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四十六話 アニキ、好みを当てる
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田所さんは人柄の良い温厚なオジサンだった。
しかしながら、変体に対しては血も涙もなかった。
ヘッドロックをかけたままの状態でヤキンバが暴れようとする度に顔面に田所パンチが炸裂する。
その拳はいうまでなく真っ赤に染まっている。
清々しい顔をしながら「ついて来たまえ。今回の強化合宿について説明しよう」というけど変体を引きづったまま移動する背中は猟奇的だ。
着いた先に見えたのは一台のキッチンカーだった。
車体側面にはステラバーガーとポップな感じで書かれている。
ヤキンバが恨みを募らせていた元凶がここにあった。
ボクには、あまり馴染みのないファストフード店だが、ステラバーガー(通称、ステバ)は今、女子高生を中心に人気急上昇中のお店らしい。
おそらく、そこはかとなく感じられるファンシーさがウケたのだろう。
ファンキー世代の僕には、未知の領域にも思われる。
「いやぁ~遅かったね、T!」
「スマンな。皆を連れてきたぞ、ドブえもん」
ドドドドドドドオ、ドブさぁああ―――― ん!?
キッチンカーの周りの設置されたビーチパラソル。
下がテーブルとなっている、そこにムニーのプラモが椅子に座っていた。
「というか! ホテルの部屋からどうやってここに移動したんだ!?」
「嗚呼っ、君か。人脈っていう君には備わっていないモノを駆使したまでさ」
チクショウ、コイツ……どこかの社長みたいなことを口走っていやがる。
「まぁ、そう睨むな睨むな。キュイちゃんにもお得な情報を用意してあるからさ」
悲しいかな。人は、お得という言葉に弱い。
損得勘定ばかりが、すべてだとは言いたくないけど特があるのなら興味は出てくる。
「やぁ、チーム田所魔法技研の皆。初めまして、吾輩はチーム【危機裸々】のドブさんこと、ドブさんだよ」
なんだ!? その赤裸々みたいなチーム名は!! 相談すらなかったよね? 僕や田宮さんに一言も告げずに独断で決めるとか……ありえねぇし。サン〇オに訴えられるぞ!
「店長、この生物は一体!?」
ほら、レネ子さんも未知との遭遇みたいな顔をしている。
「ああ、ドブえもんは我々のスポンサーだ。君たちの変身チョーカーやイヤリング、指環などの開発にも携わっているんだぞ」
「そんな、大物がここに居るということは!?」
何やら勝手な思い込みが始まっているけどドブさんを連れてきたのはボクだ。
ドブさんがここに居るのは偶然であり、特に大きな意味があるわけでもない。
というか、スポンサーって……高性能AIの呼び名は伊達じゃないということか。
「私は知っているよ。キュイの家に潜り込んでいる妖精さ」
うん。チガウよ、アイカちゃん……色々な部分でね。
「ムニーだ。これ、カーペンターズの羊のムニーだよ! くわぁいい~」
さすが、フィグちゃん。そちらにも造詣が深いとは、また今度カーペンターズの話題で花を咲かせようじゃないか!
「浮かれているトコロ悪いけど、これ合宿なのよね」
ドブさんが無表情のまま、手厳しいことを言ってきた。
確かにこれは強化合宿、ボクたちは海に遊びにきたわけじゃない。
それなりに成果がなければ合宿をした意味がない。
「ん? だから何?」
「……パードゥン?」
ドブさんが言葉を失うほど強烈なスパイクを返してきたのは、言うまでなくアイカちゃんだった。
「愛子く―――ん!! それを言ってしまえば終わりだろう!」
「いや……真剣にやれって言いたいのはわかるけどさ。そもそも私ら、そのつもりで来ているわけだしぃー。つーか、田所のおっちゃんもいい加減、私の名前を覚えろよな?」
「ぐぬぬぬ……すまん! バーガー作ってくるわ」
田所さんが助け船を出すも、あえなく撃沈した。
おそるべくはギャルパワーだ。彼女を言い負かせる存在はこの世界にいるのだろうか?
「あのぅー」申し訳なさそうにフィグちゃんが手を上げた。
「何だい? 吾輩は今、すこぶる機嫌が悪いんだ」
そこはオブラートに包もうぜ。
妙な威圧感を放つドブさんに怯えながら彼女は話を続けた。
「よ、要件は何でしょうか? 単なる陣中見舞いではないですねよ……すみません」
「フッ、最初からそう聞いてくれれば吾輩だって答えるモノを」
「別に聞く必要あんの?」
「ちょっと、アイカ!!」
なかなか話が進まない。さすがに、今度はアイカちゃんの口をレネ子さんが手で塞ぐ事態になった。
そこそこプライドが高いドブさんのことだ、今ので完全に拗ねてしまったはずだ。
かくなる上は―――――
「ドブさん、このままだと動画の撮影ができなくなるよ? それでもいいの? ボクたちのチームと田所さんのチームでの共同作戦とか、熱い展開だよね~」
それとなく、大胆に促す。ドブさんにとって一番大切なことは動画の再生数であり魔法少女の強化だ。
理由は聞いていないけど、ボクたちの動画を上げることは大事なことらしい。
こう言えばきっと反応する、ボクの期待に添うようにドブさんは告げた。
「吾輩としたことが目的を見失っていたようだね。ありがとう、キュイちゃん。おかげで、踏ん切りがついたよ! 諸君、我々はこれから大規模な討伐戦を行うこととなる。敵は一体のみだが……これまで数々の魔法少女を返り討ちにしてきた強敵だ! この変体の討伐を本合宿の目標とする!!」
しかしながら、変体に対しては血も涙もなかった。
ヘッドロックをかけたままの状態でヤキンバが暴れようとする度に顔面に田所パンチが炸裂する。
その拳はいうまでなく真っ赤に染まっている。
清々しい顔をしながら「ついて来たまえ。今回の強化合宿について説明しよう」というけど変体を引きづったまま移動する背中は猟奇的だ。
着いた先に見えたのは一台のキッチンカーだった。
車体側面にはステラバーガーとポップな感じで書かれている。
ヤキンバが恨みを募らせていた元凶がここにあった。
ボクには、あまり馴染みのないファストフード店だが、ステラバーガー(通称、ステバ)は今、女子高生を中心に人気急上昇中のお店らしい。
おそらく、そこはかとなく感じられるファンシーさがウケたのだろう。
ファンキー世代の僕には、未知の領域にも思われる。
「いやぁ~遅かったね、T!」
「スマンな。皆を連れてきたぞ、ドブえもん」
ドドドドドドドオ、ドブさぁああ―――― ん!?
