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灰色の男 1
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今庭さんは再生した動画を神妙な面持ちで眺めていた。
神社の場所さえ特定できれば、撮影者の手掛かりをつかめるかもしれない。
などと……前向きに考えてみるも、相手が見つかったとしてどうしたいのか、自問自答してしまう。
取り敢えず、投稿理由を聞きたい。
それから悪夢のことも……あとは、この動画をどうやって制作したかだ。
この動画に映っている人物が、自身だとは言えない。
それどころか、あってはならないことだ。
結論からいうと、動画の男は俺ではない。
まず、撮影場所を知らないし、ここ最近は神社や仏閣など訪れていない。
撮影時刻は不明、映像もモノクロだが昼間だということは分かる。
でなければ、自分だとハッキリ判別できるほど映らないだろう。
「どうです? 何か、分かりそうですか?」
映像を確認した今庭さんはテーブルの上に両肘を乗せたまま、両手を合わせた。
合掌というよりもヨガのポーズに近い。
見当もつかないが、霊視能力を高める儀式的なものかもしれない……。
「ん? ああ、大丈夫だって」
そのままを動きを止めていた彼の右肩を、隣に座っていた先輩が叩いていた。
こめかみを親指でさすり、今庭さんは「ふぁっ~」と生あくびをした。
「体調が悪そうですね?」
「申し訳ないです、この動画にアテられちゃって……眠気がMaxなんですよ。
皆藤君、すまないけど私の代わりに上野さんに説明してあげて。
君も……ある程度ふぁ~、見えていたんだろう」
当たる、見える。
それらの言葉は、あまり聞きたくなかった。
この状況だ、嫌でも敏感になってしまう。
この調子だと、次は呪いか……。
テーブルの珈琲カップをジッと眺めていると、サッと素早くスマホが置かれた。
「皆藤さん……」
顔を上げると、猫の顔が無言でうなづいていた。
聞くところによると、彼は【失語症】を患っているそうだ。
まぁ、猫の着ぐるみ姿になっているとは一ミリたりとも聞いていなかったが……。
とにかく、スマホを見て欲しいようだ。
猫の手がバンバンとテーブルを叩いている。
傍からみたら、猫に恐喝されているような絵面だ。
他の客の目が気になり、慌てて自分のスマホを手にした。
『コンニチワ、ボクはネコのブンブン……。
冗談はさておき、こんなカタチの会話になってしまい申しない。
これから、ウエノの動画について説明する』
スマホから機械音声が流れてきた。
向いに目をやるとテーブルに突っ伏した今庭さんの隣で、先輩がスマホを連打していた。
よく、あの猫の手で液晶ディスプレイが反応するものだと感心するばかりだ。
「宜しくお願いします。この神社の情報を知りたいです」
『神社については後にする。
まず、確認したいが真夜中に神社へと行ったことは?』
当然ながら、首を横に振った。
真夜中という先輩の言葉が妙に引っ掛かる。
「昼間では? 映像はモノクロですけど、夜ではここまで映らないのでは?」
『強烈な光源があれば可能だ。時刻は午前二時が濃厚だ。
動画の音量を上げて聞くと分かるが虫の鳴き声と共に、木槌で何かを打つ音が混じっている』
「嘘だろっ……」思わず、生唾を飲んでしまった。
動画の音を再確認したところ、たしかに何かの音が入っている。
それまではノイズだと思い気にもしていなかった。
ビィィィィという音に続き、カツンとカツンと一定のリズムで反響している音がある。
「まさか、丑の刻参りですか……この令和のご時世にそんなことをする人がいるのですか?」
『時代は関係ない。
廃れてはいるもの、人の恨みは絶えることはない』
「だからって、夜中だと決めるのは……」
マスターがおしぼりを持ってきた。
それを受け取った今庭さんが、入念に手を拭いていた。
内心、顔まで拭くのではないのかと期待していったが、さすがにやらなかった。
「上野さん、貴方もおしぼりを使った方がいい。
コイツは手を綺麗にするだけではなく、汚れた気を浄化する作用もありますからね」
どこまで本気なのか、知らないが勧められたら応じるしかない。
おしぼりで自分の手をいつも通りに拭いた。
こんなんで穢れが落ちるとは思えない。
『翔さん、神社のことを彼に話しても?』
「仕方がない……万が一ってこともあるかもしれない。
事前に知っておいた方がいい。
上野さんもそれで宜しいですか?」
そんな風に言われたら「いいえ」なんて言えるわけがない。
