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七話 アニキ、たじろぐ
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突然、現れたお爺さんたちの孫がボクの方をジッと見詰めていた。
そうりゃ、そうだ。
向こうからすれば、ボクの方こそいきなりやってきた見知らぬ人物なんだ。
警戒されても仕方ない。
ドカグイイエローだった時だって、子供たちから理不尽に蹴られていたじゃないか。
今更、何を思っているのだ……ボクは。
「こんにちわ! 私は小橘リユって言います。あなたは?」
短いツインテールを揺らしながら、彼女はニコリと微笑んだ
至近距離から女の子に挨拶された時、不用意に反応してはならない。
それが、自分に対して投げられた言葉だとは限らないからだ。
近くに別の相手がいるかもしれない。
ここで、やらかせば恥ずかしさで寿命を縮めることになる。
まずは、周囲の確認から始めないといけない。
人との距離を縮める時は、近くに他者が潜んでいないことを確かめ、その上で行うのが肝である。
「あなたのことよ? クスッ」
辺りをキョロキョロと見回していると、逆に笑われてしまった……。
なんてことだ。二重の罠が仕掛けてあるとは……現役女学生、おそるべし。
「ぼ、ボクのこと……?」
戸惑いながらも自分を指さすと、お孫さんは「うん、うん」とうなずいた。
ボク意外に誰がいるんだという状況でも、屈託のない笑顔を見せてくれる人がいることに、驚いていた。
そこら辺の大人よりも、よほど彼女の方がしっかりとしている。
そう感心しながらも、自分の頬に手をあてるとツルツルとした感触が伝わってくる。
よく分からないが、以前のガサガサとしたモノとは段違いだ。
触り心地がよい頬を、指で軽く突いてみるとプ二と凹み、ポヨンとはじき返してくりゅ。
ヤバイ……これ! しゅごすぎる。
ボクの知っていった人体の常識が崩壊してゆく。とうとう、性の文明開化が始まってしまった。
「え――っと、ゴメンね! いきなり、知らない相手に声をかけられたら驚くのも無理ないよね。私、そういうの鈍いから、イヤな想いさせちゃったら、本当にゴメン!!」
両手を合わせ謝罪する、彼女にボクは慌てて首を横に振る。
まさか、自分の頬肉にトリップしていましたなんて、言えるわけもない。
ぎこちない愛想笑いを浮かべて、お孫さんに挨拶を返した。
「新庄ひ―――じゃなくて……キュ、イ? …………新庄キュイです。あの、その……お、お金もなく空腹だったところを……お爺さんに助けて……もらいました」
嘘をつくをのは気がひけるが、この場合は黙ってやりすごす事の方がキツイ。
たとえ作り話でも、この子と関わるのは、ほんの僅かな間だ。
それらしく、振る舞っておけば問題ない……。
「へぇー! お爺ちゃん凄いぃぃぃ。人助けしたんだ」
「だろう? 爺ちゃん、イカしているだろう~」
親指を自身に突き立てながら、お爺さんは得意気に笑っていた。
孫に褒められたことが、そうとう嬉しかったみたいだ。
お婆さんはというと、栓を開けた瓶ビールをグラスにそそぎ、一人で宅飲みに入っていた。
まだ、営業時間前だというのに大丈夫なのか? この人は……。
「そんでよ。コイツは当面の間、うちで面倒をみることになった。だから、色々とコイツの手助けしてくれないかい?」
橋で炙りチャーシューを摘まみながら、お婆さんは孫の彼女に告げた。
そうか……これから、ここで厄介となるのかぁ。
唐突すぎて大変だろうだけど、頑張れば何とかなるさ……ボク?
「うえぇぇえ――!! コイツってボクですか!?」
「アンタ以外に誰がいるんだい」
さも当然だという表情で、お婆さんはビールを飲みほした。
惚れ惚れするような良い飲みっぷりだが、ボクは依然として理解できていない。
どう言う流れで、この二人の世話になることが決定したのか?
