【完結】魔がさし令嬢の国外逃亡は恋の予感

愚者 (フール)

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第5章  永遠の愛をあなたに

第20話 グレースの賭け

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 鉄格子てつごうしへだてた面会に、侯爵の友人は特別に私たちとカトリーナだけにしてくれた。
これは、特別な配慮だ。
責任者とアキシミアンの間は友人よりも、もっと深い仲なのだろう。
その信頼関係のおかげだと、グレースは心からまた感謝する。

「あらまぁ~、シャロン!
ご機嫌よう、薄汚れたみじめな姿だこと!
プーッフフ、アーハハハ!」

グレースがカトリーナにわざと違う名で、大きな声で呼びかける。
盛大にこれでもかと、馬鹿にするかのように派手に笑いだした。
それを聞いたカトリーナは、すぐに椅子から立ち上がり言葉をはっして訂正する。

「私の名前は、カトリーナよ!
ここに何しに来た!!」

「こ、これは…。
彼女は、芝居しばいしていたのか!?」

マキシミアンは、カトリーナの放たれた語気に咄嗟とっさに驚く。

「確認しましたね、侯爵様。
壊れた廃人はいじんは、そんな目をしない。
瞳にはやみ宿やどり、光は存在しない。
何よりも、意志が存在しないのです」

彼女にたった一回見られただけで、それも瞬時しゅんじに見抜かれて動揺どうようを隠せなくなっている。
グレースは心揺れ動く、カトリーナを深層心理しんそうしんりを見抜き攻めたてる。

「こんなのまったく、意味ないのよ。
くだらないお芝居をいくらしても、カルロス様の心は貴女に戻らない。
それは…、私で実証済みよ。
婚約者に浮気されて、婚約破棄された経験者ですもの」

「あ、貴女も…?
でも、今は貴女が彼の婚約者になるのでしょう?!
食事を運ぶ者が、そう私に教えてくれた。
そして、こうまくし立てるの…。
無様ぶざまで、くるった淫乱いんらんな女だと罵倒されているわ」

二人は目を大きくして、次に怒りが込み上げ眉間みけんに深いすじを浮かべた。

「そう…、人によってはげずみ。
そして、またはあわれむ。
貴女は、ここにずっと居たい?
修道院しゅうどういんの方が、少しはマシではなくって?!」

「当たり前だわ!
見て頂戴、ここでは全てを見られる。
いくら隠していても、気配けはいでも分かってしまうわ。
気が変になり、頭がおかしくなりそうよー!!」

侯爵は鉄格子のせま牢屋ろうやを見て、彼女の言っている意味を理解できる。

「確かに、男の私でも…。
これでは、あまりにも辛い環境だ。
ご両親は、面会に来たのかい?」

「……、たった一度だけよ。
母は、父屋敷から追い出されると私をののしり。
父はお前のせいで、伯爵の地位が危ないって怒鳴りつけた。
なんでこうなったのか、理由も聞いてもくれなかったわ!」

一歩足を踏み出して、必死にうったえる様子を眺めた。
マキシミアンは実の父にでもなった、そんな錯覚を起こしていた。

「貴女がしたのよ、カトリーナ。
カルロス様の気を引いて、彼に振り向いて欲しかったの?
これでは、逆効果だったわね。
彼の好む女性に近づく努力をすれば、貴女は侯爵夫人になり幸せになれたの!?」

「きっと、なれたわよ!
エーレンタール侯爵夫人と呼ばれ、宝石にドレス。
皆からの羨望せんぼう眼差まなざしに称賛しょうさんされた。
地味じみなお前が全て、この私から奪ったんじゃない」

やはり、私は彼女とってのシャロンだわ。
全てを奪われ、嫉妬しっとに顔と心を醜くゆがましていた日々。 

女性同士の言い争いに、マキシミアンはただ黙って聞いていた。

「はいはい、彼を奪いました。
その威勢いせいさえあれば、いつか本当の自分だけの幸せを手に入れるかもね。
チャンスを与えてあげる。
この牢屋から、貴女を出して差し上げましょうか」 

