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番外編 異邦者から愛を込めて
EX Final
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やっとのことで目的を達成したガレットとクーデールは魔族領へと帰還した。
ロイヤルホールディングが結果的にどうなるかは、完全にブロート任せだ。
無責任だと一部の官僚からは避難の声が上がった。
その度にマーガが睨みを利かせ【次の派遣を用意するべきでしょうか?】と進言してくる。
実質、左遷を意味する台詞に官僚たちも文句が言えなくなっていた。
「二人ともありがとう。ロイヤルホールディングのために尽力してくれて」
クレスは満面の笑みで二人に感謝の意を述べた。
彼は理解していた。
二人の役目はロイヤルホールディングを救う手立てを講じることであり、店自体を救うことではないと。
店をどうにか立て直せるのは、そこで働く従業員だけである。
「ふっ、他愛もないこと。にしても、魔族領が一番落ち着きますな。
帝都はアウェイ感が強すぎて疲れてしまいましたぞ」
そう張り切るも、ガレットの表情はどこかパッとしない。
公務室へと戻ってゆく、その背中は哀愁さえ漂っている。
『げんきないな?』
魔王城の廊下でクーデールとすれ違った。
他の菌精霊たちを引き連れて城の巡回をしているのだという。
「かもしれませぬ。どうも……あれ以来、気分が晴れないのです」
『ハナシぐらいはきくぞ』
クーデールの言葉に甘え、ガレットは悩みを打ち明けた。
マダム、カテリーナに借りた金を返そう準備はしたものの、いくら返せば良いのか? 分からないという。
単純にマダムに聞けば済む話でも、四魔皇の沽券にかかわるとガレットはこだわりを捨てきれないでいる。
普段はズボラでも、肝心なところで神経質になる。
良くも悪くも、それがガレットという悪魔だ。
「やはり現金ではなく、宝石とか用意すべきでしょうか?」
『やめとけ。ドンびきされるぞ』
「そ、そうですか……では花束などは?」
『カフンアレルギーだったらイヤがらせだな』
「ああ、私はマダムに何を送ればいいのだ!? 借りた金だけでは、小さい男と思われてしまう」
ガレット自身、自分の気持ちに気づいていないようだ。
そこまで相手のことを考えてしまうのは、好意が持っている証だ。
見栄にも色々とある。
もし体裁だけを気にするのなら、とりあえず高価な物を送っておけばいい。
送った後のことなど、気にする必要はないのだから。
『きもちをツタえられればイイのだろう。
なら、ガレットがそうしたいとオモうことをやってあげればイイ』
「してあげたいこと……あります、ありますぞ!」
アドバイスを受けたガレットはハッした表情を見せた。
自分が相手にどうしてあげたいのか?
答えはすでに足下に転がっていた。
人に対する偏見が強いせいで、当たり前のことが見えなくなっていた。
「助かりましたぞ、か……クーデール殿。さっそく、クレス殿のところへと行って参ります」
額に手をあてがい敬礼すると、ガレットは書庫へと引き返してゆく。
それから数日後、エルゴードのタヴァンを訪れる彼の姿があった。
首元のタイの位置を調整しながら固唾を飲む。
ドアをノックすると彼女の美声が中から聞こえていた。
「はぁい、どなたかしら?」
「私です。先日はお世話になりました。
約束通り、お借りした金とお詫びをかねて……凄い物を用意しました。
お口に合うか存じないが、せっかくなので受け取れ……受け取ってください」
手にしたランチバスケットをマダムに向かって差し出した。
クレスに手伝ってもらったとはいえ、しょせんは素人が見よう見真似で作ったもの。
お世辞にも出来映えは良いと言えなかった。
「あらまぁ、こんなにたくさんパン……ひょっとしてガレットさんが?」
「ええ、まぁ。一応、クレス殿に見てもらったので味は問題ないと思いますが……。
気に入らないようでしたら、誰かにあげてやってください」
視線を下に向けたままガレットは彼女の返答を待った。
人との関わり合いが不器用なガレットだが、マダムに喜んでもらいたいがためにできることをした。
マダムがゆっくりと手を伸ばした。
その手が触れたのはランチバスケットではなくガレットの手だ。
驚いた彼が面をあげると、マダムが優しく微笑んでいた。
「せっかく、ガレットさんが作ってくれたんですもの。ありがたく頂きますわ。
そうだわ! ちょうど、お茶しようと思っていたところなんです。
ガレットさんもご一緒にどう?」
その瞬間、殺伐とした悪魔の心に一輪の花が咲いた。
