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第1話 ここ数百年でもっともなさけない死に方の俺
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気がつくと、俺はかたいベッドの上であおむけになっていた。
うすい毛布が俺の胸のあたりにまでかけられていて、これまたうすい枕らしい感触が俺の頭の下にあった。ほのかな消毒液みたいなにおいが俺の鼻をついた。
「気がついたかね。」
誰かの声がして、俺は慌てて声のほうに顔をむけた。そまつなパイプ椅子に座っていたのは、初老の医者だった。俺がなぜその人が医者だとわかったかと言うと、その人はおでこには丸いDVDみたいなもの(たしか、額帯鏡とか言うらしい)をつけており、首には聴診器をかけてるいるし、なによりヨレヨレの白衣を着ていたからだった。
それにしても、なんて昭和な医者だろう。今どき額帯鏡なんて。
「あのう、ここは病院なのですか?」
「なぜあんたはここが病院だと決めつけるのかな?」
俺はつとめて丁寧にきいたつもりだったのに、医者がわけのわからないきりかえしかたをしてきたので、俺はすこしムッとして半身を起こした。
「なぜって、あなたはお医者さんでしょう?」
「なぜあんたはワシを医者だと決めつけるのかね? もしかしたら、ワシはただのコスプレオヤジかもしれんだろ?」
さらにムッとした俺をさかなでするかのように、男は急にガハハハハと笑いだした。手でひざを打ち、目じりに涙まで浮かべながら。
「なにがそんなにおかしいのですか?」
事態がわからない不気味さと腹立たしさに、俺はつい大声をあげてしまった。医者は指で目じりの涙をふきながら、手でわるいわるい、というしぐさをした。
「いや、すまんすまん。つい思いだしてしもうてな。ぷっ! くくく、ガハハハハ!」
俺はもう、こんな失礼で意味不明なオヤジの相手をするのに心底ウンザリして、ベッドからおりて白いスリッパをはくとドアに直進した。
「待たんか、あんた、ワシの話を聞かんのか?」
俺は医者(?)を無視してドアを開けて暗闇の中に一歩ふみだし、そして、落ちた。
気がつくと、俺はまたあのかたいベッドの上にいた。首をひねる俺に、またあの医者の格好をしたオヤジが話しかけてきた。
「だから、ワシの話をきけと言っただろう? わるいが、ドアの向こうはめんどうくさいから作ってなかったわい。」
白衣の男はまたクツクツと笑った。本当に気にさわるオヤジだ。
「さっきからあなたは意味のわからないことばかりを…」
「あんた、また死ぬところだったな。」
俺を制して彼が言ったことの意味を理解するまで、俺には数秒かかった。そしてなさけないことに、俺はひどく動揺しはじめた。
「俺が…死んだって?」
「そう、がっつり死んだな。」
「ふざけないでください! ここはどこなのですか、あなたはいったい誰なのですか!」
なんだか得体のしれない恐怖におそわれた俺は、ついに怒りを爆発させた。だが、怒りよりも強い不安という俺の心中をこの白衣のおっさんは見透かしているようだった。
「そうさなあ。ここはまあ、チュートリアルルームみたいなもんかな。」
「は?」
「ほら、よくあるだろう。ロープレとかのゲームで、スタート前の世界設定とか、操作の説明とかを受ける部屋だ。」
どこからか静かなテンポの曲が流れてきて、逆に俺の神経をさかなでした。
「で、ワシはまあ、そうだな。いわゆる創造主みたいな? ひらたくいえば神さまかの。女神じゃなくてすまんのう。」
「か、神さま!?」
「そうとも、わたしゃ神さまだ、なんてな。」
白衣のオヤジはひとりでクックッと笑い、俺にはなにがおかしいのやらさっぱりわからなかった。苦々しげな俺の顔をみたからなのか、彼は急に真面目な顔つきになった。
「ジェネレーションギャップってやつかのう。まあええわ、あんた、また生きて家族に会いたいか?」
「いったいなんの話ですか?」
「だから、また家族に会いたいか、とワシはあんたに聞いとるのだ。」
