お人好し底辺テイマーがSSSランク聖獣たちともふもふ無双する

大福金

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3巻

3-1

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 1 鉱山の街セロデバスコ


 俺――ティーゴは魔物使いテイマーだ。「Sランク以上の魔物しか使役テイム出来ない」という謎のスキルを持っていて、沢山の仲間と共に自由気ままな旅を続けている。
 港町ニューバウンを出発した俺達は、新たな目的地である、鉱山の街セロデバスコに向かって歩き出していた。
 俺の横では使つかじゅうのフェンリル――銀太ぎんたが、ふわっふわの尻尾をご機嫌に揺らしながら歩き、頭の上では卵から慈愛じあいの龍へと成長を遂げた、幼龍ティアが気持ち良さそうに寝ている。

『なぁなぁそれでな? 聞いてくれよティーゴ!』

 そんな中……興奮気味のスバルや一号達が、話を聞いてくれとワチャワチャしながら少し前を歩く。
 本来のスバルには聖獣グリフォンというカッコイイ姿があるのだが、俺の目の前を飛んでいるのは可愛い小鳥。さらに、元は一匹の聖獣ケルベロスである一号、二号、三号の三匹も、子犬姿で肉球をぽにぽにさせ歩いている。
 うん、可愛い。癒される。

『それでね? 私達が探索に行った南側にね! なんとカスパール様の隠し小屋があったの!』
『そうさ! そこで俺はいっぱいお宝も見つけたんだぜ?』

 三号とスバルが意気揚々と楽しげに話している。
 昨日、俺達はある森の中を二手に分かれて探検した。その時に、スバル達のグループは大賢者カスパール様が生前使っていた隠れ家を見つけたらしい。
 スバルとケルベロスの三匹は、大賢者カスパール様と家族同然の関係だったから、余程嬉しかったみたいだな。

「お宝? どんなお宝があったんだ?」

 カスパール様のお宝って何だろうな……想像するだけでも凄そうだよな。
 するとスバルが鼻息荒く得意げに、俺の前に何かが入った布袋を差し出した。

『これさ! 白金貨百枚!』
「えっ? はっ白……? 金貨……⁉」

 ええと……聞き間違いだよな? いま白金貨って聞こえたんだが?
 金貨の間違いだよな?
 驚いている俺をよそに、スバルはジャララッと音を鳴らし、アイテムボックスに収納していた袋を出す。

『ホラッ? 見てくれよ』

 スバルが白金貨を地面にいて、スゴいだろと言わんばかりに見せる。

「あわわわわっ⁉」

 思わず変な声が漏れる。本当に白金貨だ! ひゃっ……百枚ってことは……金貨にすると一万枚……うーん…………。

『あっあるじ⁉』

 倒れそうになった俺の体を、銀太が鼻先で支えてくれる。
 あっ……危うく気絶するところだった。

「はぁ……ったく、白金貨をこんな所にばら撒いて」

 猫のパールが文句を言いながら、散らばった白金貨を手でちょいちょいっと、猫パンチをするような動きで集めている。その動きだけ見ると、可愛い猫にしか見えないんだが、中身はどう考えても猫じゃない謎多き存在。それがパールだ。

「ありがとうパール。白金貨集めてくれて」

 俺は急いでアイテムボックスに白金貨を収納した。
 ふうう……それにしても、あんな大金を隠れ家に置いておくなんて……カスパール様は凄いお金持ちだったんだろうな……。

