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八話 アニキ、お着替えする
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「よぉうーし、これで酒が飲める! リユ、今日はキュイに仕事内容を教えてやってくれい。駄賃は弾むからな」
「いいけど……あまり、飲み過ぎないでね」
本音が、だだ漏れしているお婆さんに対して、その身を気遣う孫のリユちゃん。
なんだ、天使か……どうりで存在自体が眩いはずだ。
それにしても、ボクの意見はどこへ失踪しまったのだろう……トントン拍子に事が決まってゆく。
断わる理由はないけれど、素直に喜べない。
きっと、ボクが新庄久一ではなく、キュイという架空の存在としてここにいるからだ。
「キュイちゃん、こっちよ」
リユちゃんに案内されて、バックルームへと入った。
決して広くはないが、個人で経営している店でも従業員用のロッカーがしっかりと完備されている。
という事は、店主夫婦以外にもアルバイトの人がいるのかもしれない。
「お婆ちゃんが強引でゴメンね。つい最近、働いてくれていたバイトさんが辞めちゃって寂しいんだと思う」
申し訳なさそうに頭を下げるリユちゃん。
気の利いたセリフの一つでも、言ってあげられればいいのだけど、ボクにそんな勇気はない。
言葉を交わそうとするだけで、緊張してしまう。
おかしい……男だった時は、何も感じなかったのに、今は彼女を見るだけで胸がドキドキする。
これが、発情期という奴なのか……。
いや、待て! キュイであるボクは生物学上、男ではナッシングではないかぁぁあ。
百合? ユリという奴なのかぁ!?
ボクという奴は、どれだけステップを飛び越えれば気が済むんだ。
「はい、これ制服だから着替えて」
一人で悶々としていると、白いワイシャツとエプロンスカートを手渡された。
どーでも、良くないけどスカートの丈が短すぎる。丁度、ピンクが着用していた戦闘服と同じぐらいの長さだ。
ラーメン屋しては、この短さはいかがなものか……家系の店ばかり行っていたから、このコスチューム―――もとい制服は攻めすぎているような気がする。
これ目当てで店に足を運んで来るオヤジも間違いなくいるはずだ。
そうこう悩んでいるうちに、リユちゃんがサロペットの肩ひもを外していた。
まさか、生着替え……だと。
恥かし気もなく、衣服を脱ごうとする彼女を見て、女子に生まれ変わって良かったと初めて思ってしまった。
しかし、そこは元戦隊ヒーロー、正義の魂がボクの煩悩を滅しようと邪魔をしてくる。
今日ほど、ヒーロー気質な自分を恨んだことはない。
「と、トイレぇえええ! 行ってくるね―――」
「従業員用のは、すぐそこを曲がって突き当りだから」
また嘘をついてしまった。
バックルームを飛び出しながら、自分の欲望を振り切りトイレへと避難した。
――――これで、良かったんだ。これで……。
便器に腰を下ろしながら、考える像のように固まっていた。
これから、あのスカートをはかないといけない。
だが、それ以上にリユちゃんの着替えが気になる。
ももも、もちろん。いかがわしい意味ではなく、一緒に着替えたらどうなっていたのかという素直な疑問だ。
本当にヒーローとして正しい行為だったのか?
葛藤しているけれど、冷静に考えればボクはもう正義の味方でも何でもない。
欲望に忠実に生きても許されるはずだ。
なのに……そうするべきではないと心の叫びが聞こえたんだ。
頃合いを見て、ソロリとバックルームに戻るとリユちゃんの姿はなかった。
辺りを見回しながら、手取り早く制服に着替えた。
ずっとボクサーパンツのままだったから、逆にズボンをはいたような感覚を覚えた。
ロンティーは流石に脱げないな……下着をつけていないから、そのままだとB地区が透けて見えてしまう。
まぁ、平たいままだから抵抗はないんだけど、大騒ぎになるもの嫌だし。
ここは重ね着、一択だ。
「あっ! 来た来た。キュイちゃん」
「遅かったね……って、酷い恰好だね。身だしなみあったもんじゃない。リユ、整えてあげな」
お婆さんの言葉にハッとさせられた。
ここ数年、身だしなみなど気にも留めていなかった。
着用したい服があっても、合うサイズがない。なので、着ることさえできればいいと思っていた。
一目見ただけで眼福になれるリユちゃんの制服姿に対して、ボクの姿はみすぼらしい。
完全に服に着せられている感じだ。
リユちゃんによって襟を正され、ボタンも全部とめられ、崩れたリボンもしっかりと結び直された。
それで、ようやく見れるぐらいの姿にはなった。
「あとは、そうね。この髪留めゴムで髪を束ねたらイイ感じ」
ドウナッテンジャーの中でもアニキ的な立ち位置だったボクが、まるで子供扱いだ。
女の子の身だしなみが分からないなんて言っても言い訳にすらならない。
そうなったのは、自分が原因だ。
自身の容姿に興味がなさ過ぎて、服装だけではなく何もかもガサツになっていた。
そのくせ、周囲の眼ばかり気にするという……悪循環に陥ってしまっていた。
「あ、アリガト……」
「うん、どういたしまして。本当は髪の毛も、ちゃんとブラッシングしたかったんだけど、その長さだと時間がかかっちゃうから、また後でね」
マジ、天使かよ!
