お地蔵さまとなった”爆弾岩”はそっと少女の様子を見ている

TEKKON

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第二話

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 次の日の午後、いつものように少女はここにやってきて、楽しそうに持ってきた皿に白い団子をのせていった。

「バクちゃん。ママが作ってくれた特製だんごだよ。食べて!」

 まだ幼さが残る笑顔と長い髪が印象的な少女の名前はトコという。9歳前後だろうか。

 そしてバクとは僕の事らしい。

“爆弾岩?ならお地蔵様さまの名前はバクちゃんだね!”

 勝手に名前なんてつけられても正直困ってしまう。僕は僕だ。元々名前なんて無いのだから。

「そう言えば、バクちゃんはどんな食べ物が好きなの?」

 トコは僕の顔をじっと見つめながら笑顔のまま問いかけてくる。

「ボクハ、ナニモタベナイ」

 食べるという行動を起こさない上に食欲というモノも一切わからない。ただ、人間というモノは生きるのに食事が必要な事、そして食べるという行為に楽しみと幸せを感じているのは知っている。

「そうなんだ。ママのお団子はとっても美味しいんだよっ! 食べてみて!」

 それを僕にも共有させようという気持ち。その事だけはとても嬉しい。しかし、今となってはその気持ちすらも苦しみに感じるし、この少女にはもうここには来て欲しくないのだ。僕はまた少女に問いかける。


「キミハ、ボクガ、コワクナイノ?」

「へっ?」


 だってそうだろう? 僕はもう村のみんなが愛する”聖なる柱”では無く、あの頃とは程遠い姿になっている。元のクリスタルとどす黒い岩石が入り混じった歪な岩であり、更に醜いモンスターの顔まで浮き出ているのだ。

 普通、人間がこの姿を見たら一目散に逃げ出すだろう。

 しかし、この少女は初対面の時でもそんな素振りを欠片も見せず、「あなたはお地蔵さまね。こんにちは!」と挨拶をして、僕の経緯を告げた時も気にする様子を見せず
「爆弾岩?だったらお地蔵さまの名前はバクちゃんだね。よろしくね。バクちゃん!」とまで言ってきたのだ。


 僕はこの子の考えがさっぱりわからない。

……

 先ほどの質問の後、少しの沈黙の後に少女は話しだした。


「あのね? おばあちゃんが言ってたよ? モンスターの中には優しくて良いモンスターも沢山いるんだって」

 トコは僕の顔を見つめながら話を続ける。

「普通のモンスターは魔王の邪悪なオーラで凶暴化させられているけど、たまにそのオーラが効かないのもいて、そのモンスターは私達人間と仲良くなれるんだよ? バクちゃんみたいにね」

 ……この少女は何を言っているのだろう。この僕が?体内に強力な爆弾を埋め込まれていつ大爆発するかもわからないのに。

「それに私はわかるの。バクちゃんは悪いモンスターなんかじゃないって」

 そして満面の笑顔を見せながらトコは楽しそうに言った。

「バクちゃんは私達の村を見守ってくれる立派なお地蔵さまで、私の大切なお友達!」

 ……なんだろう。トコの言葉を聞いていると身体中の痛みが引いていくような気がする。僕はここにいても良いのかもしれない。そんな事すら考えてしまう。

「おばあちゃんは最期まで人とモンスター。ううん。この世界に住むみんなが仲良くなれる日が来る事を願ってた」

「……」

「私もおばあちゃんと同じように生きたい。だって私はおばあちゃんの孫なんだもん」

 トコはそう言いながらゆっくりと手を伸ばして僕に触ろうとする。予想外の行動に思わずウッと声を出したが、トコは構わず小さな手で触れてきた。

「アッ……」

 その手からトコの体温を感じる。鼓動を感じる。これが生きてるって事なんだと初めて実感した。


「やっぱり、バクちゃんの身体って 冷たくて気持ちいいね」

 僕は受肉した事に対して初めて感謝をした。



……
………

 それからもトコは僕の所に遊びに来た。とは言っても僕が喋る事はあまりなく、トコが一人で喋っているのを黙って聞くという少し不思議な時間だった。
 それでもトコは笑顔を絶やさず、僕はその顔を見て癒される。こんな時間が永遠に続けば良いのに…… とモンスターが望んではいけない事をつい望んでしまう。

 しかし。今日のトコはいつもと様子が少し違う事に気づいた。

「……トコ?」

「何?バクちゃん」

「ダイジョウブ?ナニカヘンダヨ?」

「そ、そうかな?」

 心なしか笑顔もぎこちない気がする。大丈夫かなと思った瞬間、一瞬意識が落ちたかの様にトコはフラフラと座り込んでしまう。

「トコ!?」

 トコは僕の声に反応する事も出来ず、苦しそうに肩を上げ下げして呼吸をするのが精一杯だ。
 僕は人間の身体の事はわからない。わからないけど今のトコが普通じゃない事はわかる。

 少し休んだら回復するかもしれないけど、ずっとここにいさせる訳にはいかない。この森はモンスターが出なくとも、それでも夜になったら弱いモンスターか出てくる可能性も0では無い。

 そもそも苦しんでいるトコを一刻も早く人間の所に連れて行く事が、重要なんだと感じている。なら、僕がすべき事は決まっている。

「……トコ。ボクニツカマッテ」
「……えっ?」

 トコは苦しそうにしながらも、僕の言葉に驚いて顔を上げた。

「ボクニ……ツカマッテ」

ズッ…
ズズッ…
ズズズッ……

 僕は、この身体を引きずるように動かして、トコのすぐそばまで近づいた。

「バクちゃん……歩けるの……?」

 本当は一歩も動くつもりは無かった。モンスターになる前と変わらずにずっとこの場所にいようと決めていた。
 いつ僕の身体が変化して完全なモンスターになるかはわからないけど、それでも1日でも長くここで村を見守っていたかった。
 でも、それより僕はトコを助けたい。早く家に帰したい。その為なら……

「オウチヘカエロウ」

「……う、うん」

 トコはまだ立つ事は出来ず、身体を引きずるようにしながら必死に僕の身体に掴まってくる。姿勢が安定したのを確認した後、なるべく揺らさないように丁寧に村に向かって歩き出した。

「ガマン、シテネ」

「……うん」

 ちゃんとした足があるのならもっと速く歩けて、もっと早くトコを家に連れて行って楽に出来るのに。初めて足の無い事を恨んだ。

「……バクちゃん」

 トコは苦しそうな声で話しかけてきた。

「ごめんね、バクちゃん。村の人には絶対見られたくないって言ってたのに……」

 泣きそうな声も混ざりながら、ごめんねという言葉を繰り返した。

「……」

 そう。僕が一番恐れていたのは、村の皆にこの醜くなった姿を見られる事だった。魔王の手によって汚された” 聖なる岩”を村の皆はどんな目で見てくるのだろうか。

 それを考えただけでも恐ろしい。
 もしかしたら捉えられてそのまま退治されるかもしれないが、それでも構わなかった。トコを助けられるのなら。

「ダイジョウブ。イインダヨ」

トコはその言葉を聞いて安心したのか、ごめんねと呟くのを止めた。

「バクちゃん、冷たくて気持ちいい。そして、暖かい……」


 僕はその言葉を聞きながら、ルマルの村に向かって歩き続けた。

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