『ティーゴの旦那だんな? どーしたんだ? 顔が真っ青だぜ……もしかして白金貨は嫌だったのか? もしかして普通の金貨の方が好きなのか?』

 俺があまりにも挙動不審きょどうふしんな態度を取ってしまったので、スバルが不安げに俺を見つめている。

「あっ! ちっ……違うよ? あんな大金を生まれて初めて見たからな? 俺ビックリしてさ……ほんと助かるよ。ありがとうなスバル」

 俺は慌ててスバルの頭を撫でた。

『うっ嬉しいんなら……良かった』

 スバルは翼を広げ、照れ臭そうにして飛んで行った。
 その後もカスパール様の隠れ家の話を、一号、三号が楽しそうに話している。
 その会話に入れない二号。
 二号は俺達のグループに居たから、スバル達を迎えに行った時に隠れ家を一瞬見ただけで、中までは見ていないのだ。
 少しして、二号は一人、カスパール様の隠れ家に転移していった。三号から謎の魔道具を渡されていたけど、あれは何に使うんだろう……?
 一時間くらいすると、目を真っ赤に腫らした二号が帰って来た。
 一号と三号とスバルが二号の所に集まり、何か話をしている。
 きっとカスパール様の思い出話だろうな。
 良かったな……隠れ家を見つけることが出来て。
 そんな一号達を微笑ましく見ていると、森の奥でバタバタと動く何かが見える。
 ん?……あれは何だ?
 目を凝らしよく見ると、震えながら丸まってる茶色い何かが居る。
 あれはガンガーリスか?
 何で逃げないんだ?
 ガンガーリスはBランク魔獣で、一匹ならそんなに強い魔獣じゃない。
 普通なら銀太達を怖がり、一目散に逃げるはずが、何故かその場でじっと固まり、震えて全く動かない。
 ……何でだ? 震える様子から見て銀太達が怖いはずなのに。
 不思議に思い近付いてみると、その理由が分かった。

「あっ! 足の上に石が!」

 どうやら大きな石が足に乗っかり、身動きが取れないようだ。
 俺は急いでガンガーリスの所に走って行く。
 ガンガーリスは急に近付いて来た俺を警戒し、ふわふわの尻尾がさらに大きく膨らむ。
 そんなガンガーリスを安心させるため、必死に話しかける。

「大丈夫だからな? 俺は何もしないから。石をどけるだけだから……なっ?」

 俺はそっとガンガーリスの頭を優しく撫でた。

『キュッ……?』

 俺が何もしないと分かりホッとしたのか、ガンガーリスは震えが止まり大人しくなった。

「よっと!」

 俺はガンガーリスの上にある石を持ち上げ、横にどける。

「よし! これでもう大丈夫だよ! あっ足が……これは痛そうだな」

 ガンガーリスの足はあり得ない方向に曲がっていた。折れているんだろう。俺は急いでガンガーリスの足のケガを、覚えたての回復魔法で治してやる。

『……キュキュウ⁉』

 嬉しかったのか……ガンガーリスは大きな瞳をキラキラさせ、自分の体より大きな尻尾をぷりぷりとさせている。
 可愛いなぁ……ガンガーリス。
 こんな近くで見たのは初めてだ。大きさは一メートルくらいか?
 こんな可愛い魔獣を討伐することが出来る奴なんているのか? それ程にその姿は可愛かった。
 優しくガンガーリスの頭を撫でていると、ふいに腹のポケットに手を入れ何かを出してきた。

「これは⁉」
『キュキュウー!』

 ガンガーリスは謎の果物を俺に手渡してきた。


【レインボーマスカット】
 ランク S
 七つの味をもつ不思議なマスカット。一粒一粒味が違う。粒の大きさは五センチから十センチと大きい。
 粒により魔力が増えたり、体力が上がったり、力が強くなったり……何が起こるのかは食べてみないと分からない。


