度の価値しかない。
生まれた時から病弱で人よりも物覚えが悪かったヒューズは、よく周りの肉塊から『役立たずのゴミ』『邪魔な存在』『無能』と耳を塞ぎたくなるようなレッテルばかり貼られていた。
人の才能が開花する時期は個人で異なる。ヒューズの場合はとりわけ遅く、強者への憧れから傭兵の道へと進んだのだが、戦闘も戦術においてもからっきし使えず雑用ばかりさせられていた。
ここでも周りから疎まれ、気性の荒い仲間たちからは憂さ晴らしのサンドバッグにさせられていた。
彼は誰よりも観察力があり、人を欺くのに長けていた。
理不尽に殴られる度、相手をどう苦しめ殺すのがもっとも恐怖と後悔を与えられるか何度も何度も思考を巡らせていた。執念深さもあって方法は何通りでも閃いた。
いつしか、このやり方で戦術を練れるようになっていた。
その一つ一つが、えげつないほど凄惨なモノである。
着眼点と発想の展開、ヒューズのアイデアは、どれも素晴らしいモノではあったが、そこで止まってしまっていた。
頭の中で描いたことはカタチにしなければ無いのと一緒だ。
大人しいヒューズには、他者を傷つけることができなかった。
自分に害為す者を駆除するため、殺しのプランニングをしても踏ん切りがつかず実行に至らなかった。
クドが彼の歯車を弄るまでは―――――――
「らしくないなぁ~。ギデさんよぉ、頭に血が上りすぎて冷静な判断が欠如していないか? 女の方だけ、どうして猿ぐつわをしていないのか? 気づかないなんてよぉ」
言葉とともに、ヒューズの顔の表面が溶けてゆく。
能力によって姿を変えられるのは何も自身ばかりではない。
他者に偽りを被せて、異なる存在とする。
「そんなバカな……」
「狙う相手を間違えたな、キィヒヒヒッヒ!」
崩れゆくヒューズの顔の中からシゼルの顔が露呈した。
意識を失ったまま、魔法弾の直撃により弾き飛ばされてゆく。
まるで人形のように抵抗もなく、地面に打ちつけられる様は見ていて痛々しいものがある。
「こっちが本物のシゼルなのか? じゃあ……あっちは誰だ!?」
ブロッサムの近くにいたシゼルが口元を歪めた。
他者を欺くのが愉快だと言いたげな感じで口角を吊り上げていた。
「油断したな? 俺を弱者と侮り馬鹿にしたからそうなるんだ!! その目を止めろぉぉおおお! 俺を憐れむなぁぁああ――――」
シゼルの姿が一瞬にして、ヒューズへと変わる。
鋭い短刀の刃がブロッサムの右脇腹を突き刺した。
「ぐぅぅうう……くっ! 漢なら堂々と勝負せい」
「言ったろ、貴様らのようなバケモン相手に真っ向から挑むつもりねぇ! これで俺の役割は果たせた。後は任せます、姉御!!!」
吐血し、片膝ををつくブロッサムのもとへとオッドたちが急いで駆け寄る。
すると、どこからともなく光の鎖が飛び交い彼らに襲い掛かってきた。
明らかに行く手を阻む意思を持つ、その鎖は―――――
「あ、ぶねっぇ……誰だ!? こんな物騒なモンを放ってくる奴は!?」
「セイクリッドチェーンだと! まさか……」
「その、まさかだよ」
鈴のような声が聞こえる。庭園にあるレンガの壁の上にいつの間にかチルルが立って待ち構えていた。
彼女の真下には賢者の聖杖を手にしたシルクエッタの姿がある。
シャドウワルツによって、思考を奪われ操り人形と化しているのだが、ギデオンたちは知る由もなかった。
シルクエッタの行動に動じながらも、彼女が正気ではないことは誰の目から見ても明白だった。
「シルクエッタに何をした!? チルル」
「お前たちと戦うように命じた。チルルはまだ戦わない、観戦する。だから、オマエも少し大人しくしていろ」
「どうした? 身体が動かないぞ……影縛りの類か!?」
「ああ、それはな……俺が動きを封じているのさ、ギデオン」
瞳のカタチをした紅い三蓮ピアスを手先で弄りながらクドが現れた。
効果範囲は特定できてはいないが、スキルにより空間を操作し姿を消したり出現させたりすることができる。
まさに神出鬼没、きわめて厄介な手合いだ。
「八層で待っていようかと思ったけど、待ちきれなくてねぇ。来てしまったよ」
「クド、お前は堕ちるところまで堕ちたようだな……シルクエッタや勇士学校の面々を巻き込み傷つけたことは許さないぞ!!」
「フッ、すべては俺たちの約束のため。昔、協力してくれると言ったよな? その機会を俺はずっと待っていたんだ。もう二度と叶わないかもしれないと諦めかけた時、お前は再び俺のもとへやってきた。これは神々の啓示だ! 神がそうするべきだと俺たちを引き合わせてくれたんだ! この願いと思想が世界を救ための新たな鍵となる証だ!!」
言うまでもなく、それは人を見下す人間だ。
ヒューズ自身、傭兵団時代には最悪と言っても過言ではない記憶しかない。
