【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)

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第1章  思い出は夢の中へ

第12話 グレースの心

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 グレースは黙って、目線を膝に置いて握りしめている両手を見ていた。
強く握りしめた手は痛いはずなのに、何も感じることもない。
体が小刻みに震えてるのは、自分でも理解している。

前に座っている2人の男性たちも、彼女の様子がおかしいのに気付き始めた。

「君のこの話は、心情が伝わるし貴族社会の描写びょうしゃもとても丁寧で詳しい。
君は貴族だよね?!」

編集長は、直接核心にせまってきた。

「ええ、私は子爵の長女です。
貴族でも、とても貧しくて領地は荒れた土地。
父も領民たちも一生懸命働いてるのに、天は私たちを裏切った。
水害で…。
そして、彼に捨てられた」

顔を青くして、震えながら話す。
部屋がとても静かで、全員が私の話を聞いている。
恥ずかしい、この場から逃げ出したかった。

「この婚約破棄は、失礼だがー」

中年の男性は言って、後悔しているようだった。

誰かに聞いて欲しかったのか、もう無理。
どうせ2度と会わない人たちよ。
言ってしまえ、もう1人の私が叫ぶ。
うつ向いた顔を挙げて、目の前の2人に向けた。

「そうよ、君の家みたいな貧乏子爵じゃ役に立たない!
君はいつも質素で、地味すぎて詰まらない。
他の人を好きになったと言われた。
私は捨てられたのよ!
その思いを、これに書いたわ」

自分が泣いているのに、いま気がついた。
震える右手を胸にあてて、グレースは言い放つ。

「詳しいはずよ!
だって、私のことですもの」

哀れでしょう、みじめな女よ。
笑うがいいわ、自分でも笑っているもの。

2人は目を丸くして、泣いている者を見ていた。

グレースは自分に驚きの視線を向けているのを、無視し話を続けた。
最後まで聞きなさいよ、貴殿方から聞いてきたのよ。

「作家?!そんな事を考えてないわ。
だってお金が欲しくて、売るのはもうこの原稿と私ぐらい。
体を売る?
そこまでは考えてなかった。
今、ここで浮かんだの。
そうよ、まだ売れるものがあったじゃない?!!」

自分の頭の中が、混乱していた。
こんな下品な言葉を、私が人前で話している。

「私、帰るわ。
だって、失礼ですもの。
ここは、本を出版する人が来る場所なのに。
こんな理由で来て、ごめんなさい!」

あんなに泣いたのに。
まだ足りないのグレース。
私はどうしたらいいのよ。
鞄からハンカチを出して、目元の涙を拭って、すする鼻水をかんだ。
体裁ていさいなんか考えられない、きっと顔はぐちゃぐちゃよ!
泣いたせいか、全てを言いきったからか。
モヤモヤした気分がスッキリした。

グレース、原稿を持って帰るのよ!
まだ、帰る場所があるでしょう!
自分の心に言い聞かせていた。

「原稿を返してください。
私の話を聞いてくれて、ありがとうございました」

私は濡れたハンカチをかばんに入れてから、2人に深くお辞儀した。

編集長は、原稿に手を置いて彼女に話しかけた。

「どうして、お金が必要になったんだい?」

この人なんなのよ、もう帰してよ!!

「答えない!
べつに、返してくれなくてもいいわよ」

鞄を持って、帰ろうと立ち上がった。

「私は、原稿を買おうとしている。
しかも、これは未完だ。
後、どれくらい書いている?
それに金額は?君の言い値がわからないと、こちらも困るんだよ?!」

本当に私の話を、この原稿をー。
これに価値があるの?

「母が病気なの。
医者が薬を飲めば治るって言うの。
とても高価みたいで、値段がよくわからなくて…」

「もしかしたら、その医者はボッてるかもよ。
本当は、もう少し安いかもしれんぞ。
この世には良い人も、悪い人もいるではないかね?!」

娘に言い聞かすように、優しく言った。

「そんな!お医者様が嘘を言うの?!」

グレースは、あまり人を疑ったことをしてこなかった。

「わからんよ。
ちゃんと金額を調べた方がいいし、病名とかね」

「言われれば、そうね。
薬が高いことしか知らない。
何もかも中途半端ね。
情けなくて、恥ずかしいわ」

自分の思ったことを素直に、編集長に伝えた。

「じゃ、わかったら来なさい。
待っているから、それまでこれは預かるよ。
君の名は知っているが、住所を教えてくれないか?」

どうやら原稿は、グレースが再びここへ来るために編集長が保管するみたいだ。

「住所は…。ないわ」

グレースは、王宮に住んでいる。
住所はないに等しいし、言えるわけがない。

「では何処どこに寝てるの?
どこかの宿屋やどやか?!」

編集長たちも、周りで聞き耳をたててる社員たちも不思議に思う。
ここまで話してしまった。
どうでもいいわと、自棄になった彼女。

「王宮よ、王宮働いてメイドしているの!」

驚いて王宮とあちらこちらで、小声で喋っている。

「ハハハ、驚いたよ。
ああ、なるほどな。
お茶会や舞踏会やマナーの描写も詳しいはずだ。
まるで文章から、その場面が見えるようだった。
人物や言葉遣いもね?!」

編集長は、しばらくて真面目な顔をした。

「でも、もし君が書いたのがバレたら?!
仕事を辞めさせられるんじゃないかなぁ?!」

グレースは腰を浮かしてテーブルに両手をついて、編集長に顔を近づけて話し出した。

「考えてなかった。
そうだわ、王宮を追放されてしまうわ。
もう王妃様とお会い出来なくなる。
そんなのは、絶対に嫌だわ」

無意識に呟くように言った。

「バレなきゃいいよ。
名前をかえて、どうせ悪いが文章は書き直さなきゃならない。
ハッキリ言って文は未熟、推敲すいこう添削てんさくをすれば土台しか残らないかもなぁ」

その言葉を聞いてがく然とした後に、ムッとした顔して編集長に返事を返した。

「酷いわ!
そんなにダメダメなの?
あんなに頑張って書いたのにー」

2人はバカにした顔の表情で、編集長が1人で返事した。

「これ初めて書いた作品なんだろ?
素人丸出しだよ。
だが、これはいい話だ。
今度の休みはいつなんだ」

「次は8日後の予定です」

「それまでに金額と病名を調べて、残りの全ての原稿を持って来なさい。
グレース・マロー嬢」

グレースの初めて書いた小説、「真実の愛を求めて」が認められた日であった。
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