RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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天上へ続く箱庭

涙はもう要らない

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「ごはっ!! ――――かはっ! ……げほっ――――あ……ゼハァッゼハァッ――――ハァハァッ」

虫の息、そんな言葉が脳裏を過る。
もう、意識が朦朧して何が何だか……判断できない。
息苦しい、口の中は鉄臭くてたまらない。
私は何をしていたんだっけ? 瞳に薄っすらと獣の影が映る。
ああ、そうだった。 私はコイツと戦っていたんだ。
獣が近づいてくるが、足取りはフラフラだ。今更、覚えても仕方ないのに奴が動きを止める時間を把握しょうとする自分がいる。
そろそろ楽になっていいのかもしれない。
自分の中の何かが囁く。
お前は頑張っていた、充分だ、これ以上求めるものなんてないだろうと。
確かにその通りだ。
所詮、私はただの月舘萌知。どんなに努力しても、何度立ち上がっても何も覆せないし何一つ変えられない。
最期まで情けないな……どうしようもなくて、ちっとも笑えやしない。
このままジッと――――――

『……さん』

『おねぇさん……』

誰? 誰かが呼んでいる?
前から知っているような……それでいて初めて耳にする可愛らしい女の子の声。
でも、もう――――

『さあ、起きて、おねぇさん、おねぇ……さ――――』

消え入りそうな儚い声。
最後のほうは聞き取れなかったはず、なのに何を伝えようとしていたのか分かってしまう。
どうして? なんで、そんな事を言うの?
お願いだから泣かないで、あなたのせいじゃないから謝らなくてもいい。
ああっ! そうだ、私はこんな所で寝そべっているわけにはいかない。
あの子に誓ったんだ、必ず助けるって。
動け、身体! 奮い立たて、魂! たとえ手足がもげそうでも、その身を鮮血で染めようとも立ち上がるんだ! 月舘萌知!!

『ほ、炎? 蒼い蒼い焔……何ダそれ? ソレなんだ!?』

目の前に、ディザスターワーウルフがいた。うわ言のようにしきりに呟いているが、どうでもいい。
コイツは魔物なんかじゃない、人間のナックだ。
そこを見誤ったが為にしてやられた。
頭がフラフラする、でも問題はない。
むしろ、余分なことは考えなくて済むから思考はクリアだ。
ぶっ飛ばされたおかげで、思い出したことがある。
狂人により、呼び起された人狼は村人を食い殺そうとするが預言者に正体を見破られ狩人に討ち取られる。
人狼もいる、狂人もいる。ならば、狩人は私の役目だ。
そして狼がいる事をあらかじめ予見していた者がいる。
ラズ・カヌレその人だ。
だからこそ彼女は私にコレを授けた。人狼対策の切り札、銀色の鈴を!
チリン――――静けさを打ち破るように澄んだ音色が鳴る。
鈴に気づいた人狼は、泡を喰ったように後退りしていく。
銀は人狼の弱点、胸にうちこめば魔は朽ちる。
鈴の形状がグニャリと曲がった。途端、凄まじい勢いで水銀が放出され近くの床一面に広がる。
その一部がこんもりと盛り上がったかと思うと、飛び散った水銀を吸収して一つのカタチを成した。
銀色弾馬シルバーブレット、銀でできた魔法生物のユニコーン。
なんて純度が高く高貴な魔力を帯びているのだろう、この子ならばディザスターワーウルフに力負けしない。

『ウガアアァ――!』野生を剥き出しにしてシルバーブレットに噛みつこうとする人狼。
すると、馬体に触れた手から蒸気が立ち込め、狼は鳴き叫んだ。
触れた患部がただれていた。狼とっては銀は猛毒でしかない。
不要に手出しをすれば、かえって自らを傷つけることとなる。

「シルバーブレット、お願い! ソイツを足止めしておいて」

私の指示に従ってシルバーブレットは颯爽と駆けていく。
狼の方は逃げ惑いながらも、懲りずに攻撃をくわえるが結果は同じ。
負傷した挙句、逆に銀馬に追い回される羽目になっていた。

時間は充分できた、後はこの状態を維持するだけだ。
回復ポーションと着付け薬の瓶を空けると私は天上にある月を見上げた。
結界はまだ生きている、魔力も何とか持ちそうだ。
……ならば全力をぶつけるしかない。
直に殴り合ったからこそ分かる――ディザスターワーウルフの耐久力の凄さ、攻撃を躊躇っていられるほど生易しい相手ではないという事実。
もう、勝利への計算式は見えている!

