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四十話 アニキ、と魔法少女オタク
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ホテルでチェックインを済ませたボクたちは早速、海へと足を運んだ。
一面コバルトブルーの白浜の海岸には、家族連れやカップルなどで大変混雑していた。
すべてが眩しく見えるボクにとっては、そこは試練の場だ。
これまで海なんて怪人が人を襲った時ぐらいにしか行くことはなかった。
まさか、安全パトロールをしていたボクがレジャーを満喫する日が来ようとは……人とは姿かたちが変わればこうも変わるものなのか?
俄然、気乗りしないボクをリユちゃんたちがグイグイ、引っ張ってゆく。
物理的にも精神的にも誘導され顔がニヤケてしまう。
男だったら、こうして女の子たちと手をつないで歩くことなどない。
優越感と同時に罪悪感と惨めさがこみあげてくる。
「三人ともそんなに、はしゃいだら転ぶわよ!」
後方から田宮さんの声がとんできた。
日傘をさした彼女の隣には執事の霜月さんという女性が同行していた。確か、前回は別の人だったような気がする。
田宮家には一体、何人の使用人がいるのだろうか? 気にはなるがボクのあずかり知るところではない。
「これでも、今日は警備の数を控えているのよ」
ボクの視線に気づいたようだ。
さすがにプライベートともなると、監視の目の数を減らしたくもなるということか。
てっきり、厳重なモノになると思いこんでいた。
「おー、来た来た。コッチコッチ!!」
旅館の方からやってきたアイカちゃんたちグループの方が一足先に到着していた。
宿泊先も計画当初は全員で旅館だったけれど、それだと一般の宿泊施設に泊まれない田宮さんが一人になってしまう。
そういった経緯もあり、ボクたち流星校組は田宮家が所有しているホテルへと変更した。
一応、アイカちゃんやレネ子さんたちも誘ったけど、旅館が良いと言って断固として譲らなかった。
たんに田宮さんと対立するアイカちゃんが意固地になっただけだが、半々に別れて良かったのかもしれない。
五人揃って、真夜中にホテルから抜け出すとなると目立ち過ぎて、ボディーガードに外出を止められる恐れがある。
「ジャン! どうよ、キュイちゃん。新作の水着を買っちまったぜ」
自慢のビキニを目の前にグイと押しつけてくる茜音ちゃん。
確かに高価そうだしフリルつきデザインもなかなかだと思う。
しかし、考えてみてくれ……ボクはまだ女の子に成り立てのムサイ野郎だ。
女物の水着の良さを判別させたらマニアックな方向へと行ってしまうのは避けられない。
「貝殻じゃないんだね」何を言っているんだボクは……。
「いやー、さすがに貝殻を装着する勇気はないわぁ。てか! 貝殻水着なのキュイちゃん!? だいたーん3~」
「ふ、フツーです。リユちゃんに選んで貰った奴だよ」
「うん、キュイちゃんは基本、かわいぃ系なら何でも似合うから迷っちゃうけど、本人の希望を聞いた上で選びました」
「ふわっ! さすがですな、先生」
リユちゃんと茜音ちゃんの間で女子トークが弾んでいた。
幼馴染の親友ならではの絶妙はやり取りだ。
微笑ましくも羨ましい。
羨望どころか願望の眼差しで二人を拝見してしまう。
あんまりジロジロ見るのも、はしたないことだと視線をそらすと、ボクと同じように二人を見詰める田宮さんがいた。
彼女の場合は純粋に会話に加わりたいだけなのだろう。
決してボクのように目の保養などと、やましい気持ちで見ているわけではない。
それを一緒くたにするなんて言語道断だ。
「し、新庄さん……」
ボクにむかって小さくお辞儀したのは、さきほど共に出遅れ組だったフィグちゃんだった。
クール&プリティ、それが彼女という個性を象徴するものだと思う。
ホテルに着く前に少しだけ会話をしたけど、会話が続かなく泣きそうになった。
自分から、まったく自己主張しない彼女のスタンスは、どこかボクと似通ったような雰囲気を持つ。
大抵は自分に対する自身のなさが影響しているんだけどもフィグちゃんは違う。
なんというか、重みがある。そう、言い換えれば強烈なこだわりを感じる。
おそらくフィグちゃんの中には、自分のルールが強い。
ボクたちは、すぐに海とはいかずに屋台の蕎麦屋へと直行した。
丁度、昼時だから、ここからで胃に何か入れておきたかった。
「どうしてぇ!! どうして温かい蕎麦には天丼がつくの?」
「ど、どうしたのいきなり叫んで? そばつゆに合うのが天ぷらだからじゃない?」
蕎麦屋のメニュー見るなり、フィグちゃんの目つきが変わった。
それまで、おっとりとし大人しい印象が、何故か饒舌に変わっていた。
若干、目が座っていて、危うさをほのめかしているが、アイカちゃんたちは気にも留めていない。
「この蕎麦に合うのは納豆ご飯しかないですよ! 天丼やかしわメシでは、この境地にいたらないのですぅ」
「えっと、君は食通なの? ボクはカレーなら色々と語るんだけどね」
「皆、そうやってメジャーな方ばかりに目を向けてしまいがち、本当に素晴らしいものとは人知れずにあるものなのです。これは魔法少女モノにも当てはまります。たしかにコレクター〇イは二十五年前の名作ですが……フィグたちが生まれる前の作品を持ち上げられても困りますぅ。本当に大切なモノがあることを忘れていませんか? そう! 装身少女マ〇イという存在を!!」
おや……話がヘンな方向へと八双飛びしているぞ。この娘は詰まるところ何を言いたいのやら……。
疑問だらけだが、とりあえず彼女が魔法少女好きだというのは熱烈に伝わった。
一面コバルトブルーの白浜の海岸には、家族連れやカップルなどで大変混雑していた。
すべてが眩しく見えるボクにとっては、そこは試練の場だ。
これまで海なんて怪人が人を襲った時ぐらいにしか行くことはなかった。
まさか、安全パトロールをしていたボクがレジャーを満喫する日が来ようとは……人とは姿かたちが変わればこうも変わるものなのか?
