秘密を隠した護衛騎士は、お嬢様への溺愛を抑えきれない

はるみさ

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第一章

5.

 「セドリックに……?」

 窓の外にいるセドリックから、なんだか目が離せない。

 彼に触れるのって……あの手に触れられるのって……どんな感じなんだろう。

 窓の外のセドリックは、サラサラの短い髪を風に揺らしていた。彼の髪はどんな感触だろうか? きっと柔らかいその髪色と同じように優しい手触りなんだろうな……。私が触れたら、どんな顔をするんだろう?

 セドリックに、触れてみたいな……

 そこまで考えて、私はハッとして、セドリックから目を逸らした。

 わ、私、今何考えてた……? 変な目でセドリックを見てしまったことがなんだか申し訳なくて、下を向き、唇をキュッと噛み締めた。
 頬が熱くて、息が詰まりそう……

 「嫌なの?」

 思わず顔を上げると、コーデリアが真っ直ぐに私を見つめていた。
 私は首を横に振った。

 「嫌じゃない、嫌じゃないよ。だけど……よく、わからないの。ずっと男性を避けてきたから……」

 「でも、このままじゃ良くないって思うんでしょう?」

 私は、小さく頷いた。

 このままだとまともな結婚は望めないし、結婚できなければ爵位継承もできない。いつまでも爵位継承出来なければ、領民のみんなに迷惑かけてしまうもの。

 「じゃあ、男性に慣れる間だけでも、協力してもらえばいいじゃない」

 コーデリアが何てことないかのように言う。一瞬、いつもと違う顔のセドリックが私の頬に手を伸ばす想像をしてしまい、私は慌てて顔を覆った。

 「そんなことできないよ! セドリックは護衛で、私は護衛対象だもの。それにきっとかっこいいセドリックのことだもの、私の見えないところではたくさんの可愛い女の子と遊んでいると思うの。それなのに私なんかに触れたくないと思うし――」

 「アメリア」

 コーデリアがいつもと違う低い声で私の名を呼び、私の肩はびくっと跳ねた。

 「私、あなたの控えめな性格も、相手の気持ちを思いやる優しいところも大好きよ。可愛くて優しい自慢の親友なの。だからね……『私なんか』なんて、言わないでほしい」

 「あ……。うん……良くなかったね、私」

 「ううん、私も少し熱くなっちゃった、ごめんね。私、アメリアが大好きすぎるのよね」

 「ありがとう……」

 えへへっと彼女はお茶目に笑った。大人の女性のようになったり、少女のように無邪気になったり、本当にコーデリアは魅力的だ。

 それに比べて、私はいつまで経っても自信が持てない。
 誰かが、特に男性が私を愛してくれる想像なんてできもしない。

 ……こんな自分が大嫌い。

 その時、コーデリアがコホンと一つ咳払いをした。

 「それにね、どうかセドリックのこと、勘違いしないであげて。軽薄そうに見えて、一途なのよ」

 一途? 時々遊びに出ていくことはあっても、誰かに夢中になっている素振りなんて見たことなかったけど……。私は少し緊張しながら尋ねた。

 「もしかして、セドリックには好きな人がいるの? それなら、尚更――」

 「違うの!」

 頼むことなんて出来ないと言おうとしたのに、コーデリアが前のめりに否定する。

 「違うの?」

 「えーっとぉ、職務に一途ってことよ」

 コーデリアの声は、優しく穏やかだった。

 「そう、なんだ……」

 どこかほっとしてしまう自分がいた。セドリックは、ただの護衛であって、それ以上なんかじゃないのに、ちょっとした独占欲があったみたいで、少し恥ずかしく思う。

 「そうよ。だから、今回の件も頼めば協力してくれるはず。
 万が一断られそうになったら、そうねぇ……『レイン様に頼む』って言えばいいわ」

 なんでこのタイミングでレインお従兄様の名前が出てくるのだろう? 私は不思議で首をわずかに傾けた。

 「お従兄様に……? どうして?」

 「まぁ、とにかくそう言っておけば引き受けてもらえるはずだから」

 コーデリアは、詳しくは教えてくれなかったが、きっと彼女が言うのであればその通りなんだろう。セドリックのことは、私よりコーデリアの方がずっと詳しいから。

 「わかった……」

 現状を変えたい。でも、私にできるだろうか?
 握りしめた手のひらがじんわりと汗ばんでいる。不安が滲み出てきたようで、静かに胸を締めつけた。

 不安が隠しきれない私は、無意識のうちにかなり強く拳を握っていたらしい。コーデリアが私の拳をゆっくりと開いて、手を繋いでくれる。

 顔を上げると、コーデリアの優しい瞳と目が合った。

 「あのね、無理強いしたいわけじゃないからね。私は今のままのアメリアも大好きだけど、何かを変えたいと思うなら少しだけ勇気を出してみて。
 ずっと前から……ううん、初めて会った時から私も、セドリックも、アメリアの力になりたいと思ってるんだから」

 コーデリアの言葉が嬉しくて、視界がじんわりと滲んだ。

 初めて会ったあの日から二人は、ずっと変わらない。
 ずっとずっと、二人は私のヒーローだった。




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