超絶転身少女 インフィニティアニキ 特撮ヒーローから魔法少女系νtuberに転職します

心絵マシテ

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最終話 アニキ、また会うその日まで

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『愚息の身を案じてくれるのは有難いが、暴走を止めてくれただけでも充分に感謝しておるぞ、イエロー』

スマホを持ったままテクテクと歩いてきたサガワ博士は、ようやく望みが叶ったとボクに頭を下げてきた。
感謝されるようなことはできてないし、敵対してボクたちがこうして通じ合える日が来るとは思っていなかった。
女の子にされたのは正直、今でも抵抗がある。
けれど、何も悪いことばかりじゃない、むしろ変化してからは様々出会いや体験をすることができた。
これが幸せでないなんて言えるわけがない。

確かに在る幸福をボクは噛みしめて新しい人生を歩んでいる。
失ったもの以上に得たものが大きく逆に不安を覚えたりもするけど、新庄キュイという少女はちゃんとここにいて、魔法少女系のνtuber として活躍している。
まだまだ知名度は低いけれど、正義の……いや、人々の笑顔を守るために変体たちと戦い続けている。
いかなる容姿であろうとも、そのことはボクの一部であり誇りだと言えよう。

これで強化合宿の課題も終了した。もともと一泊二日で予定を組んでいたから、あまり時間に余裕はないと思っていたけれど、思いのほか初日で片付いてしまった。

「キュイ君たちは残り一日を自由に過ごして羽を伸ばしてくれ。せっかく友達と来たのだから、思い出をしっかりと作っておいたほうがいい」
「田所さんたちは、どうするんですか?」

「我々には、まだ強化訓練が残されている」

そう告げると田所さんはを二本のアンプル取り出しボクと田宮さんに手渡した。

「あの怪人からアンプル三本分の魔法エネルギーが抽出できた。約束どおり一本は頂戴するよ、ドルフィーネの改造については後日、連絡をするから持っていて欲しい」
「私たちは構いませんよ」

田宮さんの承諾を得ると田所さんは「宿に帰るぞ」とアイカちゃんたちに合図を送った。

「私もキュイと一緒に戦いたかったぁ―――!!」
「そう、ぐずらないの! アイカ。チャンスは今後も充分にあるでしょ!?」
「そっかぁ! また合宿すればいいじゃん。なら、来週早速――――」
「はいはい、また今度な。店長が許可してくれなければ、ウチらも動けんよ」

悔しそうに地団太を踏むアイカちゃんをレネ子さんが強引に引っ張ってゆく。
まるで犬の散歩をしているブリーダーのようだ。

「それじゃ、二人ともまたね。今度は合宿が終わってから会いましょう~」
「キュイ、あとでメッセージを送るから~ちゃんと、返信してくてよぉぉぉ!!」

忙しないアイカちゃんと上品に手を振るレネ子さん。
対照的な二人ではあるが、お互いのことをしっかりと理解し合いちゃんと調和が取れている。
親友または戦友と言えよう、そこに固い絆が見えていた。
ボクたちもいずれあんな感じになるのだろうか?
不意に顔を上げて隣に立つ田宮さんを見た。

「その……お二方とも……あ、アリガトーございましゅ―――――そそっそれでは!」

顔を火照らせながらもフィグちゃんが去っていった。
田宮さんと共に三人に手を振りながらボクたちは互いに微笑んだ。

「ボクたちも帰ろうか、ドブさん少しは回復したかい?」

ムニーのプラモに問いかけるも依然として返事はなかった。
まだ回復できていないのかと、小首を傾げていると『貸してみろと』博士が催促してきた。

「ちょ、ちょっとそんなに乱暴に扱ないでよ!」

しばらく、ムニーのボディを振ったり小突いたりしていた博士が急に動きを止めた。
チラリとコチラをむくと急にスマホを連打し始めた。

『いかんな! ハッピーバッピィの機能が停止しておるぞ』
「……えっ? 博士、冗談だよね? さっきまでドブさんは機能していたんだよ」
『おそらく、さきの戦いで限界をとうに超えていたのだろう。見ろ、頭部が破損している……ずっと、このまま状態でいたんだ、負荷に耐えられなくなって当然だ』

思い当たるフシがあった……レッドの不意打ちからボクを守るためにドブさんは、身をていしてくれたんだ。
あの時から、すでにおかしくなっていたのにどうして…………何も言わずに戦っていたんだ!!
ボクのせいだ、冷静になれば引き返す選択肢だってあったはずだ。なのに、自分のことばかりでドブさんの気持ちなど考えもしなかった。
いや、機械だからそんなモノはないと決めつけていた。
ボクよりもドブさんのほうが、ずっと人間らしい心を持っているじゃないか!

「新庄さん……まだ、データが残っている可能性があるかもしれないわ。そうでしょ? レッサーパンダ博士」

ボクを気遣い田宮さんが博士に尋ねた。レッサーパンダのヒゲを前脚で弄りながら博士は、首を横に振った。
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
自分でも驚くぐらいボクの中でドブさんは大きな存在となっていた。
真下をうつむくと涙がこぼれ落ちてゆく。
どんなに、こらえようとしても涙腺から溢れ出る洪水は止められない。
愕然としながら、胸の痛みに全身が打ち震えていた。

ボクは不器用だ。器用じゃないから自分の気持ちが分かっていなかった。
相棒はハーネスだけじゃない。色々とあったけどドブさんは一番長く一緒にいたんだ。
あまりに近すぎるから、いて当然だと思っていた。