説明が欲しいところだ。
「キュイとか言ったね。文無しなんだろう、アンタ?」
お婆さんは空になった瓶の水汗を見詰めながら話を続けた。
そこを突かれてしまうと何も言い返せない……。
けれど、そこまでしてこの老夫婦に面倒を見てもらおうなどと、図々しいことは考えていない。
繰り返すけど、ボクがここに長居をするという事は、この店にとって非常に危険なことでもある。
「そう、想い詰めるなよ。人生、イージーモードで行こうぜ。ゲンジさん、なんかハード専すぎて眉間にシワばかりできちまったよ」
「うむ。あの頃は若かったなぁ~、俺らも」
夫婦そろって、腕組みしながら感傷にひたっているけど、それとボクのことは、まったくの別問題だ。
気楽に行こうとしても、そう簡単な話じゃないから悩んでいるというのに……。
「取り敢えず、お婆ちゃんが言いたいのは、ここでバイトしてお金を稼いだらどうだい? って事だと思うよ」
「そう! それなっ!」
いや……ノリノリで答えられても、言葉足らずだったのは変わらないんですけど……。
お孫さんが通訳してくれなければ、気持ちヤキモキするところだった。
ラーメン屋のバイトか……コンビニでの経験があるし、何とかなるかもしれない。
二、三日ほど働けば帰りの電車賃ぐらいは稼げるだろう。
そうりゃ、そうだ。
向こうからすれば、ボクの方こそいきなりやってきた見知らぬ人物なんだ。
警戒されても仕方ない。
ドカグイイエローだった時だって、子供たちから理不尽に蹴られていたじゃないか。
今更、何を思っているのだ……ボクは。
「こんにちわ! 私は小橘リユって言います。あなたは?」
短いツインテールを揺らしながら、彼女はニコリと微笑んだ
至近距離から女の子に挨拶された時、不用意に反応してはならない。
それが、自分に対して投げられた言葉だとは限らないからだ。
近くに別の相手がいるかもしれない。
ここで、やらかせば恥ずかしさで寿命を縮めることになる。
まずは、周囲の確認から始めないといけない。
人との距離を縮める時は、近くに他者が潜んでいないことを確かめ、その上で行うのが肝である。
「あなたのことよ? クスッ」
辺りをキョロキョロと見回していると、逆に笑われてしまった……。
なんてことだ。二重の罠が仕掛けてあるとは……現役女学生、おそるべし。
「ぼ、ボクのこと……?」
戸惑いながらも自分を指さすと、お孫さんは「うん、うん」とうなずいた。
ボク意外に誰がいるんだという状況でも、屈託のない笑顔を見せてくれる人がいることに、驚いていた。
そこら辺の大人よりも、よほど彼女の方がしっかりとしている。
そう感心しながらも、自分の頬に手をあてるとツルツルとした感触が伝わってくる。
よく分からないが、以前のガサガサとしたモノとは段違いだ。
触り心地がよい頬を、指で軽く突いてみるとプ二と凹み、ポヨンとはじき返してくりゅ。
ヤバイ……これ! しゅごすぎる。
ボクの知っていった人体の常識が崩壊してゆく。とうとう、性の文明開化が始まってしまった。
「え――っと、ゴメンね! いきなり、知らない相手に声をかけられたら驚くのも無理ないよね。私、そういうの鈍いから、イヤな想いさせちゃったら、本当にゴメン!!」
両手を合わせ謝罪する、彼女にボクは慌てて首を横に振る。
まさか、自分の頬肉にトリップしていましたなんて、言えるわけもない。
ぎこちない愛想笑いを浮かべて、お孫さんに挨拶を返した。
「新庄ひ―――じゃなくて……キュ、イ? …………新庄キュイです。あの、その……お、お金もなく空腹だったところを……お爺さんに助けて……もらいました」
嘘をつくをのは気がひけるが、この場合は黙ってやりすごす事の方がキツイ。
たとえ作り話でも、この子と関わるのは、ほんの僅かな間だ。
それらしく、振る舞っておけば問題ない……。
「へぇー! お爺ちゃん凄いぃぃぃ。人助けしたんだ」
「だろう? 爺ちゃん、イカしているだろう~」
親指を自身に突き立てながら、お爺さんは得意気に笑っていた。
孫に褒められたことが、そうとう嬉しかったみたいだ。
お婆さんはというと、栓を開けた瓶ビールをグラスにそそぎ、一人で宅飲みに入っていた。
まだ、営業時間前だというのに大丈夫なのか? この人は……。
「そんでよ。コイツは当面の間、うちで面倒をみることになった。だから、色々とコイツの手助けしてくれないかい?」
橋で炙りチャーシューを摘まみながら、お婆さんは孫の彼女に告げた。
そうか……これから、ここで厄介となるのかぁ。
唐突すぎて大変だろうだけど、頑張れば何とかなるさ……ボク?
「うえぇぇえ――!! コイツってボクですか!?」
「アンタ以外に誰がいるんだい」
さも当然だという表情で、お婆さんはビールを飲みほした。
惚れ惚れするような良い飲みっぷりだが、ボクは依然として理解できていない。
どう言う流れで、この二人の世話になることが決定したのか?
説明が欲しいところだ。
「キュイとか言ったね。文無しなんだろう、アンタ?」
お婆さんは空になった瓶の水汗を見詰めながら話を続けた。
そこを突かれてしまうと何も言い返せない……。
けれど、そこまでしてこの老夫婦に面倒を見てもらおうなどと、図々しいことは考えていない。
繰り返すけど、ボクがここに長居をするという事は、この店にとって非常に危険なことでもある。
「そう、想い詰めるなよ。人生、イージーモードで行こうぜ。ゲンジさん、なんかハード専すぎて眉間にシワばかりできちまったよ」
「うむ。あの頃は若かったなぁ~、俺らも」
夫婦そろって、腕組みしながら感傷にひたっているけど、それとボクのことは、まったくの別問題だ。
気楽に行こうとしても、そう簡単な話じゃないから悩んでいるというのに……。
「取り敢えず、お婆ちゃんが言いたいのは、ここでバイトしてお金を稼いだらどうだい? って事だと思うよ」
「そう! それなっ!」
いや……ノリノリで答えられても、言葉足らずだったのは変わらないんですけど……。
お孫さんが通訳してくれなければ、気持ちヤキモキするところだった。
ラーメン屋のバイトか……コンビニでの経験があるし、何とかなるかもしれない。
二、三日ほど働けば帰りの電車賃ぐらいは稼げるだろう。
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