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chapter 2 マルネ庭園の茶会
2-3
苦戦を強いられたが、何とか勝利することができた。
両手を膝につけて肩で息をするクレス。
立て続けの戦闘による疲労があらわになってきた。
『きゅうけいするか?』とクーデールに聞かれるが、彼は首を横に振るう。
立ち止っている時間はないとメルティナクの行方を捜す。
敵からの襲撃により完全にはぐれてしまっていた。
勘に頼りになりながらも、ジャングルを前進していく。
次に強敵と出くわしたら、どうすることもできない。
戦う余力は、すでに尽きている。
試しに壺を使って脱出を試みようしたが、なぜかクレスたちを吸い込もうとしない。
理由は定かではないが、空間移動が出来ない。
その状態では逃出すだけではなく、当然ながら助けもこない。
依然として、ここから抜け出す方法は見つからない。
途方に暮れると思われたが、彼らは存外にも平然としている。
理由があるとしたら、ここがグレモール・ハーティア城の一角だからだろう。
ヴェールアリアとの面会をクレスは内心、楽しみにしていた。
すでに家族を失っている彼からすれば、魔王の妹とその子供たちは遠い親族にあたる。
血の濃さこそ薄れてはいるが、つながりまでは消えていない。
どんなカタチにしても、一度は話をしてみたい。
そんな淡い想いが胸の内で、ときめいていた。
『いけがあるゾ』
クーデールに肩を叩かれ、遠方をのぞくと確かに水溜まりのような物が見える。
近づいてみると、湖面が鏡のように透き通っている。
その真ん中には小さな浮島があり、桟橋で渡っていけそうだ。
「ようやく来ましたか。
どこを、ほつき歩いていたのかしら?
まぁ、宜しくてよ。なんせ、脱走犯を見つけましたから」
島に渡るとメルティナクの姿が見えた。
浮島の中央に神殿遺跡があり、そこでタトシがクロナギ君を従えバトルをしていた。
対戦相手は特殊なスライムだというが、どこをどう見ても巨大なラッキョウにしか見えない。
「しゃぁぁぁ、こいやぁぁぁ! オオニラ君」
捕獲する以前に、従魔の名を決めているタトシは、遺跡を舞台に縦横無尽に駆け回っていた。
だが、前線で戦うのは彼ではない……ゾンビのクロナギ君の方だ。
「ネギファイヤだとっ!」
植物系のくせに、オオニラ君は口から炎をはく。
これには、誰しも驚きの声をあげた。
さらに炎に弱いクロナギ君が、よく燃える燃料と化しながら渾身のストレートパンチを打ち込んでくる。
「いけぇぇ――――、マッハジェットインパクトキワミマッスル!」
やたらと、長たらしい技名を必死の形相で叫ぶテイマーにはウザさしか感じない。
クロナギ君の拳がラッキョウを捕え焼き焦がした。
なんとかクロナギ君が勝ち残った。
今にも成仏しそうで、なかなかくたばらない。
活躍を見せた相棒をよそに、タトシは拉致したばかりのオオニラ君を早速、袋に詰め込んでいた。
「こうして袋を担いでいるとサンタになった気分だな。
よしっ、今度はサンタを捕まえに行こう」
「馬鹿ですの? どうみてもコソ泥でしよ、オマエ。
人の庭に土足で入りながら、図々しく魔物狩りとは……。
懲らしめてやる必要がありますわ」
調子づくタトシにメルティナクの一喝が飛んだ。
額に血管を浮き上がらせながら、彼女は指環へ魔力をそそいでいる。
指輪がメリケンサック変化すると、すぐさまタトシのボディへと叩き込まれた。
「おごおっ! おぇっぇえ」
体液をまき散らしながら、彼はうずくまった。
顔をから嫌な汗を流しながら、恨めしそうに相棒を見つめている。
クロナギ君は微動だにしない。
いや、動けないのだ。
一度、ドロドロに溶けた身体が冷えて固まり、手足を動かすことさえままならなくなっていた。
テイマーであるタトシが、ちゃんとケアしていればこうはならなかった。
管理を怠ったせいで、今度は自分自身が危うくなっていた。
「た、たすけて。助けてくれよ、俺たちトレーナー仲間だろう!」
あろうことか、タトシは知り合ったばかりのクレスに救いを求めてきた。
「誤解を招くような狂言はやめろ」否定しようとするが間に合わない。
殺意マシマシの鉄拳がクレスの頭部を狙ってきた。
「いい加減やめないか、姉さん。
王族ともあろう者が、素手で他者を傷つけるなんて美しくないよ」
間一髪のところで、最悪はまぬがれた。
このまま打ち抜かれていたら即死だった。
こめかみから血を垂れ流したまま背後を振り向くと、桟橋の上に魔族の若者が立っていた。
気品に満ち溢れた風采の良い彼は、とても凛々しく、たくましい肉体を備えていた。
思わず惹きつけられそうになる不思議な魅力を放つ、彼の正体は――――
「余計な真似を…………オマエに言われる覚えはありません、デストゲーゼ」
