【完結】魔がさし令嬢の国外逃亡は恋の予感

愚者 (フール)

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第2章  エーレンタール侯爵家 

第9話 彼女の過去

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 間近まじかに見える美しい薔薇を、グレースは物憂ものうげげにながめていた。
もしかしたら、遠い昔に王妃様もこの薔薇をご覧遊らんあそばしたのかもと思い目を静かに閉じる。

自身の過去を振り返って、この場にいる方々に話し始めた。

学生時代の婚約破棄から王宮の下女げしょになり、王妃様にお茶をお出しする名誉をさずかった話をする。

「だから、だったのね!
お茶がこんなに美味しいと思ったわ。
ジョセフィーヌ様に、貴女は余程よほど気に入られたのね」

夫人がそうめ言葉を話すと、娘ベアトリスは同じ女性として婚約破棄をされた彼女に同情をし始めた。

婚約破棄!
その言葉は、同じ女性として烙印らくいんを押されたと感じた。
気に入らない人だと思っていたのに、話を聞くと度重たびかさなる不幸に気の毒に思えてくるベアトリス。

「お可哀想かわいですわ!私なら、そんな男性を絶対に許しませんことよ!」

あのベアトリス様が、こんな自分のことで怒ってくれて下さる。
何だが、嬉しい気持ちがした。

「エーレンタール侯爵令嬢、その有り難うございます。
でも、私もいけなかったのです。考えてみたら、逃げてばかりで相手に向かってなかったのですわ。私は奪われた伯爵令嬢に気持ちの上で、すでに負けていたんです」

そうだった、一言でもあの人に言い返せばよかったのよ!
浮気者、盗っ人とあの二人にー!

侯爵一家は声の変化に驚き、そう話すグレースの表情を見てはハッとする。

苦しみも悲しみも怒りすら、まるで全て経験した者のように達観たっかんした人の見えるのあった。

 そこから原因不明の母がやまいになり、言い様のない暗い気持ちになってしまったと告白する。

気分をまぎらわすために、自分が婚約破棄をされたみじめめな思いを物語にして書いてみたりした。

そして魔が差し、母のために出版社にその書いた物語を売り込む話を続けると。

「なんと!グレース嬢は、本を書いていたのだな。
どんな内容か、不謹慎ふきんしんだが興味がある!」

侯爵は彼女が物書きであった事に、いきなり声を出すのだ。
本好きで貴族の中でも有名な彼は、少し興奮気味になっていた。
寝る前に必ず読書をする、それが趣味で日課でもあるほどだからだ。

「侯爵さまが読むにはあたいしない、下らない本です。独りでよくよく思い直しましたら、恥ずかしくて自分でも馬鹿らしくなりましたわ」

そして、本題に入っていく。

「真実の愛を求めて」

タイトルを話すと、侯爵一家は直ぐに気がつく。

今現在、隣国エテルネルで話題になっている本の名前だ。

まさか、その作者が目の前にいるグレースとは驚きの目でその人をまじまじと考察こうさつするのである。

「どのような話かは知らないが、エテルネルではその本で問題が起きていると聞いているよ。
友人たちの噂で、私も最近知ったのだ」

侯爵令息カルロスはグレースの話を聞くと、いま一番の有名な隣国話しだと教えてくれた。

「左様でごさいますか?!
隣国まで話が、噂になり聞こえているのですね。
あの本が出版されて半年後には、婚約破棄が始まってしまったのです。
伝染病のように、平民から貴族まで広がりました。そして、とうとう…」

グレースは王宮で自分の書いた本が原因で、知り合いのメイド仲間の妹や侯爵令嬢までもが破談はだんになった話をした。

その侯爵令嬢の父親が怒り狂って、本をうらんでいる噂で知ることになる。
編集長や出版社を救うため、グレースは女官長さまに頼んで王妃様に救いを求めた。

彼女は運よく王妃様の計らいで、エーレンタール侯爵邸に現在ここに辿たどり着いたのである。

簡単にまとめた話だが伝わったのか、グレースは不安になりながらも話を続けた。

「最初から私が、王妃様に母の病を話していたらとやまれてなりません。
結局はたくさんの方に、ご迷惑をかけたのです。
私は罪人で、一生この罪は消えることはないでしょう」

走馬灯そうまとうのように頭からあの日々を思い出して、目から涙をこぼすと懺悔ざんげの話を終えた。

侯爵一家は、静かに泣くグレースを見て哀れみの感情を持ってしまう。
独りでどんな思いで、隣国まで来たのだろう。
家族と離れ、心細いに決まっているに違いない。

泣く彼女に1人の人物が、近寄るために席を立ち離れる。
その目には、同情なのか涙が浮かんでいる様にさえ見えたのだった。
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