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心絵マシテ

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還らずの森

闇を駆け抜けて

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「これだけ探しても見つからないのなら、ここにあると考えるのは時間をロスするだけか……」

出来る限り、周囲を探索したがそれらしき物は全く発見できなかった。
そもそも、この暗闇で物を探すこと自体がナンセンスだ。
劣悪な環境を少しだけ腹立たしく感じながらも、自身を鼓舞するように私は顔を叩いた。
この森はどうみても怪しい、普通の森ではない気がする。
少し肌寒くなってきた。どこからともなく吹きすさんでくる風にさらされ身体が底冷えしそうだ。
このままジッとしていれば、体温を全部奪われ凍死しかねない。
すぐに移動しよう。
スカートについた土を払い落とし私は歩き出した。

「参ったな。鞄もないし、手元にある私物はバッテリーが切れそうなスマホぐらいしかない」

今一度を辺りに目を向ける。
本当に木々以外は何もない。
早速、穏やかな日の光が恋しくなりそうなほど、静寂に包まれた夜の世界は私の内に眠る不安や恐怖をあおってくる。
目覚めた時から感じてはいた、この森の異常さ。
自然となのか? あるいは人為的なのか? 私には計りかねないが、おそらくこの闇はガスの類だ。
森のいたるところに、このガスが充満しているせいで、こちらの視界は遮られ進行方角が一向に掴めない。
というか、肺に吸い込んでも大丈夫だとは思えない。私は、ハンカチで口元を覆った。
皮肉なことに地上とは対称的に、遥か遠くの天には大小無数の星々がきらめていた。
その中で一際、眩しく輝く蒼白い光。
楽園の星ユナテリオン。
天上の奇跡ともうたわれる、それが生み出す輝きは漆黒の森を燦然さんぜんと照らし続けていた。
おかげで、ガスが溜まっていない開けた場所なら辛うじて視界は確保できる。
もっとも、夜目が利く私には無関係な話だが。

「って……また、ちったわ。魔力の無駄遣いしている場合じゃないのに!」

私は深く深呼吸した。
平常心と意識の集中、それは魔術を使用する際、魔力の強度や質を高めるのに必要不可欠な基礎技術。
基本であるがために奥深く、魔法のエキスパートであっても些細なきっかけで集中を欠く時がある。
特に戦闘など突発的な動きが求められる場面では、術者の技量がものを言う。

「ん? なんだろう……この辺り一帯のマナ濃度がやけに濃い。こんなの初めてだ。ひょっとして、この場所なら魔法が使えるかも……ミ、ミストチャフ展開、捜索範囲は半径5キロメートルに設定。発動! エアリアルサーチ―――なーんてね、ハハッ」

それとなく唱えた魔法……直後、私を中心に荒れ狂った風が吹きすさんでゆく。
まるで羽ばたく鳥の群れのように私の周囲を何度も旋回し加速している。
直後、風は外側へと弾け飛び森全体に一瞬で吹き抜けていった。

「ふわっ……は、発動したああぁああっ――――!!」

森の現状を把握するのに、時間にして瞬き三回。
あくまでこちらが指定した範囲でしかできないが、広域探索魔法エアリアルサーチは、魔力を込めた風を飛ばすことで、そこに存在するありとあらゆる魔力を的確に感知することができる。
魔力の形状や総量などで対象の種や性別なんかも分かる時があり、行方不明者の捜索や危険な獣の居所を察知するのにとても役立つ魔法だ。
初めて発動させたにしては上出来かもしれない、探索と索敵の双方が同時に機能している。
自身の魔法を初めて体感し驚く一方……あり得ない出来事の連続に狐につまれたのではないかと懐疑的になる自分もいる、正直複雑な心境だ。
そりゃあ、今まで散々苦労し悩みぬいた問題がこうも綺麗サッパリと解決したんだ。
私の17年は一体何だったのだと嘆きたくもなる。

探索の結果、私が今いるこの場所に魔除けの結界がはられていることが判明した。
誰が何のために張ったのか知らないけど、そのおかげで気を失っている間、獣に襲われることは一切なかった。
ありがとう、見知らぬ人。
結界が存在するということは、おそらく近場に結界発生の装置、モニュメントもあるはずだ……が、今は気にしている余裕はない。
いくら、ここが安置でも明らかに物資が不足しているし、狩人でもガールスカウトでもない私に狩猟などで現地調達する技能はない。
よって、まず優先されるべきは森からの脱出。
そこから、周辺にある街を見つけるのが最適解、森の近場に人が住んでいたら、なお助かる――などと楽観視してしまったのが、まず失敗だった。
この後、私は思い知らされる……還らずと呼ばれるこの森が、どれほどのいわくを持っているのか。
全てが明かされるのは、森を抜け出した後になる。
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