海洋学者は海を見ながら終わりを望む

TEKKON

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海洋学者は海を見ながら終わりを望む

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「リノア。もうそっちへ行ってもいいかな」

 どんよりとした空の下、僕はそう言いながら鞄から錠剤を取り出した。非合法で手に入れたこの薬を飲めば、苦しまずに愛する妻の元に行ける。
 目の前には生命と自然に満ち溢れた素晴らしい海が広がっている。この国で一番好きな場所だ。

『でも、ここに来ると悲しくもなるのよね』というリノアの声を思い出す。

 ここはこんなに美しいのに、どうして他の海はあそこまで汚れてしまったのだろうか。人間の手により「死んだ海」が増えていく。人間は利益だけを求め、自然に対して害悪な存在でしかないのかと嘆いてしまう。
 一番許せないのは僕自身だ。そう言いながらも気がつけば御用学者になり、この悪い流れを加速させている。海は僕に全てを与えてくれた。リノアとも学会を通して出会えた。それなのに、なんという事をしているんだ。何が海洋学の権威だ。ただの大罪人じゃないか!

「これ以上、世界中の海が死んでいくのを見るのは辛いし、御用学者に成り果てた自分も許せない。そして、リノアがいなくなったこの世界にはもう……」

 手の平に乗せた錠剤をじっと見つめる。これを飲めばすべてが終わる。すべてが終わるんだ…… 僕は覚悟を決める。

――その時、空から「クァーッ!」と鳥の鳴き声が聞こえてきた。

 見上げるとケミーという1羽の渡り鳥が、僕のそばにある木の上に止まり僕をじっと見つめている。まるで僕に何かを言いたいかのように。

「……リノア。僕に死ぬなと言っているのかい?」

 ケミーはリノアが大好きだった鳥で、そのケミーがこのタイミングで1羽だけここにやってくる。僕にはそうとしか思えなかった。
 クアックアッ。と僕の言葉に答えるように2回鳴き、そしてそのまま海の方へ飛んで行った。その姿を見て僕は思わず笑ってしまう。

「そうか。頑張れと言うんだな。まったく、リノアは死んだ後も僕をこき使うんだな」

 出来る事はまだある筈だ。僕は妻と一緒に世界中の海を研究してきた。世界中の友人と力を合わせて訴えていこう。そうすればきっと……!
 僕は手の平にある忌まわしいモノを投げ捨てて、そう決意した。

 その時、雲から差し込む光が海を照らして輝く。
 まるで『その悲しみを終わらせてね』と、僕を応援しているかのようだった。



------- 終わり -------
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