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天上へ続く箱庭
153秒の勝機
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血肉を求める餓狼が片足で地面をひっかき始めた。
その行動に動物染みたモノを想起さずにはいられない。
しかしながら、事はそんなに甘くはない。
なぜなら、これは獲物を狩るための初動作なのだから――。
『嵐刃斧』
蹴り上げた右足が石畳の床をえぐり取った。
蹴りで壊したのではない、人ならざる者の脚力から生みだされた風圧が、こちら目掛けて接近してくる。
ライトニングムーブで即座に半身を逸らし回避行動に転じるも、右から左からと素手での大振りが往来してくる。
信じられないほど恐ろしく速い……神眼でなければ動きすら捕捉できなかっただろう。
「くっ……うわっ!?」
辛うじて首を引っ込めると頭上を鋭利な爪が通過した。
危う過ぎる、ランページを発動させ、ライトニングムーブで加速しても追いつかれてしまう。
近距離での攻撃は向こう側に分がある。
一旦、間合いを離さないと――。
フロートとエアーブラストを手にしたロッドに組み込む。
魔法発動と同時にロッドに腰掛け天高く飛翔して見せた。
塔内部でやっていた高速飛行、あの時はまだ慣れていなかったから少々、操作にてこずった。
だが、問題はすでに解決済みだ。
行き止まりに差し掛かったら風向きを魔力をでコントロールしてロッドの前後両端を別々方向へ押し流す。
これにより、ロッド事態がスピンし円弧を描くようにターンを決められる。
あとは、注意がそれた狼に一撃―――――いない。
さきほどまで地上にいたはずの敵が消えている。
事態の異様さに思考は動かず、視線だけが上を向いていた。
いた! 直感的に察知した微かな魔力を辿るとディザスターワーウルフは私よりも高い位置に飛んでいた。
凄まじい跳躍力だ、などと驚愕している場合じゃない。両腕を振り上げるモーション……次が来る!
「空糸・結束!」
やぶれかぶれで放った風のロープは見事、狼を足首を絡め取った。
そのまま、ロープを掴み地面へ振り落とす。ところが、落下するのと同時にディザスターウルフの方がロープを引き寄せてきた為、私はバランスを崩し落下してしまった。
地面と接触するタイミングで風魔法を撃ちこみ衝撃を緩和させる。
着地に成功したのは幸いだった……けれど状況は思わしくない。
すぐ傍に狼がいる。どうにかして距離を取らなければ――違う! 後退した瞬間やられてしまう。
即座に手元のロッドを狼に突き付けた。瞬く間に炎が炸裂し綿のような毛皮を焼き尽くしてゆく。
はずなのに……火炎が全然、効いていない……少しだけ毛並みがちりじりになっただけだ。
否、充分だ! フレイムバーストの威力でディザスターウルフとの間合いをある程度は確保できた。
『弱者衰退の裁きぃぃ――』
再度、ディザスターウルフは両腕を振り上げていた。
メキメキと伸びていく指の爪は腕を振り下ろした瞬間には、飛散する刺突武器に早変わりしていた。
アースウォールで壁を形成し盾とするも、まるで豆腐のように貫通していく。
五寸釘より大きいそれらは、土魔法では到底対処できないと判明した。
「これなら、フリーズドロップ」
空気中の水分を凝固させ、拳大の雹を飛ばし爪にぶつけた。
互いに相殺し合い、砕け散っては、また生み出される一進一退の攻防戦。こうしている内にも、呪いで魔力が減少していく、はっきり言ってこれ以上は、魔力の無駄遣いにしかならない。
迅速に攻撃手段を切り替えないと……。
『うがあああぁぁるがるるぅ――――!!』
どうやら、相手の方が先に業を煮やしたようだ。
爪での攻撃を中止し私目掛け、一気に向かってくる。