 何この珍しい果実は……こんなの初めて知った。手渡された果実をどうしたらいいか分からず、ガンガーリスを見る。

『キュッキュウ♪』

 言葉は分からないが、それはまるでこれをもらってくれと言っているようだった。

「えっ……いいのか? こんなレアな果物貰って?」
『キュウウ♪』

 そうだと言わんばかりに、ガンガーリスは頭を上下に振った。

「そっか、ありがとうな」

 俺は嬉しくってガンガーリスの頭を再び撫でた。

『キュ……キュウ』
「あっ、そうだ! これをお礼にあげるよ!」

 俺は作り置きのトウカパイをお返しに渡した。

『キュウキュキュウ!』

 ガンガーリスは瞳をウルウルさせ、大きな尻尾を左右にぷりぷり揺らしながら喜んでいる。

『ティーゴ! 何だそれは?』

 甘い匂いに気付いたスバルが飛んで来た。スバルは食べ物には目敏いからな。

『キュ‼』
「あっ!」

 スバルにビックリして、ガンガーリスが森の奥に走って行ってしまった。
 小鳥姿なのに本当の強さが分かるんだな。

「スバル! これは新作のトウカパイだよ。食べるか?」
『もちろんだぜ!』

 スバルが一口でかぶりつく。

『なっ何て……ジューシーなパイなんだ⁉ 口の中が甘いジュースでおぼれそうだ! くそう……コイツめ、俺を溺れさせてどーするつもりだ!』
「ブッ……!」

 スバルよ、溺れさせるつもりはないからな。
 それはただのトウカパイだ。相変わらずスバルの感想は面白い……ププッ。

『あっ! ズルいのだ! スバルだけパイ食べてる!』

 銀太も走って来た。

「みんなの分もちゃんとまだまだ沢山あるから……なっ?」

 俺は銀太にもトウカパイを渡す。
 みんなでパイを食べていると、熱い視線を感じる。
 ん……あれは?
 さっきのガンガーリスが、今度は仲間を連れて遠くからこっちを見ている……お腹のポケットから、レインボーマスカットをチラチラ見せて。
 何アイツ等! 可愛過ぎるだろ。
 そうか、トウカパイと交換して欲しいんだな。
 茂みに隠れて様子を窺っているガンガーリスに、トウカパイを渡しに行く。
 俺が近付くとガンガーリス達は一斉に尻尾をぷりぷりし、ポケットからレインボーマスカットを出してきた。
 俺は順番にトウカパイを渡して、レインボーマスカットを貰う。

『キュキュウ‼』

 交換が終わるとガンガーリス達は、大きな尻尾をぷりぷりしながら、嬉しそうに森の奥に帰って行った。
 ガンガーリス、可愛いな……。
 しかし困ったぞ。手持ちのトウカパイが全部なくなってしまった。
 絶対……アイツ等、納得しないぞ。
 これは……もう一度トウカパイを焼くしかないな。
 そのついでに何かご飯も作るか。

 ★ ★ ★

 追加で焼いたトウカパイとご飯を食べて、俺達はまた出発した。
 それにしても聖獣達は本当によく食べるなぁ。買ってもすぐに食材がなくなる。
 今回はもう小麦粉がなくなってしまった。セロデバスコでは小麦粉を大量に買わないとだな!

『ティーゴ! こっちに来てみろ! セロデバスコの街がよく見えるぜ?』

 スバルが小高い山になっている所から俺を呼ぶ。

「なんだ?」

 スバルの居る所に走って行くと、その場所からはセロデバスコの街の全景が見えた。

「うわぁ……凄い!」
『なっ? 絶景だろ?』

 上から見下ろしたセロデバスコの街は、中央に数百メートルはある大きな穴がポッカリと空いていて、その周辺にいくつもの家が建っていた。
 穴の中には細長い橋が、上にも下にも架けられていて、下にいくと小さな横穴が沢山空いていた。

「穴だらけだな。こんな街があるんだな……鉱山の街だからか」
『ほんとだな、穴ボコだらけだな』
「いい景色が見れて良かったよ! 教えてくれてありがとうな。スバル!」

 スバルの頭をヨシヨシと何度も撫でる。

『ティーゴが嬉しいんなら……良かったよ』

 スバルは照れ臭そうに、銀太の所に飛んで行った。クスッ。

「よーしっ! セロデバスコの街に行くぞ」


 街に近付くにつれ、大きな石造りの門が見えてくる。セロデバスコの街に着いたんだな。
 門の入り口には、大きな馬車を引いた商人らしき人達が沢山並んでいる。

『早く行こうぜっ!』

 スバルが門に向かって飛んで行く。

「あっ、スバル待ってくれよ!」

 俺達がスバルを追いかけ門まで走って行くと……。

「……やっぱりな」

 沢山居たはずの商人達は、銀太を見て悲鳴を上げて散り散りに逃げて行く……周りには門番以外の人が居なくなった。

「はわっフェフェ……フェンリルだっ⁉」

 門番さんも気絶寸前だ。

「あの! 受付してもらえますか?」

 俺は冒険者証を見せる。

「あっ……ははい! 失礼しました!」
「ティーゴ殿! セロデバスコの街へようこそ、どうぞお入りください!」

 門番の人は震えながらも道を開けてくれ、俺達はワクワクしながらセロデバスコの街に入った。
 ん……何だろう……? 街に入ると違和感が……。
 いつもなら銀太の姿を怖がられたり、逆にモフモフにウットリされたり……と初めて街に入った時は、街の人達から何らかの反応があるのに。
 誰も俺達のことなど見ていない?
 何だ……? 街に活気がない……みんなうつろな目をして歩いている。
 人もそんなに歩いていないし。

「なぁ? 何かこの街……変じゃないか?」
『ふうむ? 確かに我のカッコいいマントを見ている奴がおらんのう』

 銀太から見当違いの返事がくる。
 いやいや銀太? マントじゃなくて……みんなは銀太を見てるんだよ?