急にオヤジの様子にすごみが増したような気がして俺は気圧されてしまい、ここは即答するしかなかった。
「もちろんです。でも、俺は本当に死んだのですか? こうして生きてますけど?」
「いやいや、まちがいなくがっつり死んだな。それも最高に笑える…いや、訂正だ。ここ最近の数百年で一二をあらそう最高になさけない死にかたでな。」
正体不明の白衣の男が自信たっぷりに言うものだから、俺は本気で心配になってきた。たしか俺は…そうだ、家族と郊外のアウトレットモールに来ていたんだ。だんだん思いだしてきたぞ。
「そうそう、で、しょぼい買い物を終えたあんたたちはフードコートに行ったな。」
「なぜ知ってるのですか? たしか俺はコロッケセットを注文して…。」
「あんまりあわてて食うもんだから、コロッケをのどにつめてしもうてな。」
「まさかそれで?」
相手は俺を安心させるかのように半笑いでかるくうなずいた。いや、逆に不安になるだけだって。
「そんなバカな!」
「バカはあんただろうが。」
「でも俺、こうして話したり動いたりしてますけど?」
相手はあきれたような、いや、あわれむような顔で俺を見てきた。
「だから、さっき言っただろう。ここはチュートリアルルームだって。あんたは本当にバカなのか?」
「し、証拠を見せてください! そうすれば信じます!」
失礼きわまりない相手に対していまだに敬語な気弱な俺だったが、これだけはゆずれなかった。見るのがこわい気もするが。
「しかたがないな。ほれ。」
男が白衣の袖をかるくふると、部屋がいきなりまっくらになり、俺の方向感覚はいっさい喪失した。ベッドの感触もなくなり、俺は宙に浮いているような落ちているような、よくわからない感じになった。
…と思ったら、こんどは急に俺のまわり360度全方位が強烈な白いかがやきにつつまれた。
「うわ。」
「こわがらずに、見てみい。」
かがやきが消えると、こんどはそこに画像があらわれた。いや、動画だった。まるで全方位が映画館のスクリーンになったような感覚だった。
男の声にしたがうのはしゃくだったが、俺は従わざるをえなかった。それをみないと前にはすすめない、俺にはそんな気がしたからだった。
うすい毛布が俺の胸のあたりにまでかけられていて、これまたうすい枕らしい感触が俺の頭の下にあった。ほのかな消毒液みたいなにおいが俺の鼻をついた。
「気がついたかね。」
誰かの声がして、俺は慌てて声のほうに顔をむけた。そまつなパイプ椅子に座っていたのは、初老の医者だった。俺がなぜその人が医者だとわかったかと言うと、その人はおでこには丸いDVDみたいなもの(たしか、額帯鏡とか言うらしい)をつけており、首には聴診器をかけてるいるし、なによりヨレヨレの白衣を着ていたからだった。
それにしても、なんて昭和な医者だろう。今どき額帯鏡なんて。
「あのう、ここは病院なのですか?」
「なぜあんたはここが病院だと決めつけるのかな?」
俺はつとめて丁寧にきいたつもりだったのに、医者がわけのわからないきりかえしかたをしてきたので、俺はすこしムッとして半身を起こした。
「なぜって、あなたはお医者さんでしょう?」
「なぜあんたはワシを医者だと決めつけるのかね? もしかしたら、ワシはただのコスプレオヤジかもしれんだろ?」
さらにムッとした俺をさかなでするかのように、男は急にガハハハハと笑いだした。手でひざを打ち、目じりに涙まで浮かべながら。
「なにがそんなにおかしいのですか?」
事態がわからない不気味さと腹立たしさに、俺はつい大声をあげてしまった。医者は指で目じりの涙をふきながら、手でわるいわるい、というしぐさをした。
「いや、すまんすまん。つい思いだしてしもうてな。ぷっ! くくく、ガハハハハ!」
俺はもう、こんな失礼で意味不明なオヤジの相手をするのに心底ウンザリして、ベッドからおりて白いスリッパをはくとドアに直進した。
「待たんか、あんた、ワシの話を聞かんのか?」
俺は医者(?)を無視してドアを開けて暗闇の中に一歩ふみだし、そして、落ちた。