「ち、宙を蹴り進んでいる!? ロケットダッシュとかありえないでしょ」
『トリリオン・テイル!』直前で狼が背を向けた。
もう何回か見ているから分かっている。
ディザスターウルフは動き自体は速くとも攻撃モーションが長いし遅い。
必ず、アクションを取ってくるから攻撃のタイミングは計りやすい。
ただ、その強化された肉体から繰り出される一撃は、凶悪すぎてこちらの手には余る。
単に尻尾を振り回すだけの技。
それは鞭のようにしなやかに動く、高速連撃だった。
打撃の嵐に成す術なく風のバリアを張り耐え忍ぶしか打開策が見当たらない。
とはいえ、もうそんなにバリアは持たない。
バリっ! と砕けた音が響く。バリアに亀裂が生じている。
駄目だ、これ以上は!! 衝撃に耐えきれない――――と、身を屈めた時だった。
ディザスターワーウルフの身体がガクッと下がり、尻尾を振り下ろす速度が急激に遅くなった。
この機を見逃すほど、私も馬鹿ではない。
「サンダボルト――」
『うっががががあああ!! あがああっ! がああ!!』
獣化したナックの全身がガタガタと振動する。苦しそうな声を耳にし、初めて魔法攻撃が通じたと実感した。
今の今までどの属性攻撃が有効か、攻撃しながら探りを入れていた。
結果、雷属性の攻撃が一番効果的でそれ以外はほぼ通用しない。土属性に至っては論外だ。
それと……もう一つ気になる点がある。
ディザスターワーウルフの動きだ。
さきほど、一瞬だけウルフのスピードが緩慢になった。
気のせいではない、もしかすると連続稼働時間に制限があるのかもしれない。
できれば追撃を浴びさせたい……しかし、膝が笑って前に進めやしない。
満身創痍なのは私の方だ。
正直、攻撃をくらいすぎだ。再度、トリリオンをくらったら今度こそ防ぎきれない。
私は腰元に装着していたポーチから薬瓶を取り出した。
ポーチはここに来る前にアリシアお婆ちゃんから手渡されたモノで、中にはポーションにマナポーションそれと着付け薬が各2瓶ずつ入れてある。
三種類全部の薬瓶を開き、それぞれ一本飲み干す。
不要かと思っていたが、ここに来て役立つ機会があるとは……無理やりにでも回復薬を持たせてくれた、お婆ちゃんには後で礼を言っておかないと。
『ジャガーノート・ディストラクション』
ディザスターウルフが躊躇いなく駆け出し、額の槍を突き刺そうとしていた。
電撃を直に受けたのに尋常じゃないタフさだ。体力の消耗を微塵も見せないでいる。
「猪突猛進なんて、今時流行らないよ」
私は薬瓶を叩き割ると、ウルフにむけエアーブラストを放出した。
『があああっ!』両手で目を覆い隠し、ウルフは即座に攻撃を中断した。
床に叩きつけ粉々になったガラス片を突風で飛ばしてやったんだ。うっかり眼に入れてしまったら、失明必至だ。
今のでずいぶん時間を稼げた。
この調子でいけば、間もなく肉体の強制停止が始まる。
『嵐刃斧!!』野太い掛け声とともに脚から強烈な旋風が解き放たれる。
一瞬で、かき消されるエアーブラスト。
この人狼にとっては、如何なる妨害も何ら他愛もない問題なのだろう。
あるいはバーサーク状態だからなのか? 立ち止ることを失念してしまったまま横行闊歩している。
これ以上は近づけてはならない、奴の射程に入れば、瞬く間に餌食だ。
次弾のスパークライトを展開する、これでウルフの視界を奪う。
閃光がほとばしる中、獣はようやく足を止めた。一度、受けた雷属性の魔法が相当にこたえたらしい。
明らかに、嫌がっている。
イケる! このままサンダーボルトを連射していけば、ウルフを大人しくさせたまま、鈍化するのを待つことができる。
その場から回避移動しようとするディザスターワーウルフの足取りが一気にスローになった。
時は来た……このまま最大火力の雷撃を見舞ってやる。
『獣戒!!』
えっ……?
