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第二章
5.
「あぁ! もうコーデリアたちが変なこと、言うからっ!」
私は、私室でベッドに飛び込み、足をじたばたとさせた。
コーデリアたちの前でセドリックのことをもっと知りたいと宣言したあの日、彼女たちが提案した次のステップは「セドリックとキス」というものだった。
好きかどうかさえわからないのに、キスをするなんてとんでもないと言ったのに、二人はそれが恋愛かどうか確かめるならキスが手っ取り早いなどと言ったのだ。
「好きでもない相手でも手を繋ぐことはできるけれど、どんなに頼まれたってキスはできないでしょう?」なんて言って……
二人してにやにやして、絶っ対、私をからかっていたのに違いない。
「そんなの無理だからね!」と言って、帰ってきたのだが――
正直……あの日からセドリックの唇が気になって仕方ない。
エスコートを受けている時でも、隣を歩いている時でも、こっそり窓からセドリックを見つめている時も、気づくと、形の良い、ほどよく柔らかそうな血色の良い唇を見つめてしまう。自分がとんでもない変態になってしまったような気がするし、セドリックにも本当に申し訳なく思う。
私はクッションを抱きしめて、ごろんとベッドに仰向けになった。
「はぁ……それに、さっきのすごく感じ悪かったよね……。私のばかぁ……」
つい先ほど、私は屋敷の修繕箇所を確認するべく屋敷の周りを見て回っていたのだが、途中厩舎でセドリックが騎馬の世話をしているところに通りかかった。あまりにも楽しそうだったので、邪魔しては悪いと思い、私はセドリックを遠くから見つめていた。
馬はセドリックによく懐いていた。笑顔で馬を撫でて、馬も彼に甘えるように頭を擦り付けている。
あんな風に全力で甘えられる馬が羨ましい……そんな風に思う私は、やはりどうかしてしまったのかもしれない。こんなよくわからない感情に振り回される自分に嫌気がさす。
その時、セドリックは私に気付いた。彼は馬の鼻先を頬で受け止めながら――まるで馬からキスを受けているような状態で――私に手を差し伸べつつ笑顔でこう言ったのだ。
「あ、お嬢様もどうですか?」
頭では、セドリックはキスのことなんて言っていないとわかっているはずなのに、私は咄嗟に叫んでいた。
「そんなこと、やるわけないわっ‼︎」と。
「あ……」と小さく声を漏らした後、ブラシを持ったセドリックの手がすくみ、そこでようやくブラッシングを一緒にやるかと誘われていたんだと私は理解した。
自分のダメさ加減に涙が出てきて、視界が滲む。
「ごめん」
私はそれだけ呟き、そのまま部屋まで逃げてきたのだ。
「私……何やってるんだろう」
セドリックからしたらいい迷惑だろう。
触りたいと言って、抱きついて、勝手に意識して勘違いして傷つけて……
「こんなの雇い主失格だわ……」
その時、コンコンと扉が叩かれる。でも、誰とも話したくない。私は無言で答えなかった。
「お嬢様、セドリックです」
一瞬このまま寝たふりを決め込もうかと思った。けれど……やはりそれではセドリックに失礼過ぎる。
「少し……待ってくれる?」
私は身体を起こして、涙を拭いた。鏡の前で手櫛で髪を整え、鼻を拭った。
よしっと気合を入れて、扉の前で深呼吸。
「待たせてごめんね。あの……入ってくれる?」
「え……あ、いや。私は、ここで大丈夫ですから」
一瞬戸惑う様子を見せたセドリックだったが、すぐにいつもの優しい笑みを浮かべる。
彼は、これまで一度も私の部屋に入ったことがない。護衛としての距離感をしっかり守っているからだ。でも、今はお嬢様と護衛ではなく、対等な立場でセドリックと話がしたかった。
「お願い……」
私は、セドリックの裾を掴んで、きゅっと引っ張り、震える声でお願いした。
