RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

文字の大きさ
3 / 74
プロローグ 旅の天秤

HEX File 3

しおりを挟む
はぁ~、そんなつもりじゃなかったはずなのに、きつく言ってしまった。
せっかく、小鳩さんが手を差し出してくれたのに落胆させてしまったに違いない。
最低だ!私は!
最悪だ、全部うまくいかない。
彼女の屈託ない笑顔、私の身を案じてくれる優しさは偽りない本物だと信じたい。
けれど、私たちにそこまで深い絆はないはず……理由が分からない以上は、過度な気遣いは何か裏があると勘ぐってしまう。
魔術師として生まれた者の運命、何人も信用すべからず。
自己嫌悪に陥ることは何度も経験してきたはずなのに、私の心に刻まれた戒めの呪言はこびりついていて引き剥がせない。
そうだ、旅行のスケジュールを提出しないと……。
結局、班の皆は集められず仕舞いで決まってないから先生に頼んで期日を先延ばしにして……あれ? そもそも提出日ってまだ日数があったはず、なのに……。

「なあ、月舘。先生、頼んだよな。今日中にスケジュール表を完成させて持ってこいって」

「はい……」

「お前、出来るって言ったよな?」

「そ、そんな――」

「言ったよな――ああああ!!」

「は、はい……」

どうして、怒鳴られているのだろう?
私が何をしたというの?
約束通り、科学資料室にきたのに……分からない、解かりえない、認めたくない。
こんな事なら、小鳩さんに相談すれば良かった。
私は自らチャンスを踏みにじったんだ。

「お前は先生の苦労なんて気にもしないだろうが教師っていう仕事は、ストレスが貯まりやすくて結構ハードな仕事なんだぞ。せっかく、女学校に勤務しているのに……ちっとも良い事なんかありゃしない」
「というより幻滅したよ、お前らには。俺という魅力的な教諭がいるのに誰も見向きしない。月舘、お前はどう思う?」

「どうと、言われましても」

対面して椅子に座る担任は眼を細めて、じっと私のスカートだけに視線を寄せている。
眼鏡の向こうに映る眼差しは、とても嫌らしく下卑たるものに変貌していた。
今すぐ、この場から立ち去りたいが手に嫌な汗がにじむだけで、椅子から立ち上がることができない。

「先生ぃのこと、尊敬しているんだろう? なら、こんな事しても嫌じゃないよなぁー。お前なら、先生の気持ち察してくれるよな」

急に、いかつい手が私の太腿ふとももをさすってきた。
瞬間、全身から血の気が引くのを感じた。
自制心を保てなくなった担任が私を慰み物にしようとしているのは明確だった。
多分、今回が初犯ではない。
ずいぶんと手慣れている。
という事は、私のように狙われた犠牲者が少なからずいる。
許せない、けれど私には立ち向かうまでの勇気がない。
無情にも時間だけが過ぎ、触れている手が徐々にスカートの中に迫ってきている。
怖い怖い、手足の震えが止まらない。
逃げ出せばいいのは分かっているくせに、どうやって逃げればいいのか判断できない。
思考がフリーズしていた。
私は無力だ……逃げ場のない現実を前に、精神が張り詰めて悲鳴すら出せないでいる。

「人としてやっていい事とダメな事の区別もつかないのですか?」

当然、資料室のドアが開くと同時にパシャッリという音が鳴り微かな光が飛んだ。
カメラのフラシュ。
ドア向こうでは片手にスマホを構えた小鳩さんが仁王立ちしていた。

「お、おい小鳩。そ、そこで何しているんだ?」

「それはこちらのセリフですよ、先生。教職員の立場でありながら生徒を傷つけるなんて許されると思っているんですか? 彼女から離れてください。証拠は押えましたから、もう言い逃れは出来ませんよ」

「おおお前ぇえ――!! 生徒の分際で自分の担任を脅すつもりか! 俺がいなければ誰が、クラスの指揮とるんだ!?」

「あなたの行いは立派な犯罪です。理解しているんですか?」

無表情のまま教室に入ってくる小鳩さん。
平常を装っていても彼女が怒っているのは声のトーンではっきりと伝わってくる。
その凄みに蹴落とされた担任は素早く、私から手を放すと威嚇するように睨んできた。
この後におよんで自分が悪いなんて微塵も思っていないようだ。

「なあ、小鳩。芸能活動しているお前にとって担任が犯罪者だなんて世間に知られたら困るだろっ。違うか?」

「だから、どうしたというのです?」

「くっ……この件は他言無用だ! お前たち二人が黙ってくれるというのなら内申点に色をつけてやってもいいぞ、どうだ?」

苦し紛れの担任の言葉を聞いた小鳩さんは、ため息をついた。
そして、愚かな彼を指差し現実を突きつけてみせた。

「いい歳した大人が恥を知りなさい! 何でもかんでも自分の思惑通りになると思ったら大間違いです。教師としての責務を放棄した者が何を発言しても許されるわけがない」

「やめろ……やめてくれ! 頼む!」

「行きましょう、月舘さん。これ以上、ここに行っても仕方がないわ」

小鳩さんに手を掴まれると私はようやく椅子から解放され立ち上がることができた。
礼を述べようとした直前で、掴んだ彼女の手が震えているのに気づいてしまった。
私のせいで怖い思いをさせてしまった。
そう思うと申し訳ない気持ちで胸が苦しくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...