37 / 59
三十六話 アニキ、消えたサガワ君を探す
しおりを挟む
一緒にモールへと出かけた以降、田宮さんとの距離はだいぶ縮まったような気がする。
学校の教室で会話することも増えたし、たまに出てくる変体も二人で協力し合いながら撃退していたりもする。
何もかも、順風満帆……明るいJK生活を送っていた。
そんなボクに運命は容赦なく新たなる問題を持ち出してくるのであった。
「ドブさん……これはどういう事?」
『何がだい?』
「とぼけないでよ! 動画投稿サイトにサークレットフェアリーとシルフィードハーネスの戦闘シーン動画がUPされているんだけど、ドブさんの仕業だよね!?」
事の発端はクラスの男子たちが視聴していた動画だ。
血気盛んな彼らが珍しくスマホで魅入っていたのは、νTuberの投稿動画サイトだった。
そこには、なんと怪人クリッピィと戦うサークレットフェアリーとシルフィードハーネスが映されていた。
νTuber、もとは魔法少女のコスプレをした動画投稿者が屋外に出て人々の反応を動画として上げるだけのものだったが、ある日を境に本物の魔法少女が動画投稿するようになった。
動画を上げる魔法少女キャラクターとして商標登録するのが魔法少女管理委員会という謎の組織だ。
νTuberは男性には非常にウケが良い。
男子、三人揃えばエロ談義が始まる中で、彼らはサークレットフェアリーを真剣な眼差しで見ながら「ふ~ん、エッチじゃん」とかクールぶって言っているしぃぃぃ。
当人であるボクからすれば、まったく洒落にならない話だ。
自分が男子たちのオカズにされる事を考えただけで鳥肌ものだ。
『いや、言ったでしょ? 魔法少女には自分が活躍した動画を投稿する義務があるって』
「嘘だよ! だって田宮さんは上げてないじゃない」
『彼女は例外だよ。魔法少女たちが動画を上げるのは活動資金を得るためなんだよ。そのお金で新しい武器やコスチューム、アイテムを購入したり、移動するための経費も必要だよね? いくらキュイちゃんが麵次郎でアルバイトしていても、その程度の額では足りないんだよ』
「だからって断りもなく無断で投稿するのはヒドイよ!」
『気持ちは分かるよ。吾輩もそうしたくはなかった。けれども、魔法少女どころか、少女になりたてのキュイちゃんが余計に混乱しないように気遣った吾輩の気持ちも考えて欲しいのよ』
「うっ……そう言うのズルい」
どーも、言葉巧みに騙されているような気がする。
ボクとしてはちゃんと話し合いをしたいだけなんだけど、ドブさんの本心が見えてこない。
「というか、ドブさん……いつの間にムーニになったんだよ!?」
『ふふっ、悪くはないね。ニューボディ! 吾輩も身動きが取れないガーターベルトとしているのは、いささか不憫を感じていたのだよ』
ドブさんが手に入れたという、その身体は先日、ボクがモールで購入したばかりのカーペンターシリーズのムーニという羊の妖精である。
昨晩、完成したばかりのプラモをドブさんが早速、占領してしまった。
動くムーニは正直、感動するけど中身が……ドブさんだと、ムーニとしては見れなくなる。
けれど、音声よりも普通に会話できている感はある。
「それはそうと――――」
「キュイ? 誰と話しているんだい?」
部屋の外から、チエコさんの声とともにキシキシッと階段がリズムを刻んで鳴り響く。
ボクは慌てて、部屋から飛び出た。
特に意味はなかったけれど、部屋の閉じこもっていたら色々と探られそうな気がする。
ただでさえ、勘の鋭い女将さんだ。きっと、ムーニを見るなり怪しむはずだ。
「えっ、演劇の練習でしゅ! 今度、はっ、発表会があるから……」
丁度、階段をのぼってきた女将さんと鉢合わせた。
咄嗟のことで嘘をついてしまったボクは妙な罰の悪さから、一刻もこの場を抜け出したかった。
前にも思ったけど、本当のことを告げても与太話だと信じて貰えないだろうし、迷惑になる。
何より、女将や大将との今の関係を壊してしまうのが、凄く怖い。
ボクはヒサカズだけど、キュイとしてここいる時間の方が長い。
彼らに対してキュイとして共に過ごしたい。その方が皆、幸せだから……。
「ところで、サガワ君を見なかったかい? 餌をやろうしたら、ゲージの中に居ないんだよ」
「いえ、見てません……発信機とかつけてませんか?」
「さすがに動物には使わないよ……と言いたいトコロだけど首輪に仕込んだらタチマチ引き千切られてしまったよ」
「まさか……お店の外へ出たんじゃっ!! ボク、辺りを探してきます」
女将さんに断わりを入れると、雪崩れ込むように店の外へと出た。
身なりはレッサーパンダでも中は、秘密結社の大幹部である。
サガワ博士にとって、ここからの脱出は造作もない事だろう。
このタイミングで、逃走を図る目的は不明だけど、セコイヤの本部に戻らせるわけにはいかない。
博士には、ボクの居場所がバレてしまっている。
幹部の誰かと接触するより先に捕まえないと!
