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第3章 契約と運命
第173話 屋毒の読み違い
しおりを挟むその頃、屋毒は大量の幻の分身を操り、椿と綾香を翻弄していた。薄暗い森の中、幻影が揺らめき、足元に絡む草が不気味にざわつく。
「ふははは! どれが本当の俺か分かるかな?」
「立てよ、蒼き光の柱群!」
椿が叫ぶと、無数の蒼い光が迸り、全ての屋毒に命中。本体が姿を現した。
「ぎゃあ! もう少しゲームを楽しむことをしないのか!? このやろー!」
「うるさい! 前回はよくも逃げやがったな! お前を偽装契約への関与、機構による監視の妨害、強制奴隷印の使用、そしてこれらの行為で契約社会や文化、機構への信頼を傷つけた公開契約違反で、機構本部に連行する!」
「は!? 本気かよ…!? 霧ノ都と戦争でもする気なのかお前らは!?」
「…上の判断だ!」
「はん! この野郎が! いいか! 俺を捕まえたら俺の顔で行われていた全ての取引がストップする! 都の商人の大半は俺頼み! 都がそれを許すと思うか!?」
屋毒の声に焦りが滲む。
「承知の上だ! 光の鎖!」
椿が叫び、輝く鎖が屋毒を縛ろうとする。
「うお! 危ねえな!この野郎! 女の魔力を取り入れて少し強くなったからといって図に乗るな! 忍法・毒霧!」
屋毒が口から毒の霧を吐き出すが、椿は風の魔法で一瞬にして吹き飛ばす。綾香はすかさず「忍法・飛脚」で距離を詰め、掌底の構えを取る。
「狐狼!」
だが、屋毒は素早く木に飛び移り、攻撃を回避。
『ち…! こいつらがどれだけ成長したのか、どんな仲間がいるのか監視する目的で呪印を傭兵につけたというのに、ほとんどロコとかいう女にやられて情報がない…! やはり傭兵費用はケチるべきでなかったか』
屋毒は懐刀を抜き、居合の構えで椿に接近。彼の魔力の膜を切り裂き、斬りつけた。
ズババ!
「うわ!」
椿がよろめくと、血が地面に滴り、土が赤く染まる。
「椿!」
「お前の精霊の怒りは厄介だ。蒼い光の衝撃魔法も、まあまあの威力。面倒だから、先に消えてもらうぜ…はあはあ」
屋毒が冷たく言い放ち、畳み掛けるように斬りつける。椿の体がさらに傾く。
綾香は屋毒に接近するが、彼は横に跳び、刀を仕舞って扇を取り出す。綾香の剣技をかわしつつ、手印を結ぶ。
「水遁・水鏡扇《すいきょうせん》!」
扇に水が張られ、横に振ると鉄をも貫く水飛沫が放たれる。狙いは一見綾香だが、真の標的は弱った椿だった。
綾香がその意図に気付くのは一瞬遅れた。飛沫が椿の体に当たり、彼女が呻く。綾香は硬化術で身を守りながら、椿を力強く抱きしめた。
ドドン
「!!」
「ちっ! まあ、そう来るとは思ったよ!」
屋毒が舌打ちする。
「水遁・蔓毒水流《まんびゃくすいりゅう》!」
毒性植物の成分が染み込んだ水流が椿と綾香を襲う。水が皮膚に触れ、毒が浸透。神経を蝕む猛毒が二人を追い詰める。
ドドドド!
二人は水流に打ち付けられ、なす術もなく膝をつく。屋毒の魔力は残りわずかとなり、彼の息が荒々しくなる。
「はあ…はあ…! とどめだ。雷遁・過電流…!」
電流が綾香に当たり、爆発。
ドン!
屋毒は直感でトドメを刺せていないと感じると、さらなる呪文を紡ぐ。
「巨腕よ、空間を掴み、万象を断て! 無想の挟撃!」
魔法の巨大な手が二人を挟み撃ち、叩き潰す。
ドーーーン!
砂煙が舞い上がり、地面が震えた。
その煙の中で、綾香は椿に口付けし、意識を失った椿に解毒薬と痛み緩和薬を口移しで飲ませていた。静かな動作の中、彼女の目は燃えるような決意に満ちていた。
薬を飲ませ終えると、綾香はそっと椿を地面に寝かせ、立ち上がる。彼女の鋭い目つきを見て、屋毒は一瞬、彼女の母親の目を思い出した。
「解毒薬、硬化術…なるほどな。はあはあ…。だが、どうしてそんな目で俺を見る? お前のその目…俺はお前の親なんぞ思い出したくもないのに…!」
屋毒が言葉を終える前に、綾香は一瞬で彼の目の前に移動していた。
「原牛流剣術奥義・鬼門」
ズバ!
屋毒は血を流し、地面に崩れ落ちた。すると、綾香は遠くに見える木霊喰らいの巨大に視線を送った。
「屋毒、何を呼んだのか知らないけど、あんな化け物に頼らない方がよかったんじゃない?」
「はあはあ…。がふっ…。うるせー。たしかに…あいつに魔力を半分以上使った。だが、気をつけな。あいつは一度呼べばれれば、俺が死のうが暴れ続けるぜ。仮にあのロコとかいう筋肉女がお前たちのリーダーなら、あいつでは木霊喰らいは倒せない。そうしたら、お前らは全滅ってわけよ…はあ」
その頃、木霊喰らいは大きく息を吸い込み、周囲の魔力を貪り食っていた。美しい緑の草木は一瞬で枯れ果て、青く輝いていた湖は黒い泥水へと変貌。重い空気が戦場を覆い、鳥のさえずりすら消え去る。
一歩、木霊喰らいが踏み出すたび、大地が悲鳴を上げるように震え、魔獣たちが恐怖に駆られて逃げ惑う。ロコたちは魔法で必死に応戦するが、攻撃はまるで水面に石を投じたかのように虚しく散る。ルークの加勢も虚しく、絶望が全員の心を締め付けた。
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