セドリックはまた困ったように眉を下げて、部屋に入ると扉を閉めた。
私は、私室でベッドに飛び込み、足をじたばたとさせた。
コーデリアたちの前でセドリックのことをもっと知りたいと宣言したあの日、彼女たちが提案した次のステップは「セドリックとキス」というものだった。
好きかどうかさえわからないのに、キスをするなんてとんでもないと言ったのに、二人はそれが恋愛かどうか確かめるならキスが手っ取り早いなどと言ったのだ。
「好きでもない相手でも手を繋ぐことはできるけれど、どんなに頼まれたってキスはできないでしょう?」なんて言って……
二人してにやにやして、絶っ対、私をからかっていたのに違いない。
「そんなの無理だからね!」と言って、帰ってきたのだが――
正直……あの日からセドリックの唇が気になって仕方ない。
エスコートを受けている時でも、隣を歩いている時でも、こっそり窓からセドリックを見つめている時も、気づくと、形の良い、ほどよく柔らかそうな血色の良い唇を見つめてしまう。自分がとんでもない変態になってしまったような気がするし、セドリックにも本当に申し訳なく思う。
私はクッションを抱きしめて、ごろんとベッドに仰向けになった。
「はぁ……それに、さっきのすごく感じ悪かったよね……。私のばかぁ……」
つい先ほど、私は屋敷の修繕箇所を確認するべく屋敷の周りを見て回っていたのだが、途中厩舎でセドリックが騎馬の世話をしているところに通りかかった。あまりにも楽しそうだったので、邪魔しては悪いと思い、私はセドリックを遠くから見つめていた。
馬はセドリックによく懐いていた。笑顔で馬を撫でて、馬も彼に甘えるように頭を擦り付けている。
あんな風に全力で甘えられる馬が羨ましい……そんな風に思う私は、やはりどうかしてしまったのかもしれない。こんなよくわからない感情に振り回される自分に嫌気がさす。
その時、セドリックは私に気付いた。彼は馬の鼻先を頬で受け止めながら――まるで馬からキスを受けているような状態で――私に手を差し伸べつつ笑顔でこう言ったのだ。
「あ、お嬢様もどうですか?」
頭では、セドリックはキスのことなんて言っていないとわかっているはずなのに、私は咄嗟に叫んでいた。
「そんなこと、やるわけないわっ‼︎」と。
「あ……」と小さく声を漏らした後、ブラシを持ったセドリックの手がすくみ、そこでようやくブラッシングを一緒にやるかと誘われていたんだと私は理解した。
自分のダメさ加減に涙が出てきて、視界が滲む。
「ごめん」
私はそれだけ呟き、そのまま部屋まで逃げてきたのだ。
「私……何やってるんだろう」
セドリックからしたらいい迷惑だろう。
触りたいと言って、抱きついて、勝手に意識して勘違いして傷つけて……
「こんなの雇い主失格だわ……」
その時、コンコンと扉が叩かれる。でも、誰とも話したくない。私は無言で答えなかった。
「お嬢様、セドリックです」
一瞬このまま寝たふりを決め込もうかと思った。けれど……やはりそれではセドリックに失礼過ぎる。
「少し……待ってくれる?」
私は身体を起こして、涙を拭いた。鏡の前で手櫛で髪を整え、鼻を拭った。
よしっと気合を入れて、扉の前で深呼吸。
「待たせてごめんね。あの……入ってくれる?」
「え……あ、いや。私は、ここで大丈夫ですから」
一瞬戸惑う様子を見せたセドリックだったが、すぐにいつもの優しい笑みを浮かべる。
彼は、これまで一度も私の部屋に入ったことがない。護衛としての距離感をしっかり守っているからだ。でも、今はお嬢様と護衛ではなく、対等な立場でセドリックと話がしたかった。
「お願い……」
私は、セドリックの裾を掴んで、きゅっと引っ張り、震える声でお願いした。
セドリックはまた困ったように眉を下げて、部屋に入ると扉を閉めた。
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