『そうね……いつもなら私達をウットリしながら見ている人間が居るのに』

 三号? 凄い自信だな。確かに人化した姿は美人だけど……。
 今まで行った街、ルクセンベルクでもニューバウンでもこんなことはなかった。
 みんなもっと活気に満ち、楽しそうだった。
 そうだ! 冒険者ギルドに行けば何か分かるかもしれない。

「みんな? 冒険者ギルドでこの街について話を聞こうと思うんだけど、いいかな?」
『いいぜ俺は! ならギルドを探すか』

 そう言うとスバルは飛んで行った。

『あー……スバル、飛んで行ったわね。じゃあ、私達も冒険者ギルドを探しましょ?』

 三号の言葉に頷き、みんなで冒険者ギルドを探しながら街を歩いて行くと、数分もしないうちにスバルが戻って来た。

『おーい。見つけたぜっ! ついて来いよな?』

 スバルが早速冒険者ギルドを見つけたみたいだ。俺達はスバルの後をついて行く。

『ここが冒険者ギルドだ!』

 セロデバスコの冒険者ギルドは、石のブロックを積み重ねて出来た、重厚で大きな建物だった。

「よし……入るか!」

 木で出来た大きな観音開きの扉をガチャッと押し開け中に入ると、街の様子とは打って変わり、冒険者ギルド内は活気に満ち溢れ、賑わっていた。
 俺達の噂も冒険者の間では有名になり、ギルドで銀太を見てもビックリする奴が少なくなってきた。
 とりあえず受付に行こうとキョロキョロしていると、俺達に向かって一目散に走ってくる人が居る。

「すみませーん!」

 声をかけてきたのはギルド職員のお姉さんだった。

「ティーゴ様ですよね? 奥に案内しますのでついて来てください!」

 俺達はお姉さんの後をついて行くと、二階にある一室に案内される。

「この部屋で少しの間待っていてくださいね。ギルドマスターを呼んできます!」

 案内された部屋のソファに座り、ギルドマスターを待つことに。

『なぁ……この街は何が美味いんだろうな? 美味い甘味かんみがあるかなぁ』
『じゅるり……ではどんな甘味が出るのかのう……楽しみだのう』

 スバルと銀太が甘味の話をしている。でもな? このギルドで甘味を貰えるかどーかは、まだ分かんないよ?
 部屋の扉が豪快に開き、一人の女性が入って来た。

「お待たせしたね! セロデバスコのギルマスのアメリアだ。よろしく頼むよ」

 セロデバスコのギルマスは女性か!
 燃えるような赤く長い髪に、筋肉の付いた引き締まった体! 凛々りりしい女性だ。

「ティーゴです! よろしく」
「ティーゴ、この街はどうだ?」

 アメリアさんが街について聞いてきた。ちょうど良いので、俺は思ったことを話す。

「正直な話……今まで行った街の中で、一番活気がないと言うか……街の人達も元気がないように思えて」
「ティーゴもそう思うか! この街はな? 二年前に新しく領主になった奴のせいで、街が死んでしまったんだ」
「街が死んでしまった……?」

 ギルマスは何を言ってるんだ?

「そうさ、前領主様は良い人だった……この街がどうしたら良くなるか、いつも考えてくれる人だった。なのに突然、領主様が亡くなった。すると数日後に今の領主が現れたんだ」
「えっ……そんな急に?」
「ああ……街のみんなは、今の領主が前領主様を殺したんじゃないか? って思ってるよ。でも証拠がない」
「そんな……!」
「そして今の領主は税金を釣り上げ、払えなければ家も何もかも奪っていく。それが嫌で他の街に行こうとすると、金貨三百枚を支払わなければ、街から出ることも許さないと言いやがったんだ……そんな金! 用意出来る訳ないじゃないか! この街のみんなは生きていくだけで精一杯なのに!」

 アメリアさんが顔をしかめ、机をドンっと叩く。

「酷過ぎる……だから街の人達はみんな、生気のない顔をしていたんだ」

 何なんだ……この胸糞むなくそ悪い話は。
 領主ってのは、街の人達のことを考えて行動するんじゃねーのかよ!

