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蝉の声 5
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店内から、物悲しいピアノの旋律が流れてきた。
同時に自分の内側からも相反する戦慄がジワジワと染み出てきた。
洋服の油汚れのように力任せに拭おうとも一度、染みついた恐怖はなかなか落とすことはできない。
『当たっている……この人は俺の夢の内容をずばりと言い当てた。
まだ、何も告げていないのに――――』
グラスの中の氷がカランと音を立てた。
あまりに緊張していたようだ。グラスの水を一気に飲み干してしまっていた。
「良い曲ですよね?」
「えっ……」短く答えると今庭さんは天上を指差した。
多分、BGMのことだろう……確か【月光】という曲だったはずだ。
クラッシク音楽に疎い自分でも、この題名は知っている。
「クラッシク音楽が好きなんですか?」
「まぁ、嗜む程度には。
ピアノの調律師だった知り合いがいまして、ふと彼の言葉を思い出したんですよ。
上質な曲は奏でるだけではなく、語るものだと。
この曲を聞くと、様々の情景が浮かんできます」
一体、何を――――そう言いかけたが口をつぐんだ。
先に答えるのは自分の方だと思ったからだ。
「オホン」軽く咳払いをしながら、座る姿勢を正すと会話を続けた。
「そうです。毎晩、自分が神社の境内をうろついている夢をみるんです。
最初は、何かの知らせかなと思ったんですけど……どこの神社かもわかりませんし、何を伝えてきているのか分かりません。
今庭さんは、どうしてそのことを……?」
いつの間に注文したのだろう。
マスターが、テーブルまで珈琲を二つ運んできてくれた。
着ぐるみ姿の先輩は、当然ながら飲むことができない。
多分、もう一杯はマスターが俺に気を利かせて用意してくれたものだろう。
カップを受け取りながら、対面に座る今庭さんはこう語った。
「音です。さきほど話した通り、音色とは音と共に想いも運んできます。
上野さん、貴方の声色がどこかを彷徨っているように聞こえました。
悪夢であることは事前からお聞きしてましたし、目の下クマから霊的な場所に引っ張られたのかと思いまして。
そういう所は、かなり消耗しますから」
消耗……何だか知らないが、とても嫌な響きだ。
悪夢せいか、このクマは寝不足が原因だと思っていた。
聞き返してみたが「そうではない」と断言されてしまった。
「念の為、聞きますけど本殿にある棺は触っていませんよね?」
「触っていません。触るとヤバいんですか?」
「いや、そういう類のものではないんです……けど」
急に言葉を濁す今庭さんの態度が気になって仕方がない。
霊能力者がこの世にいるなどとは、微塵も思っていないが……彼は異質だ。
霊視のような物だと、皆藤さんから聞いていたけどそうではない。
今庭さんの場合は、他者に見えない何かに気づいていて、それをつなぎ合わせているような感覚を覚える。
喩えると数珠のごとく、一つ一つが連結している、何か――――。
「上野さん、そろそろ本題に入るとしましょう。
オカルトが嫌いなのかは知りませんが、疑り深い貴方がわざわざ私を呼んだ。
いくら、皆藤君の勧めだとしても、上野さんは自己完結するタイプの人間だ。
他力本願だと納得できないし、落ち着かない。
相当に困ったことが無い限りは……違いますか?」
これも声色で判断したというのか……自身がどんな奴なのか、俺には判断できない。
周囲の反応によって人は自分の外側を捉えることができる。
だけど、俺にはその感覚はない。
他の考えなど、求めていないからだ。
「実は夢の中で誰かに追われているというか……。
実際のところ、リアルでつけ狙われているんです」
たんに夢で済めばそこまでは気にならなかった。
ケド……偶然なんかじゃおさまらない現実は実在する。
鞄にしまっておいたスマホを取り出し何度か指で弾く。
準備ができると皆藤さんたちに自分が抱えている本当の闇を見せた。
それは俺に送られてきた一本の動画だった。
差出人は不明。
不可解なことに動画に映っている人物が、自分とソックリな容姿をしている。
そればかりか……動画が撮影された場所は毎晩のように夢で見る、あの神社だ。