キッチンカーの周りの設置されたビーチパラソル。
下がテーブルとなっている、そこにムニーのプラモが椅子に座っていた。
「というか! ホテルの部屋からどうやってここに移動したんだ!?」
「嗚呼っ、君か。人脈っていう君には備わっていないモノを駆使したまでさ」
チクショウ、コイツ……どこかの社長みたいなことを口走っていやがる。
「まぁ、そう睨むな睨むな。キュイちゃんにもお得な情報を用意してあるからさ」
悲しいかな。人は、お得という言葉に弱い。
損得勘定ばかりが、すべてだとは言いたくないけど特があるのなら興味は出てくる。
「やぁ、チーム田所魔法技研の皆。初めまして、吾輩はチーム【危機裸々】のドブさんこと、ドブさんだよ」
なんだ!? その赤裸々みたいなチーム名は!! 相談すらなかったよね? 僕や田宮さんに一言も告げずに独断で決めるとか……ありえねぇし。サン〇オに訴えられるぞ!
「店長、この生物は一体!?」
ほら、レネ子さんも未知との遭遇みたいな顔をしている。
「ああ、ドブえもんは我々のスポンサーだ。君たちの変身チョーカーやイヤリング、指環などの開発にも携わっているんだぞ」
「そんな、大物がここに居るということは!?」
何やら勝手な思い込みが始まっているけどドブさんを連れてきたのはボクだ。
ドブさんがここに居るのは偶然であり、特に大きな意味があるわけでもない。
というか、スポンサーって……高性能AIの呼び名は伊達じゃないということか。
「私は知っているよ。キュイの家に潜り込んでいる妖精さ」
うん。チガウよ、アイカちゃん……色々な部分でね。
「ムニーだ。これ、カーペンターズの羊のムニーだよ! くわぁいい~」
さすが、フィグちゃん。そちらにも造詣が深いとは、また今度カーペンターズの話題で花を咲かせようじゃないか!
「浮かれているトコロ悪いけど、これ合宿なのよね」
ドブさんが無表情のまま、手厳しいことを言ってきた。
確かにこれは強化合宿、ボクたちは海に遊びにきたわけじゃない。
それなりに成果がなければ合宿をした意味がない。
「ん? だから何?」
「……パードゥン?」
ドブさんが言葉を失うほど強烈なスパイクを返してきたのは、言うまでなくアイカちゃんだった。
「愛子く―――ん!! それを言ってしまえば終わりだろう!」
「いや……真剣にやれって言いたいのはわかるけどさ。そもそも私ら、そのつもりで来ているわけだしぃー。つーか、田所のおっちゃんもいい加減、私の名前を覚えろよな?」
「ぐぬぬぬ……すまん! バーガー作ってくるわ」
田所さんが助け船を出すも、あえなく撃沈した。
おそるべくはギャルパワーだ。彼女を言い負かせる存在はこの世界にいるのだろうか?
「あのぅー」申し訳なさそうにフィグちゃんが手を上げた。
「何だい? 吾輩は今、すこぶる機嫌が悪いんだ」
そこはオブラートに包もうぜ。
妙な威圧感を放つドブさんに怯えながら彼女は話を続けた。
「よ、要件は何でしょうか? 単なる陣中見舞いではないですねよ……すみません」
「フッ、最初からそう聞いてくれれば吾輩だって答えるモノを」
「別に聞く必要あんの?」
「ちょっと、アイカ!!」
なかなか話が進まない。さすがに、今度はアイカちゃんの口をレネ子さんが手で塞ぐ事態になった。
そこそこプライドが高いドブさんのことだ、今ので完全に拗ねてしまったはずだ。
かくなる上は―――――
「ドブさん、このままだと動画の撮影ができなくなるよ? それでもいいの? ボクたちのチームと田所さんのチームでの共同作戦とか、熱い展開だよね~」
それとなく、大胆に促す。ドブさんにとって一番大切なことは動画の再生数であり魔法少女の強化だ。
理由は聞いていないけど、ボクたちの動画を上げることは大事なことらしい。
こう言えばきっと反応する、ボクの期待に添うようにドブさんは告げた。
「吾輩としたことが目的を見失っていたようだね。ありがとう、キュイちゃん。おかげで、踏ん切りがついたよ! 諸君、我々はこれから大規模な討伐戦を行うこととなる。敵は一体のみだが……これまで数々の魔法少女を返り討ちにしてきた強敵だ! この変体の討伐を本合宿の目標とする!!」
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