【完結】魔がさし令嬢の国外逃亡は恋の予感

愚者 (フール)

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第3章  カルロスの婚約者

第19話 意味のない怒り

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 ワゴンを押しながら歩くグレースの姿を見つめて、侯爵夫人は彼女が屋敷に逗留とうりゅうする理由を話し出すのだ。
 
「トレド伯爵令嬢、あの方は私の親友から預かった大事なお客人です。
彼女はお茶をとても美味しく入れるので、今回は特別に私が依頼したのですよ」

侯爵夫人はグレースに対して給仕きゅうじをさせて、申し訳ないという言い方で伯爵令嬢に念を押した。

「ただの隣国から来た子爵令嬢で、雇われ家庭教師とかではありませんでしたのね。
そうですか、大事なお客様ですか…」

彼女の瞳が話ながら、あやしく光った。

 
    そんな風に自分の話をされている事を知らないグレースは、熱いお茶が冷めないように気を使い用意している。

ワゴンを押して茶会の場に近寄ると、行きよりも場がますます殺気立さっきだっているようだった。

戸惑とまどいながらメイド長のメリッサの顔をのぞいたら、顔色を少しだけ悪くして首を左右に振る素振りを合図あいずをする。
 
最悪な場面でお茶をそそがなくてはならないと、グレースは覚悟を決めて侯爵夫人に声をかけた。

「侯爵夫人、お待たせ致しました。
お茶をカップに入れても宜しいですか?!」

彼女は緊張した面持ちで、侯爵夫人にお声がけをする。

「えぇ、有り難う。
貴女のお茶を飲んで、心を安らかにしたい気分なのよ」

伯爵令嬢とのやり取りで、神経が疲労してしまっていた。

「本当にそうですわね。
きっと最後のお茶会ですもの」

ベアトリスは、自分の願望をつい口に出してしまった。

夫人とベアトリスだけが、グレースに返事を返してくれた。

婚約者同士は、令嬢は不機嫌さを露骨に表情にだし、カルロスの方はご機嫌ななめで苦い顔をしている。

侯爵夫人に先にお茶を渡すグレースは、入れたてですのでお気を付けてお飲み下さいと注意をしていた。

それを聞いていたトレド伯爵令嬢は、ニャッと誰にもわからない笑みを一瞬だけ浮かべた。

お客様なので、次にトレド伯爵令嬢にカップを渡す。

「あっー~!
熱くて、カップが持てないわ」

彼女は突然叫ぶと席を立ち、グレースの顔を目がけて湯気が立ち上がるまだ熱いお茶をかけてきた。

グレースは咄嗟とっさに顔を守るために、背を向けると右肩に熱いお茶を浴びた。

「痛いー!!」

グレースは絶叫ぜっきょうすると、堪えきれずひざを突いた。

熱々のお茶は熱いより、痛く感じたのだ。

その言葉を聞き、カルロスはこれは深刻しんこくな状態だと気付く。

周りの人たちは伯爵令嬢の暴挙ぼうきょ唖然あぜんとするが、彼だけはグレースの膝に腕を入れて井戸の方へ一直線に走り出した。

火傷の熱さと痛みを感じ、突然おきている状況に驚く。
カルロス様の顔が近くにあるので、顔さえも熱くなり動揺どうようしまくっていた。

近くにいる庭師にグレースが火傷やけどしたと伝えると、庭師があわてふためいて井戸の水をむ。

まずは水で火傷やけどを冷やさなくてはと、何度も何度も水をかけ続けた。

グレースは驚きと水の冷たさと、火傷の痛みで感覚が麻痺まひしてしまう。
もうどうしたらいいのか、彼女は震える体と声でカルロスにお願いをする。

「もう、平気です。
おお冷たい、寒いです。
お願いですから、やめて下さい」

グレースはずぶれになって、グッタリして四つんいになっている。

後ろから大勢で人が来るのがグレースにはわかったが、どうしてよいか判断出来ずにそのままジっとしていた。

メイド長メリッサが布をかけると、入浴の準備を他の者に命じる声がした。

グレースはずぶ濡れの姿で、メリッサに支えてもらって共にその場を離れた。

 部屋の暖炉だんろに火を起こし、グレースは火傷の肩以外は丁寧にかれた。

至急、医者が侯爵の屋敷に呼ばれた。

慎重しんちょうに火傷に触らないように、服をハサミで切ると赤くただれた肌が見えてきた。

メリッサは少し悲鳴をあげそうになるが、グレースを思い我慢する。

医者は薬を塗れば目立たない様になると思うと、若い女性だけに気の毒な表情をした。
グレースは医者の話を聞き、火傷のあとが残るのを受け入れた。

どうして伯爵令嬢は、あんなおろかな行為をしたのだろうか?
何故だか周りの者たちより、グレース本人はなんとも思わないのだ。

不幸な出来事だが、こうなってかえって良かったのかもしれない。
傷物になって決心がつく、独りで生きる区切りがハッキリしたわ。
これがまた神さまが、自分にお与えになった罰なのだと。

グレースはベッドに横になり独りなると、ほんの少しだけ涙を出して泣くのである。

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