まるで、夢の内容を再現するかのように境内をうろつく自分が画面の中にいた。
同時に自分の内側からも相反する戦慄がジワジワと染み出てきた。
洋服の油汚れのように力任せに拭おうとも一度、染みついた恐怖はなかなか落とすことはできない。
『当たっている……この人は俺の夢の内容をずばりと言い当てた。
まだ、何も告げていないのに――――』
グラスの中の氷がカランと音を立てた。
あまりに緊張していたようだ。グラスの水を一気に飲み干してしまっていた。
「良い曲ですよね?」
「えっ……」短く答えると今庭さんは天上を指差した。
多分、BGMのことだろう……確か【月光】という曲だったはずだ。
クラッシク音楽に疎い自分でも、この題名は知っている。
「クラッシク音楽が好きなんですか?」
「まぁ、嗜む程度には。
ピアノの調律師だった知り合いがいまして、ふと彼の言葉を思い出したんですよ。
上質な曲は奏でるだけではなく、語るものだと。
この曲を聞くと、様々の情景が浮かんできます」
一体、何を――――そう言いかけたが口をつぐんだ。
先に答えるのは自分の方だと思ったからだ。
「オホン」軽く咳払いをしながら、座る姿勢を正すと会話を続けた。
「そうです。毎晩、自分が神社の境内をうろついている夢をみるんです。
最初は、何かの知らせかなと思ったんですけど……どこの神社かもわかりませんし、何を伝えてきているのか分かりません。
今庭さんは、どうしてそのことを……?」
いつの間に注文したのだろう。
マスターが、テーブルまで珈琲を二つ運んできてくれた。
着ぐるみ姿の先輩は、当然ながら飲むことができない。
多分、もう一杯はマスターが俺に気を利かせて用意してくれたものだろう。
カップを受け取りながら、対面に座る今庭さんはこう語った。
「音です。さきほど話した通り、音色とは音と共に想いも運んできます。
上野さん、貴方の声色がどこかを彷徨っているように聞こえました。
悪夢であることは事前からお聞きしてましたし、目の下クマから霊的な場所に引っ張られたのかと思いまして。
そういう所は、かなり消耗しますから」
消耗……何だか知らないが、とても嫌な響きだ。
悪夢せいか、このクマは寝不足が原因だと思っていた。
聞き返してみたが「そうではない」と断言されてしまった。
「念の為、聞きますけど本殿にある棺は触っていませんよね?」
「触っていません。触るとヤバいんですか?」
「いや、そういう類のものではないんです……けど」
急に言葉を濁す今庭さんの態度が気になって仕方がない。
霊能力者がこの世にいるなどとは、微塵も思っていないが……彼は異質だ。
霊視のような物だと、皆藤さんから聞いていたけどそうではない。
今庭さんの場合は、他者に見えない何かに気づいていて、それをつなぎ合わせているような感覚を覚える。
喩えると数珠のごとく、一つ一つが連結している、何か――――。
「上野さん、そろそろ本題に入るとしましょう。
オカルトが嫌いなのかは知りませんが、疑り深い貴方がわざわざ私を呼んだ。
いくら、皆藤君の勧めだとしても、上野さんは自己完結するタイプの人間だ。
他力本願だと納得できないし、落ち着かない。
相当に困ったことが無い限りは……違いますか?」
これも声色で判断したというのか……自身がどんな奴なのか、俺には判断できない。
周囲の反応によって人は自分の外側を捉えることができる。
だけど、俺にはその感覚はない。
他の考えなど、求めていないからだ。
「実は夢の中で誰かに追われているというか……。
実際のところ、リアルでつけ狙われているんです」
たんに夢で済めばそこまでは気にならなかった。
ケド……偶然なんかじゃおさまらない現実は実在する。
鞄にしまっておいたスマホを取り出し何度か指で弾く。
準備ができると皆藤さんたちに自分が抱えている本当の闇を見せた。
それは俺に送られてきた一本の動画だった。
差出人は不明。
不可解なことに動画に映っている人物が、自分とソックリな容姿をしている。
そればかりか……動画が撮影された場所は毎晩のように夢で見る、あの神社だ。
まるで、夢の内容を再現するかのように境内をうろつく自分が画面の中にいた。
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