秘密を隠した護衛騎士は、お嬢様への溺愛を抑えきれない

はるみさ

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第六章

4.

 ほとんど音もなく、丁寧に二皿目が置かれる。
 目の前にあるのは領民たちと作り上げてきた、ローゼンタール領の器だ。

 その器の中には、リンドランク王国名物の一つである海藻がふんだんに使われたサラダが綺麗に盛り付けられている。

 王家の晩餐会で、我が領の器が使われている……それだけで、言葉にならない喜びが胸に満ちていく。
 そっと器を持ち上げる。適度な重さと手に馴染むこの形は何度も試行錯誤して編み出したものだ。

 嬉しい……

 サラダを一口、口に運べば、爽やかな潮の香りが鼻に抜ける。それでいてて、キュッキュッと小気味の良い音と、プチプチという珍しい食感が口の中に広がる。潮の味と酸味のあるドレッシングで味付けされたそれは、新しいが非常に美味しかった。

 「うふふっ」

 王妃殿下の微笑みが聴こえて、はっとする。すると、皆の視線が私に集まっていた。

 「あ……も、申し訳ありません、私――」

 「リンドランク王国の味を気に入ってもらえたようで嬉しいな」

 「アメリア嬢、この後にも王宮のシェフが腕を奮った品々が出てくるからな。存分に味わってくれ」

 「えぇ、美味しそうに食べてくださる方がいると、こちらまで美味しく感じられますからね」

 「あ、ありがとうございます……!」

 和やかな雰囲気の中、皆サラダを食べ進めていく。しかし、なかなか陶器に触れようとする方はいなかった。

 やっぱりほかのものと遜色のない器でしかないのだろうか……と、不安が胸によぎる。
 器の模様をじっと見つめ、指でなぞる……。その瞬間、右隣のアルフレッド殿下が口を開いた。

 「お母様、こちらの陶器、なかなか珍しいとは思いませんか?」

 え? アルフレッド殿下のお顔を思わず見ると、彼はわずかに微笑んでくれた。
 陛下と王妃殿下は、まじまじと陶器を見ている。

 「ん……そうね。あまりこちらでは見ない色合いね、とても華やかで綺麗だわ」

 「我が国ではあまりこういった陶器は見ないが……手触りといいデザインといい非常に良い物ですな、ユリス様」

 ユリス様は、微笑んで私に目配せをしてくれた。私は精一杯の勇気を振り絞る。

 「へ、陛下! こちら、我がローゼンタール領で作られた陶器なんです」

 「ほぅ、これがローゼンタール領で?」

 私を援護するようにユリス様が口を開く。

 「そうなんですよ、陛下。実は晩餐会前にアメリアとしていた商談はこちらの陶器についてだったのです。
 当国にもない、新しい陶器だったため、ぜひ晩餐会で使わせてほしいとアメリアにお願いをし、このような運びとなりました」

 「リンドランク王国の一皿に、我が国の器が使われるなんて非常に喜ばしいことですね」

 「本当ね」

 アルフレッド様も、王妃殿下も笑顔で、器を褒めてくれるが、陛下だけが難しい顔をしている。
 ユリス様が陛下の顔を覗き込む。

 「陛下、何か懸念点でも?」

 「ふむ……。ローゼンタール領でこのような器が作られたことは、非常に嬉しく思う。
 だが……なぜこれだけの品を王家に献上しなかった?」

 陛下の厳しい視線と、感じたことのない威圧感に押され、思わず指先が震えた。
 
 「そ、それは……」

 そこで口を開いたのは意外な人物だった。ローアン様だ。

 「父が献上を却下したのでしょう。陛下のお眼鏡に叶うものではないと」

 「なに?」

 陛下の眉間の皺がより深くなる。

 「我が領でも陶器の生産は行っておりますし、新しい開発も進めています。
 その器より良いものが、そのうち陛下のお手元に届くはずです」

 「それは事実なのか?」

 アルフレッド殿下が、低い声でローアン様に尋ねる。ローアン様は、一瞬身体を震わせたが、すぐに平静を装う。

 「えぇ、きっと。それに似たような話を父がしていましたから」

 「そんな曖昧ではなく、事実を聞いている」

 今度は、王太子殿下に睨まれ、ローアン様はあからさまに狼狽えた。

 「……わ、私は我が領地の陶器には詳しくないので……事実かどうかは……」

 はぁ……っと大きなため息が、丸テーブルに落ちる。
 陛下は、厳しい視線をローアン様に送りながら、威圧感のある声で指示を出した。

 「ローアン。今日はもう下がれ。ユリス様に恥ずかしいところをお見せするわけにはいかぬ」

 ローアン様は、思わず座席を立ち上がり、異を唱えるかのようにテーブルに強く手を叩きつける。

 「で、ですが、陛下! 私は本日父の代わりに――」

 「私の決定に、反論があると?」

 陛下の一言が、厳かに晩餐会会場に響いた。しん……とした空気の中、誰もがもう抗えないと知った。

 「……ありま、せん。申し訳、ございませんでした……」

 ローアン様は肩を落としたまま、会場を後にした。
 その時、暗い影を帯びた視線を向けられていたことに、この時の私は気付いていなかった。


 
 

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