俄然、気乗りしないボクをリユちゃんたちがグイグイ、引っ張ってゆく。
物理的にも精神的にも誘導され顔がニヤケてしまう。
男だったら、こうして女の子たちと手をつないで歩くことなどない。
優越感と同時に罪悪感と惨めさがこみあげてくる。
「三人ともそんなに、はしゃいだら転ぶわよ!」
後方から田宮さんの声がとんできた。
日傘をさした彼女の隣には執事の霜月さんという女性が同行していた。確か、前回は別の人だったような気がする。
田宮家には一体、何人の使用人がいるのだろうか? 気にはなるがボクのあずかり知るところではない。
「これでも、今日は警備の数を控えているのよ」
ボクの視線に気づいたようだ。
さすがにプライベートともなると、監視の目の数を減らしたくもなるということか。
てっきり、厳重なモノになると思いこんでいた。
「おー、来た来た。コッチコッチ!!」
旅館の方からやってきたアイカちゃんたちグループの方が一足先に到着していた。
宿泊先も計画当初は全員で旅館だったけれど、それだと一般の宿泊施設に泊まれない田宮さんが一人になってしまう。
そういった経緯もあり、ボクたち流星校組は田宮家が所有しているホテルへと変更した。
一応、アイカちゃんやレネ子さんたちも誘ったけど、旅館が良いと言って断固として譲らなかった。
たんに田宮さんと対立するアイカちゃんが意固地になっただけだが、半々に別れて良かったのかもしれない。
五人揃って、真夜中にホテルから抜け出すとなると目立ち過ぎて、ボディーガードに外出を止められる恐れがある。
「ジャン! どうよ、キュイちゃん。新作の水着を買っちまったぜ」
自慢のビキニを目の前にグイと押しつけてくる茜音ちゃん。
確かに高価そうだしフリルつきデザインもなかなかだと思う。
しかし、考えてみてくれ……ボクはまだ女の子に成り立てのムサイ野郎だ。
女物の水着の良さを判別させたらマニアックな方向へと行ってしまうのは避けられない。
「貝殻じゃないんだね」何を言っているんだボクは……。
「いやー、さすがに貝殻を装着する勇気はないわぁ。てか! 貝殻水着なのキュイちゃん!? だいたーん3~」
「ふ、フツーです。リユちゃんに選んで貰った奴だよ」
「うん、キュイちゃんは基本、かわいぃ系なら何でも似合うから迷っちゃうけど、本人の希望を聞いた上で選びました」
「ふわっ! さすがですな、先生」
リユちゃんと茜音ちゃんの間で女子トークが弾んでいた。
幼馴染の親友ならではの絶妙はやり取りだ。
微笑ましくも羨ましい。
羨望どころか願望の眼差しで二人を拝見してしまう。
あんまりジロジロ見るのも、はしたないことだと視線をそらすと、ボクと同じように二人を見詰める田宮さんがいた。
彼女の場合は純粋に会話に加わりたいだけなのだろう。
決してボクのように目の保養などと、やましい気持ちで見ているわけではない。
それを一緒くたにするなんて言語道断だ。
「し、新庄さん……」
ボクにむかって小さくお辞儀したのは、さきほど共に出遅れ組だったフィグちゃんだった。
クール&プリティ、それが彼女という個性を象徴するものだと思う。
ホテルに着く前に少しだけ会話をしたけど、会話が続かなく泣きそうになった。
自分から、まったく自己主張しない彼女のスタンスは、どこかボクと似通ったような雰囲気を持つ。
大抵は自分に対する自身のなさが影響しているんだけどもフィグちゃんは違う。
なんというか、重みがある。そう、言い換えれば強烈なこだわりを感じる。
おそらくフィグちゃんの中には、自分のルールが強い。
ボクたちは、すぐに海とはいかずに屋台の蕎麦屋へと直行した。
丁度、昼時だから、ここからで胃に何か入れておきたかった。
「どうしてぇ!! どうして温かい蕎麦には天丼がつくの?」
「ど、どうしたのいきなり叫んで? そばつゆに合うのが天ぷらだからじゃない?」
蕎麦屋のメニュー見るなり、フィグちゃんの目つきが変わった。
それまで、おっとりとし大人しい印象が、何故か饒舌に変わっていた。
若干、目が座っていて、危うさをほのめかしているが、アイカちゃんたちは気にも留めていない。
「この蕎麦に合うのは納豆ご飯しかないですよ! 天丼やかしわメシでは、この境地にいたらないのですぅ」
「えっと、君は食通なの? ボクはカレーなら色々と語るんだけどね」
「皆、そうやってメジャーな方ばかりに目を向けてしまいがち、本当に素晴らしいものとは人知れずにあるものなのです。これは魔法少女モノにも当てはまります。たしかにコレクター〇イは二十五年前の名作ですが……フィグたちが生まれる前の作品を持ち上げられても困りますぅ。本当に大切なモノがあることを忘れていませんか? そう! 装身少女マ〇イという存在を!!」
おや……話がヘンな方向へと八双飛びしているぞ。この娘は詰まるところ何を言いたいのやら……。
疑問だらけだが、とりあえず彼女が魔法少女好きだというのは熱烈に伝わった。
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