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4巻
4-3
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2 銀太の特訓
翌朝、異空間から出た俺は、パールを見送った。
「気を付けてな? 無茶すんなよ」
「誰に言うておる? ワシはパール様じゃぞ?」
「ハハッ……そうだけど」
パール様だからだよ。分かってる? 何においても桁違いに凄過ぎるからな……程々に力を使ってくれよ?
「ではの? 三日以内には帰って来るのじゃ!」
こうして、パールはベヒーモスを探しに旅立った。
パールと一緒にスバルと一号もついて行った。アイツ等はパールが大好きだからな。
俺と銀太とティアは予定通り、ドラゴン渓谷を目指し、先に進むことにした。残りのメンバーは異空間で好きなことをするらしい。
「キラ? 本当に歩いて行くのか?」
二号がドラゴン渓谷に行ったことがあるらしく、転移魔法ですぐに連れて行ってくれると言ってくれたんだけど……
『んだ……オデ、道を覚えたい……時間、かかってもいい』
「そうか? なら……道覚えながら歩いて行くか!」
『ティーゴは……迷惑、ない? オデに、付き合って』
「何度も言わせんなよ! 俺達は友達だろ? キラのことを迷惑だとか思ったことないよ。それにドラゴン渓谷には初めて行くからな……楽しみなんだ」
『オデ……友達……』
「ん? どした?」
『オデ……うれしい』
「そうか」
二号やキラが言うところによると、ドラゴン渓谷に辿り着くには、大きな山を二つ越え、その先にある大きな川を渡らなければならないらしい……道のりは長い!
行ったことのない場所に行くのは楽しみだけどな!
念のため、ドラゴン渓谷の場所を地図でも確認してみるが……何処にも載ってない……。
こういうケースは経験済みだ。エルフの里と同じく、知られていない秘境ってことか。
ドラゴン渓谷。ますます行くのが楽しみになってきた!
とりあえずは、目指すは山か。二号が教えてくれたその山の麓には小さな村がある、というのが地図で分かる。今日は村までを目標に進むとするか。
そんなわけで、俺達は麓にある村を目指し、ひたすら街道を歩いて行く。
「山の麓までは、街道をまっすぐ歩くだけだから分かりやすいな」
『うん……一本道、オデ、間違えない!』
「キラには大きな翼があるだろ? 空は飛ばないのか?」
『オデ……飛べない……』
「そっそうか!」
飛べないドラゴンとか居るのか! まずいこと言っちゃったかな。
『飛べないなら! 何故練習せぬ? 我には努力を怠っておるようにしか思えぬ!』
銀太が努力しないのはダメだと怒る。確かにそれも間違ってはいないんだが……。
「ぎっ、銀太! もしかしたら何か事情があるかもしれないだろ?」
『我は努力せぬ奴は好かぬ!』
『オデ……銀太の言うとおり……落ちるの、怖くて、飛ぶ練習、してない……オデ……情けない』
銀太に怒られて落ち込むどころか、やる気を出すキラ。もしかしたら、こんなことを言ってくれる奴が周りに居なかったのかもな。
「キラ……」
『オデ、銀太に、嫌われたくない……オデ、飛べる、練習する』
『そうなのだ! その気持ちが大切なのだ。ようし、我が飛ぶ特訓をしてやるのだ!』
『銀太……いいのか?……オデ、頑張る!』
いやいや銀太よ? 特訓をしてやるって……お前も飛べないよな? 飛べもしない奴が、どうやって教えるんだよ!
戸惑う俺をよそに、銀太は熱っぽく言う。
『さぁ! 特訓する場所を探すのだ!』
『面白そうなの! ティアも教えてあげるの!』
特訓する場所って……?
銀太は俺を背中に乗せると、街道から少し離れた所にある岩場に軽く飛んで渡り、颯爽と登って行く。そして高さ五十メートルはある一番高い岩山にまで登ると、銀太は岩山の下で、不思議そうにこっちを見上げていたキラに声をかける。
『キラ! 早く登って来るのだ!』
『え……オデ、登る? 分かた……オデ頑張る!』
キラはワタワタしながらも、一生懸命に岩山を登って来た。
『こんな、高い岩山、オデ、ドキドキ、する……ココで、特訓するのか?』
『そうだ! キラよ、岩山の端に立つのだ!』
『あの端っこ……だな?』
キラは銀太に言われた通りに端に立つ。
『ようし!』
そう言うと、銀太はキラを突き落とした。
――ちょっ……銀太よ⁉ 何しちゃってるんだ!
ドォーーンッと爆音と地響きがうなる。キラがそのまま地面に落ちた音だ!
その直後、銀太がパーフェクトヒールの魔法を使った。
『キラよ! 怪我は治した! 早く上がって来るのだ!』
ヒィィー! 銀太の奴、鬼教官じゃないか……! 怪我は治したって言っても……落ちた恐怖は消えないぞ?
キラは大丈夫かな。トラウマになってないか?
