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第14話 ミルテさんの誘惑

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 このときの僕は、ひとりで勝手に浮かれすぎていたのかもしれない。ガンザさんの気持ちも考えずに。


 猫族のミルテさんとも知り合えたし、僕は勝手にデートと言っちゃったけど、ガンザさんとのお出かけもできたし、異世界での生活も思っていたよりも悪くないなあ、なんてのんきに考え始めていた。

 だからその夜、夕ごはんのときにガンザさんがかなり不機嫌な様子なのがなぜなのかわからなくて僕は焦った。
 ひょっとして、僕がミルテさんと仲良くしすぎたからかな?
 でも、それは僕の思い上がりのような気がした。

 夕ごはんといっても、ミルテさんがくれたクレープ生地にベーコンや野菜なんかをはさんだやつだったけど、それでもすごくありがたかった。
 僕はなんとか話題をひねりだそうと考えた。

「これ、けっこういけるね!」

「…。」

「ミルテさんってとても親切だったね。」

 ガンザさんは黙ってクレープを食べていたけど、急に改まった顔をして僕のほうを向いた。

「カズミ。話がある。」

「ど、どうしたの? なんの話?」

「カズミが住んでいた場所に帰る方法についての話だ。魔女グロリアを呼び出したから、明日にでも聞いてみよう。」

 僕はクレープを飲み込んでから、ざわつく心を落ち着かせようとして水をひとくち飲んだ。

「ガンザさん、ありがとう。でも僕、なにかしたかな?」

「そうではない。カズミは早く元の場所に帰りたいのではなかったのか? 家族も心配して待っているだろう。」

「それは確かにそうだけど。」

 ガンザさんが急に遠くなったような気がして、僕はへこんでしまった。それが僕の顔にでてしまっていたみたいだった。

「そんな顔をするな、カズミ。実はな、あまり話したくなかったのだが…。」

 ガンザさんはなにか迷うように考える仕草をしていて、そんな彼女は珍しかったけど、ついに話す決心をした様子だった。

「私は、今回を最後の仕事にするつもりだ。」

「仕事って、例の?」

「ああ。この間、グロリアが私に告げにきた仕事だ。今回の目標はかなりの大物だ。成功すれば、莫大な報酬がある。」

 ガンザさんは胸の中からくしゃくしゃの紙きれをとりだし、僕に渡した。それには何かの文字と、風景が描かれていた。

「これはなに?」

「その報酬でその土地を買い、私はこの街をでてそこで暮らすつもりだ。」

 ガンザさんの話が見えなくて僕は考えたけど、要するに?

「僕は邪魔者だってこと?」

「そうではない。ただ、今回の目標はかなり凶悪な連中だ。私はよいが万が一、カズミにまでなにか危険がおよぶ可能性も考えて…。」

 
 小屋の扉をかるく叩くコツコツとたたく音が聞こえた。話していた内容が物騒だけに僕はビクッとして、ガンザさんは巨大な斧の柄に手をやった。


「こんばんはニャン♪  ミルテでーすニャ!」

 僕はホッとして扉をせまく開けたけど、ミルテさんはするりと中にすべりこんできた。

「あニャ~。なかなかいいとこに住んでるニャン!」

「誰が入って良いと言った。」

「かたいことはいわないニャ~。」

 ミルテさんは珍しそうに小屋の中を物色し始め、ガンザさんはずっと苦い顔をしていた。

「どうしてここがわかったの?」

「そんなの、このボクがちょっと聞けばすぐ判明ニャン! そうそう、これを持ってきたニャ。」

 ミルテさんは大きな包みを持っていて、中には山ほど布切れが入っていた。

「これは!?」

「服が買えなかったって言ってたから、あちこちまわって布地をもらってきたニャン!」

 ミルテさんは巻き尺を出して、ガンザさんの体をあちこち勝手にはかり始めた。
 ガンザさんは牙をむいた。

「なにをしている。」

「ボクだってキバくらいあるニャン! 警戒しなくていいニャ、布地を縫って、服を作ってあげるニャ~。」

「すごい! よかったね、ガンザさん! きっと似合うよ。」

 僕が言うと、不機嫌そうだったガンザさんがすこし明るい表情になったように見えた。

「おしゃれ系がいいかニャ? かわいい系? それともちょっとセクシー系~? ニャハッ。」

「調子にのるな!」

 ガンザさんは耳まで赤くなって、また不機嫌になった。


 ミルテさんは帰り際、僕を小屋の外に連れ出した。お礼を言おうとした瞬間、僕は柔らかくてフワフワの何かに包み込まれた。ミルテさんが僕に飛びついてきたのだってわかる前に僕は気を失いそうになった。

 その柔らかさや細さったら。
 それに、すごくいい香りだし。
 だめだ、本気で倒れるかも。

「カズミにゃん、ここを出て、ボクといっしょに暮らさないかニャン?」


 そのとろけるような甘い誘いに、僕はクラクラになってしまった。
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