RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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冒険者が統べる村

よく切れるナイフ

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転移陣そのものは過去幾度か見たことがある。
魔術師とっては珍しいモノではないが、コイツは別格だ。
よほど優秀な魔術士が作成したものらしい?これほどまで緻密なモノはそうは拝めない。
魔法陣の中に入っていく人々、本当にこの先に畑などがあるのかと不安にかられてしまう。
どうしても慣れない光景だが、いざ自身の番となるとあっさりと通り抜けてしまうから面白い。

「ここが畑……とんでもなく広い」

もはや、雄大という言葉では収めきれないほど、見渡す限り土色の絨毯で埋め尽くされている丘があった。
無論、畑ばかりが耕されているわけでもなく、様々な種類の農作物がしっかりと育てられている。
どうやら、ちょど収穫の時期のようだ。

えっ? この平穏な感覚――――聖域だ。
転移した瞬間、この地が神聖なるマナの輝きで保護されているのが分かった。
妙に明るい視界、澄んだ空気、軽快なる心持ち、魔物どころか害獣の気配すらない静謐せいひつさ。
すべて聖域特有のプラス効果。
その恩恵のおかげだろう。今日まで田畑は荒らされる事なく良好な状態を保ち続けられている。

「おーい。女衆はこっちきて収穫手伝ってくれ」

農夫とは、おおよそ思えないせ細ったおっさんがこちらに向かって手招きしている。死神か、何かか?
正直、朝っぱらから肉体労働なんてまっぴらごめんだ。
気づいていないふりしてどうにかやり過ごそうとしていると、すぐに誰かが私の肩を掴んだ。

「よーす。ウチはグレイデ。アンタさ、見かけん顔だけど? つーか、ビスってるならレクチャーするわな」

「はぁー、どうも」

ビ、ビス? ヘンな女子に捕まってしまった。年齢的にはほぼ差が無いと思うのに彼女の言っている言語がまるっきり理解できない。
どうやら面倒をみてやるみたいな口振りだが、ビスとは何らかの比喩なのだろうか?
とにかく今は、その余計な優しさがツライ。

「こっから、ナスビの摘み取りするからアンタはこのうねをアスクね」

「あのぉ、切り鋏を持っていないんですけど。どうしたらいいんですかね?」

「かぁ――。これだからノービスは……仕方ないしょ、マイナイフ貸すわ」

「あっ、ありがとっ…………」

グレイデという女子から受けたナイフを見て私は言葉を失った。
私が知る限りこれは巷でナイフと呼ばれる品ではあるものの何かがズレている。
そう、これこそ自身の目を疑わずにはいられない伝説の装備品、立派なバターナイフだ。

「なるほど……これはよく切れそうだね」って言う訳ないだろうが! どあほ!
何コレ? ボケなの? ツッコミ待ちなの? それともイジメかな。
グレイデの顔を見ると目を細めニヤついている。
そうか、これがいわゆる洗練というヤツか……。

「グレイデさん、このナイフどうやって使うんですかぁ? 私、新人なんで。実際に、コレで野菜の収穫する手本を見せてもらえると助かります」

「ぇ―、そっから? いいけ、ようみちょれ」

わざと手本を見せるように仕向けたにもかかわらず、グレイデさんはためらうことなくバターナイフを受け取った。
そして、ナスビを手で押さえながら円を描くようにバターナイフを振り下ろし、次々と摘み取っていく。
一見、慣れた手つきで難なく作業をこなしている風でも、アレはあくまでフリ、演技だ。
セコイ! 凄く見苦しい!
バターナイフは空を切るだけで、ナスビにはちっとも触れていやしない。
実際、ナスビは鋭く尖った爪先で切り落としている、なんて無駄に器用なんだ!

