83 / 295
第2章 契約と誓約
第81話 強制契約の解除方法
しおりを挟む
椿は目を開けた。森の地面に横たわり、草木の香りと土の感触が鼻と肌に触れる。幻じゃない。現実だ。
「…っ!」
ガバッと起き上がると、目の前には屋毒がいた。手に怪しく光る刻印器を握り、驚いた顔で椿を振り返る。
「な…!? なんでお前がもう起きやがった!?」
椿の視線が周囲を捉える。レイチェル、玲子、そしてもう一人の仲間が地面に倒れている。首元には淡く光る印――奴隷の証。
「貴様…!」
椿の胸に怒りが燃えた。拳が震え、身体が熱くなる。
屋毒がニヤリと笑う。
「へえ、まるで晩飯のメニューでも決めたみたいにあっさり目を覚ましやがって。何なんだ、お前?」
「…何のことだ?」
椿は混乱しながらも、屋毒を睨みつける。すると、背後から別の声が割り込んできた。
「ふむ、説明してやろう」
黒いマントを翻した悪魔の商人が、ゆっくりと姿を現す。
「屋毒の刻印器は、毒を使って相手を支配する。その毒は心に幻を見せ、最近のもやもやした気持ち――後悔や怒り、迷いに葛藤、悲しみなんかを掘り起こす。普通の奴なら、『自分が弱いからだ』『あいつのせいだ』と自分や他人を責め続けるか、現実から逃げる。すると毒が心を蝕み、理性を奪う。最後には、奴隷として従うしかなくなる」
椿は黙って聞く。頭では理解しようとするが、胸の怒りがそれを邪魔する。
「つまり…自分と向き合い、自分を受け入れなければ、毒に負けて奴隷になるってことか?」
屋毒が舌打ちする。
「ちっ、商人、ペラペラ喋りすぎだ。まあ、知ったところで無駄だ。誰も弱い自分を受け入れるなんてできねえよ。それと、受け入れるだけじゃダメだ。何かを決心するところまで行って初めて契約は解除される」
彼は椿を指差す。
「奴隷解放をするのはお前の勝手だ。だが、気安く他人を助けられると思うなよ?」
「なんでこんなことを…?」
椿の声は低く、怒りに震える。
屋毒が肩をすくめる。
「俺はな、人間が苦しむ姿を見るのが好きなんだよ。困難にぶち当たると、みんな自分や他人を責めるか、現実から逃げて心を閉ざす。きちんと向き合って対処すればいいものの、勝手に心の鎖で自分を縛って、苦しむ。それを見るのが面白いんだ」
椿は言葉を失う。そんな理由で…?
悪魔の商人が口を開く。
「屋毒、西の荒地へ向かうぞ。俺の仲間がお前に会いたがってる」
「は!? あそこは一歩踏み入れたら狙撃されるぜ!」
「問題ない。行くぞ!」
光が揺らめき、二人の姿が消えた。椿は倒れた仲間たちを見つめる。
「自分を受け入れる、か」
毒に苦しむ三人を見る椿。どうやら進行の遅い毒のようだ。恐らく、刻印されてしばらくはこのように幻術に悩まされる。未整理の感情と向き合っているうちは、奴隷にはならないが、背けた時から奴隷になり、徐々に理性を失う。
龍之介執行官はまだ理性が保たれていた。命令に従うだけの奴隷たちは、おそらくもう助からないのかもしれない。
そんな不安に駆られていると、レイチェル、玲子、そしてもうしばらくして綾香が目を覚ました。
三人ともあざのような契約印が消えていた。
「よかった…。みんな」
「私は、これまで何を…?」
「まだ意識が曖昧なんだと思う。僕もさっきまではそうだった」
そうして椿は二人の商人から聞いた話を共有した。
「自分を受け入れ、一歩踏み出すことで解除される契約…」
「なんだか変わった奴隷契約…」
「しかも私たちは戦場に送られなければ、売り飛ばされてもいない…。なんでだろう?」
レイチェル、玲子、綾香が順につぶやいた。
「この戦さそのものは雷雨大名のもの。あの二人はあくまで利益を得たいだけ。わざわざ四人も連れてここを去るメリットは少ないんじゃないかな」
「…いずれにしろ、解除方法がわかったのなら早く龍之介様たちを」
「うん、ワイバーン!」