『キュイちゃん、ほら! アソコに子供たちが集まっているよ』
「いつの間に、ボクのパーカーフードに潜りこんだの!? もう、しょうがないな」
ムーニのプラモ(ドブさん)を腕に抱きかかえながら、ボクは公園へと走った。
学校の教室で会話することも増えたし、たまに出てくる変体も二人で協力し合いながら撃退していたりもする。
何もかも、順風満帆……明るいJK生活を送っていた。
そんなボクに運命は容赦なく新たなる問題を持ち出してくるのであった。
「ドブさん……これはどういう事?」
『何がだい?』
「とぼけないでよ! 動画投稿サイトにサークレットフェアリーとシルフィードハーネスの戦闘シーン動画がUPされているんだけど、ドブさんの仕業だよね!?」
事の発端はクラスの男子たちが視聴していた動画だ。
血気盛んな彼らが珍しくスマホで魅入っていたのは、νTuberの投稿動画サイトだった。
そこには、なんと怪人クリッピィと戦うサークレットフェアリーとシルフィードハーネスが映されていた。
νTuber、もとは魔法少女のコスプレをした動画投稿者が屋外に出て人々の反応を動画として上げるだけのものだったが、ある日を境に本物の魔法少女が動画投稿するようになった。
動画を上げる魔法少女キャラクターとして商標登録するのが魔法少女管理委員会という謎の組織だ。
νTuberは男性には非常にウケが良い。
男子、三人揃えばエロ談義が始まる中で、彼らはサークレットフェアリーを真剣な眼差しで見ながら「ふ~ん、エッチじゃん」とかクールぶって言っているしぃぃぃ。
当人であるボクからすれば、まったく洒落にならない話だ。
自分が男子たちのオカズにされる事を考えただけで鳥肌ものだ。
『いや、言ったでしょ? 魔法少女には自分が活躍した動画を投稿する義務があるって』
「嘘だよ! だって田宮さんは上げてないじゃない」
『彼女は例外だよ。魔法少女たちが動画を上げるのは活動資金を得るためなんだよ。そのお金で新しい武器やコスチューム、アイテムを購入したり、移動するための経費も必要だよね? いくらキュイちゃんが麵次郎でアルバイトしていても、その程度の額では足りないんだよ』
「だからって断りもなく無断で投稿するのはヒドイよ!」
『気持ちは分かるよ。吾輩もそうしたくはなかった。けれども、魔法少女どころか、少女になりたてのキュイちゃんが余計に混乱しないように気遣った吾輩の気持ちも考えて欲しいのよ』
「うっ……そう言うのズルい」
どーも、言葉巧みに騙されているような気がする。
ボクとしてはちゃんと話し合いをしたいだけなんだけど、ドブさんの本心が見えてこない。
「というか、ドブさん……いつの間にムーニになったんだよ!?」
『ふふっ、悪くはないね。ニューボディ! 吾輩も身動きが取れないガーターベルトとしているのは、いささか不憫を感じていたのだよ』
ドブさんが手に入れたという、その身体は先日、ボクがモールで購入したばかりのカーペンターシリーズのムーニという羊の妖精である。
昨晩、完成したばかりのプラモをドブさんが早速、占領してしまった。
動くムーニは正直、感動するけど中身が……ドブさんだと、ムーニとしては見れなくなる。
けれど、音声よりも普通に会話できている感はある。
「それはそうと――――」
「キュイ? 誰と話しているんだい?」
部屋の外から、チエコさんの声とともにキシキシッと階段がリズムを刻んで鳴り響く。
ボクは慌てて、部屋から飛び出た。
特に意味はなかったけれど、部屋の閉じこもっていたら色々と探られそうな気がする。
ただでさえ、勘の鋭い女将さんだ。きっと、ムーニを見るなり怪しむはずだ。
「えっ、演劇の練習でしゅ! 今度、はっ、発表会があるから……」
丁度、階段をのぼってきた女将さんと鉢合わせた。
咄嗟のことで嘘をついてしまったボクは妙な罰の悪さから、一刻もこの場を抜け出したかった。
前にも思ったけど、本当のことを告げても与太話だと信じて貰えないだろうし、迷惑になる。
何より、女将や大将との今の関係を壊してしまうのが、凄く怖い。
ボクはヒサカズだけど、キュイとしてここいる時間の方が長い。
彼らに対してキュイとして共に過ごしたい。その方が皆、幸せだから……。
「ところで、サガワ君を見なかったかい? 餌をやろうしたら、ゲージの中に居ないんだよ」
「いえ、見てません……発信機とかつけてませんか?」
「さすがに動物には使わないよ……と言いたいトコロだけど首輪に仕込んだらタチマチ引き千切られてしまったよ」
「まさか……お店の外へ出たんじゃっ!! ボク、辺りを探してきます」
女将さんに断わりを入れると、雪崩れ込むように店の外へと出た。
身なりはレッサーパンダでも中は、秘密結社の大幹部である。
サガワ博士にとって、ここからの脱出は造作もない事だろう。
このタイミングで、逃走を図る目的は不明だけど、セコイヤの本部に戻らせるわけにはいかない。
博士には、ボクの居場所がバレてしまっている。
幹部の誰かと接触するより先に捕まえないと!
『キュイちゃん、ほら! アソコに子供たちが集まっているよ』
「いつの間に、ボクのパーカーフードに潜りこんだの!? もう、しょうがないな」
ムーニのプラモ(ドブさん)を腕に抱きかかえながら、ボクは公園へと走った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる