クリスとガラクタじいさんと音楽の街

TEKKON

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第三話 全ての歌を、武器に

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……
………

 それから数週間が経った。
 ガラクタじいさんの家は完全に無人になって、兵士さん達もいなくなった。
 噂では首都に連れていかれて、新しいびっくり箱を作っているみたい。

 僕はじいさんが心配になりつつも、元の日常に戻っていった。
 しかし、ある日の音楽の時間、おかしな事が起こる。

「皆さんは今日から新しい歌を覚えてもらいます」

 僕たちは音楽の先生から1枚の楽譜を渡された。
 その紙を見て、クラスのみんなは「何、これ」と顔を見合わせた。
 心なしか先生の顔もとても嫌そうで苦しそうに見えた。

 まず、今まで見た楽譜とは見た目から全然違っている。音符がやたらと多く、上下に振れていて一目見ただけでとても難しい事がわかる。

「まるで、前衛芸術みたい……」

 お父さんが音楽家をやっている、クラス1音楽が上手い女の子はそう呟いた。
 歌詞の方も同じくおかしかった。片言の言葉が並んでいるような、そしてその言葉も子供が歌うものではなかった。

 ”消えろ 消えろ 消えろ”
 ”痛い、痛い、痛い”
 ”万歳、万歳、万歳”

 とても歌おうとは思えない。
 こんな歌、絶対歌いたくない。

「先生! いったいこの歌はなんですか!」
「こんな歌、歌なんかじゃねーよ!」
「歌いたくないです!」

 教室が騒めいてきた時、扉が開き、兵士さんが数人入ってきた。

「ヒィッ……!」
「また来たのかよ……」

 数週間前のあの日の事を思い出し、一気に教室の雰囲気がおかしくなる。

「クリス…… おじいさん……」

 僕はとても嫌な予感がして、そう呟いた。

 * * *

 家に帰ってお父さんに今日の話をすると、お父さんは「知ってるよ」と言う。
 そして、真剣な顔で僕に言ったんだ。

「一番恐れていた事が起こったようだ」
「……えっ?」

 国が色々調べてわかったこと。
 びっくり音楽箱のエネルギーは普通のマジックパワーではなかった。
 似ているようで違う、まったく未知のエネルギーだったんだ。

 更に、それを抽出、圧縮させて放出する事にも成功したらしい。

「つまり、このエネルギーは…… 武器にもなってしまうんだ」
「ウソだっ!」

 僕は思わず叫んだ。
 世界を幸せにする筈の音楽箱が、逆に武器となって人を不幸にする。
 そんな事があってたまるもんか。

「それを聞いた王様は、国の総力を挙げて開発、生産、強化するように命じたらしい」

 他の国より先にこの技術を手に入れること。そしてそれを独占すること。
 それが国の未来と幸せに繋がる。と王様は考えたという。

 お父さんの話をそこまで聞いて、僕は悲しくて泣きそうになった。

「そんなのウソだよ………!」

 だってそんなことガラクタじいさんは望んでいない。
 きっとクリスも望んでいない。もちろん僕もそんなのは嫌だ。
 どうしてこんな事になってしまったんだろう。

 学校に兵士さんが来たのは僕たちを働かせるため。
 大人たちが頑張って歌っても、あまり光らなかったみたいだ。
 そして、あのおぞましい歌は、研究と実験により1番エネルギーが出ると考えられた歌だという。

 だから、元々音楽箱を使ってた僕たちで、実際にテストするつもりだという。

「やっぱりあの歌は音楽箱のための歌だったんだ……」

 狂ったリズムのドラム。
 心をいらだたせる不協和音のピアノ。
 とにかく気持ちが悪いメロディーライン。
 そして聴く人を嫌な気持ちにさせるあの歌詞。

(あの歌をクリスに聴かせる事になるなんて……!)

 僕はお父さんに歌いたくない。学校なんて行きたくない休ませて! とお願いした。
 それを聞いてお父さんは、僕を抱きしめながら言った。

「今、目立つような事をしたら、家族全員捕まってしまうかもしれない」
「そんな……!」

 そして、この街からの移動も難しくなっている。段々とこの街は閉じ込められているとお父さんは言う。

「しかし、私たちはみんなを救おうと水面下で動いている。だからネオ、もう少しだけ我慢してくれ」
「う、うん……」

 僕はお父さんを信じて頷いた。

 * * *

 あれから毎日、あの歌を練習させられた。
 兵士さん達が学校の中に入り込み、僕たちを見張っている。

――いつの間にこんな事になってしまったのだろう
 
 そして、いつの日にか僕は歌うのが苦痛になった。ここまで歌うことが嫌になるとは思わなかった。
 この音楽の街、リゼが大嫌いになりそうだ。
 
…………
 僕たちは歌う。
 武器を作るために歌う。
 そして全てを壊す為に歌う。
 命を奪うために、歌う。

 全ての歌を、武器に。
 全ての楽器を、武器に。

 僕たちは泣きながら歌う。
 苦しみながら歌う。
 王様のために。お国のために。
…………
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