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第六章
2.
王宮の入り口にききっと小気味のいい音を立てて、馬車が止まった。
馬車の扉が開くと、そこには私のセドリックが手を差し出していた。
「ありがとう」
そっと私が置いた手をぎゅっとセドリックが握った。
甘い視線が絡まり、ついその手を離したくないと思ってしまう。
だけど、セドリックはすっと手を離した。
「お嬢様、どうかお気をつけて」
「うん……」
心細くないと言えば嘘になる……それでも、私たちの未来のために、私はその手を離した。
それを後ろで見ていたユリス様は、少し不思議そうな顔をして、私に耳打ちする。
「ねぇ、アメリアの護衛君ってさ、どっかの高位貴族かなんかなの? やけに所作が綺麗すぎない?」
「え……セドリックは、男爵家の出身ですが……親戚筋に公爵家の方がいるので、その影響かもしれませんね」
「そっか……」とユリス様は呟いたが、どうも納得のいかない様子だ。
そう言われてみれば、セドリックは、最初から高位貴族と見紛うような美しい所作を身につけていた。
コーデリアと姉弟のように育ったと聞いていたから、その影響かと思っていたが、同等の教育まで受けられるものだろうか……?
じっとセドリックを見つめると、彼は穏やかな笑みを見せてくれた。
それは、いつもと同じ優しい彼で……セドリックが何者だろうと関係ない。ありのままを愛してるもの。
私はセドリックに笑みを向けた。それを彼は、少し寂しそうな表情で受け取った。
* * *
セドリックと王宮の入り口で分かれ、晩餐会会場に到着する。
会場の入り口の前で、私はユリス様と腕を組んでいた。自分を落ち着かせるように大きく深呼吸をする。
「アメリア、大丈夫?」
「……し、心臓が、飛び出そうです」
自分の声が思い切り震えていて、恥ずかしくなる。
でも、ユリス様は、それをはははっと笑い飛ばした。
「アメリアならできるよ。叶えたい目標がある女は強いんだから」
そう言ってユリス様はまっすぐ前を見据えた。その瞳には恐れも迷いもなかった。
私も彼女と同じ方向を見つめた。背筋を伸ばして、くっと顎を引く。
「……はい。行きましょう」
ゆっくりと扉が開かれる。
会場に足を踏み入れた瞬間、ざわめきが止まった。
視線が、一斉にこちらへ向けられていることが分かる。
女性も、男性も全員がこちらを見ていて、怖かった。背筋に緊張感が走り、足が震える。でも――
私はふっと微笑んだ。
会場のどこからか「ほぉ……」とため息が漏れた。
私は、ユリス様とそっと笑い合った後、背筋を伸ばして、たおやかに一歩一歩丁寧に歩いていく。
私の仕事は、このドレスを最大限に魅せることだ。誰もがこのドレスを身に着けたいと思えるように。
会場の視線を一身に受けながら、会場の隅に、それでも皆の視線が集められるところで足を止めた。
「ふぅ……」と小さく息を吐くと、ユリス様が私に耳打ちをした。
「アメリア、想像以上だ。皆、君を見ているよ」
「あ、ありがとうございます……。大役を務められましたでしょうか」
「もちろんだ。だが、まだまだ頼むよ。この後、両陛下が入ってくるからね」
晩餐会会場への入室は、賓客が先で、最後に両陛下だ。両陛下以外の参加者は、事前に会場入りしている。
その時、会場の奥に見たことのあるお顔を見つけた。コーデリアの婚約者だと噂のアルフレッド様だ。
アルフレッド様も私に気付き、少し驚きの表情を浮かべたものの、すぐに微笑み、こちらにひらひらと手を振ってくれた。私は会釈をした。
「あれ? アメリアは、アルフレッド殿下と知り合いなの?」
「あ……以前、レストランでお会いして、挨拶をしたことがあるだけです」
「そうなんだ。でも、せっかくだし、挨拶でもしに行く?