これで、大したことがなかったら逆に白けてしまうが、あの皆藤さんがためらうのだ。
よほどのことに違いない。
神社の場所さえ特定できれば、撮影者の手掛かりをつかめるかもしれない。
などと……前向きに考えてみるも、相手が見つかったとしてどうしたいのか、自問自答してしまう。
取り敢えず、投稿理由を聞きたい。
それから悪夢のことも……あとは、この動画をどうやって制作したかだ。
この動画に映っている人物が、自身だとは言えない。
それどころか、あってはならないことだ。
結論からいうと、動画の男は俺ではない。
まず、撮影場所を知らないし、ここ最近は神社や仏閣など訪れていない。
撮影時刻は不明、映像もモノクロだが昼間だということは分かる。
でなければ、自分だとハッキリ判別できるほど映らないだろう。
「どうです? 何か、分かりそうですか?」
映像を確認した今庭さんはテーブルの上に両肘を乗せたまま、両手を合わせた。
合掌というよりもヨガのポーズに近い。
見当もつかないが、霊視能力を高める儀式的なものかもしれない……。
「ん? ああ、大丈夫だって」
そのままを動きを止めていた彼の右肩を、隣に座っていた先輩が叩いていた。
こめかみを親指でさすり、今庭さんは「ふぁっ~」と生あくびをした。
「体調が悪そうですね?」
「申し訳ないです、この動画にアテられちゃって……眠気がMaxなんですよ。
皆藤君、すまないけど私の代わりに上野さんに説明してあげて。
君も……ある程度ふぁ~、見えていたんだろう」
当たる、見える。
それらの言葉は、あまり聞きたくなかった。
この状況だ、嫌でも敏感になってしまう。
この調子だと、次は呪いか……。
テーブルの珈琲カップをジッと眺めていると、サッと素早くスマホが置かれた。
「皆藤さん……」
顔を上げると、猫の顔が無言でうなづいていた。
聞くところによると、彼は【失語症】を患っているそうだ。
まぁ、猫の着ぐるみ姿になっているとは一ミリたりとも聞いていなかったが……。
とにかく、スマホを見て欲しいようだ。
猫の手がバンバンとテーブルを叩いている。
傍からみたら、猫に恐喝されているような絵面だ。
他の客の目が気になり、慌てて自分のスマホを手にした。
『コンニチワ、ボクはネコのブンブン……。
冗談はさておき、こんなカタチの会話になってしまい申しない。
これから、ウエノの動画について説明する』
スマホから機械音声が流れてきた。
向いに目をやるとテーブルに突っ伏した今庭さんの隣で、先輩がスマホを連打していた。
よく、あの猫の手で液晶ディスプレイが反応するものだと感心するばかりだ。
「宜しくお願いします。この神社の情報を知りたいです」
『神社については後にする。
まず、確認したいが真夜中に神社へと行ったことは?』
当然ながら、首を横に振った。
真夜中という先輩の言葉が妙に引っ掛かる。
「昼間では? 映像はモノクロですけど、夜ではここまで映らないのでは?」
『強烈な光源があれば可能だ。時刻は午前二時が濃厚だ。
動画の音量を上げて聞くと分かるが虫の鳴き声と共に、木槌で何かを打つ音が混じっている』
「嘘だろっ……」思わず、生唾を飲んでしまった。
動画の音を再確認したところ、たしかに何かの音が入っている。
それまではノイズだと思い気にもしていなかった。
ビィィィィという音に続き、カツンとカツンと一定のリズムで反響している音がある。
「まさか、丑の刻参りですか……この令和のご時世にそんなことをする人がいるのですか?」
『時代は関係ない。
廃れてはいるもの、人の恨みは絶えることはない』
「だからって、夜中だと決めるのは……」
マスターがおしぼりを持ってきた。
それを受け取った今庭さんが、入念に手を拭いていた。
内心、顔まで拭くのではないのかと期待していったが、さすがにやらなかった。
「上野さん、貴方もおしぼりを使った方がいい。
コイツは手を綺麗にするだけではなく、汚れた気を浄化する作用もありますからね」
どこまで本気なのか、知らないが勧められたら応じるしかない。
おしぼりで自分の手をいつも通りに拭いた。
こんなんで穢れが落ちるとは思えない。
『翔さん、神社のことを彼に話しても?』
「仕方がない……万が一ってこともあるかもしれない。
事前に知っておいた方がいい。
上野さんもそれで宜しいですか?」
そんな風に言われたら「いいえ」なんて言えるわけがない。
これで、大したことがなかったら逆に白けてしまうが、あの皆藤さんがためらうのだ。
よほどのことに違いない。
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