秘密を隠した護衛騎士は、お嬢様への溺愛を抑えきれない

はるみさ

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第四章

7.

 あの後、執事長に促されて、私は部屋に戻った。
 ベッドに横になって考える。本当にこれでいいのだろうか……

 しかし、セドリックが行きたくないと言っている以上、強制はできないし、したくない。

 仕方のないことだと割り切っても、どうしても眠れなくて……私はベッドを抜け出した。

 殺風景な屋敷の廊下を歩く。
 お母様がいた頃は色々と飾られていた気がするが、いつの間にか屋敷の装飾は売り払われてしまった。
 寂しさはある。でも、この廊下を見るたびに、お父様の選んだ道を誇りに思えるから。

 その時、廊下の奥に明かりが見えた。

 「あそこは……お父様の、執務室?」

 中を覗いてみれば、執事長が執務机の斜め前に置いてある作業台で、こっくりと舟を漕いでいた。
 きっと彼のことだから、今回のことを何とかできないかと資料のあるお父様の執務室で調べていたんだろう。

 相変わらずお父様の部屋は整っていなくて、机の上には書類の山だ。

 「まったく、もう……」

 私は、お父様の執務机に近づいて、書類をまとめていく。その中にはお父様の走り書きのメモもあった。

 「これじゃあ、なんて書いてあるのか分からないじゃない」

 こんな字でお母様にも手紙を送ったのかしら? なんて想像して、くすっと笑みが漏れる。

 「あ、これ……」

 私がたまたま手に取ったのは、隣国の社会情勢から流行りものまで……お父様が詳細に隣国のことを調べ上げた資料だった。細かい字でびっしりと書いてあるその資料にお父様が今日までどれだけ準備をしていたかを改めて知る。

 そして、最後に赤字で書いてあるお父様のメモを……私はそっと指でなぞりながら呟いた。

 「ローゼンタールと、最愛のシュリィ、アメリアのために……」

 その一文にお父様の深い愛情が感じられて、気付けば私は頬を濡らしていた。

 「お父様……っ」

 私はその資料を抱きしめた。やっぱり……諦めることなんてできない。私は、お父様の執務室を出た。

 向かうのは、セドリックの部屋だ。
 どうやったって私が行くにはセドリックの護衛が必要だから。

 廊下を歩いていく。セドリックになんと言われるか、考えるだけで胸がどきどきする。呆れて、今度こそ嫌われてしまうかもしれない。

 でも……私はローゼンタール家の次期当主だから。そう決意した時――

 「お嬢様っ!!」

 後ろから大声で呼ばれ、振り返る。そこにはひどく怯えた表情を浮かべた彼がいた。

 「セドリック……?」

 これから会いに行こうと思っていたのに、なぜ部屋を出て、廊下なんかにいるのだろうか?

 「どうしたの?」と聞こうとした時には、こちらに向かって走り出したセドリックに抱きしめられていた。

 「セ、セドリック? 一体どうしたの?」

 セドリックは、私を強く強く抱きしめる。けれど、その手は震えていた。

 「……落ち着かなくて部屋を出て、屋敷の見回りをしていたんです。でも、お部屋にお嬢様の気配が感じられなくて……」

 「……そっか。探してくれたのね」

 私はセドリックを宥めるように背中に手を回し、さする。彼は震える声で続けた。

 「……一人で行ってしまったんじゃないかと思いました……」

 「大丈夫。セドリックを置いて、一人で行ったりしないわ」

 セドリックは無言で私を抱きしめた。声は聴こえなかったけれど、彼がまるで泣いている子供のように感じられて、私はトントンと背中を優しく叩く。

 しばらくして、セドリックが腕の力を緩めて、私を離した。

 「申し訳ありません……情けないところをお見せしました」

 そう言って、私を見つめるセドリックはどこか悲しそうだった。
 けれど、私は暗闇の中に輝く大きな彼の瞳を見つめ……口を開いた。

 「ごめんなさい……、セドリック。
 やっぱり私、あなたの言うことに従うことはできない」

 セドリックは何も言わなかった。ただ拳を強く握りしめ、私を見つめる。

 「だって、私はローゼンタール家の次期当主だから。
 怖い……本当に怖いよ。でも……逃げたくないの」

 私は、一つそっと息を吐いて、セドリックをまっすぐに見つめた。

 「……お願い。セドリック、一緒にオウガ山を越えて」

 セドリックは、一瞬何かを言いかけて口を開いたが、すぐに言葉を飲み込んだ。
 困った顔で微笑んだ後、握った拳を胸に掲げる。

 「かしこまりました。全力で、お守りいたします」

 その言葉は、祈りのように静かに夜の廊下に響いた。





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