椿の呼びかけにすぐさまやってくるワイバーン。四人はワイバーンの背中に乗ってこの森を去ろうとすると唯の使い魔アッシュもやってきた。
「アッシュだ」
『椿たちが誓約に興味を持ってくれて嬉しい!やっぱり思うんだよ、誓約が世界を救うってね!考えてみて?契約書の穴を狙って人を騙す世界。人を信頼できない、人を尊重しないそんな世界。身勝手で卑怯な奴らの蔓延る世界。そんなの許せないよね!?誓約による助け合いの世界が必要なんだよ!はー、椿たちにもっと誓約の素晴らしさ。契約の悪さを教えておけばよかった。今私は誓約の素晴らしさを新しい友と語り合ってるの!皆んなにもこの子を紹介したいよ~』
「相変わらず丸みがあって可愛らしい字ね」
レイチェルはふふっと微笑む。
「ありがとう、アッシュ。疲れているようだけど、少し休んでいくかい?」
「お、お言葉に甘えて…」
こうして僕らはワイバーンの背中に乗って自警団の拠点へと戻ることにした。
「そういえば、なんでこのワイバーンは椿に懐いてるの?」
玲子の質問に、誰もが頷いた。するとアッシュとワイバーンが何やら会話を始めた。
「椿様の魔力が、彼のかつての主人のものに似ているからだそうです。懐かしい気持ちなんだとか」
ワイバーンが嬉しそうに話し、アッシュは得意げに通訳してくれた。
ワイバーンの名前はヴァルカン。はるか昔、人間につかえ、人間にもらった名前だと自慢する。主人が亡くらと共に契約が失効。以来、この地域で暮らすことにしたようだ。彼には大きな家族がいて、この地域のワイバーンは皆彼の仲間。助けが必要な時はいつでも呼んでくれと嬉しそうに言ってくれた。
自警団の拠点が近づくと、人が蠢いているのが空からよく見えた。
「奴隷兵たちはもう山々を越えていたか。涼様、龍之介様…!どうかご無事で!」
「…っ!」
ガバッと起き上がると、目の前には屋毒がいた。手に怪しく光る刻印器を握り、驚いた顔で椿を振り返る。
「な…!? なんでお前がもう起きやがった!?」
椿の視線が周囲を捉える。レイチェル、玲子、そしてもう一人の仲間が地面に倒れている。首元には淡く光る印――奴隷の証。
「貴様…!」
椿の胸に怒りが燃えた。拳が震え、身体が熱くなる。
屋毒がニヤリと笑う。
「へえ、まるで晩飯のメニューでも決めたみたいにあっさり目を覚ましやがって。何なんだ、お前?」
「…何のことだ?」
椿は混乱しながらも、屋毒を睨みつける。すると、背後から別の声が割り込んできた。
「ふむ、説明してやろう」
黒いマントを翻した悪魔の商人が、ゆっくりと姿を現す。
「屋毒の刻印器は、毒を使って相手を支配する。その毒は心に幻を見せ、最近のもやもやした気持ち――後悔や怒り、迷いに葛藤、悲しみなんかを掘り起こす。普通の奴なら、『自分が弱いからだ』『あいつのせいだ』と自分や他人を責め続けるか、現実から逃げる。すると毒が心を蝕み、理性を奪う。最後には、奴隷として従うしかなくなる」
椿は黙って聞く。頭では理解しようとするが、胸の怒りがそれを邪魔する。
「つまり…自分と向き合い、自分を受け入れなければ、毒に負けて奴隷になるってことか?」
屋毒が舌打ちする。
「ちっ、商人、ペラペラ喋りすぎだ。まあ、知ったところで無駄だ。誰も弱い自分を受け入れるなんてできねえよ。それと、受け入れるだけじゃダメだ。何かを決心するところまで行って初めて契約は解除される」
彼は椿を指差す。
「奴隷解放をするのはお前の勝手だ。だが、気安く他人を助けられると思うなよ?」
「なんでこんなことを…?」
椿の声は低く、怒りに震える。
屋毒が肩をすくめる。
「俺はな、人間が苦しむ姿を見るのが好きなんだよ。困難にぶち当たると、みんな自分や他人を責めるか、現実から逃げて心を閉ざす。きちんと向き合って対処すればいいものの、勝手に心の鎖で自分を縛って、苦しむ。それを見るのが面白いんだ」
椿は言葉を失う。そんな理由で…?