魔力を練り上げる私の前には何故か、人狼の姿があった。
瞬間移動でもしたんじゃないのかと、疑いたくなるほど素早かった。
あぜんとする私を睨みつけ狼をニッと笑う、その様を見せつけられ私は全てを理解した。
謀っていたのだ! この狼は。
再三、考えなしに攻撃を仕掛けた上、隠す事もなく弱点をさらけ出す。そうすることで自身が持つ知性をひた隠しにしていた。より確実、より的確に獲物を仕留める為に。
やられた――どこまで、詰めが甘いんだ私は。
これはもう、回避しようが無い。
ズバァン!! という衝撃音が轟く。
身体が木の葉のように宙を舞う。
感覚のない、長い間――――ゆっくりゆっくりと地面が近づいてくるのを何も考えず眺めていた。
その行動に動物染みたモノを想起さずにはいられない。
しかしながら、事はそんなに甘くはない。
なぜなら、これは獲物を狩るための初動作なのだから――。
『嵐刃斧』
蹴り上げた右足が石畳の床をえぐり取った。
蹴りで壊したのではない、人ならざる者の脚力から生みだされた風圧が、こちら目掛けて接近してくる。
ライトニングムーブで即座に半身を逸らし回避行動に転じるも、右から左からと素手での大振りが往来してくる。
信じられないほど恐ろしく速い……神眼でなければ動きすら捕捉できなかっただろう。
「くっ……うわっ!?」
辛うじて首を引っ込めると頭上を鋭利な爪が通過した。
危う過ぎる、ランページを発動させ、ライトニングムーブで加速しても追いつかれてしまう。
近距離での攻撃は向こう側に分がある。
一旦、間合いを離さないと――。
フロートとエアーブラストを手にしたロッドに組み込む。
魔法発動と同時にロッドに腰掛け天高く飛翔して見せた。
塔内部でやっていた高速飛行、あの時はまだ慣れていなかったから少々、操作にてこずった。
だが、問題はすでに解決済みだ。
行き止まりに差し掛かったら風向きを魔力をでコントロールしてロッドの前後両端を別々方向へ押し流す。
これにより、ロッド事態がスピンし円弧を描くようにターンを決められる。
あとは、注意がそれた狼に一撃―――――いない。
さきほどまで地上にいたはずの敵が消えている。
事態の異様さに思考は動かず、視線だけが上を向いていた。
いた! 直感的に察知した微かな魔力を辿るとディザスターワーウルフは私よりも高い位置に飛んでいた。
凄まじい跳躍力だ、などと驚愕している場合じゃない。両腕を振り上げるモーション……次が来る!
「空糸・結束!」
やぶれかぶれで放った風のロープは見事、狼を足首を絡め取った。
そのまま、ロープを掴み地面へ振り落とす。ところが、落下するのと同時にディザスターウルフの方がロープを引き寄せてきた為、私はバランスを崩し落下してしまった。
地面と接触するタイミングで風魔法を撃ちこみ衝撃を緩和させる。
着地に成功したのは幸いだった……けれど状況は思わしくない。
すぐ傍に狼がいる。どうにかして距離を取らなければ――違う! 後退した瞬間やられてしまう。
即座に手元のロッドを狼に突き付けた。瞬く間に炎が炸裂し綿のような毛皮を焼き尽くしてゆく。
はずなのに……火炎が全然、効いていない……少しだけ毛並みがちりじりになっただけだ。
否、充分だ! フレイムバーストの威力でディザスターウルフとの間合いをある程度は確保できた。
『弱者衰退の裁きぃぃ――』
再度、ディザスターウルフは両腕を振り上げていた。
メキメキと伸びていく指の爪は腕を振り下ろした瞬間には、飛散する刺突武器に早変わりしていた。
アースウォールで壁を形成し盾とするも、まるで豆腐のように貫通していく。
五寸釘より大きいそれらは、土魔法では到底対処できないと判明した。
「これなら、フリーズドロップ」
空気中の水分を凝固させ、拳大の雹を飛ばし爪にぶつけた。
互いに相殺し合い、砕け散っては、また生み出される一進一退の攻防戦。こうしている内にも、呪いで魔力が減少していく、はっきり言ってこれ以上は、魔力の無駄遣いにしかならない。
迅速に攻撃手段を切り替えないと……。
『うがあああぁぁるがるるぅ――――!!』
どうやら、相手の方が先に業を煮やしたようだ。
爪での攻撃を中止し私目掛け、一気に向かってくる。
「ち、宙を蹴り進んでいる!? ロケットダッシュとかありえないでしょ」
『トリリオン・テイル!』直前で狼が背を向けた。
