【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)

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第1章  思い出は夢の中へ

第13話 作家名は

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 この日約束通りに、残りの原稿と共に出版社の前に立っていた。
行くべきか、今この場で悩んでいる。

いきなりグレースの前に、男性が飛び出してくる。

「あ、原稿を持ってきたの?!
編集長が、朝からずっと待っているよ」

顔に見覚えがない。
あの時に部屋の中にいた人なのね。
自分の言ったことを、思い出し顔を赤くする。
その人に頭を下げ、事務所に向かって行った。

だんだんと近くなる扉、これを開けたらもう戻れない。
不安と期待で胸が高鳴っている。

扉を開けたとき、中にいた人がグレースを見て話しかけてくる。

「元気そうで、よかった」

「お茶と菓子があるからな」

初めて来た時との温度差を感じた。
グレースは、似た感じを思い出す。
初めて王妃様にお茶をいれてほめめられた、あの感じだわ。
グレースは素直に嬉しかった。
認められ、必要とされているのだとー。

彼に別れを告げられて、家から出て独り王宮に入るしかなかった。
誰からも必要とされてないと、卑屈になっていく自分。

しかし、今は違うわ。
グレースは自分に少し自信がついてきた。
そして、それを確信している。

 編集長の待つ場所へ行き、そして再会した。
実家に問い合わせた手紙から、病名と病状と薬の名と薬代を書き出した紙を渡す。

彼は紙を読むと、人を呼んだ。
グレースにその紙を、少しの間だけ貸して欲しいと言ってきた。

「私の友人に、王都で病院を経営している医師がいる。
これを見せて助言を求めるつもりだ。
薬代とかは、私では判断が出来ないから」

右手に紙を持ちながら、グレースにウィンクをした。

「いいんでしょうか?
そこまでしてもらっても?!」

本当は、とても有難い。
だが、どうしても遠慮してしまう。

「君は、少し人に頼ることを覚えなさい。頼りすぎは困る。
しかし差し伸べられたら、その手を取りなさい。
自分で考えて決めてね」

彼は、私に手を出してきた。

「さぁ、原稿を見せて!
君はその間にお茶を飲みながら、作家名を決めなさい!」

何も考えていなかった、もう1人の私の名を…。

それから作家名を考え続けた。


 私の名前は、グレース。
優雅の意味を持つ、陰で名前に負けていると人に言われていた。
なんで父は、そんな名前をつけたんだろう。
地味な栗毛くりげと、琥珀こはく色の瞳。
もっと平凡で良かったのにと、グレースと呼ばれると思ってしまう。

彼は口には出さなかったが、心ではそんな私の名を笑っていたのかもしれない。

彼の心をさらっていった、あの女性の名前はー。
彼女の名前は、彼女にピッタリの顔立ちをしている。
身分も私より上だった。
私は子爵、彼女は伯爵。
美しいピンクブロンドの髪に、輝くエメラルドの瞳。

彼も美形で並んだ姿は、お姫様と騎士きしのように見えた。

独りでいる私を可哀想と、令嬢たちが見ているのは本当に辛かったわ。

卒業まで半年になってから、卒業パーティーの話がちらほら話題になってきた。
婚約を解消したり、逆に婚約したり。
私のことも人の噂になっている。

「グレース様も婚約破棄になるんではなくて、だって2人でいるのを見たことがありまして?!」と、令嬢たちが嬉しそうにささやく。

人の不幸はみつの味とは、よく言ったものだ。
友達と思ってきた人も、彼と仲の良い女性を離した方がいいとかあれは友人の仲ではない。
浮気しているんじゃないかと、私に伝える友達。

応援しているようで、そうではなかった。
面白がっていただけ、私が捨てられても自分ではないから関係ない。そんな感じだ。

彼からは、卒業パーティーのドレスの事を何も言ってこない。
父も母も私たちが、不仲ふなかではないかと気遣っていた。


  私は勇気を出して、彼を探すことにしたわ。
学園の中庭のベンチに座っている2人。
相手たちは、私に気づいていない。

「ねぇ、パーティーは私をエスコートしてくれるんでしょう?」

「俺、婚約者いるんだけど。
正直、君だったらいいと思っているんだ!
父には相談している。
あれでも、子爵だし困っているよ」

「私の身分は、伯爵だわ!
父に話してあげる。
私…、貴方を気になっていたのよ」

彼を見つめて、甘い声でささやきかける。

「彼女なら頭が良いし、何とか生きていけそうよ。
私はダメ、すぐに人に頼ってしまうの!」

彼女は、彼の腕に自分の腕をからませた。

私はその会話と2人の姿に震えながら、その場から逃げて家に帰った。

父に彼のことを話したら、父はそれなりに調べてくれていた。
私が言ってくるまで、父は待っていたそうだ。

どうして、私を待っていたの!

父の話を聞いていくうちに、理由は分かっていく。
他の女性と街で見かけたり、周りの人からも教えてもらっていた。
我が家は彼の家から支援してもらっている。
その関係で、強く言えなくて悩んでいた。

限界を感じた父は、覚悟を決めて抗議しに彼の屋敷に行く。
青い顔で疲労感ただよって帰宅した後に、私に申し訳ないとあやまってきたわ。
今までの支援金は、彼からの迷惑料で無しになった。

後日、彼から破棄の理由を直接私に話してきた。
卒業後の進路に時間を費やし、パーティーどころではなく。
それに出れるわけがない!
こうして王宮へー。

正反対の私と彼女。

愛されなかった女と愛された女。

彼女が羨ましくて、嫉妬した。
彼らは、その後幸せなのかしら?
二人に、幸福になって欲しいと思えるなんて。
思いもしなかった。

「グレース!」と、呼ばれた。

前を向くと編集長が、いい知らせがあると話しかけてくる。
母の病は国で指定されているそうで、治療費はかからないと判明した。
故郷こきょうの医者は知らなかったのか。 
わざとなのかは、今はわからない。
これは私たち家族には、有り難かった。

「作家名は、決まったかね?」

私は憎んであこがれた、彼女の名を作家名に決めた。

この本が出版されて、もし彼女が読んだら私を思い出すかしら?
そんなバカなことを考えて、編集長に伝えた。

そう彼女の名は、シャロン…。


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