【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)

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第1章  思い出は夢の中へ

第16話 誓いと一杯のお茶

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 王妃様に最後のお茶いれをする為に、慎重しんちょう身仕度みじたくをする。
自分の姿を鏡で顔をジッと見ると、昨日泣きすぎたのか目が少しれていた。
メイド服にシワや汚れがないか体をよじらせ目視する。
そして、自分に気合いを入れた。

心を穏やかにして、相手を思い準備していく。
今日であのお方のお顔を見るのも、お声を聞くのも最後なのね。
尊敬して憧れたお方、美味おいしそうにお茶を飲む姿を拝見はいけんして喜びを感じていた。
こんな自分に唯一ゆういつ、誇りを与えてくれた時間でもあったのだ。

毎日が幸せで、その日がいつまでも続くと信じていたわ。
それを、自分で壊してしまった。
その場を、明日からきっと失うのね。

もうすでに、両親や恩人の編集長には報告してある。
病院で会って母に泣かれ、父は自分の不甲斐ふがいなさを私に手紙でびてきた。
私はなんで、こんなに親不孝なのだろうか。

そのような事を考えながら、女官長様の後ろ姿を見てお茶の準備をしたワゴンを押す。
部屋の中には、私たちしか居なかった。
お人払いをしてくれたんだわ、グレースはそう思った。

ベランダにあるテーブル席に、背筋を伸ばして座っておられた。
外のバラを眺めていた顔を、私たちに向けて優しげに微笑ほほえんでくれる。

「グレース、お久しぶりね?!
体調は平気かしら?
話は女官長から伺ったわ。
まずは、お茶を入れてくれるかしら?!お願いね!」

王妃様が元気で幸せな気持ちになりますように、毎日心を込めていれていたわ。
今日は、その気持ちに感謝を付け加えた。

一介いっかいのメイドの私に、いつも優しく接してくれた人。
この方が好きだった、人としてー。

「王妃様、どうぞ」

カップをとり、一口お茶をゆっくり飲む。
そして、味わうように目を閉じた。

そのお姿を、不敬ふけいに当たるが見つめ続けた。
目に焼き付けるように、その目から止めどなく涙があふくる。

「グレース、貴女は私に罪を犯したわ。
暫くこのお茶が飲めなくなるのが、残念よ!
約束して頂戴な!
もう一度、必ずお茶をいれなさい。
この私に誓いなさい!!」

私を見つめながら、泣きそうなお顔をされておっしゃいました。

「はい、誓います。
私、グレース・マローはー。
もう一度、王妃様にお茶を淹れてみせます」

子爵令嬢の私とこの方では、天と地ほどの身分差がある。
今でも奇跡に近いはずだ。

思い続ければ、かなうのかしら?!
いいえ、きっとしてみせるわ。
どんなに時がっても、生きている限りー。

「貴女を好ましく思っています。
貴女のいれたお茶を飲むと、安らぐの不思議ね?
身分の差がなれけば、友人になって欲しいと思っていたのよ」

味わうために、また一口カップに口をつけた。

「王妃様、光栄でございます。
王妃様にお茶を飲んで頂く、この時をー。
誇りに感じ幸せでした。
どうか、ご健勝けんしょうをお祈り申し上げます」

部屋の中に、女官長のすすり泣く声がかすかに聞こえた。

「明日、早朝!
グレースを王宮から出します。
私は、王宮から外に出れない。
もし、何かあっても助けられないわ。
隣国の知り合いに、貴女を託すことにします」

王妃様は、そう話してからグレースを近くに呼んだ。

「この手紙を持って、門番にこうおっしゃい。
【赤いバラはお好きですか?】と、私と侯爵夫人しか知らない思い出の言葉です。
彼女は、私の願いを叶えることでしょう」

手紙を両手で受け取り、深く頭を下げた。

「王妃様、感謝いたします」

これが、王妃様と私の最後の言葉となってしまった。

王妃様は部屋へ入って見た姿勢になり、グレースたちから視線をすと薔薇を見始める。

私は自分が出来る最高のカーテシーしてから、女官長様と名残惜しいその部屋を後にした。

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