ーFINー
ロイヤルホールディングが結果的にどうなるかは、完全にブロート任せだ。
無責任だと一部の官僚からは避難の声が上がった。
その度にマーガが睨みを利かせ【次の派遣を用意するべきでしょうか?】と進言してくる。
実質、左遷を意味する台詞に官僚たちも文句が言えなくなっていた。
「二人ともありがとう。ロイヤルホールディングのために尽力してくれて」
クレスは満面の笑みで二人に感謝の意を述べた。
彼は理解していた。
二人の役目はロイヤルホールディングを救う手立てを講じることであり、店自体を救うことではないと。
店をどうにか立て直せるのは、そこで働く従業員だけである。
「ふっ、他愛もないこと。にしても、魔族領が一番落ち着きますな。
帝都はアウェイ感が強すぎて疲れてしまいましたぞ」
そう張り切るも、ガレットの表情はどこかパッとしない。
公務室へと戻ってゆく、その背中は哀愁さえ漂っている。
『げんきないな?』
魔王城の廊下でクーデールとすれ違った。
他の菌精霊たちを引き連れて城の巡回をしているのだという。
「かもしれませぬ。どうも……あれ以来、気分が晴れないのです」
『ハナシぐらいはきくぞ』
クーデールの言葉に甘え、ガレットは悩みを打ち明けた。
マダム、カテリーナに借りた金を返そう準備はしたものの、いくら返せば良いのか? 分からないという。
単純にマダムに聞けば済む話でも、四魔皇の沽券にかかわるとガレットはこだわりを捨てきれないでいる。
普段はズボラでも、肝心なところで神経質になる。
良くも悪くも、それがガレットという悪魔だ。
「やはり現金ではなく、宝石とか用意すべきでしょうか?」
『やめとけ。ドンびきされるぞ』
「そ、そうですか……では花束などは?」
『カフンアレルギーだったらイヤがらせだな』
「ああ、私はマダムに何を送ればいいのだ!? 借りた金だけでは、小さい男と思われてしまう」
ガレット自身、自分の気持ちに気づいていないようだ。
そこまで相手のことを考えてしまうのは、好意が持っている証だ。
見栄にも色々とある。
もし体裁だけを気にするのなら、とりあえず高価な物を送っておけばいい。
送った後のことなど、気にする必要はないのだから。
『きもちをツタえられればイイのだろう。
なら、ガレットがそうしたいとオモうことをやってあげればイイ』
「してあげたいこと……あります、ありますぞ!」
アドバイスを受けたガレットはハッした表情を見せた。
自分が相手にどうしてあげたいのか?
答えはすでに足下に転がっていた。
人に対する偏見が強いせいで、当たり前のことが見えなくなっていた。
「助かりましたぞ、か……クーデール殿。さっそく、クレス殿のところへと行って参ります」
額に手をあてがい敬礼すると、ガレットは書庫へと引き返してゆく。
それから数日後、エルゴードのタヴァンを訪れる彼の姿があった。
首元のタイの位置を調整しながら固唾を飲む。
ドアをノックすると彼女の美声が中から聞こえていた。
「はぁい、どなたかしら?」
「私です。先日はお世話になりました。
約束通り、お借りした金とお詫びをかねて……凄い物を用意しました。
お口に合うか存じないが、せっかくなので受け取れ……受け取ってください」
手にしたランチバスケットをマダムに向かって差し出した。
クレスに手伝ってもらったとはいえ、しょせんは素人が見よう見真似で作ったもの。
お世辞にも出来映えは良いと言えなかった。
「あらまぁ、こんなにたくさんパン……ひょっとしてガレットさんが?」
「ええ、まぁ。一応、クレス殿に見てもらったので味は問題ないと思いますが……。
気に入らないようでしたら、誰かにあげてやってください」
視線を下に向けたままガレットは彼女の返答を待った。
人との関わり合いが不器用なガレットだが、マダムに喜んでもらいたいがためにできることをした。
マダムがゆっくりと手を伸ばした。
その手が触れたのはランチバスケットではなくガレットの手だ。
驚いた彼が面をあげると、マダムが優しく微笑んでいた。
「せっかく、ガレットさんが作ってくれたんですもの。ありがたく頂きますわ。
そうだわ! ちょうど、お茶しようと思っていたところなんです。
ガレットさんもご一緒にどう?」
その瞬間、殺伐とした悪魔の心に一輪の花が咲いた。
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健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
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