「今日はここまでで堪忍してやるけ」

堂々と嘘ぶく彼女は、何かをやり遂げたような表情をしていた。
そこまで労力を費やすのなら、その熱意をもっと違う所で活かした方が良いと思う。


再度、手元にバターナイフが帰ってきた。
もはや、周囲の眼を気にしている場合ではない。
ここで引いたら、グレイデにグチグチと言われるに決まっている。
ナイフに手をかざし魔力を注入する。
風属性エンチャントの応用、ウインドカッターのナイフ。
エンチャントで属性を付与できるものは何も武器だけとは限らない。魔力を通すことのできる物質なら大抵可能だ。
まあ、切るのは手作業なんですがね……。
ナスビに向け早速、水平一線を描く。
厚みのあるナスビのつたが蜘蛛の糸ように切れると、みずみずしい光沢を放つ実が手のひらに吸い込まれていく。
うん、悪くない切れ味だ。
切ってはカゴに入れ切ってはまたカゴに入れる。
ナスビの収穫作業はあまりに単調すぎて苦痛がこみ上げてくる。
ここで自分が、どのような事を行っているのか深く考えていけない。
刃は我、我は刃。
心頭滅却すれば何とやら、どんなにキツイ仕事も疲れや苦痛を感じることもなく円滑に進んでいくはずだ。
その為にひたすらに切って切って斬りまくる所存。
すでにこの畑は我が手中に落ちたも同然、ぐはっ!や、やばいぃぃ~
調子に乗り過ぎた私は、いつしかうねの傍らで身動きがとれない状態になっていた。
理由は明らかだ……摘み取った野菜をカゴにいれすぎた。
おかげで中身の重さを支えきれず、地面に身体を押し付けられるという何とも惨めな失態をさらす羽目になった。

「大丈夫かい!? 君、無茶は禁物だぞ」

モリスンではない……若い男の声が聞こえた気がした。
その後、すぐに身体が軽くなり地面の束縛から解放された私は窮地きゅうちを出した。

「俺はゲイル。この畑の監督官だ、何か困ったことがあったらいつでも声をかけてくれ」

私が背負っていたカゴを手に持ち、爽やかに微笑む不審な男。
彼に助けられたのは明白だったが、出会って早々、距離間が近い状態で握手を求められても流石に応じにくい。

「やーん! ピッピィ~。もしか、たーしのこと心配してカミングスーン?」

「あっ……済まない、仕事の途中だった。俺はこれで失礼するよ」

グレイデと遭遇するなり、そそくさと距離を取るゲイル青年。
何やら、あの二人の間には特別な事情がありそうだが、せんさくするのも野暮というもの、ここは下手に意識せず自然と接していくのがベストアンサーさ。

「ちょい、アンタ! 私のピッピにチョッカイかますとか、ありえないしぃ――。まさか! ピッピ、目当てで畑デビューしたんじゃあぁぁ」

私の想いとは裏腹にグレイデさんが大変、お怒りになられていた。
ポッポだかピッピだかしらないけど、何をどう捉えれば彼との誤解が生じるのか? 謎だ。

「面倒だから、いっそ記憶操作の魔法をかけてやろうかしら……」

「なんボソボソと言いよる……わきゃ! どこからカミングしたん。こん、キュウカンチョーは?」

「いやはや、これは失礼、お嬢さん。我は乙女の柔肌に弱くて、ついつい感触を確かめたくなるのですよ」

羽ばたきながら、すり寄ってくるモリスンの動きに怯えたグレイデが瞬時にその場から離脱してゆく。
走り急ぐ彼女の進路上にはゲイル君の姿がある。
なるほど、魂胆が見え見えだ。

「おや、あの方には少し刺激的なアプローチでしたかな?」

「ついにセクハラ発言するまでに至ったか、この悪魔は。残念だけど、悪魔語は者にしか理解できないよ。それで、例のモノは見つけ出せたの?」

「ええ、勿論でございます」

畑に入ってすぐ、ここが聖域だと感知した私はモリスンに周囲を偵察するように指示していた。
ここが本物の聖域ならば必ず、神気の発生源たるモニュメントがあるはずだ。
そう睨み、強い魔力を発する建造物を探させたのだが、どうやら正解らしい。

「休憩時間に入ったら、こっそりと抜け出そう」


正午になり、食事をとるため皆、畑からあがっていく。
誰にも気づかれてないことを確認すると私は小走りで畑の奥に見える竹林を目指す。
竹林まで相当な距離がある遠い……持久力がないせいですぐさま呼吸が乱れてくる。
魔法を使いたいけど人目に付く可能性がある以上は我慢するしかない。

「ぜぃぜぃ……ぜぃは……もうヤダぁ、鼻水が出てきた」

半泣き状態で顔を上げると青々とした竹が風にそって緑葉を揺らしていた。
初めて間近で眼にする現物の竹林は図鑑の挿絵よりもよほど幻想的で、自然の神秘という言葉がぴったりとあてはまると感じた。

「萌知様、こちらです。竹に囲まれたこの道の先に朱色の囲いが」

モリスンに先導してもらい、さらに進んだ。
その先には巨大な木の囲いが確かにある。
数メートルの間を取り左右一本ずつ建てらている朱色の柱、天辺には二本の渡し横木。
まるで門を模しているかのような形状をしている。
柱は苔むしてかなり古いが間違いなく聖域の源、強力な神気を宿すモニュメントだ。
これも神気が与える影響だろう。
土壌が浄化されているおかげで、ここいらは広域の薬草群生地になっている。

「誰だ! そこにいるのは?」
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