「キラーーーーーっ! ムリすんなよーーーーっ」
俺は下に居るキラに呼びかける。
『オデ……大丈夫だ!……諦めない』
キラは再び登って来ると……また銀太に突き落とされた。怪我が回復すると……飛べなくてもキラは何度も何度も登って来る。
「……キラ」
『ほう。中々……根性あるではないか!』
キラは何十回失敗しても諦めなかった。落ちた時は、死ぬほど痛いはずなのに……弱音も吐かずに不屈の精神で立ち向かう。
そんなキラの諦めない気持ちが勝ったのか、ついに翼がふわりと広がり風を纏う。
「あっ……⁉」
『オッ、オデ……飛んでる……凄い、オデ飛べるんだ!……ふううっ……ううっ……飛ぶの、気持ちいい……銀太、ありがと……ううっ……ありがと』
『やったのだ! キラ、よく頑張ったのだ!』
『キラ凄いの! ティアは感動したの』
キラはとうとう成功した。泣きながら翼を広げ自信満々に空を飛んでいる……良かったなキラ! お前は情けなくなんかないよ!
『オデ……幸せ』
この後俺達は、みんなでキラの背中に乗り、麓の村まで乗せて行ってもらった。
3 麓の村
キラのおかげで山の麓まで一気に飛んで来られた!
銀太の鬼指導をめげずに頑張り、本当にさっきまで飛べなかったのか?と疑うほどにキラの飛行は上達した。
目の前には小さな村が見える。俺が育ったシシカ村よりも小さな村だ。
ふむふむ、地図によるとこの村に名前はないのか。山の麓にある村としか記載されていない。
村の入り口にある門や、村を囲う柵など全てがボロボロだ。
魔獣などが襲ってきたら一発でアウトだぞ? 大丈夫かこの村。それともこの辺りには魔獣が出現しないのか?
俺はこの奇妙な村が気になり、訪れてみることにした。
……おっと、勝手に決めちゃいけない。まずはみんなに相談しないとな!
一旦異空間に戻り、村に行きたいと俺は聖獣達に相談する。
『どうして我が一緒ではダメなのだ!』
「銀太は大きくて目立つからな? あんな小さな村にフェンリルが突然現れたら……村人達はパニックだよ!」
『ふぬう……でも主一人で行くのは、絶対にダメじゃ!』
銀太は心配症だな。小さな村だし、危険なんてないと思うけど。
『あっ! じゃあ私が一緒に行くわ!』
『俺もジャイ!』
『行くコブ!』
三号とハク、ロウが一緒に村に行ってくれることになった。
騒がしい奴等ばっかりで、このメンバーではちょっと不安なんだが……仕方ない。
三号達を引き連れ異空間を後にし、俺は奇妙な村の入り口へと向かう。
『ほんっとボロボロね? 人は住んでるの?』
『人の気配はあるジャイが……』
『誰も外に居ないコブ……』
ちょっと違和感を覚えながらも、俺達は入り口の門から村に入る。
ビー! ビー! ビー!
「わっ⁉」
急に耳を劈くような高音が鳴り響く。
三号は冷静に周囲を観察して言った。
『これは魔道具ね? 侵入者が入って来たら、音が鳴るようになってるみたいよ?』
「なるほど!」
ってことは……これってヤバい状況なんじゃ⁉ 俺達、侵入者ってことだよな?
ハクとロウは急いで近くの茂みに隠れたが、俺と三号は間に合わず、武装した村人達に取り囲まれた。彼らは手に鍬や鎌を持っている。
それで俺や三号と戦う気なのか? 三号の正体を知らないから仕方ないが……どう考えてもムリだろ。
村人の一人が前に出て来た。
「お前さん達だけか……? おかしいな? 魔獣にしか反応しないベルが鳴った……」
なるほど! 三号やハクとロウに反応して、鳴ったんだな。
「俺は魔物使いです! テイムした魔獣を連れているので、それに反応したんだと思います! コイツ等は何もしませんから安心してください」
俺がそう話すと、村人達はホッとしたのか一斉に鍬などを下ろす。
「はぁぁ……また魔獣が襲って来たのかと思ったぜ」
「ビックリさせんなよな……はぁ」
「私はこの村の村長パトリックです」
白髪交じりの男性が、少し前に出て挨拶してくれた。
俺はハクとロウを呼び戻して名乗る。
「こんにちは、ティーゴです! コイツ等は使い獣のハクとロウ、そして横の女性は三号です」
「ほぉ……サンゴーさんは美しいですね。こんな綺麗な人は、この歳まで生きて初めて見ましたよ!」
村長が三号をウットリと見ている。三号は美人だからな。その気持ち、分かるよ。
「もし……よろしければ私の家に来ませんか? 久しぶりに村にお客様が来てくださったのです! おもてなしさせてください。ぜひ! ぜひぜひ!」
「えっ⁉ いやっ……」
村長さんはやたら強引にグイグイと詰め寄ってくる。
そんな久しぶりに人が訪れたのか? まぁ、お茶くらいなら。
「そっ、そうですか? ありがとうございます」
俺達は村長の誘いを断り切れず、彼の家に行くことになった。
そして、そこでの村長さんの話に、俺は驚きを隠せない。
「なっ、そんなことが……⁉」
この村は一年前までは若者達で賑わっていたらしい。それが突然魔獣によるスタンピードが発生し、若者のほとんどが亡くなり、村も壊滅状態になったとのこと。酷い話だ。
「村人は私を含めて、老人や子供だけになってしまった。元気な若者達はみんな魔獣に立ち向かい殺られてしまった。生き残った者も、今は出稼ぎで街に出ているんだよ」
「そのスタンピードはどうやって収まったんですか?」
「偶然通りがかった冒険者パーティの人達が、魔獣を討伐してくれ我々は助かりました」
「そうだったんですね」
「ああ……長々と愚痴をこぼしてしまいすみません! こちらのブルーティーをどうぞ。スタンピードが起こる前は村の名物だったんですよ?」
「ブルーティー……」
貴族達の間で流行ってるって、確か誰かが言ってたな。
ああ……幼馴染のメリーだ! 貴族の真似して、ブルーティーが飲みたいから探せって言われて……探し回ったけど手に入れることが出来なくて、ブツブツ文句を言われたっけ。
はぁ……嫌なこと思い出しちゃったな。
それにしても、幻のブルーティーはこの村発祥だったのか! どんな味がするのかな?
