25年前のアナタと25年後のキミへ

心絵マシテ

文字の大きさ
3 / 41
央街での出会い

1-3

しおりを挟む
央街の景観が紅葉色に染まる、晴れた日の午後。

翔馬は一心不乱に駆けていた。
商店街を通り抜け、スクランブル交差点の方へと向かってゆく、その背を追っていた。
黒のキャップ帽を深々とかぶる不信者。
上着のジャンパーを、はためかせながら逃走する男は、数分前に老婦人からバッグをひったくった。

戸惑いの声は誰にも届かず、気づく者はいないかと思われた。
その中で翔馬だけは犯行現場を見逃さなかった。
お天道様が雲で隠れたとしても、この漢には見て見ぬふりなどできない。
誰かが困っている場面に遭遇したら、どうしても助けないと身体が疼いて仕方がないのだ。

知人はだと呆れられるが、決して善意などではない。
自分が困った時に救ってくれる誰かがいる。
それを知っているからこそ、翔馬も自身の気持ちに従う。

先行する犯人は、思っていた以上に足が速い。
走るのは得意だが、今は走るのに

央街の商店街に来ていたのは宮塚と待ち合わせしていたからだ。
待ち合わせ場所に指定した甘味処はとうに通過してしまった。
後ろ髪を引かれる思いだが、宮塚には後で事情を説明するしかない。

「待てェェ――――!」

大声で叫ぶと、犯人がチラリと振り向いた。
マスクをしているせいで素顔が見えないが、ダボついたダメージジーンズを着用している点から、若年層だと推測できる。

額から汗がとめどなく垂れてくる。
体力自慢の翔馬でも、年齢には勝てない。
今年で40を迎える身は、若きころのような軽快さを感じない。
運動不足と体力の衰えに足搔きながらも走り続けた。

このままスクランブル交差点に出られてしまったら、犯人を見失ってしまう。
何としても阻止しなければと意地になって手を前に伸ばす。
すると、動物を模した着ぐるみの姿が視界に飛び込んできた。

「ソイツを止めてくれ! ひったくり犯だ」

商店街の入り口で通行人にビラ配りをしている猫の着ぐるみに向かって翔馬は叫んだ。
必死さが功を奏したのか、気づいた猫が両手を広げて犯人の進路を塞いでくれた。

「退けよ。オラァ――」

マスクの下から怒声を漏らし、犯人が着ぐるみの頭部を殴打した。
その場で横転する相手に懐に忍ばせていた刃物をチラつかせて突き刺そうとしている。

「お前の相手はコッチだろうが」

瞬間、犯人の全身が激しく痙攣けいれんした。
背後で翔馬の強烈な膝蹴りが炸裂していた。
全体重をのせた鉄鎚に耐えきれず、犯人は数メートル先にまで吹っ飛んでいく。

荒事は好まない翔助だが、取っ組み合いには慣れている。
人体の何処を押さえれば相手の動きを封じることができるかも熟知していた。
相手が大人しくなったところでマウントを取り、サブミッション(関節技)をきめた。
犯人は抵抗することなく、口から泡を吹いていた。

「大丈夫か? 怪我してないか?」

翔馬が問うと猫は手を振りサムズアップしてきた。
どうやら問題ないらしい。
起き上がると同時に着ぐるみに付着した土埃を払っている。

「今庭さーん!」

フリルブラウスを揺らしながら、駆けてきたのは宮塚だった。
後方には、バッグを取られた老婦人の姿もある。

「悪いけど、後の事を任せてもいいかな?
じきにパトカーも到着するはずだし。
俺もこれから、都内に用事があって行かないならないから」

翔馬が両手を合わせ懇願すると、猫は自身の胸元を叩いてみせた。
頭をさげる老婦人にバッグを手渡すと宮塚の手を引いて、そそくさと商店街を後にした。

「良いんですか? 私なら、今日じゃなくても問題ありませんが」

「別に誰かに感謝されようとした事ではないよ。それに、犯行にのは俺じゃないから」

歩道の向こう側を見つめながら翔馬は答えた。
穏やかな風が二人を包むようにして吹き抜けてくる。

「にしても、よく分かったね。俺がひったくり犯を追っているって」

「あのお婆さんから聞いたんですよ。
男の人が自分からバッグを奪った犯人を追かけているって。
そしたら、今庭さんの事が頭に浮かんできたんですよ」

微弱に笑う宮塚に「そっか」と短く返した。
素っ気なく装っているが、翔馬の指先は掴む場所を求めていた。
沼田の言った通りだった。
緑のブローチには何か力が働いている気がしてならない。
オカルト染みて信じたくないが、今のところ否定に至る材料もない。

柏博が手掛けた作品のいくつかは、を持つ。
業界関係者たちの間でも、そう囁かれている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗
ミステリー
夜の研究都市にそびえる高層塔《アークライン・タワー》。 25年前の事故以来、存在しないはずの“25階”の噂が流れていた。 篠原悠は、亡き父が関わった最終プロジェクト《TIME-LAB 25》の真実を確かめるため、友人の高梨誠と共に塔へと向かう。 だが、エレベーターのパネルには存在しない“25”のボタンが光り、世界は静かに瞬きをする。 彼らが辿り着いたのは、時間が反転する無人の廊下―― そして、その中心に眠る「α-Layer Project」。 やがて目を覚ますのは、25年前に失われた研究者たちの記録、そして彼ら自身の過去。 父が遺した装置《RECON-25》が再起動し、“観測者”としての悠の時間が動き出す。 過去・現在・未来・虚数・零点―― 五つの時間層を越えて、失われた“記録”が再び共鳴を始める。 「――25階の扉は、あと四つ。  次に見るのは、“未来”の残響だ。」 記録と記憶が交錯する、時間SFサスペンス。 誰もたどり着けなかった“25階”で、世界の因果が音を立てて共鳴する――。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

二十五席目の君 ― Cafe Twenty-Five

チャチャ
恋愛
25歳の総務OL・白石侑里は、昼休みの避難先として席数25の小さなカフェ“Twenty-Five”にたどり着く。窓際の25番席、月に一度の限定25皿ミルフィーユ、無口な店主・三浦湊も25歳。「毎月二十五日にここで」——ふとした約束から、二人は25文字のメモや25分の同席など“25”の小さな儀式を重ねていく。やがて湊は店の契約更新の岐路、侑里には本社25階への打診。どちらを選んでも人生は動く。でも、簡単じゃない。クリスマスの12月25日、25番席で交わされる答えは、数字の向こうにある“ふつうでやさしい恋”。読むほど数字が好きになる、ささやかな幸福の物語。

伝える前に振られてしまった私の恋

喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋 母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。 第二部:ジュディスの恋 王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。 周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。 「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」 誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。 第三章:王太子の想い 友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。 ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。 すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。 コベット国のふたりの王子たちの恋模様

自称25歳の女子高生

naomikoryo
青春
【★★★全て完結(^^)v★♪あと一息、応援よろしくお願い致します♪★★★】 高校2年生、小森紬。 誰にも気づかれない“地味子”だったはずの彼女は、ある日、前世??の記憶を思い出す。 ――3年前に25歳で亡くなった、元モデル・香坂結としての人生を。 中身は25歳、外見は17歳。 「自称25歳なので」が口癖になった彼女は、その“経験”と“知識”を武器に、静かに人生を塗り替えていく。 高校という日常の中で、周囲が戸惑いながらも惹かれていく中、 紬は「もう一度、本気で夢を追う」と決めた。 これは、ひとりの少女が“前世の未練”を越えて、 “今の人生”で夢を叶えようとする物語。 そして何より、「自分を好きになる」までの、リアルな青春再起劇。

諏訪湖ホラーナイト25(twenty-five)

握夢(グーム)
ホラー
~ 25th Hour ― 30人の生き残りを懸けた真夜中のバトルロワイヤル! ~ 諏訪湖の底から引き上げられた、戦国時代の巨大な石箱。 その蓋に刻まれていたのは、かの武田家の“風林火山”の紋章だった。 「――これは、武田信玄の石櫃なのか?」 調査チームが石箱を引き上げたその夜、未曾有の惨劇が始まる。 湖畔に現れた鬼のような怪物“獄禍(ごっか)”。 警官も学者も作業員も、次々と倒れていく。 そしてついに――美人レポーター・碧がブチ切れた。 * 三十人の人間たち。 警察、研究者、報道班、作業員――誰ひとり、翌朝の空を見られる保証はない。 午前4時半から始まる“25時間”の地獄のサバイバル。 たった一晩で、三十人はどう減り、何人が夜明けを迎えるのか? 「25時間後――この湖畔に立っている者は、何人だ?」 ――◇―― 13日の金曜日――そして深夜の湖畔。 もう、絶望の未来しか浮かばない。 昭和レトロ×B級パニック × 異物ホラー × 不死バトル × 戦国ミステリー! もう色々ごちゃまぜ×『諏訪湖ホラーナイト25(twenty-five)』―― 今ここに、開幕!!

好きになったあなたは誰? 25通と25分から始まる恋

たたら
恋愛
大失恋の傷を癒したのは、見知らぬ相手からのメッセージでした……。 主人公の美咲(25歳)は明るく、元気な女性だったが、高校生の頃から付き合っていた恋人・大輔に「おまえはただの金づるだった」と大学の卒業前に手ひどくフラれてしまう。 大輔に大失恋をした日の深夜、0時25分に美咲を励ます1通のメールが届いた。 誰から届いたのかもわからない。 間違いメールかもしれない。 でも美咲はそのメールに励まされ、カフェをオープンするという夢を叶えた。 そんな美咲のカフェには毎朝8時35分〜9時ちょうどの25分間だけ現れる謎の男性客がいた。 美咲は彼を心の中で「25分の君」と呼び、興味を持つようになる。 夢に向かって頑張る美咲の背中を押してくれるメッセージは誰が送ってくれたのか。 「25分の君」は誰なのか。 ようやく前を向き、新しい恋に目を向き始めた時、高校の同窓会が開かれた。 乱暴に復縁を迫る大輔。 そこに、美咲を見守っていた彼が助けに来る。 この話は恋に臆病になった美咲が、愛する人と出会い、幸せになる物語です。 *** 25周年カップを意識して書いた恋愛小説です。 プロローグ+33話 毎日17時に、1話づつ投稿します。 完結済です。 ** 異世界が絡まず、BLでもない小説は、アルファポリスでは初投稿! 初めての現代恋愛小説ですが、内容はすべてフィクションです。 「こんな恋愛をしてみたい」という乙女の夢が詰まってます^^;

『Dystopia 25』 ~楽園~

シルヴァ・レイシオン
SF
 閉鎖された大きくて深い、密林のジャングル奥地。  その空間の中心には、秘密裏に作られた大きな集落『コロニア』  そこに今では万に近い数の人類が住み、独自世界の発展を継げていた。 「衣」 「食」 「住」  全てが「配給・配備」され、なに不自由が無い楽園のような生活が確保されている。  人類が主権による争い、天災や厄災による不幸も無く、貧困や差別も無い平和が約束されたこの世界の未来は、どうなっていくのだろうか。  その先に、本当の「人間」が浮き彫りになっていく・・・・・・

処理中です...