空中を蹴り上げ、シルバーブレットから逃れた人狼が加速し迫ってきた。
そうなる事はすでにお見通しだ。奇襲は相手の虚を突くからこそ意味を持つ。
狼よ、飛び込んできた時点でそこはもう私の領域だ。
ジャスト2分33秒、それがディザスターウルフの連続行動限界。
お前は、銀馬に追われていて気づいてないようだけど、私は少しずつ移動しながら時間を調整していた。
だから、体感時間と実時間で差が出ている。
減速の時は、もう始まっている!
空糸・結束を三本同時に作り上げる、それを三つ編みにし一つにするイメージ。
トリプルキャスト、複数の同一魔法を同時に生成するとどうなるのか? その威力は倍増ではない乗算式に膨れ上がる。
つまり、ある魔法の威力が10だとすると10×10×10で1000となる。
言い換えればそれは、魔法としての高みが次元レベルで違うという事。
並列思考とは比べ物にならないほど、計り知れない力を秘めている。
ゆえに、トリプルキャストを扱える魔導士、魔術師は歴史上、指折り数えるほどの人数しか出現していない。
そういった経緯があるからこそ、私は難なく起動させることができる。

「発動、超級魔法ッ!! タイドレイドチェーン!!」

どこからともなく暴風が吹き荒れ、ディザスターウルフの体躯たいくを捕らえる。
人狼を軸として莫大な気流が渦を巻く、うねりながら集まる様は圧巻的で巨大なウワバミ、はては天に昇る龍にも見間違うほどだった。
暴れ狼にはスレイプニルと相場が決っている。
鎖状の風に絡め取られると、三つの大気の層の合間に挟まってて押し潰されていく。

「3 2 1 解除!!」

私の魔法には、誤射防止の為に3秒ルールが設けてある。
発動してから3以内なら、いかなる魔法もキャンセルできるというモノで、無条件でコントロール可能だ。
いくら屈強な肉体を持つディザスターワーウルフでも、超級魔法が直撃しきってしまえば肉片すら残さず飛び散ってしまう。
魔獣に変貌していようが人間が人間だ。自分の魔法で誰かの命を絶つことだけは避けたい。
魔法が消え去るのと同時に私は人狼を目指して全力疾走した。
人狼の方もこちらの接近を察知し、手負いながらも獣がごとく地を蹴って向かってくる。

間に合え――――人狼より、いち早くこのロッドを打ち当てられればナックを元の姿に戻せるはず。
狙うは心臓の反対側、右胸。そこに、人には本来ない魔獣の核が埋め込められている。
一瞬だ、ほんの少しだけ隙が出来れば――――この手が届く。


女の子は泣いていた……。
初めて出会った時からずっと。
幼子が悲しむ度に、彼女を可哀そうだと想う精霊たちが近寄ってくる。
どうして自分は他の子たちと違うのだろう?
なぜ、自分には見えないモノが見えてしまうのだろう?
自分とは一体、何のために生まれてきたのだろう?
何一つ、分からず大人たちに囲われる恐怖。この先、どうなるのか? 見えない将来への不安。自分の辛さを誰も理解してくれない絶望。
けれど――――彼女は待っていてくれた、信じることを諦めてはいなかった。
自身の運命が変わる、その時を!

大きなが水玉が私の視線の先を横切った。
ウォータースプリンクラー、私が彼女に教えた魔法。それは、人狼の顔面ぶつかり弾け飛んだ。

「そうだね。今まで沢山、辛い思いをしてきたんだよね……運命を呪うだけの涙は、もう要らないよリシリちゃん。あなたは自力で抜け出したんだ、この理不尽な世界を」

ロッドに強烈な電撃がほとばしる。
渾身の一撃が、ディザスターウルフの胸を打ち抜いた!!
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