秘密を隠した護衛騎士は、お嬢様への溺愛を抑えきれない

はるみさ

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第一章

6.

 コーデリア、そしてセドリックと知り合ったのは、貴族学園に通い始めて、一年が経とうとしていた頃だった。

 その頃の私は、学園内に友人もいなくて、ひたすらに勉学に励んでいた。学園入学直後に、家を取り仕切っていた母を、流行り病で亡くし、とにかく私が頑張らなければと常に気を張っていたのだ。

 元々奥手な性格もあり、積極的に人の輪に入れなかった私は、一人でいる方が勉強が捗る――そう言い訳をして、自分の世界に閉じこもるようになっていたのだ。

 その日は、騎士科と、私が通う領地経営科の合同授業だった。

 騎士科は護衛をしている際の立ち居振る舞いを学ぶため、領地経営科は護衛をされる際の立ち位置などを学ぶという趣旨だった。

 普段の授業では、他科との交流はほぼないため、領地経営科の女子はほとんどが浮き足だっていたと思う。

 領地経営科の女子は、ほとんどが家を継ぐことが決まっていて、婿を求めており、貴族の次男や三男が多く所属する騎士科の生徒はその条件に当てはまる者が多かったからだ。学生時代の縁から、結婚に至る場合も多く、この合同授業は婚活の前哨戦といっても過言ではなかった。

 しかし、色めき立つ同級生の中で一人、私は朝から憂鬱で仕方なかった。授業内にエスコートを受ける練習をすると聞いたから。

 護衛されるだけならともかく、エスコートされるとなると、どうしても相手に触れなくてはならない。男性が苦手なのに……

 想像しただけでも具合が悪くなりそうな私をよそに、授業前から誰に相手役をお願いするか、教室内はざわめいていた。

 その中でも、『オルドレイク男爵令息』と呼ばれる、騎士科随一の実力者の名が、何度も聞こえてきた。
 通常、男爵令息は結婚相手の中では圧倒的に人気がないはずなのに、『今日だけでも記念に』とか、『一度だけでいいから、あの手に触れてみたい』だとか人気があるようだった。よほど見目麗しいのだろう。

 けれど、私にとってはそんなことはどうでもよかった。変に目立つだけだし、間違ってもその人に声をかけることだけは、しないようにしようと心に決めた。

 授業の予鈴が鳴った。私は、嫌な音を立て始めた胸を抑えて、授業が行われる校庭に向かった。

 授業が始まった。

 「それでは、これからエスコート練習を行う。各自速やかに、ペアを作ること」

 先生から号令がかかり、同級生の令嬢たちが一ヶ所に走り寄る。が、すぐに散らばった。

 どうやら人気の令息は、お相手が決まっていたらしい。

 私は、女性騎士を探そうとしたが、元々数も少ないせいか、気づいた時には誰一人残っていなかった。

 数人声をかけてくれる男性もいたが、喉が張り付いたように声が出ない私を見ると、呆れたように去ってしまった。

 とうとう私は自分で決めることができなくて、先生に指示をされて、余った男性と組むことになった。

 「……よ……よろしく、お願い、します」

 隣に立って、なんとか声を振り絞ったけれど、背が高いからなのか、パートナーの男性には声が届かなかったみたいだった。

 前を向くその人をチラと見る。大きな肩幅に、見上げるほどの身長。身体はゴツゴツと大きくて、手も信じられないくらい大きかった。

 ……あの手に、似てる。

 私は慌てて頭を振った。国を守ってくれる騎士候補の方を犯罪者と重ね合わせるなんて、失礼だわ。

 私は心の中でごめんなさい、と呟く。

 「じゃあ、まずは簡単なエスコートの練習からだ。騎士は手を出して、じっとしてろ。女子は、その上にそっと手を置くんだ。指先から優しく、体重はかけるなよ。騎士科の奴は、久しぶりに女子に触れるからって暴走するんじゃないぞー!」

 先生のジョークに周囲からはクスクスと笑い声が漏れる。

 けれど、私はそれどころではなかった。心臓が嫌な音を刻み、呼吸が浅くなる。

 差し出された大きな手……
 それがあの日、私を叩いた手とリンクして、手を——
 置くことができない。

 何とか動かなければと思うのに、身体が上手く動かなくて……その時、焦る私の頭上から「チッ」っと音がした。舌打ちだった。

 怖い。もう、無理だ。涙がこぼれそうになった次の瞬間……

 ――パシッ‼︎

 誰かが私の腕を掴んだ。




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