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第四章
9.
山賊たちは、三人。
私たちの向かい側から取り囲むように徐々に距離を詰めてくる。セドリックが剣の柄を掴んだ。
「おい、聞いたか? 今日の獲物は、お嬢様、だってよ」
「そりゃいい。お嬢様とくりゃ、身に着けてるもんも、その身も高い値がつくだろうからなぁ」
私を値踏みするような視線に身体の芯が冷たくなり、私は隠れるようにセドリックの背中をぎゅっと掴んだ。
先ほどから身体の震えが止まらない。
小太りな男が舌なめずりをして、口を開いた。
「本当に美しいな……さっさと男を殺して、味見しようぜ」
セドリックはゆっくりと息を吸い、吐いた。彼の気配が、すっと冷える。
「今すぐ、その汚い口を閉じろ」
冷たい声が夜の森に響く。背中越しに、空気が震えるのを感じた。
一番の大男が右手に持った剣を勢いよく振り下ろし、ヒュンと空を斬った。
「そんなこと言って、一人で三人に勝てると思ってんのかぁ?
俺たちの剣は、お前のような、おままごとの剣とは違うんだぜ」
「剣を人殺しの道具としか思わぬお前たちに剣を説かれる筋合いはない」
セドリックは眼光鋭く、大男を睨みつける。こんなセドリックは見たことがなかった。
「ちっ、さっきからすかしやがって! むかつく奴だぜ」
すると、双剣を持った山賊がニタニタと笑いながら一歩前に出てきた。
「俺は好きだぜ。こういう奴を、メタメタにぶち壊してやるのが最高に楽しいんだからよォ!!」
双剣を持った山賊が剣を振り上げ、セドリックに襲い掛かった。
セドリックは後ろにいた私を後ろに押すと、一歩前に出て、鞘から素早く剣を取り出し、双剣を止めた。
「くっそ、びくともしねぇ……っう!」
セドリックは、山賊の双剣をはじき返すと、すぐに体制を整え、私の前に立った。
「ここより先に近づけば、お前たちを斬る」
セドリックは低い声でそう言い放った。でも……
――セドリックの手が、震えて、る……? こんな時に、どうして……?
けれど、山賊たちはそれに気付かないようで、沈黙を破るように大声を張り上げて、一斉にセドリックに襲い掛かった。
セドリックは双剣を受け止めると同時に、大男を蹴り飛ばした。
重い音がして、男の身体が地面を転がる。
振り上げた足に斬りかかろうとした小太りな山賊だったが、セドリックが急に脚を引き、前のめりにバランスを崩す。
そして、双剣の剣は弾き飛ばし、すかさず小太りな山賊の足に剣を下ろす。
……セドリックの剣は見事だった。まるで踊りながら剣を振るっているようで
あっという間に、小太りな山賊と、双剣の山賊を戦闘不能にしてしまった。
手の震えは、見間違いだった……?
しかし、目の前にうめき声を上げながら、倒れて重なる二人の山賊を見下げるセドリックからはまるで人形のように表情が消え失せていた。
その瞳がひどく不安そうに揺れていた。
風が途絶え、森が息を潜めた。その静けさが恐ろしかった。
まるでセドリックを一人残して世界を切り取ってしまいそうで……私は思わず彼の名前を呼んだ。
「セドリッ――っ!」
その時、どろりと気持ちの悪い気配が首筋を撫でた。後ろを振り返った瞬間――
大男が私を捕まえようと大きな腕をこちらに伸ばしていた。
しかし、大男の腕が私に触れるより早く、風を裂く音がした。
「触れるな」
次の瞬間、大男の手に赤い線が走り、鮮血がひと筋だけ滲んだ。
セドリックの一太刀が、大男の腕を切り裂いたのだ。
「ぐわぁ……っ、く、くそ……っ!」
大男は右手を押さえ、よろめきながら森の奥へ消えていった。先ほど倒れていた山賊も、同じように逃げていく。
セドリックは追うこともせず、ただその場に立ち尽くしていた。その姿に胸がぎゅっと締め付けられる。
「セド、リック……?」
彼を呼ぶ声が震える。
けれど、セドリックは私の呼びかけに反応しなかった。
彼の眼はうつろで、現実ではないどこか遠くを見ているようだった。
目の前にいるのは、私が初めて出会うセドリックだった。今にも消えてしまいそうな、弱々しく寂しい背中……
私は、後ろからその背中をそっと抱きしめた。セドリックの背中がはっとしたように震える。
セドリックは、涙をこらえるように唇を噛み、手元を見つめた。
手には、山賊の血が付いた剣。それを見た彼は……静かに泣き始めた。
私は、セドリックが落ち着くまでの間、ずっとその背中を離さなかった。
私たちの向かい側から取り囲むように徐々に距離を詰めてくる。セドリックが剣の柄を掴んだ。
「おい、聞いたか? 今日の獲物は、お嬢様、だってよ」
「そりゃいい。お嬢様とくりゃ、身に着けてるもんも、その身も高い値がつくだろうからなぁ」
私を値踏みするような視線に身体の芯が冷たくなり、私は隠れるようにセドリックの背中をぎゅっと掴んだ。
先ほどから身体の震えが止まらない。
小太りな男が舌なめずりをして、口を開いた。
「本当に美しいな……さっさと男を殺して、味見しようぜ」
セドリックはゆっくりと息を吸い、吐いた。彼の気配が、すっと冷える。
「今すぐ、その汚い口を閉じろ」
冷たい声が夜の森に響く。背中越しに、空気が震えるのを感じた。
一番の大男が右手に持った剣を勢いよく振り下ろし、ヒュンと空を斬った。
「そんなこと言って、一人で三人に勝てると思ってんのかぁ?