気がつくと、俺はまたあのかたいベッドの上にいた。首をひねる俺に、またあの医者の格好をしたオヤジが話しかけてきた。
「だから、ワシの話をきけと言っただろう? わるいが、ドアの向こうはめんどうくさいから作ってなかったわい。」
白衣の男はまたクツクツと笑った。本当に気にさわるオヤジだ。
「さっきからあなたは意味のわからないことばかりを…」
「あんた、また死ぬところだったな。」
俺を制して彼が言ったことの意味を理解するまで、俺には数秒かかった。そしてなさけないことに、俺はひどく動揺しはじめた。
「俺が…死んだって?」
「そう、がっつり死んだな。」
「ふざけないでください! ここはどこなのですか、あなたはいったい誰なのですか!」
なんだか得体のしれない恐怖におそわれた俺は、ついに怒りを爆発させた。だが、怒りよりも強い不安という俺の心中をこの白衣のおっさんは見透かしているようだった。
「そうさなあ。ここはまあ、チュートリアルルームみたいなもんかな。」
「は?」
「ほら、よくあるだろう。ロープレとかのゲームで、スタート前の世界設定とか、操作の説明とかを受ける部屋だ。」
どこからか静かなテンポの曲が流れてきて、逆に俺の神経をさかなでした。
「で、ワシはまあ、そうだな。いわゆる創造主みたいな? ひらたくいえば神さまかの。女神じゃなくてすまんのう。」
「か、神さま!?」
「そうとも、わたしゃ神さまだ、なんてな。」
白衣のオヤジはひとりでクックッと笑い、俺にはなにがおかしいのやらさっぱりわからなかった。苦々しげな俺の顔をみたからなのか、彼は急に真面目な顔つきになった。
「ジェネレーションギャップってやつかのう。まあええわ、あんた、また生きて家族に会いたいか?」
「いったいなんの話ですか?」
「だから、また家族に会いたいか、とワシはあんたに聞いとるのだ。」
急にオヤジの様子にすごみが増したような気がして俺は気圧されてしまい、ここは即答するしかなかった。
「もちろんです。でも、俺は本当に死んだのですか? こうして生きてますけど?」
「いやいや、まちがいなくがっつり死んだな。それも最高に笑える…いや、訂正だ。ここ最近の数百年で一二をあらそう最高になさけない死にかたでな。」
正体不明の白衣の男が自信たっぷりに言うものだから、俺は本気で心配になってきた。たしか俺は…そうだ、家族と郊外のアウトレットモールに来ていたんだ。だんだん思いだしてきたぞ。
「そうそう、で、しょぼい買い物を終えたあんたたちはフードコートに行ったな。」
「なぜ知ってるのですか? たしか俺はコロッケセットを注文して…。」
「あんまりあわてて食うもんだから、コロッケをのどにつめてしもうてな。」
「まさかそれで?」
相手は俺を安心させるかのように半笑いでかるくうなずいた。いや、逆に不安になるだけだって。
「そんなバカな!」
「バカはあんただろうが。」
「でも俺、こうして話したり動いたりしてますけど?」
相手はあきれたような、いや、あわれむような顔で俺を見てきた。
「だから、さっき言っただろう。ここはチュートリアルルームだって。あんたは本当にバカなのか?」
「し、証拠を見せてください! そうすれば信じます!」
失礼きわまりない相手に対していまだに敬語な気弱な俺だったが、これだけはゆずれなかった。見るのがこわい気もするが。
「しかたがないな。ほれ。」
男が白衣の袖をかるくふると、部屋がいきなりまっくらになり、俺の方向感覚はいっさい喪失した。ベッドの感触もなくなり、俺は宙に浮いているような落ちているような、よくわからない感じになった。
…と思ったら、こんどは急に俺のまわり360度全方位が強烈な白いかがやきにつつまれた。
「うわ。」
「こわがらずに、見てみい。」
かがやきが消えると、こんどはそこに画像があらわれた。いや、動画だった。まるで全方位が映画館のスクリーンになったような感覚だった。
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