「魔法少女になれなくても構わない。だから、ドブさんを助けてあげてよ! お願い、博士ならできるでしょっ!?」

わらをもすがる気持ちとは、こういうモノなんだろう……ボクは何度も何度も博士に頼み込んだ。
前脚を腕のように組みながら博士は少しの間、考え込んでいた。

『方法はないことはない。ただし、できるかどうかは運次第となる。この施設からワシのラボにアクセスしてデータ修復するんじゃ! 最悪、復活できなければバックアップを使うしかない……そうなる意味を分かっているんじゃろうな?』

「少しでも可能性があれば、やってみたい! 悔いのないようにしたい」

『よろしい、ならついて来い!』

博士と共に格納庫へと戻る。
中に入るなり、博士は辺りをキョロキョロを見回しながら、部屋の奥にあるカプセル型の機械の下へと駆けてゆく。

『このカプセルの中にハッピーバッピィを入れるのじゃ』

機械を操作する博士の指示に従いながら台座の上にドブさんを乗せカプセルの蓋を閉じた。
あとは博士の科学力を信じるしかない。
天に祈ることも頭の中でチラついたけど、縁起でもないと否定した。

「大丈夫よ。きっと上手くいくから……」

田宮さんの温かい手の温もりを肩で感じながら、ドブさんの復活を願った。
彼女がいてくれて本当に良かった。ボク一人では悲しみに押し潰されていただろう。
一時間がこんなにも長く感じるのも久しぶりだ。ヒーロー試験以来になると思う。
カプセルを見守り続けること五時間、朝日が室内に差し込んで視界が明るくなってきた。
その中で、よくやく修復作業を終えた機械が停止した。

『しばらく検査をする。夕方には終わるだろうからここに来てくれ』





夜行列車の窓から、色鮮やかな光が差し込む。
筒から打ち上げられた尺玉花火が馴染み深い音を奏で、海辺の空に大輪の花を咲かせる。
スターマインにナイアガラ、水上花火……どれもため息が出そうになるほど綺麗に夜空を飾っていた。
ボクとリユちゃん、田宮さんや茜音ちゃんもその美に魅入られて時が経つのを忘れていた。
男だった時には、さして花火など気にも留めなかった。
そう思うと、この感覚は新鮮だ。

「わぁ――――、海辺で見る花火もいいけど、こうして電車から見るのも素敵ね」
「ボク、こんなに綺麗な花火を見たのは初めてだよ」
「それじゃあ、また皆で花火を観にいこうよ!」
「ホテルの予約なら任せて、こういったリゾート地なら、父の会社のホテルがあるから」

今後の予定について、和気あいあいとしてボクたちは語り合った。
皆とまた旅行か、想像するだけでも楽しみで仕方がない。
会話が盛り上がる最中、ボクのスマホが震動していた。
マナーモードにしてあったのに……勝手に切り替わっている。

「ゴメン、ちょっと席を外すよ」

急いでメールを確認し二つ隣の車両へと移動する。
ふと、空席に置かれているムニーのプラモが目についた。
辺りを確認しながら、ボクはその席の隣に座った。

「やぁ、吾輩を一人にするなんて酷いじゃないか?」
「あれ、博士は? 一緒だったんじゃないの?」

「変なアライグマがいるって言われて駅員に捕獲された」
「うっそおお―――、だから荷物の中に隠れていろって言ったのにぃぃ―――」

結論から話そう。
ドブさんは修復できなかった。
そうは言ってもデータが回復しなかったわけではない。博士が調べた結果、あるはずのAIシステムが何者かによって取り外されていたことが判明した。
AI機能の代わりに遠隔操作できるように改良が施されていた。
その犯人とは、溝鼠ことドブさんである。ボクの呼びかけに反応しなくなったのは、通信システムの破損によるものだそうだ。

正体こそ未だ、不明だけどドブさんは機械ではなく、れっきとした人間である。
まんまと騙されたとは思うけど、悪い気はしない。
ボクにとって、また相棒と再会できたことの喜びが何よりも勝っていたから。

「仲間は増えたし強敵も倒した。そろそろ吾輩たちも次のフェーズにシフトしなければならない」

笑顔のままの表情で、イヤなことを言ってくれる。
きっと、またろくでもないことを目論んでいるに違いない。

「もちろん、吾輩の言いたいことが分かるよね!?」
「まともじゃないことは分かるよ」

「そうだね! Liveだね!! もう歌って踊って変体の公開処刑さ! クッケケケッケェ――――」
「うわぁ……最低の企画だね、ドブさん」
「それを最高にするのが、君の使命なのだよ! キュイちゃん!!」

窓側に座っているドブさんから目を逸らし「博士を助けに行ってくるよ」と言ってボクは逃げた。
どうやら、相棒の野望はまだまだ底がつきていないようだ。
当面は悩まされるだろうけれど、ボクは知っている。
誰よりもドブさんが仲間想いであることを。
これからも魔法少女として活動するボクには必要不可欠なであると。

二学期になると、ボクをとりまく環境はさらに加速し変化してゆく。
今はまだ、そのことにすら気づいてはいないけど、きっと大丈夫だ!

ボクのことを信じて力を貸してくれる友がいる。こまった時は支えてくれる家族がいる。
今度はボクの番だ。
救われないことを嘆くばかりが道ではない。誰かに手を差し伸べることも一つの答えだ。
そこにヒーローも魔法少女も関係ない。
自分が望めば誰でも世界を救うことができるはずだ。たとえ些細なことでも、大勢の力が集まれば大きなうねりとなる。
ボクがやるべきことは、人の可能性を信じて道を照らすのみ。
それこそが正義の味方の喜望なのだから。

FIN
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