「それは無理だ!
私ですら、法の決定はくつがえられないのだよ」

つい口出しをして、マキシミアンがグレースを止めに入る。

「この国でただ一人、簡単に出来る御方がおります。
カトリーナ。
私を憎んで、それをかてにしなさい。
貴女が幸せになれたと感じたら、私に勝てた事になるわ。
また、いつかお会いしましょう」

グレースは飛びっきりの笑顔で、彼女に鉄格子越しで話す。

「アンタなんて、もう一生会いたくないわ!
この世から、消えてしまえば良かったのよー」  

侯爵は、カトリーナの怒声に鋭くにらみ付けた。
この女の性根しょうねは治らないと思ったからだ。

「カトリーナ、最後に一言。
ここから出るまでは、素敵なお芝居をしてね。
廃人と狂人を交互に頼んだわよ。
さようなら、牢屋の中の大女優さん」

彼女は後ろを振り返り、マキシミアンに笑って何か言うと牢屋を後にした。

  
    帰りの馬車の中で、先程の興奮から落ち着くと侯爵に頼み事をする。

「新聞に記事を載せたい?
何を書くのかい。
詩集、それとめ小説かい?!」

侯爵は本気ともとれる質問を彼女にするが、一方では違うだろうと考えもしていた。

「侯爵様は、ご冗談がお好きですか?
カトリーナの現状を、匿名とくめいで記事にするのです。
罪を犯し、狂った若い令嬢。
それは、犠牲者ぎせいしゃでもあるのだとー。
合法で行われた賭博とばくは、令嬢の人生を破滅させた。
全国民がおちいる可能性があると、そう世論に訴えるのです」

彼女の策略さくりゃくしたを巻くと、カルロスには出来すぎた女性だと前から思っていた。

「だが、上手くいくのか?
彼女が気がおかしくなったのは、貴族社会では噂で広まってはいる。
それだけで、彼女をあそこから出せるとは思えないがー」

「いいえ!ザイール国王は、民意みんいを気にするお方です。
マノン様の観劇を観て、私は確信しています。 
必ずや国王は動く、動かざるを得なくするのです」

   
     一週間後、大手新聞の匿名のご意見記事が掲載けいさいされた。
それは反響を呼び、王宮の国王側近そっきんが陛下にそっとお知らせしたのだ。

「なんと!
その話はまことか?
賭博での問題はも耳にしておるが、女性で犠牲者がでておるとはー。
それも狂ってしまったのか。
これでは罪を犯したことさえ、本人には理解でないのではないか?!」

ザイール国王はもう無用な事だと、牢屋ろうやから修道院でも送れと沙汰さたを提出した。

    
     書斎ではお茶を入れるグレースは、未来の義理の父にカップを置き礼を述べた。

「お力を貸して頂き、心より感謝してます。
エーレンタール侯爵様。
カトリーナさんは修道院へ入るそうですね」

わす内容は、二人きりの秘め事。

「グレース嬢の思惑通りに、うまく運びましたな。
お見事な洞察力どうさつりょくと策略。
貴女は、怖いお人のようだ。
エーレンタールの身内で良かったよ」

「ふふっ、まだ婚約もしてませんわ。
明日、カルロス様が御領地から戻られます。
ずっとお会いしてないと、また浮気されそうで不安です」

グレースの冗談に、ついお茶を吹き出しそうになる。
こんな話が出来るほどに、わが屋敷にれたみたいだ。

「彼女は…、カトリーナはー。
はたして、貴女に勝てますか?
修道院に入っても、根本的こんぽんてきには変わらないのではないだろうか」

「さぁ、どうでございますかね!?
私は楽しみに、気長に待ちますわ。
けに勝って欲しい。
賭博には散々負けたけど、クスクス」

二人が笑い声を立てると引き込まれるように、妻アデラと娘ベアトリスが私たちの居る書斎に入ってくる。

明日、カルロスがそろえば家族がひとつになる。
女性三人の楽しげな会話を聞いてそう思っていた。

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