悪夢を解いた者は謳われる ‐今庭怪奇禄‐

心絵マシテ

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灰色の男 3

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央街の商店街を一人歩く。
特に目的があるわけではないけど、まぁ記念にはなる。
今回のような、特別なことでも起きない限り、この街に来ることはないだろう。

五月半ばにもかかわらず、いまだ上着を手放せない。
例年なら猛暑日が続くのに、今年は稀な冷夏となるそうだ。

どうせなら、観光向けの場所を訪れてみよう。
そう思いスマホを取りだした。
すると、ブーブーと振動音が鳴り響いた。

SNSから通知が届いていた。
どうせ、大した内容でもないと、いつも通り画面をタップした途端、開いた口が塞がらなくなった。

届いていたのは、自分宛てに送られてきたDMダイレクトメッセージだった。
問題はその内容だ……。

画面には【因・継・反・転】の四文字とともに一文が添えてある。

は常にお前を監視している。】

たったそれだけの怪文書に鳥肌が立つ。
簡素がゆえに、余計に気味が悪い。

悪戯だと思うが……運営に報告した方がいいのか。
それとも、しばらくは様子を見るべきか。
非常に悩ましい。
かと言って、あの陰陽師のところに戻るのも格好がつかない。

頭の中で色々と考えを巡らせながら、横断歩道にさしかかると信号待ちをしていた。

その次の瞬間……思考が一気ぶっ飛んだ。
背中に強い衝撃が走り、自身のカラダが路面へと飛び出てしまった。

1メートル、前に出ただけでも危険だ。
歩道脇の傍を走行車が通過しているような狭い道だ。
このままでは、確実に車にねられてしまう。

俺は咄嗟に手を伸ばした。
視界の片隅に、道路標識を捉えていたからだ。

カッン! と音が鳴り響くと、自分の手が標識のポールをつかんでいた。

「くぅっ、おおお……」

足で踏ん張り、斜めに傾きそうなカラダをグイと引き戻した。
想像では、すんなりと後方に下がるかと思っていたが実際にそうはならない。

まるで、開いたドアが閉まるように弧を描きながら、歩道へと戻っていた。
手にしていたカバンが、乗用車のサイドミラーをかすめた。
おかげでバランスを崩したまま、後方へと尻餅をついてしまった。

当然ながら、着地するのはアスファルトの上だ。
緩衝材がない以上、尻に直接ダメージが通る。

「あいあたた……」

公衆の面前で、無様をさらすこととなった。
転倒したせいで、背後にいた人と接触してしまった。

「大丈夫ですか!」

「す、すみません。すぐに退きます」

二十代ぐらいの女性が、眼鏡の向こうにある瞳を見開いていた。
前に立っていた人物が、いきなり大道芸染みた動きをすれば誰だって同じ反応を見せるだろう。

幸いにも女性は良心的な人だった。
自分のことよりも、他人である俺の方を心配してくれていた。
彼女に何度も頭を下げながら、一旦、横断歩道から離れることにした。

道沿いを進むと、睨むようにして周囲に確認する。

この中に、自分を突き飛ばした奴がいる。
そう考えただけで無性に腹立たしい。

しかし、ここは商店街前の通りだ。
人の往来が激しく、歩道は混雑している。
犯人を特定するのは、ほぼ無理に等しい。
それに偶然の事故か、意図して行われた犯行なのか、区別がつかない。

もっとも、どちらにしても許すつもりはない。
ないが……目撃者がいない以上は、誰の仕業かも見当がつかない。

仕方がない、少し遠回りして駐車場へと戻ろう。
これ以上、この街に留まるのは危険な臭いがする。

そう決めた矢先、手前の路地裏へ入っていく人影があった。
目の錯覚かもしれない。だが……ソイツの横顔が灰色一色に見えた。

「ありえない……。そんなことが起るわけがない」

一人、呟きながら男を追った。
今庭さんは、逃げろと言ったが本当に灰色をした人間なのか間近で確かめないと気が済まない。

「いない? どこに消えたんだ」

そこまで、間が空いたわけでもない。
通常なら前を歩いている奴の背が見えるはずだ……。

自ずと、呼吸が乱れ始めていた。
灰色の男の姿がどこにも見当たらない。
近くに隠れられそうな物陰もないのに、忽然と姿を消してしまった。

「ようやく捕まえた。今度はお前がだ」

囁き声とともにガッシと右肩をつかまれた。
予想外に事態に激しく心臓が脈を打った。
恐る恐る、背後を振り返って見る……。

そこには、眼元が真っ黒に塗り潰されている灰色肌の男が立っていた。
ソイツが誰なのか、一目で気づいた。
紛れもなく、そこに居るのは自分と瓜二つな例の異界人だった。
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