【完結】女当主は義弟の手で花開く

はるみさ

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プロローグ

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 「貴女が僕の新しいお母さんですか?」

 少年の口からまさかの言葉が発せられ、シャノンは固まった。

 私が? お母さん? 
 まだ十八歳で子作りどころかキスさえもしたことないのに?

 シャノンの目の前に座るのは、汚い身なりながらも、驚くほど綺麗な顔立ちをした美少年だった。

 茶色の少し癖のある髪の毛に、透き通った緑色の瞳。スッと通った鼻筋の下には薄く形のいい唇がついている。この子の両親はさぞかし綺麗な人なんだろうと思う。そして、それは断じて自分ではない。

 不測の事態ではあるものの、プレスコット伯爵家の当主なのだから毅然と対応せねばと、シャノンは今一度、背筋を伸ばした。

 「私は君のお母さんなどではない。
 ……なぜ君は、そのような勘違いを?」

 「……母が、言っていたんです。僕の父は、プレスコット伯爵家の夫人と恋仲で、僕たちを捨てて、伯爵夫人の下に行った、と」

 そういうこと、か……。シャノンは大きくため息を吐いた。

 「君の父は、ライナスという名か?」

 「はい、そうです!
 あの……貴女が伯爵夫人ではないんですか?」

 申し訳なさそうに、上目遣いで私を見つめる姿は、年相応で可愛らしい。

 「私は伯爵夫人ではない。私はこのプレスコット伯爵家の当主であるシャノン・プレスコットだ。
 おそらく君が探している伯爵夫人というのは私の母で……今はもうこの世にはいない」

 「もう、いない……。すみません、僕……勘違いしてしまって。
 あの、僕の父を知りませんか? こちらに来たという情報しか分からなくて」

 「なぜライナス氏を探しているんだ?」

 「……母が亡くなったんです。二人で暮らしていたんですけど、母が自分が死んだら、父を探せって。
 ……本当は僕を捨てた父にも、父を奪った伯爵夫人にも会いたくなかったけど、僕はまだ子供で一人で生きていけないからーー」

 彼はそう話しながら、必死に涙を堪えていた。緑の瞳に浮かぶ涙はまるで宝石のようだ。

 ……まだ親の庇護が必要な年齢だろうに、一人でよくここまで来たものだ。悲しみを堪えるその姿はいつかの自分のようだとシャノンは思った。

 「君の名は? 何歳だ?」

 「リル。十一歳です」

 「リル……
 辛いことを言うようだが……君の父であるライナス氏は先日流行り病にかかり、先日この屋敷で亡くなった」

 「……死、んだ?」

 「あぁ、そうだ。君が母君から聞いたように、ライナス氏は伯爵夫人である母の愛人だった。
 ライナス氏と母は、二人この屋敷の離れで暮らしていたが、最近市井で流行っている病で亡くなったのだ」

 「……そう、ですか。ははっ……、離れているのに母さんと同じ病気で死んじゃうなんて、可笑しいな」

 顔にうっすらと浮かぶ不安定なその笑顔に不安になる。

 「……僕は……本当に、一人なっちゃったんだ……」

 リルは泣きながら笑っていた。いや、涙を流してることに気付いていないのかもしれない。
 その姿はあまりにも痛々しかった。風でも吹いたら、そのまま消えてしまいようなほどーー

 気付いたら、私は信じられない言葉を発していた。

 「母は無理だが……私の義弟おとうとになるか?」

 「……おと、うと?」

 大きな瞳を潤ませて、きょとんとこちらを見つめる姿が可愛くて、私は笑みを浮かべた。

 「そう。義弟だ。実は、私も両親に先立たれ、一人なんだ。リルさえ良ければ、この伯爵家の子供になるか?」

 「僕が……ここの、子供?」

 「あぁ。もちろん血は繋がっていないから、爵位を継がせることは出来ないが、リルが大人になるまでの間、衣食住を保障してやることくらいは出来る」

 「で、でも……おねえさんが僕を助ける理由なんてないです」

 「十一歳なのに、しっかりしているな。
 そうだ、確かにリルを助ける理由など私にはない。だが、母が君や君の母君に迷惑をかけたことは事実だからな。その罪滅ぼしだとでも思ってくれればいい」

 「迷惑をかけたって意味では、僕の父はお姉さんから伯爵夫人を取ってしまいましたよね……。それに悪いのは、伯爵夫人であって、おねえさんじゃありません。なのに、その責任をおねえさんが取るのはおかしいと思います」

 もうすっかり涙は止まっていた。
 リルはその瞳で私をまっすぐに見つめていた。

 予想外の強さに驚く。同時にぐっと唇を噛みしめて、大人ぶるその様子が可愛らしい。

 母が父や私を愛してくれた記憶はない。だから、母である伯爵夫人が愛人を作ることなんて、もはやなんとも思っていなかったが、男を見る目だけはあったらしい。よく確認もしなかったが、確かにライナス氏は顔が良かった。そして、その息子は美しい顔だけではなく、どうも優しさまで持ち合わせているようだ。しっかりした母親だったのだろう。

 「それもそうだな。
 だが……私はどうもリルのことが気に入ったようだ」

 「気に入った? それって……僕のことが好きってこと、ですか?」

 「好き? うーん……」

 好き……という感情は、馴染がなくてよくわからないが、この美しく可愛らしい存在を見ていたいと思う。
 この短時間で、私が義弟にしてもいいと思ったのだから、この感情は好き、みたいなものじゃなかろうか。

 大きな目を見開いて、緊張した面持ちでこちらを見つめるリル。その姿はまるで小動物のようだ。先ほどまで泣いていたせいか、その瞳はきらきらと輝いていて、とても美しい。

 私は、リルにニカッと笑って見せた。

 「あぁ、好きだ」

 その瞬間、リルは顔を真っ赤にした。そしてーー

 「ぼ、僕も! おねえさんが好き……みたいです」

 「じゃあ、私の義弟になるか?」

 「……そうしたらずっと一緒にいられますか?」

 「そうだな、家族だからな」

 「じゃあ、なりたいです……おねえさんの家族に」

 こうしてたった一人だった私は、美しくも可愛い義弟を手に入れたのだった。



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