「いただきます!」
凄くサッパリしてるのに、後からクセになるような甘さが喉を潤す……これは美味い!
「美味しいです!」
『美味いジャイ! おかわりジャイ』
『気に入ったコブ』
★ ★ ★
三号は、村長が出したブルーティーを飲んでしまったティーゴに呆れていた。
(ちょっとティーゴ? あんた何で普通に飲んでるのよ? 少しくらい疑わない訳? よく知らない人から出されたものは、神眼で見るとかしなさいよ! これ、強力な睡眠薬が入ってるじゃない! このままだと寝ちゃうわよ? ああ……ホラッ! 瞼がショボショボしてるじゃない!)
そして、ハクとロウにも怒りの視線を向ける。
(ハクとロウも、あんた達まで疑いもせずに飲んでどーすんのよ! 何おかわりしちゃってる訳? 主を守れてないわよ? はぁ……どーしよっかな? このじーさん殺っちゃってもいいけど)
「サンゴーさん? 早くブルーティーを飲んでみてください。美味しいですよ?」
ニコニコ笑いながら、毒入りティーを勧める村長。
(イラっとするわね? その笑顔。サクッと懲らしめてやりたいところだけど……。このじーさんが何の目的で、強力睡眠薬を入れたのか気になるし。ちょっと面白そーだから飲んだフリしちゃお♪ ふふふっ♪)
三号は飲んだフリをしてから、目を瞑って横になる。しばらくすると、村人達が部屋に入って来たらしい音が彼女の耳に聞こえた。
「いつまでアイツ等の言うこと聞かなくちゃダメなんだよ!」
「この娘だって可哀想だ!」
「仕方ないんだ! 村を守るためには……」
「だってこの人達は無関係じゃないか!」
「分かってる! わしだってこんなことしたくない」
「さっさと運ぶぞ!」
(何を揉めてるの? うーん……黒幕が別に居るって訳ね? ふむ。余計に分からなくなってきちゃった。とりあえず私は、今から何処かに連れて行かれる訳ね?)
そして、村人達に持ち運ばれ、三号は何処かの家に連れて来られた。
家の主らしき男が嬉しそうに言う。
「おおっ、待ってたぜ? これは極上のいい女だな! こんな美しい女がよく居たな?」
「冒険者様! もうこれで終わりにしてください! 私どもはこんなこと、もう出来ません!」
「んん~?」
「誰のお・か・げ・で、この村はスタンピードから助かったんだ? 俺達冒険者パーティ【蒼炎の轟】様だろ?」
最初に三号の存在を喜んだ男とは別に、あと二人仲間が居た。冒険者と名乗る男達に、村人が反論する。
「ですから! 言われた通りにこの一年ずっと……ブルーティーを貴方達に渡していたではないですか! その上……女を十人も用意しろって……無茶苦茶だ!」
「ガタガタうるせーな! 俺達がこの村を滅ぼすことも出来るんだぜ?」
三号が耳を澄ませていると、ガッシャーンと何かが壊れる激しい音がする。
それは冒険者が机を蹴飛ばして壊した音だった。
「ヒィッ!」
「さっさと残り九人連れて来るんだな?」
村人達は三号を置いて、冒険者達の前から去って行く。
家に残った冒険者の三人は、堪え切れないとばかりに笑い出した。
「ククッ……バカな村人達だぜ!」
「本当にな! おかげで一生働かなくて済むわ。まさかスタンピードが俺達の仕業だって知ったら……ククッ」
(えっ? スタンピードはコイツ等の仕業? 人族にそんなこと出来るの?)
三号が聞いているとも知らずに、冒険者達は上機嫌で話を続ける。
「ククッ……これも偶然見つけた狐様のおかげだな!」
すると、別の声がそれに答えた。
『オイラはキツネじゃねー! カーバンクルだ! お前達は最低だ。オイラは助けてやったのに!』
「はいはいカーバンクル様! 頼りにしてますよ~? お前はなぁ? 魔獣を操ってスタンピードを起こせばいいんだよ! それまでは大人しくしてろよな?」
『ぐうぅ……』
(なるほどね……カーバンクルを利用していたのね。大体分かったし、寝たフリも飽きたし)
大体の事情が掴めて、三号はだんだん退屈になってきた。
「それにしてもいい女だな……売るのもったいねーな?」
「俺達の女にしちまうか?」
冒険者の一人が近寄ろうとした途端、三号はムクっと突然起き上がる。
瞼を開くと、そこは家の広間。平民の家としては広めで、調度品も豪華だ。大方、村人の誰かの家を借りたのだろう。そして男達はそこそこ強そうな、しかし三号の敵ではないレベルの冒険者だった。
『どうも~、いい女です。話を聞いてたけど……あんた達、相当なクズね?』
「なっ! 何を⁉ 俺達がクズだと⁉」
「女? あんまり偉そうなこと言ってみろ? 痛い目を見るぞ?」
『痛い目? ふう~ん……例えばこんな感じ?』
次の瞬間。冒険者の一人の体が真っ二つに斬り裂かれた!
「ヒィッヒィャァァァァァ‼」
いきなり横に居た仲間の体が斬り裂かれたのだ。残りの二人は当然パニック状態に陥る。
だが三号の勢いは止まらない。
『うるさいわね? あんた達は細切れと炭になるの、どっちがいい?』
ニタリと悪魔のように微笑む三号。
「ヒイャァァァァァァ‼」
★ ★ ★
――なっ……何だ⁉
俺……確か村長さんの家で、ブルーティーを飲んでたよな? 何でこんな場所で寝てるんだ?
辺りを見渡すと、目の前には鍵の付いた鉄格子がある。
もしかして牢屋に入れられてる? 何でだ?
横には、腹を出して気持ち良さそうに寝ているジャイコブウルフ二匹の姿があった。
『……むにゃ……もう食えんジャイ……』
『……スピピ……』
「ハク、ロウ! 起きろっ! なぁ? おいってば!」
俺はハクとロウの体を思いっきり揺する。
『……ジャイ……?』
『ぬっ主様! ココは?』
やっと目を覚ました二匹がキョロキョロと不思議そうに周りを見る。
「俺達、どうやら牢屋に入れられたみたいなんだ」
『なっ! 騙されたジャイ……⁉』
『人族なんてもう信用しないコブ』
「まぁまぁ? とりあえず出ようか?」
《ウインドカッター》
俺は風魔法で鉄格子を切り裂いた。
『おおっさすが主様! 華麗なる魔法ジャイ』
「ふふ……大分上手になっただろ?」
ハクとロウが踊りながら魔法を褒めてくれる。そんなに褒められると何だかむず痒い。
「さっ、出よう!」
牢屋から出ると扉があり、それを開けると階段が……そうか、地下室に閉じ込められてたんだな。
階段を駆け上がるとまた扉があった。しかし、鍵がかかっているのか開かない。
この扉も壊すか!
《ウインドカッター》
扉がバラバラに砕け落ち、途端に辺りが明るくなる。何処かの部屋みたいだ。
目が慣れると、村長と若い男の人が、目をまん丸にしてこっちを見ているのに気付いた。
えっ! 村長の家だったのか!
「なっ⁉ 何でもう目が覚めて? 明日まで起きないはずじゃ……何で⁉」
村長が混乱してそんなことを言った。
「『何で』はこっちのセリフだよ? 何で俺達牢屋に入れられてんだよ!」
「そっそれは……」
「そ・れ・に! 三号は何処だ?」
「サンゴーさんは……」
村長は真っ青な顔をして目の焦点が定まらない。
「すっすまねえ!」
村長の横に居た若い男の人が頭を下げたその時。
ギャアァァァーーーッと悲鳴が聞こえてきた。
「なっ? 何だ⁉」
「この声は……冒険者に貸してある家からか?」
村長と若い男の人のやりとりを聞いて、俺は驚く。
「えっ? 冒険者だって? この村に冒険者が居るのか?」
「すみません! サンゴーさんを冒険者に渡してしまいました。こんなことは絶対に許されません! 今すぐに連れ戻しに行きます。殴られても絶対に連れ戻します!」
――何だって⁉ 三号を冒険者の所に置いてきただと⁉ 事情はよく分からないが、さっきの悲鳴と併せて考えると、きっと三号に手でも出したんだろう。何て恐ろしいことを……。
「大変だ! 急がないと命が危ないっ。案内してくれ!」
「サンゴーさんに何かあったら俺は死んでお詫びします!」
若い男の人はそう言ってくれたが――
いやいや……何かあるのは三号じゃなくて冒険者達な!
翌朝、異空間から出た俺は、パールを見送った。
「気を付けてな? 無茶すんなよ」
「誰に言うておる? ワシはパール様じゃぞ?」
「ハハッ……そうだけど」
パール様だからだよ。分かってる? 何においても桁違いに凄過ぎるからな……程々に力を使ってくれよ?
「ではの? 三日以内には帰って来るのじゃ!」
こうして、パールはベヒーモスを探しに旅立った。
パールと一緒にスバルと一号もついて行った。アイツ等はパールが大好きだからな。
俺と銀太とティアは予定通り、ドラゴン渓谷を目指し、先に進むことにした。残りのメンバーは異空間で好きなことをするらしい。
「キラ? 本当に歩いて行くのか?」
二号がドラゴン渓谷に行ったことがあるらしく、転移魔法ですぐに連れて行ってくれると言ってくれたんだけど……
『んだ……オデ、道を覚えたい……時間、かかってもいい』
「そうか? なら……道覚えながら歩いて行くか!」
『ティーゴは……迷惑、ない? オデに、付き合って』
「何度も言わせんなよ! 俺達は友達だろ? キラのことを迷惑だとか思ったことないよ。それにドラゴン渓谷には初めて行くからな……楽しみなんだ」
『オデ……友達……』
「ん? どした?」
『オデ……うれしい』
「そうか」
二号やキラが言うところによると、ドラゴン渓谷に辿り着くには、大きな山を二つ越え、その先にある大きな川を渡らなければならないらしい……道のりは長い!
行ったことのない場所に行くのは楽しみだけどな!
念のため、ドラゴン渓谷の場所を地図でも確認してみるが……何処にも載ってない……。
こういうケースは経験済みだ。エルフの里と同じく、知られていない秘境ってことか。
ドラゴン渓谷。ますます行くのが楽しみになってきた!
とりあえずは、目指すは山か。二号が教えてくれたその山の麓には小さな村がある、というのが地図で分かる。今日は村までを目標に進むとするか。
そんなわけで、俺達は麓にある村を目指し、ひたすら街道を歩いて行く。
「山の麓までは、街道をまっすぐ歩くだけだから分かりやすいな」
『うん……一本道、オデ、間違えない!』
「キラには大きな翼があるだろ? 空は飛ばないのか?」
『オデ……飛べない……』
「そっそうか!」
飛べないドラゴンとか居るのか! まずいこと言っちゃったかな。
『飛べないなら! 何故練習せぬ? 我には努力を怠っておるようにしか思えぬ!』
銀太が努力しないのはダメだと怒る。確かにそれも間違ってはいないんだが……。
「ぎっ、銀太! もしかしたら何か事情があるかもしれないだろ?」
『我は努力せぬ奴は好かぬ!』
『オデ……銀太の言うとおり……落ちるの、怖くて、飛ぶ練習、してない……オデ……情けない』
銀太に怒られて落ち込むどころか、やる気を出すキラ。もしかしたら、こんなことを言ってくれる奴が周りに居なかったのかもな。
「キラ……」
『オデ、銀太に、嫌われたくない……オデ、飛べる、練習する』
『そうなのだ! その気持ちが大切なのだ。ようし、我が飛ぶ特訓をしてやるのだ!』
『銀太……いいのか?……オデ、頑張る!』
いやいや銀太よ? 特訓をしてやるって……お前も飛べないよな? 飛べもしない奴が、どうやって教えるんだよ!
戸惑う俺をよそに、銀太は熱っぽく言う。
『さぁ! 特訓する場所を探すのだ!』
『面白そうなの! ティアも教えてあげるの!』
特訓する場所って……?
銀太は俺を背中に乗せると、街道から少し離れた所にある岩場に軽く飛んで渡り、颯爽と登って行く。そして高さ五十メートルはある一番高い岩山にまで登ると、銀太は岩山の下で、不思議そうにこっちを見上げていたキラに声をかける。
『キラ! 早く登って来るのだ!』
『え……オデ、登る? 分かた……オデ頑張る!』
キラはワタワタしながらも、一生懸命に岩山を登って来た。
『こんな、高い岩山、オデ、ドキドキ、する……ココで、特訓するのか?』
『そうだ! キラよ、岩山の端に立つのだ!』
『あの端っこ……だな?』
キラは銀太に言われた通りに端に立つ。
『ようし!』
そう言うと、銀太はキラを突き落とした。
――ちょっ……銀太よ⁉ 何しちゃってるんだ!
ドォーーンッと爆音と地響きがうなる。キラがそのまま地面に落ちた音だ!
その直後、銀太がパーフェクトヒールの魔法を使った。
『キラよ! 怪我は治した! 早く上がって来るのだ!』
ヒィィー! 銀太の奴、鬼教官じゃないか……! 怪我は治したって言っても……落ちた恐怖は消えないぞ?
キラは大丈夫かな。トラウマになってないか?
「キラーーーーーっ! ムリすんなよーーーーっ」
俺は下に居るキラに呼びかける。
『オデ……大丈夫だ!……諦めない』
キラは再び登って来ると……また銀太に突き落とされた。怪我が回復すると……飛べなくてもキラは何度も何度も登って来る。
「……キラ」
『ほう。中々……根性あるではないか!』
キラは何十回失敗しても諦めなかった。落ちた時は、死ぬほど痛いはずなのに……弱音も吐かずに不屈の精神で立ち向かう。
そんなキラの諦めない気持ちが勝ったのか、ついに翼がふわりと広がり風を纏う。
「あっ……⁉」
『オッ、オデ……飛んでる……凄い、オデ飛べるんだ!……ふううっ……ううっ……飛ぶの、気持ちいい……銀太、ありがと……ううっ……ありがと』
『やったのだ! キラ、よく頑張ったのだ!』
『キラ凄いの! ティアは感動したの』
キラはとうとう成功した。泣きながら翼を広げ自信満々に空を飛んでいる……良かったなキラ! お前は情けなくなんかないよ!
『オデ……幸せ』
この後俺達は、みんなでキラの背中に乗り、麓の村まで乗せて行ってもらった。
3 麓の村
キラのおかげで山の麓まで一気に飛んで来られた!
銀太の鬼指導をめげずに頑張り、本当にさっきまで飛べなかったのか?と疑うほどにキラの飛行は上達した。
目の前には小さな村が見える。俺が育ったシシカ村よりも小さな村だ。
ふむふむ、地図によるとこの村に名前はないのか。山の麓にある村としか記載されていない。
村の入り口にある門や、村を囲う柵など全てがボロボロだ。
魔獣などが襲ってきたら一発でアウトだぞ? 大丈夫かこの村。それともこの辺りには魔獣が出現しないのか?
俺はこの奇妙な村が気になり、訪れてみることにした。
……おっと、勝手に決めちゃいけない。まずはみんなに相談しないとな!
一旦異空間に戻り、村に行きたいと俺は聖獣達に相談する。
『どうして我が一緒ではダメなのだ!』
「銀太は大きくて目立つからな? あんな小さな村にフェンリルが突然現れたら……村人達はパニックだよ!」
『ふぬう……でも主一人で行くのは、絶対にダメじゃ!』
銀太は心配症だな。小さな村だし、危険なんてないと思うけど。
『あっ! じゃあ私が一緒に行くわ!』
『俺もジャイ!』
『行くコブ!』
三号とハク、ロウが一緒に村に行ってくれることになった。
騒がしい奴等ばっかりで、このメンバーではちょっと不安なんだが……仕方ない。
三号達を引き連れ異空間を後にし、俺は奇妙な村の入り口へと向かう。
『ほんっとボロボロね? 人は住んでるの?』
『人の気配はあるジャイが……』
『誰も外に居ないコブ……』
ちょっと違和感を覚えながらも、俺達は入り口の門から村に入る。
ビー! ビー! ビー!
「わっ⁉」
急に耳を劈くような高音が鳴り響く。
三号は冷静に周囲を観察して言った。
『これは魔道具ね? 侵入者が入って来たら、音が鳴るようになってるみたいよ?』
「なるほど!」
ってことは……これってヤバい状況なんじゃ⁉ 俺達、侵入者ってことだよな?
ハクとロウは急いで近くの茂みに隠れたが、俺と三号は間に合わず、武装した村人達に取り囲まれた。彼らは手に鍬や鎌を持っている。
それで俺や三号と戦う気なのか? 三号の正体を知らないから仕方ないが……どう考えてもムリだろ。
村人の一人が前に出て来た。
「お前さん達だけか……? おかしいな? 魔獣にしか反応しないベルが鳴った……」
なるほど! 三号やハクとロウに反応して、鳴ったんだな。
「俺は魔物使いです! テイムした魔獣を連れているので、それに反応したんだと思います! コイツ等は何もしませんから安心してください」
俺がそう話すと、村人達はホッとしたのか一斉に鍬などを下ろす。
「はぁぁ……また魔獣が襲って来たのかと思ったぜ」
「ビックリさせんなよな……はぁ」
「私はこの村の村長パトリックです」
白髪交じりの男性が、少し前に出て挨拶してくれた。
俺はハクとロウを呼び戻して名乗る。
「こんにちは、ティーゴです! コイツ等は使い獣のハクとロウ、そして横の女性は三号です」
「ほぉ……サンゴーさんは美しいですね。こんな綺麗な人は、この歳まで生きて初めて見ましたよ!」
村長が三号をウットリと見ている。三号は美人だからな。その気持ち、分かるよ。
「もし……よろしければ私の家に来ませんか? 久しぶりに村にお客様が来てくださったのです! おもてなしさせてください。ぜひ! ぜひぜひ!」
「えっ⁉ いやっ……」
村長さんはやたら強引にグイグイと詰め寄ってくる。
そんな久しぶりに人が訪れたのか? まぁ、お茶くらいなら。
「そっ、そうですか? ありがとうございます」
俺達は村長の誘いを断り切れず、彼の家に行くことになった。
そして、そこでの村長さんの話に、俺は驚きを隠せない。
「なっ、そんなことが……⁉」
この村は一年前までは若者達で賑わっていたらしい。それが突然魔獣によるスタンピードが発生し、若者のほとんどが亡くなり、村も壊滅状態になったとのこと。酷い話だ。
「村人は私を含めて、老人や子供だけになってしまった。元気な若者達はみんな魔獣に立ち向かい殺られてしまった。生き残った者も、今は出稼ぎで街に出ているんだよ」
「そのスタンピードはどうやって収まったんですか?」
「偶然通りがかった冒険者パーティの人達が、魔獣を討伐してくれ我々は助かりました」
「そうだったんですね」
「ああ……長々と愚痴をこぼしてしまいすみません! こちらのブルーティーをどうぞ。スタンピードが起こる前は村の名物だったんですよ?」
「ブルーティー……」
貴族達の間で流行ってるって、確か誰かが言ってたな。
ああ……幼馴染のメリーだ! 貴族の真似して、ブルーティーが飲みたいから探せって言われて……探し回ったけど手に入れることが出来なくて、ブツブツ文句を言われたっけ。
はぁ……嫌なこと思い出しちゃったな。
それにしても、幻のブルーティーはこの村発祥だったのか! どんな味がするのかな?
「いただきます!」
凄くサッパリしてるのに、後からクセになるような甘さが喉を潤す……これは美味い!
「美味しいです!」
『美味いジャイ! おかわりジャイ』
『気に入ったコブ』
★ ★ ★
三号は、村長が出したブルーティーを飲んでしまったティーゴに呆れていた。
(ちょっとティーゴ? あんた何で普通に飲んでるのよ? 少しくらい疑わない訳? よく知らない人から出されたものは、神眼で見るとかしなさいよ! これ、強力な睡眠薬が入ってるじゃない! このままだと寝ちゃうわよ? ああ……ホラッ! 瞼がショボショボしてるじゃない!)
そして、ハクとロウにも怒りの視線を向ける。
(ハクとロウも、あんた達まで疑いもせずに飲んでどーすんのよ! 何おかわりしちゃってる訳? 主を守れてないわよ? はぁ……どーしよっかな? このじーさん殺っちゃってもいいけど)
「サンゴーさん? 早くブルーティーを飲んでみてください。美味しいですよ?」
ニコニコ笑いながら、毒入りティーを勧める村長。
(イラっとするわね? その笑顔。サクッと懲らしめてやりたいところだけど……。このじーさんが何の目的で、強力睡眠薬を入れたのか気になるし。ちょっと面白そーだから飲んだフリしちゃお♪ ふふふっ♪)
三号は飲んだフリをしてから、目を瞑って横になる。しばらくすると、村人達が部屋に入って来たらしい音が彼女の耳に聞こえた。
「いつまでアイツ等の言うこと聞かなくちゃダメなんだよ!」
「この娘だって可哀想だ!」
「仕方ないんだ! 村を守るためには……」
「だってこの人達は無関係じゃないか!」
「分かってる! わしだってこんなことしたくない」
「さっさと運ぶぞ!」
(何を揉めてるの? うーん……黒幕が別に居るって訳ね? ふむ。余計に分からなくなってきちゃった。とりあえず私は、今から何処かに連れて行かれる訳ね?)
そして、村人達に持ち運ばれ、三号は何処かの家に連れて来られた。
家の主らしき男が嬉しそうに言う。
「おおっ、待ってたぜ? これは極上のいい女だな! こんな美しい女がよく居たな?」
「冒険者様! もうこれで終わりにしてください! 私どもはこんなこと、もう出来ません!」
「んん~?」
「誰のお・か・げ・で、この村はスタンピードから助かったんだ? 俺達冒険者パーティ【蒼炎の轟】様だろ?」
最初に三号の存在を喜んだ男とは別に、あと二人仲間が居た。冒険者と名乗る男達に、村人が反論する。
「ですから! 言われた通りにこの一年ずっと……ブルーティーを貴方達に渡していたではないですか! その上……女を十人も用意しろって……無茶苦茶だ!」
「ガタガタうるせーな! 俺達がこの村を滅ぼすことも出来るんだぜ?」
三号が耳を澄ませていると、ガッシャーンと何かが壊れる激しい音がする。
それは冒険者が机を蹴飛ばして壊した音だった。
「ヒィッ!」
「さっさと残り九人連れて来るんだな?」
村人達は三号を置いて、冒険者達の前から去って行く。
家に残った冒険者の三人は、堪え切れないとばかりに笑い出した。
「ククッ……バカな村人達だぜ!」
「本当にな! おかげで一生働かなくて済むわ。まさかスタンピードが俺達の仕業だって知ったら……ククッ」
(えっ? スタンピードはコイツ等の仕業? 人族にそんなこと出来るの?)
三号が聞いているとも知らずに、冒険者達は上機嫌で話を続ける。
「ククッ……これも偶然見つけた狐様のおかげだな!」
すると、別の声がそれに答えた。
『オイラはキツネじゃねー! カーバンクルだ! お前達は最低だ。オイラは助けてやったのに!』
「はいはいカーバンクル様! 頼りにしてますよ~? お前はなぁ? 魔獣を操ってスタンピードを起こせばいいんだよ! それまでは大人しくしてろよな?」
『ぐうぅ……』
(なるほどね……カーバンクルを利用していたのね。大体分かったし、寝たフリも飽きたし)
大体の事情が掴めて、三号はだんだん退屈になってきた。
「それにしてもいい女だな……売るのもったいねーな?」
「俺達の女にしちまうか?」
冒険者の一人が近寄ろうとした途端、三号はムクっと突然起き上がる。
瞼を開くと、そこは家の広間。平民の家としては広めで、調度品も豪華だ。大方、村人の誰かの家を借りたのだろう。そして男達はそこそこ強そうな、しかし三号の敵ではないレベルの冒険者だった。
『どうも~、いい女です。話を聞いてたけど……あんた達、相当なクズね?』
「なっ! 何を⁉ 俺達がクズだと⁉」
「女? あんまり偉そうなこと言ってみろ? 痛い目を見るぞ?」
『痛い目? ふう~ん……例えばこんな感じ?』
次の瞬間。冒険者の一人の体が真っ二つに斬り裂かれた!
「ヒィッヒィャァァァァァ‼」
いきなり横に居た仲間の体が斬り裂かれたのだ。残りの二人は当然パニック状態に陥る。
だが三号の勢いは止まらない。
『うるさいわね? あんた達は細切れと炭になるの、どっちがいい?』
ニタリと悪魔のように微笑む三号。
「ヒイャァァァァァァ‼」
★ ★ ★
――なっ……何だ⁉
俺……確か村長さんの家で、ブルーティーを飲んでたよな? 何でこんな場所で寝てるんだ?
辺りを見渡すと、目の前には鍵の付いた鉄格子がある。
もしかして牢屋に入れられてる? 何でだ?
横には、腹を出して気持ち良さそうに寝ているジャイコブウルフ二匹の姿があった。
『……むにゃ……もう食えんジャイ……』
『……スピピ……』
「ハク、ロウ! 起きろっ! なぁ? おいってば!」
俺はハクとロウの体を思いっきり揺する。
『……ジャイ……?』
『ぬっ主様! ココは?』
やっと目を覚ました二匹がキョロキョロと不思議そうに周りを見る。
「俺達、どうやら牢屋に入れられたみたいなんだ」
『なっ! 騙されたジャイ……⁉』
『人族なんてもう信用しないコブ』
「まぁまぁ? とりあえず出ようか?」
《ウインドカッター》
俺は風魔法で鉄格子を切り裂いた。
『おおっさすが主様! 華麗なる魔法ジャイ』
「ふふ……大分上手になっただろ?」
ハクとロウが踊りながら魔法を褒めてくれる。そんなに褒められると何だかむず痒い。
「さっ、出よう!」
牢屋から出ると扉があり、それを開けると階段が……そうか、地下室に閉じ込められてたんだな。
階段を駆け上がるとまた扉があった。しかし、鍵がかかっているのか開かない。
この扉も壊すか!
《ウインドカッター》
扉がバラバラに砕け落ち、途端に辺りが明るくなる。何処かの部屋みたいだ。
目が慣れると、村長と若い男の人が、目をまん丸にしてこっちを見ているのに気付いた。
えっ! 村長の家だったのか!
「なっ⁉ 何でもう目が覚めて? 明日まで起きないはずじゃ……何で⁉」
村長が混乱してそんなことを言った。
「『何で』はこっちのセリフだよ? 何で俺達牢屋に入れられてんだよ!」
「そっそれは……」
「そ・れ・に! 三号は何処だ?」
「サンゴーさんは……」
村長は真っ青な顔をして目の焦点が定まらない。
「すっすまねえ!」
村長の横に居た若い男の人が頭を下げたその時。
ギャアァァァーーーッと悲鳴が聞こえてきた。
「なっ? 何だ⁉」
「この声は……冒険者に貸してある家からか?」
村長と若い男の人のやりとりを聞いて、俺は驚く。
「えっ? 冒険者だって? この村に冒険者が居るのか?」
「すみません! サンゴーさんを冒険者に渡してしまいました。こんなことは絶対に許されません! 今すぐに連れ戻しに行きます。殴られても絶対に連れ戻します!」
――何だって⁉ 三号を冒険者の所に置いてきただと⁉ 事情はよく分からないが、さっきの悲鳴と併せて考えると、きっと三号に手でも出したんだろう。何て恐ろしいことを……。
「大変だ! 急がないと命が危ないっ。案内してくれ!」
「サンゴーさんに何かあったら俺は死んでお詫びします!」
若い男の人はそう言ってくれたが――
いやいや……何かあるのは三号じゃなくて冒険者達な!
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