俺たちの剣は、お前のような、おままごとの剣とは違うんだぜ」
「剣を人殺しの道具としか思わぬお前たちに剣を説かれる筋合いはない」
セドリックは眼光鋭く、大男を睨みつける。こんなセドリックは見たことがなかった。
「ちっ、さっきからすかしやがって! むかつく奴だぜ」
すると、双剣を持った山賊がニタニタと笑いながら一歩前に出てきた。
「俺は好きだぜ。こういう奴を、メタメタにぶち壊してやるのが最高に楽しいんだからよォ!!」
双剣を持った山賊が剣を振り上げ、セドリックに襲い掛かった。
セドリックは後ろにいた私を後ろに押すと、一歩前に出て、鞘から素早く剣を取り出し、双剣を止めた。
「くっそ、びくともしねぇ……っう!」
セドリックは、山賊の双剣をはじき返すと、すぐに体制を整え、私の前に立った。
「ここより先に近づけば、お前たちを斬る」
セドリックは低い声でそう言い放った。でも……
――セドリックの手が、震えて、る……? こんな時に、どうして……?
けれど、山賊たちはそれに気付かないようで、沈黙を破るように大声を張り上げて、一斉にセドリックに襲い掛かった。
セドリックは双剣を受け止めると同時に、大男を蹴り飛ばした。
重い音がして、男の身体が地面を転がる。
振り上げた足に斬りかかろうとした小太りな山賊だったが、セドリックが急に脚を引き、前のめりにバランスを崩す。
そして、双剣の剣は弾き飛ばし、すかさず小太りな山賊の足に剣を下ろす。
……セドリックの剣は見事だった。まるで踊りながら剣を振るっているようで
あっという間に、小太りな山賊と、双剣の山賊を戦闘不能にしてしまった。
手の震えは、見間違いだった……?
しかし、目の前にうめき声を上げながら、倒れて重なる二人の山賊を見下げるセドリックからはまるで人形のように表情が消え失せていた。
その瞳がひどく不安そうに揺れていた。
風が途絶え、森が息を潜めた。その静けさが恐ろしかった。
まるでセドリックを一人残して世界を切り取ってしまいそうで……私は思わず彼の名前を呼んだ。
「セドリッ――っ!」
その時、どろりと気持ちの悪い気配が首筋を撫でた。後ろを振り返った瞬間――
大男が私を捕まえようと大きな腕をこちらに伸ばしていた。
しかし、大男の腕が私に触れるより早く、風を裂く音がした。
「触れるな」
次の瞬間、大男の手に赤い線が走り、鮮血がひと筋だけ滲んだ。
セドリックの一太刀が、大男の腕を切り裂いたのだ。
「ぐわぁ……っ、く、くそ……っ!」
大男は右手を押さえ、よろめきながら森の奥へ消えていった。先ほど倒れていた山賊も、同じように逃げていく。
セドリックは追うこともせず、ただその場に立ち尽くしていた。その姿に胸がぎゅっと締め付けられる。
「セド、リック……?」
彼を呼ぶ声が震える。
けれど、セドリックは私の呼びかけに反応しなかった。
彼の眼はうつろで、現実ではないどこか遠くを見ているようだった。
目の前にいるのは、私が初めて出会うセドリックだった。今にも消えてしまいそうな、弱々しく寂しい背中……
私は、後ろからその背中をそっと抱きしめた。セドリックの背中がはっとしたように震える。
セドリックは、涙をこらえるように唇を噛み、手元を見つめた。
手には、山賊の血が付いた剣。それを見た彼は……静かに泣き始めた。
私は、セドリックが落ち着くまでの間、ずっとその背中を離さなかった。
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