【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)

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第1章  思い出は夢の中へ

第5話 医師たちの出会い

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 馬車の中では、2人の会話が飛び交っていた。
見かけは優しげな紳士と、中性的な印象の若者。
2人の見かけと中身は真逆で、ケンカではお互いに負けたことはない。

出会いは、医師会の会合で話が弾み意気投合いきとうごう
そのまま酒場へー。

たまたま酔った騎士きしたちにからまれて乱闘事らんとうごとになり、そして一晩牢屋ひとばんろうやのご厄介やっかいとなってしまった。
寒くて寝られないのと、ケンカの興奮のせいか一晩中語り明かした。

その時がきっかけで、歳の差10歳の友情を築いていったのである。
不思議とお互いの考えがわかるこの2人は、気持ち悪いが心の友となっていた。

「リンドール、相手は公爵だ。
いいか、熱くなるなよ。
プリムローズ様は良い子だ。
俺もなんで、あんな育て方をしているのか理解に苦しむ。
だがな、手だけは出すなよ。
家と家の問題になったら妻子が悲しむから、ここで約束しろ!」

10歳下なのに、なんだか偉そうなニコライ。

「プリムローズ様を見ると、エマを思い出してな。
姿は似てないのに。自分の娘なら毎日頭をでたり、食事も食べさせたりしてあげるのに。そう思うと、一発ぐらい殴りたくなるよ。
冷静にならんといかんな」

可愛いプリムローズに、自分の亡き娘の姿を重ねるリンドール。

「プリムローズ様の本を見ただろう。
あれは3歳児の読む本ではない。
カバーしてある本が気になって、2人が話している間にいけないと思ったが少し読んでしまった。
どんな本だと思う?」

ニコライは見てしまった本の内容の衝撃を、友人と分かち合いたくなってしまったのである。

「う~ん、詩集ししゅうか。
確か姉君のおがりて言ってたけど、違うのか?」

真面目なご令嬢の本しか知らない、とても育ちの良い伯爵リンドール。

「開いたページがなぁ。
お茶会での令嬢同士の言い争いの場面で、読んでいて怖くなったよ。
本当に、現実にあるのかって思ったぞ。
女性不振になりそうだ。
この先、結婚出来るか。
不安しかない」

首を小さく振るニコライである。

「そんなに心配するなよ。
うちの嫁さんがいい子を、紹介するって言っている。
お前、もう24歳だろ。
その頃は、私はエマを亡くして…。
だが、その後に双子の男の子が生まれてた。
今はこんなに幸せだ。
出会いは大切にしろ。
気楽に考えて、その女性と会ってみたらいい」

リンドールは先輩風を吹かせる。
好き勝手に話しているが、なかなかここまで本音を話せる人は少ない。

上位貴族ならもっとであろう。
公爵も相談相手がいないとしたら、少しは同情もするところがあるかもしれないが…。

しかし、あれはないなと2人の意見は一致した。
 
 馬車は、だんだんと王宮に近づいて行く。
目の前の男は、書類が揃っているかを確認している。

ニコライは、外の景色を眺めながらリンドール家を思い出している。

いつ行っても明るい家で、独身のニコライは家族愛を感じた。

俺はその頃は彼とは出会っていないが、長女エマ嬢が2歳で亡くなり夫婦はかなり落ち込んだそうだ。
娘を救えず、看取みとるのは辛かったろうなぁ。

現在は6歳になる双子の男の子たちが、毎日大騒ぎで賑やかなリンドール伯爵邸である。

屋敷を訪問すると、2人の相手でボロボロになってしまう。
まだ若いから良いけどと、フッと思い出し笑いをした。

 初めて屋敷を訪問した日は、玄関に飾られた大きな家族の肖像画が印象的だった。

夫人が椅子に座り、赤子のエマ嬢を抱いている。
夫は後ろで立ち両腕を大きく広げて自慢気に笑っていたリンドール。

見ていて、ちょっと目がうるんでしまった。
描かれた人物の人柄さえわかるような、素敵な絵であった。
この絵は俺が見た絵の中でも、最高と心から思うような作品であった。

絵を見ていたら、2人の小さな男の子達が突然現れた。
俺にエマねえ様と、指を指し教えてくれた。
夫妻は子供らに、エマ嬢の事を話したのだろう。

今年4人の絵を書いてもらう事になっているそうで、出来たらエマ嬢の絵の隣に飾るとリンドールは教えてくれた。

その絵を書いた画家は、まだその頃は新人だった。
夫人に小さな絵を贈るため画廊に入って、その画家の絵を買ったのがきっかけだ。

エマ嬢の誕生を記念して、肖像画をその画家に依頼した。
彼が初めて、貴族から依頼を受けた初めての作品だ。

リンドールの屋敷で絵を見た友人たちが関心を持ち、彼に依頼が増えていった。

今では、数年待ちの人気画家になっていった。
リンドールを優先するとの話が出たが、彼はキッパリ断った。

公明正大こうめいせいだいとは彼を言うんだろうなぁ。
普通なら、書いて貰う人が大半だ。

そんな彼と出会って友人になれたのは、幸運だと思っている。

「リンドール……。
これが終わったら夫人に、その令嬢を紹介して欲しい。
宜しく頼むよ」

ニコライは、頭を下げる。
俺も、リンドールの様な家庭に憧れてしまう。
ずは、出会いを求めるか。

ちょうどそんなことを思っていたら、馬車は王宮の専用入口近くで止まった。


    
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