両陛下が入るまでまだ少し時間も――」
「ユリス嬢!」
「わっ」
急に目の前に男性が現れて、私はびくっと身体を震わせた。
「おっと、大丈夫ですか?」
「触るな」
その男性が私を支えようと肩に触れようと伸ばした手を、ユリス様が払いのけてくれる。
私は、ほっと胸をなでおろした。
目の前に現れたのは、宰相閣下の息子であるローアン様だった。茶色い少し癖のある髪の毛を遊ばせていて、流行りのスーツを身に着けているが、軟派な雰囲気は隠しきれていない。
ローアン様は、ユリス様を怖い顔で睨みつけた。
「……お付きの方には用はありませんので、下がっていただけますか? 私はユリス嬢と話があるのです」
「そうか、そうか。アメリア、下がっていいよ。こちらのお方は私に話があるそうだから」
ユリス様は私を背中に隠すと、ローアン様の前に進み出た。
馬車の扉が開くと、そこには私のセドリックが手を差し出していた。
「ありがとう」
そっと私が置いた手をぎゅっとセドリックが握った。
甘い視線が絡まり、ついその手を離したくないと思ってしまう。
だけど、セドリックはすっと手を離した。
「お嬢様、どうかお気をつけて」
「うん……」
心細くないと言えば嘘になる……それでも、私たちの未来のために、私はその手を離した。
それを後ろで見ていたユリス様は、少し不思議そうな顔をして、私に耳打ちする。
「ねぇ、アメリアの護衛君ってさ、どっかの高位貴族かなんかなの? やけに所作が綺麗すぎない?」
「え……セドリックは、男爵家の出身ですが……親戚筋に公爵家の方がいるので、その影響かもしれませんね」
「そっか……」とユリス様は呟いたが、どうも納得のいかない様子だ。
そう言われてみれば、セドリックは、最初から高位貴族と見紛うような美しい所作を身につけていた。
コーデリアと姉弟のように育ったと聞いていたから、その影響かと思っていたが、同等の教育まで受けられるものだろうか……?
じっとセドリックを見つめると、彼は穏やかな笑みを見せてくれた。
それは、いつもと同じ優しい彼で……セドリックが何者だろうと関係ない。ありのままを愛してるもの。
私はセドリックに笑みを向けた。それを彼は、少し寂しそうな表情で受け取った。
* * *
セドリックと王宮の入り口で分かれ、晩餐会会場に到着する。
会場の入り口の前で、私はユリス様と腕を組んでいた。自分を落ち着かせるように大きく深呼吸をする。
「アメリア、大丈夫?」
「……し、心臓が、飛び出そうです」
自分の声が思い切り震えていて、恥ずかしくなる。
でも、ユリス様は、それをはははっと笑い飛ばした。
「アメリアならできるよ。叶えたい目標がある女は強いんだから」
そう言ってユリス様はまっすぐ前を見据えた。その瞳には恐れも迷いもなかった。
私も彼女と同じ方向を見つめた。背筋を伸ばして、くっと顎を引く。
「……はい。行きましょう」
ゆっくりと扉が開かれる。
会場に足を踏み入れた瞬間、ざわめきが止まった。
視線が、一斉にこちらへ向けられていることが分かる。
女性も、男性も全員がこちらを見ていて、怖かった。背筋に緊張感が走り、足が震える。でも――
私はふっと微笑んだ。
会場のどこからか「ほぉ……」とため息が漏れた。
私は、ユリス様とそっと笑い合った後、背筋を伸ばして、たおやかに一歩一歩丁寧に歩いていく。
私の仕事は、このドレスを最大限に魅せることだ。誰もがこのドレスを身に着けたいと思えるように。
会場の視線を一身に受けながら、会場の隅に、それでも皆の視線が集められるところで足を止めた。
「ふぅ……」と小さく息を吐くと、ユリス様が私に耳打ちをした。
「アメリア、想像以上だ。皆、君を見ているよ」
「あ、ありがとうございます……。大役を務められましたでしょうか」
「もちろんだ。だが、まだまだ頼むよ。この後、両陛下が入ってくるからね」
晩餐会会場への入室は、賓客が先で、最後に両陛下だ。両陛下以外の参加者は、事前に会場入りしている。
その時、会場の奥に見たことのあるお顔を見つけた。コーデリアの婚約者だと噂のアルフレッド様だ。
アルフレッド様も私に気付き、少し驚きの表情を浮かべたものの、すぐに微笑み、こちらにひらひらと手を振ってくれた。私は会釈をした。
「あれ? アメリアは、アルフレッド殿下と知り合いなの?」
「あ……以前、レストランでお会いして、挨拶をしたことがあるだけです」
「そうなんだ。でも、せっかくだし、挨拶でもしに行く?
両陛下が入るまでまだ少し時間も――」
「ユリス嬢!」
「わっ」
急に目の前に男性が現れて、私はびくっと身体を震わせた。
「おっと、大丈夫ですか?」
「触るな」
その男性が私を支えようと肩に触れようと伸ばした手を、ユリス様が払いのけてくれる。
私は、ほっと胸をなでおろした。
目の前に現れたのは、宰相閣下の息子であるローアン様だった。茶色い少し癖のある髪の毛を遊ばせていて、流行りのスーツを身に着けているが、軟派な雰囲気は隠しきれていない。
ローアン様は、ユリス様を怖い顔で睨みつけた。
「……お付きの方には用はありませんので、下がっていただけますか? 私はユリス嬢と話があるのです」
「そうか、そうか。アメリア、下がっていいよ。こちらのお方は私に話があるそうだから」
ユリス様は私を背中に隠すと、ローアン様の前に進み出た。
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