「この街の中心にある大きな穴の下の方に、横穴が沢山あっただろう? あそこには住む所がなくなった人達が住んでいるんだ。子供達だけで住んでいる横穴も沢山ある。この街にスラムが出来てしまったんだ」

 あの横穴は家だったのか……。

「スラムを作るような酷い領主をどうにか出来ないのか?」
「私達冒険者ギルドは、街とは別の組織だからね。冒険者ギルドは国王様が取り仕切って運営しているが、セロデバスコの街は領主が仕切っているんだ。一度話をしに行ったが、お前達ギルドは街の運営とは関係ない! の一点張りで話にならなかった……」

 ニューバウンの領主様は素敵な人だった。街の人達を思いやり、常に気にしていた。
 それなのに、何でそんな酷い奴が領主になれるんだ! おかしいよ!
 俺は久しぶりに悶々もんもんと嫌な気持ちになった……。
 部屋がノックされ、ギルドのお姉さんが入ってくる。

「失礼します。お茶菓子をどうぞ」
「まっ、気を取り直してこれでも食べて? この菓子は最近セロデバスコの名物になってるのよ?」

 ギルドのお姉さんが、不思議な食べ物を持って来てくれた。
 丸くて……茶色い。
 アメリアさんは名物だと言うが……どんな味がするのだろう。

『何じゃ? 甘味か? 我も欲しいのだ!』

 ギルドのお姉さんが、急いで銀太達にも持って来てくれた。
 銀太め……絶対これを待ってたな。
 噛み締めるとパリッと良い音が弾ける。

『ほう……硬い甘味か。初めて食べるがこれはこれで美味いのう』
『どれ? こっ……これは⁉ 甘さの中に塩っ気があり……こんな食べ物もあったのか。これは……甘ジョッパイのハーモニーだ!』

 スバルよ……。
 甘ジョッパイのハーモニーって何だ?
 確かに噛み締めると硬いんだが、癖になる。不思議な食べ物だな。スバルの言う通り、甘いんだけど塩気もあり……ついつい食べてしまう。

「ほう……硬い甘味じゃと? どれっ、パリッ……ふむ! これは面白いのじゃ! 中々。もう一枚。パリッ……ふむ。これは! やめられんのじゃ!」

 大人しく寝ていたパールが急に起きて来て、甘味を頬張っている。相変わらずの食いしん坊だな。
 喋るか食べるか、どっちかにしたらどうだ?

『ティアはちょっと苦手なの! 硬いのよりふわふわがいいの!』
『私もティーゴのパイの方が好きね。味は美味しいけど硬いのはね』

 ティアと三号はあんまりか……みんな、それぞれ好みが出てきたな。
 俺達の反応を笑って見ていたアメリアさんが言う。

「不思議でしょう? これは【ざらめ焼き】って言って、米で出来ているの」
「米……? ですか。初めて聞きました」
「でしょうね? 米を知らない人は多いと思うわ。ここセロデバスコでは、この米が沢山収穫出来るのよ。米は私達の主食でもあるのよ」
「お菓子にもなり、主食にもなるなんて……小麦みたいですね」
「そうね。でもこの街では小麦粉は高価で、中々庶民には手が出ないけどね」
「えっ……小麦粉が高い?」
「セロデバスコでは小麦が育ちにくいのよ。その代わりに米がよく育つの。だから米が主食ってわけ」
「なるほど!」
「それでね? 何で特産品を作ったかと言うと、元気で若い男達はみんな鉱山で働いている。でもその儲けのほとんどを領主が持っていく。だから女だけで何か特産品を作って、少しでもお金を稼ごうと考えて出来たのがこの……ざらめ焼きなの!」

 前向きだな。俺に出来ることがあるなら何か協力したい。領主はクズだけど!

「この街に居る間は何でも協力するから言ってくれよ?」
「ティーゴ! ありがとう。その気持ちが嬉しいよ」


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