このような純真極まりない乙女の白肌をのぞこうとしていたなんて、ボクはなんてお下劣大百科だったんだ。
自分の愚かさを反省し、これからは清く正しく清楚な恰好をしようと決意した。
それから、リユちゃんの制服姿を眺め、短いのもアリだなと悟った。
「いいけど……あまり、飲み過ぎないでね」
本音が、だだ漏れしているお婆さんに対して、その身を気遣う孫のリユちゃん。
なんだ、天使か……どうりで存在自体が眩いはずだ。
それにしても、ボクの意見はどこへ失踪しまったのだろう……トントン拍子に事が決まってゆく。
断わる理由はないけれど、素直に喜べない。
きっと、ボクが新庄久一ではなく、キュイという架空の存在としてここにいるからだ。
「キュイちゃん、こっちよ」
リユちゃんに案内されて、バックルームへと入った。
決して広くはないが、個人で経営している店でも従業員用のロッカーがしっかりと完備されている。
という事は、店主夫婦以外にもアルバイトの人がいるのかもしれない。
「お婆ちゃんが強引でゴメンね。つい最近、働いてくれていたバイトさんが辞めちゃって寂しいんだと思う」
申し訳なさそうに頭を下げるリユちゃん。
気の利いたセリフの一つでも、言ってあげられればいいのだけど、ボクにそんな勇気はない。
言葉を交わそうとするだけで、緊張してしまう。
おかしい……男だった時は、何も感じなかったのに、今は彼女を見るだけで胸がドキドキする。
これが、発情期という奴なのか……。
いや、待て! キュイであるボクは生物学上、男ではナッシングではないかぁぁあ。
百合? ユリという奴なのかぁ!?
ボクという奴は、どれだけステップを飛び越えれば気が済むんだ。
「はい、これ制服だから着替えて」
一人で悶々としていると、白いワイシャツとエプロンスカートを手渡された。
どーでも、良くないけどスカートの丈が短すぎる。丁度、ピンクが着用していた戦闘服と同じぐらいの長さだ。
ラーメン屋しては、この短さはいかがなものか……家系の店ばかり行っていたから、このコスチューム―――もとい制服は攻めすぎているような気がする。
これ目当てで店に足を運んで来るオヤジも間違いなくいるはずだ。
そうこう悩んでいるうちに、リユちゃんがサロペットの肩ひもを外していた。
まさか、生着替え……だと。
恥かし気もなく、衣服を脱ごうとする彼女を見て、女子に生まれ変わって良かったと初めて思ってしまった。
しかし、そこは元戦隊ヒーロー、正義の魂がボクの煩悩を滅しようと邪魔をしてくる。
今日ほど、ヒーロー気質な自分を恨んだことはない。
「と、トイレぇえええ! 行ってくるね―――」
「従業員用のは、すぐそこを曲がって突き当りだから」
また嘘をついてしまった。
バックルームを飛び出しながら、自分の欲望を振り切りトイレへと避難した。
――――これで、良かったんだ。これで……。
便器に腰を下ろしながら、考える像のように固まっていた。
これから、あのスカートをはかないといけない。
だが、それ以上にリユちゃんの着替えが気になる。
ももも、もちろん。いかがわしい意味ではなく、一緒に着替えたらどうなっていたのかという素直な疑問だ。
本当にヒーローとして正しい行為だったのか?
葛藤しているけれど、冷静に考えればボクはもう正義の味方でも何でもない。
欲望に忠実に生きても許されるはずだ。
なのに……そうするべきではないと心の叫びが聞こえたんだ。
頃合いを見て、ソロリとバックルームに戻るとリユちゃんの姿はなかった。
辺りを見回しながら、手取り早く制服に着替えた。
ずっとボクサーパンツのままだったから、逆にズボンをはいたような感覚を覚えた。
ロンティーは流石に脱げないな……下着をつけていないから、そのままだとB地区が透けて見えてしまう。
まぁ、平たいままだから抵抗はないんだけど、大騒ぎになるもの嫌だし。
ここは重ね着、一択だ。
「あっ! 来た来た。キュイちゃん」
「遅かったね……って、酷い恰好だね。身だしなみあったもんじゃない。リユ、整えてあげな」
お婆さんの言葉にハッとさせられた。
ここ数年、身だしなみなど気にも留めていなかった。
着用したい服があっても、合うサイズがない。なので、着ることさえできればいいと思っていた。
一目見ただけで眼福になれるリユちゃんの制服姿に対して、ボクの姿はみすぼらしい。
完全に服に着せられている感じだ。
リユちゃんによって襟を正され、ボタンも全部とめられ、崩れたリボンもしっかりと結び直された。
それで、ようやく見れるぐらいの姿にはなった。
「あとは、そうね。この髪留めゴムで髪を束ねたらイイ感じ」
ドウナッテンジャーの中でもアニキ的な立ち位置だったボクが、まるで子供扱いだ。
女の子の身だしなみが分からないなんて言っても言い訳にすらならない。
そうなったのは、自分が原因だ。
自身の容姿に興味がなさ過ぎて、服装だけではなく何もかもガサツになっていた。
そのくせ、周囲の眼ばかり気にするという……悪循環に陥ってしまっていた。
「あ、アリガト……」
「うん、どういたしまして。本当は髪の毛も、ちゃんとブラッシングしたかったんだけど、その長さだと時間がかかっちゃうから、また後でね」
マジ、天使かよ!
このような純真極まりない乙女の白肌をのぞこうとしていたなんて、ボクはなんてお下劣大百科だったんだ。
自分の愚かさを反省し、これからは清く正しく清楚な恰好をしようと決意した。
それから、リユちゃんの制服姿を眺め、短いのもアリだなと悟った。
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