もう何回か見ているから分かっている。
ディザスターウルフは動き自体は速くとも攻撃モーションが長いし遅い。
必ず、アクションを取ってくるから攻撃のタイミングは計りやすい。
ただ、その強化された肉体から繰り出される一撃は、凶悪すぎてこちらの手には余る。
単に尻尾を振り回すだけの技。
それは鞭のようにしなやかに動く、高速連撃だった。
打撃の嵐に成す術なく風のバリアを張り耐え忍ぶしか打開策が見当たらない。
とはいえ、もうそんなにバリアは持たない。
バリっ! と砕けた音が響く。バリアに亀裂が生じている。
駄目だ、これ以上は!! 衝撃に耐えきれない――――と、身を屈めた時だった。
ディザスターワーウルフの身体がガクッと下がり、尻尾を振り下ろす速度が急激に遅くなった。
この機を見逃すほど、私も馬鹿ではない。
「サンダボルト――」
『うっががががあああ!! あがああっ! がああ!!』
獣化したナックの全身がガタガタと振動する。苦しそうな声を耳にし、初めて魔法攻撃が通じたと実感した。
今の今までどの属性攻撃が有効か、攻撃しながら探りを入れていた。
結果、雷属性の攻撃が一番効果的でそれ以外はほぼ通用しない。土属性に至っては論外だ。
それと……もう一つ気になる点がある。
ディザスターワーウルフの動きだ。
さきほど、一瞬だけウルフのスピードが緩慢になった。
気のせいではない、もしかすると連続稼働時間に制限があるのかもしれない。
できれば追撃を浴びさせたい……しかし、膝が笑って前に進めやしない。
満身創痍なのは私の方だ。
正直、攻撃をくらいすぎだ。再度、トリリオンをくらったら今度こそ防ぎきれない。
私は腰元に装着していたポーチから薬瓶を取り出した。
ポーチはここに来る前にアリシアお婆ちゃんから手渡されたモノで、中にはポーションにマナポーションそれと着付け薬が各2瓶ずつ入れてある。
三種類全部の薬瓶を開き、それぞれ一本飲み干す。
不要かと思っていたが、ここに来て役立つ機会があるとは……無理やりにでも回復薬を持たせてくれた、お婆ちゃんには後で礼を言っておかないと。
『ジャガーノート・ディストラクション』
ディザスターウルフが躊躇いなく駆け出し、額の槍を突き刺そうとしていた。
電撃を直に受けたのに尋常じゃないタフさだ。体力の消耗を微塵も見せないでいる。
「猪突猛進なんて、今時流行らないよ」
私は薬瓶を叩き割ると、ウルフにむけエアーブラストを放出した。
『があああっ!』両手で目を覆い隠し、ウルフは即座に攻撃を中断した。
床に叩きつけ粉々になったガラス片を突風で飛ばしてやったんだ。うっかり眼に入れてしまったら、失明必至だ。
今のでずいぶん時間を稼げた。
この調子でいけば、間もなく肉体の強制停止が始まる。
『嵐刃斧!!』野太い掛け声とともに脚から強烈な旋風が解き放たれる。
一瞬で、かき消されるエアーブラスト。
この人狼にとっては、如何なる妨害も何ら他愛もない問題なのだろう。
あるいはバーサーク状態だからなのか? 立ち止ることを失念してしまったまま横行闊歩している。
これ以上は近づけてはならない、奴の射程に入れば、瞬く間に餌食だ。
次弾のスパークライトを展開する、これでウルフの視界を奪う。
閃光がほとばしる中、獣はようやく足を止めた。一度、受けた雷属性の魔法が相当にこたえたらしい。
明らかに、嫌がっている。
イケる! このままサンダーボルトを連射していけば、ウルフを大人しくさせたまま、鈍化するのを待つことができる。
その場から回避移動しようとするディザスターワーウルフの足取りが一気にスローになった。
時は来た……このまま最大火力の雷撃を見舞ってやる。
『獣戒!!』
えっ……?
魔力を練り上げる私の前には何故か、人狼の姿があった。
瞬間移動でもしたんじゃないのかと、疑いたくなるほど素早かった。
あぜんとする私を睨みつけ狼をニッと笑う、その様を見せつけられ私は全てを理解した。
謀っていたのだ! この狼は。
再三、考えなしに攻撃を仕掛けた上、隠す事もなく弱点をさらけ出す。そうすることで自身が持つ知性をひた隠しにしていた。より確実、より的確に獲物を仕留める為に。
やられた――どこまで、詰めが甘いんだ私は。
これはもう、回避しようが無い。
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