25年前のアナタと25年後のキミへ

心絵マシテ

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ミツバツツジの風景

5-3

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ついに、探し求めていた顧客リストを発見した。
額の汗を拭いながら、翔馬は鼻息を荒くして記された内容を順々に確認していく。
約、三十人ほどの購入者リストから佐倉の名前が出てきた。
柏博本人から、ペンダントを購入しているから当然のことだ。

【二人の世界】を所持していた人物は一体、どこの誰なのか。
刮目する翔馬の隣で小さな悲鳴があがった。
またしても宮塚の方が先に購入者を拾い出していた。

これで公園に座っていたの正体が判明する。

「違う……私の捜している人じゃない。なんで……この人の名前があるの?」

その場でへたり込む宮塚の様子は尋常ではなかった。
帳簿に記載された所持者の名前に、翔馬も自身の目を疑うばかりだった。

川瀬セナ……柏博が佐倉に送ったハガキに記載されていた人物の名前だ。
その名を思い浮かべる度に、ミツバツツジの大木が翔馬の脳裏に過ってくる。

同性同名の別人ではないことは、住所で確認できる。
高校の教師をしていた柏なら、川瀬と接点が――――

「あるわけない!」

拳を打ちつけた棚がグラっと揺らいだ。
そう、出会えるはずもないのだ。
翔馬が知る、川瀬セナはそもそも高校には通っていない。

しかも、二人の世界を購入した時期は、今から二年前となっている。

「顔色が悪いようですけど、大丈夫ですか?」

「俺の心配はいい。君こそ、酷く取り乱しているんだろう。
取り引きができない相手が何故、柏作品を買えたのかって……川瀬セナのことを知っているな?」

翔馬の質問に宮塚の口元がキュッとしまった。
彼女の性格上、隠し事はしたくないはずだが……川瀬の話はデリケートな内容だ。
口にするのもはばかられるのだろう。

「はい、実際に何度かお会いしています。
今庭さんの方こそ、彼女と面識があるようですね」

それまでとは異なる暗く沈んだ声のトーンだった。
宮塚の問いかけに、心臓の鼓動が一気に早まっていく。
ここで答えるのが正解なのか。
答えないとしても宮塚にどう伝えれば良いのか分からず、視界が暗く閉ざされていく。

『ミツバツツジの前で待っているから……』

幻聴が聞こえた。
おそらく、あの夏の夜に聞いた川瀬からの言葉だ。

疲れがどっと押し寄せてきた。
項垂れる翔馬だが、記憶の片隅に閉じこめていた感情が、いっぺんに火を噴き甦ってくる。

「行かないと……彼女が呼んでいる気がする」

フラフラと身体を揺らしながら、翔馬は移動し始めた。
何を為そうとしているのか宮塚には皆目見当がつかない。
無言のまま彼の後に続いていく。

川沿い土手道に根をおろす大樹があった。
絵ハガキに写されていたのは、このミツバツツジの木だ。
本来ならば落葉低木の植物だが、八尋郷にある物は複数のツツジが絡み合い一つとなったまま大樹にまで成長していた。
樹齢3000年とも云われている、花散ることを知らない永遠の木は八尋郷のシンボルにもなっている。
現に翔馬が知る限り一度も花が絶えたことがない。

今現在も薄紫色の花が咲き乱れている大木の下に、翔馬は駆け寄っていた。
何をするでもなく、呆然と立ち尽くしたまま夕闇を背に浮かぶミツバツツジを眺めていた。

「俺たちはここで待ち合わせていたんだ……」

不意に聞こえた翔馬の呟きが風にさらわれ消えていく。
黒髪をなびかせたままスカートの裾を押さえる宮塚。
細めた、その瞳に映るのは大木の根本を探る男の姿だ。
手にした木の枝で、懸命に土を退けているが固くなった地面を掘り返すの容易ではない。

「月並みだけど、皆でここにタイムカプセルを埋めたんだ。
けど、もう二十五年前の話しだ。見つかるわけがない。
とっくの昔に、誰かが掘り起こして持ち去ったんだろうな」

「話していただけますか? 今庭さんと、あの人のこと」

二度目に問いを拒む理由はなかった。
黙っていても何も解決はしない。
どれほど時間が経過していても翔馬の想いは少しも色を失うことはなかった。

「中三の時、初めて彼女ができたんだ。
それが、川瀬セナだ。
ロマンティックな出会いも何も、俺たちは家が近所だから子供頃から家族ぐるみで付き合いがあった。
どうして付き合うことになったのか……そうだな」

翔馬は頭を掻きながら、少しずつ川瀬との関係を明かしていく。
慎重にゆっくりと、記憶を思い起こしていた。

「天狗だな、あれが一番のきっかけだ。
セナの奴、よりにもよって天狗に見初められて連れさらわれそうになったんだ。
だから、そうさせないためにも俺がアイツの恋人に……なったんだが――――」

あまりにも突拍子もない会話に、宮塚の表情が曇り出していた。
実際のことを包み隠さず話しているつもりでも、相手が理解できなければ意味がない。
今時、天狗が存在すると信じる者などいるわけもない。

「天狗ですか……何かの比喩だと思いますが、要はストーカーから川瀬さんを護るために、彼氏に立候補したと」

「ん? うん? そうそう! そんな感じ」

妙な食い違いがあるが、宮塚が生真面目で助かった。
翔馬が懸念していたのは、この手の話をしても笑えない冗談だと受け取られてしまうことだ。
内容を噛み砕いて話せばいいのかしれないが、それができたら苦労しない。

過去と向き合うには、誤魔化しは通じない。
何より、自分のことを真剣に案じてくれる宮塚に対して、不誠実な真似はしたくなかった。
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