ヴェールアリアが嫡男、デストゲーゼ・グレモールだった。
両手を膝につけて肩で息をするクレス。
立て続けの戦闘による疲労があらわになってきた。
『きゅうけいするか?』とクーデールに聞かれるが、彼は首を横に振るう。
立ち止っている時間はないとメルティナクの行方を捜す。
敵からの襲撃により完全にはぐれてしまっていた。
勘に頼りになりながらも、ジャングルを前進していく。
次に強敵と出くわしたら、どうすることもできない。
戦う余力は、すでに尽きている。
試しに壺を使って脱出を試みようしたが、なぜかクレスたちを吸い込もうとしない。
理由は定かではないが、空間移動が出来ない。
その状態では逃出すだけではなく、当然ながら助けもこない。
依然として、ここから抜け出す方法は見つからない。
途方に暮れると思われたが、彼らは存外にも平然としている。
理由があるとしたら、ここがグレモール・ハーティア城の一角だからだろう。
ヴェールアリアとの面会をクレスは内心、楽しみにしていた。
すでに家族を失っている彼からすれば、魔王の妹とその子供たちは遠い親族にあたる。
血の濃さこそ薄れてはいるが、つながりまでは消えていない。
どんなカタチにしても、一度は話をしてみたい。
そんな淡い想いが胸の内で、ときめいていた。
『いけがあるゾ』
クーデールに肩を叩かれ、遠方をのぞくと確かに水溜まりのような物が見える。
近づいてみると、湖面が鏡のように透き通っている。
その真ん中には小さな浮島があり、桟橋で渡っていけそうだ。
「ようやく来ましたか。
どこを、ほつき歩いていたのかしら?
まぁ、宜しくてよ。なんせ、脱走犯を見つけましたから」
島に渡るとメルティナクの姿が見えた。
浮島の中央に神殿遺跡があり、そこでタトシがクロナギ君を従えバトルをしていた。
対戦相手は特殊なスライムだというが、どこをどう見ても巨大なラッキョウにしか見えない。
「しゃぁぁぁ、こいやぁぁぁ! オオニラ君」
捕獲する以前に、従魔の名を決めているタトシは、遺跡を舞台に縦横無尽に駆け回っていた。
だが、前線で戦うのは彼ではない……ゾンビのクロナギ君の方だ。
「ネギファイヤだとっ!」
植物系のくせに、オオニラ君は口から炎をはく。
これには、誰しも驚きの声をあげた。
さらに炎に弱いクロナギ君が、よく燃える燃料と化しながら渾身のストレートパンチを打ち込んでくる。
「いけぇぇ――――、マッハジェットインパクトキワミマッスル!」
やたらと、長たらしい技名を必死の形相で叫ぶテイマーにはウザさしか感じない。
クロナギ君の拳がラッキョウを捕え焼き焦がした。
なんとかクロナギ君が勝ち残った。
今にも成仏しそうで、なかなかくたばらない。
活躍を見せた相棒をよそに、タトシは拉致したばかりのオオニラ君を早速、袋に詰め込んでいた。
「こうして袋を担いでいるとサンタになった気分だな。
よしっ、今度はサンタを捕まえに行こう」
「馬鹿ですの? どうみてもコソ泥でしよ、オマエ。
人の庭に土足で入りながら、図々しく魔物狩りとは……。
懲らしめてやる必要がありますわ」
調子づくタトシにメルティナクの一喝が飛んだ。
額に血管を浮き上がらせながら、彼女は指環へ魔力をそそいでいる。
指輪がメリケンサック変化すると、すぐさまタトシのボディへと叩き込まれた。
「おごおっ! おぇっぇえ」
体液をまき散らしながら、彼はうずくまった。
顔をから嫌な汗を流しながら、恨めしそうに相棒を見つめている。
クロナギ君は微動だにしない。
いや、動けないのだ。
一度、ドロドロに溶けた身体が冷えて固まり、手足を動かすことさえままならなくなっていた。
テイマーであるタトシが、ちゃんとケアしていればこうはならなかった。
管理を怠ったせいで、今度は自分自身が危うくなっていた。
「た、たすけて。助けてくれよ、俺たちトレーナー仲間だろう!」
あろうことか、タトシは知り合ったばかりのクレスに救いを求めてきた。
「誤解を招くような狂言はやめろ」否定しようとするが間に合わない。
殺意マシマシの鉄拳がクレスの頭部を狙ってきた。
「いい加減やめないか、姉さん。
王族ともあろう者が、素手で他者を傷つけるなんて美しくないよ」
間一髪のところで、最悪はまぬがれた。
このまま打ち抜かれていたら即死だった。
こめかみから血を垂れ流したまま背後を振り向くと、桟橋の上に魔族の若者が立っていた。
気品に満ち溢れた風采の良い彼は、とても凛々しく、たくましい肉体を備えていた。
思わず惹きつけられそうになる不思議な魅力を放つ、彼の正体は――――
「余計な真似を…………オマエに言われる覚えはありません、デストゲーゼ」
ヴェールアリアが嫡男、デストゲーゼ・グレモールだった。
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