思い出ではなく、記憶、そう記録程度の価値しかない。
生まれた時から病弱で人よりも物覚えが悪かったヒューズは、よく周りの肉塊から『役立たずのゴミ』『邪魔な存在』『無能』と耳を塞ぎたくなるようなレッテルばかり貼られていた。
人の才能が開花する時期は個人で異なる。ヒューズの場合はとりわけ遅く、強者への憧れから傭兵の道へと進んだのだが、戦闘も戦術においてもからっきし使えず雑用ばかりさせられていた。
ここでも周りから疎まれ、気性の荒い仲間たちからは憂さ晴らしのサンドバッグにさせられていた。
彼は誰よりも観察力があり、人を欺くのに長けていた。
理不尽に殴られる度、相手をどう苦しめ殺すのがもっとも恐怖と後悔を与えられるか何度も何度も思考を巡らせていた。執念深さもあって方法は何通りでも閃いた。
いつしか、このやり方で戦術を練れるようになっていた。
その一つ一つが、えげつないほど凄惨なモノである。
着眼点と発想の展開、ヒューズのアイデアは、どれも素晴らしいモノではあったが、そこで止まってしまっていた。
頭の中で描いたことはカタチにしなければ無いのと一緒だ。
大人しいヒューズには、他者を傷つけることができなかった。
自分に害為す者を駆除するため、殺しのプランニングをしても踏ん切りがつかず実行に至らなかった。
クドが彼の歯車を弄るまでは―――――――
「らしくないなぁ~。ギデさんよぉ、頭に血が上りすぎて冷静な判断が欠如していないか? 女の方だけ、どうして猿ぐつわをしていないのか? 気づかないなんてよぉ」
言葉とともに、ヒューズの顔の表面が溶けてゆく。
能力によって姿を変えられるのは何も自身ばかりではない。
他者に偽りを被せて、異なる存在とする。
「そんなバカな……」
「狙う相手を間違えたな、キィヒヒヒッヒ!」
崩れゆくヒューズの顔の中からシゼルの顔が露呈した。
意識を失ったまま、魔法弾の直撃により弾き飛ばされてゆく。
まるで人形のように抵抗もなく、地面に打ちつけられる様は見ていて痛々しいものがある。
「こっちが本物のシゼルなのか? じゃあ……あっちは誰だ!?」
ブロッサムの近くにいたシゼルが口元を歪めた。
他者を欺くのが愉快だと言いたげな感じで口角を吊り上げていた。
「油断したな? 俺を弱者と侮り馬鹿にしたからそうなるんだ!! その目を止めろぉぉおおお! 俺を憐れむなぁぁああ――――」
シゼルの姿が一瞬にして、ヒューズへと変わる。
鋭い短刀の刃がブロッサムの右脇腹を突き刺した。
「ぐぅぅうう……くっ! 漢なら堂々と勝負せい」
「言ったろ、貴様らのようなバケモン相手に真っ向から挑むつもりねぇ! これで俺の役割は果たせた。後は任せます、姉御!!!」
吐血し、片膝ををつくブロッサムのもとへとオッドたちが急いで駆け寄る。
すると、どこからともなく光の鎖が飛び交い彼らに襲い掛かってきた。
明らかに行く手を阻む意思を持つ、その鎖は―――――
「あ、ぶねっぇ……誰だ!? こんな物騒なモンを放ってくる奴は!?」
「セイクリッドチェーンだと! まさか……」
「その、まさかだよ」
鈴のような声が聞こえる。庭園にあるレンガの壁の上にいつの間にかチルルが立って待ち構えていた。
彼女の真下には賢者の聖杖を手にしたシルクエッタの姿がある。
シャドウワルツによって、思考を奪われ操り人形と化しているのだが、ギデオンたちは知る由もなかった。
シルクエッタの行動に動じながらも、彼女が正気ではないことは誰の目から見ても明白だった。
「シルクエッタに何をした!? チルル」
「お前たちと戦うように命じた。チルルはまだ戦わない、観戦する。だから、オマエも少し大人しくしていろ」
「どうした? 身体が動かないぞ……影縛りの類か!?」
「ああ、それはな……俺が動きを封じているのさ、ギデオン」
瞳のカタチをした紅い三蓮ピアスを手先で弄りながらクドが現れた。
効果範囲は特定できてはいないが、スキルにより空間を操作し姿を消したり出現させたりすることができる。
まさに神出鬼没、きわめて厄介な手合いだ。
「八層で待っていようかと思ったけど、待ちきれなくてねぇ。来てしまったよ」
「クド、お前は堕ちるところまで堕ちたようだな……シルクエッタや勇士学校の面々を巻き込み傷つけたことは許さないぞ!!」
「フッ、すべては俺たちの約束のため。昔、協力してくれると言ったよな? その機会を俺はずっと待っていたんだ。もう二度と叶わないかもしれないと諦めかけた時、お前は再び俺のもとへやってきた。これは神々の啓示だ! 神がそうするべきだと俺たちを引き合わせてくれたんだ! この願いと思想が世界を救ための新たな鍵となる証だ!!」
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