悪魔の商人が口を開く。
「屋毒、西の荒地へ向かうぞ。俺の仲間がお前に会いたがってる」
「は!? あそこは一歩踏み入れたら狙撃されるぜ!」
「問題ない。行くぞ!」
光が揺らめき、二人の姿が消えた。椿は倒れた仲間たちを見つめる。
「自分を受け入れる、か」
毒に苦しむ三人を見る椿。どうやら進行の遅い毒のようだ。恐らく、刻印されてしばらくはこのように幻術に悩まされる。未整理の感情と向き合っているうちは、奴隷にはならないが、背けた時から奴隷になり、徐々に理性を失う。
龍之介執行官はまだ理性が保たれていた。命令に従うだけの奴隷たちは、おそらくもう助からないのかもしれない。
そんな不安に駆られていると、レイチェル、玲子、そしてもうしばらくして綾香が目を覚ました。
三人ともあざのような契約印が消えていた。
「よかった…。みんな」
「私は、これまで何を…?」
「まだ意識が曖昧なんだと思う。僕もさっきまではそうだった」
そうして椿は二人の商人から聞いた話を共有した。
「自分を受け入れ、一歩踏み出すことで解除される契約…」
「なんだか変わった奴隷契約…」
「しかも私たちは戦場に送られなければ、売り飛ばされてもいない…。なんでだろう?」
レイチェル、玲子、綾香が順につぶやいた。
「この戦さそのものは雷雨大名のもの。あの二人はあくまで利益を得たいだけ。わざわざ四人も連れてここを去るメリットは少ないんじゃないかな」
「…いずれにしろ、解除方法がわかったのなら早く龍之介様たちを」
「うん、ワイバーン!」
椿の呼びかけにすぐさまやってくるワイバーン。四人はワイバーンの背中に乗ってこの森を去ろうとすると唯の使い魔アッシュもやってきた。
「アッシュだ」
『椿たちが誓約に興味を持ってくれて嬉しい!やっぱり思うんだよ、誓約が世界を救うってね!考えてみて?契約書の穴を狙って人を騙す世界。人を信頼できない、人を尊重しないそんな世界。身勝手で卑怯な奴らの蔓延る世界。そんなの許せないよね!?誓約による助け合いの世界が必要なんだよ!はー、椿たちにもっと誓約の素晴らしさ。契約の悪さを教えておけばよかった。今私は誓約の素晴らしさを新しい友と語り合ってるの!皆んなにもこの子を紹介したいよ~』
「相変わらず丸みがあって可愛らしい字ね」
レイチェルはふふっと微笑む。
「ありがとう、アッシュ。疲れているようだけど、少し休んでいくかい?」
「お、お言葉に甘えて…」
こうして僕らはワイバーンの背中に乗って自警団の拠点へと戻ることにした。
「そういえば、なんでこのワイバーンは椿に懐いてるの?」
玲子の質問に、誰もが頷いた。するとアッシュとワイバーンが何やら会話を始めた。
「椿様の魔力が、彼のかつての主人のものに似ているからだそうです。懐かしい気持ちなんだとか」
ワイバーンが嬉しそうに話し、アッシュは得意げに通訳してくれた。
ワイバーンの名前はヴァルカン。はるか昔、人間につかえ、人間にもらった名前だと自慢する。主人が亡くらと共に契約が失効。以来、この地域で暮らすことにしたようだ。彼には大きな家族がいて、この地域のワイバーンは皆彼の仲間。助けが必要な時はいつでも呼んでくれと嬉しそうに言ってくれた。
自警団の拠点が近づくと、人が蠢いているのが空からよく見えた。
「奴隷兵たちはもう山々を越えていたか。涼様、龍之介様…!どうかご無事で!」
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる