25年前のアナタと25年後のキミへ

心絵マシテ

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アルタイルの約束

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「すみません。つい、食べるのに夢中になってしまいました」

頭を掻きながら会釈する翔馬だが、高山はニコニコと笑っていた。
自分が育てた野菜を美味そうに食べる翔馬の食いっぷりが気に入ったそうだ。

「兄ちゃん、みたいな若いのがいると俺も野菜を作ったかいがあるってもんさ。
ここにあるのは形が悪くて売り物にならない奴だ。
味は良いのに、業者は見た目だけで安売りしやがる。
芸術品じゃないんだ。食べてなんぼの野菜だろう」

高山の訴えはもっともだと翔馬はうなづいた。
せっかく苦労して育てた物を雑に扱われるのは、農家としても納得いかないだろう。

「でも、これだけ広い農地を持っていれば経営が廃れることはないのでは?
人を雇っているようですし、引き継ぐ人はいるんじゃないんですか?」

先程の跡継ぎがいないという発言に妙な引っかかりを覚えた翔馬は再度、尋ねてみた。
両腕を組みながら、農家として彼は告げた。

「土地があればいいってもんじゃない。
野菜を育てる知識と経験が必要だ。
手伝いといっても、ここにいるのは高齢者ばかりだ。
若いもんが農業に感心を持ってくれないと、何一つ変わりはしない」

「家族とかは? 息子さんとか?」

「残念だが、うちは娘が一人いるだけだ。
その娘も農業には、てんで興味がない。
交際している男がいるが、あれは駄目だ……ズボラで繊細さに欠ける。
何より、約束を守らない奴は信用におけない」

「会ったことがあるんですか!」

同級生のことを知っているような口ぶりに翔馬は目を丸くするばかりだった。
確か、菊本は恋人の父親が一度も会ってくれないと証言していた。
もしも、高山の言うことが事実なら話しが一変してくる。

「まぁ、三ヶ月ほど前に一度な。
娘に紹介されんただよ。
話をしていてすぐに分かったよ、コイツはろくな人間じゃないって。
だから、一つだけ約束をしたんだが一向に守ろうとしない。
このままだと、娘は人として駄目になっちまう……」

言葉を詰まらせる高山は見ていて辛そうだった。
アンケート調査に来ただけの便利屋にわざわざ身の上の話をするぐらいだ。
誰かに話を聞いて貰いたかったのだろう。
高山が抱える不安の大きさが窺える。

そうとなると、翔馬のお人好しは止まらない。

「約束とは? 詳しく聞いても宜しいですか?
自分は便利屋ですから、何かお役に立てるかもしれません」

腰元に手をあてがい、しきりに右足を踏み鳴らす高山だが翔馬の一言に後押しされて口を開いた。

「娘と結婚する気があるのなら、ギャンブルをやめろと言ったんだ。
アイツは、娘の人の良さにつけて娘の金にまで手をつけてくる。
一切絶つと約束したのに、何も変わりやしねぇ。
今でも、競馬場に足を運んでいるそうじゃねぇか」

「どうして、そのことを知っているんですか?」

「探偵を雇ったのさ。アイツはよく休日に競馬場に出向くようだからな。
娘の金銭トラブルに関しては以前、ウチの金を無心してきた時に問い詰めてみたんだ。
そしたら、彼氏がギャンブルに生活費を使ってしまったって泣きながら言うからよう。
可哀想だから、そん時は金を渡してやったんだ」

菊本が競馬をすること自体は翔馬も調べ上げていた。
ただ、それほどのギャンブル依存症だとは思ってみなかった。
競馬場に行くのは、月に一、二回程度だと本人も述べていた。

しかも、そこまで大金をつぎ込んでいる様には見えなかった。
無神経なところはあるが、菊本は根が実直なところがある。
ギャンブルにしても、豪快に金をつぎ込むようなタイプではない。

そう見えたが、金銭が絡むと人は変わってしまう。
同級生もまた、生真面目すぎるゆえに羽目を外してしまったのかもしれない。

ともあれ、交わした約束を反故にするのは菊本の方に非がある。
一度、会って事情をハッキリとさせないといけない。

「分かりました。自分がどうにかしてみます。
相手の名前と勤務先は分かりますか?
高山さんとの約束を守らない理由も聞きたいですし、意思確認もしたいですからね」

「それで、娘との関係を絶ってくれるのか?」

「それは、ちょっと……本人の気持ちによりますから。
自分にできるのは、お願い程度の忠告ぐらいですかね」

翔馬の言い分に、高山は土間から座敷に座り込んだ。
座敷の高さは丁度、膝上ぐらいで両脚を垂らすようにして座るには最適な高低差だ。

仕事を依頼したところで大した期待は見込めない。
それが腑に落ちないのか、高山が項垂れながら翔馬に問いかけてきた。

「一応聞くが、依頼料はいくらだい?」

「いえ、結構です。お代は、もう頂きましたから」

手に取ったキュウリをかかげて、翔馬は笑ってみせた。
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