【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 暗躍編ー

愚者 (フール)

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第1章  奇跡の巡り合わせ

第3話 意地を張るより頬張れ

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 食堂に怪我人けがにん連れ入ると、今まで居た客人たちから即座そくざに視線が向けられた。
きっと私たち女性がいなかったら、殴られている男の顔を見て不快ふかいに感じただろう。
悪ければ無条件で、お客様でも追い出されるかも。

まだあどけない驚くほどの美少女が、外から中へ飛び込んできた。
声をかけるのに一瞬だけ躊躇ちゅうちょしたが、店員は気になり声を掛けてみるのだ。

「お嬢ちゃん、どうしたの?!」

若い女性の店員が、一番先に入ってきた彼女にたずねた。

「この方が、誰かにおそわれたみたいなの。
すみませんが、顔をいてあげたいのです。
手間賃てまちんは、ちゃんと出しますのでお願いします」

可愛い女の子に必死に頼まれて、店の奥に調理中の亭主ていしゅが助けてやれと声をかけてくれた。

座って土で汚れた顔を拭いて綺麗にし、彼も気持ちが少し落ち着いた様子。
顔にアザがある紳士は、私たちに丁寧に礼を述べてきた。
そして、自己紹介の挨拶あいさつをしようとしたのだが…。

「その前に、先に飯を決めよう。
話はその後でも、ゆっくりしょうぜ」

「賛成!緊張して、のどが渇いたわ。
この店のオススメはなに?
デザートは、どんなのがあるのかしら?!」

「もう、お嬢様はー!
はしたのう御座いますよ。
ですが、安心したら…。
お腹が空いてきましたわ」

引ったくりにあって殴られた人を無視して、好き勝手に話し始めた3人である。

「そうそう、貴方も好きなものを頼みなさいね。
お腹が空くと元気がなくなるもの。
たくさん、お食べなさい。
遠慮はしないでね!」    

プリムローズは胸をドーンと1度叩いて、まかせろという態度を示した。

話を盗み聞きしていた店の中の全員は、そのなんとも言えない会話に笑いそうになる。
3人の食へのくなき執念を、周りの客たちは若干じゃっかん引き気味ぎみであった。

 
    4人は、とにかく先に食事することに決める。
そうしないと、話が前には進まない。
紳士は、3人の行動を見て感じた。

亭主のオススメは、当日水揚げされた魚介類を使ったブイヤベースのスープでパンにチーズをのせてスープにひたして食べると絶品だと自慢する。

「へぇー、説明を聞いてるだけで美味しそうねぇ。
それにしましょうよ、早く食べてみたい」

「お嬢~、ワイン飲んでいい?
これさぁ、絶対ワイン合うぜ。
お願いします!お嬢様~」

「悪ふざけしないで下さい!
貴方はお嬢様の護衛ごえいで来てるのですよ。
酔ったりしたら、使い物にならないでしょう?!」

紳士はただ黙って、それらの3人の話を聞いていた。

質素な服装だが、気品ある雰囲気ふんいきの美少女。
口は悪いが、どこか騎士の様な感じがする若者。
そして必死にいさめる、一応いちおうは良識ありそうなメイドぽい若い女性。

何処どこからか、旅行に来ているのだろうか。
亭主に、詳しくご当地料理を聞き出していた。

「ギルは、全く仕方ないなぁ。
ワイン、1本よ!
ねっ、貴方も一緒に飲むでしょう?!」

「一杯ではなく、ボトル1本ですか?!
この男は、つけあがるから駄目ですわ。
ますます、調子に乗りますよ。
お嬢様はこう仰っていますがー。
いませんよ、ギル師匠ししょう

「いいじゃん、旅先で出会った方を歓迎して!
それぐらいで、俺っちは酔いませんよー」

プリムローズは前で借りてきた猫のような男に、気になり声をかける事にした。
襟足までの茶髪とオニキスの宝石みたいな瞳。
ギルには見劣りするが、体つきもシッカリしている。 
服装も平民よりは上質だ。
彼は…、貴族かしら…?

「ねぇ~、貴方もご一緒しない?
遠慮しないでいいのよ。
こんな嫌な時は、酒でも飲まなきゃ。
とても、やってられないわよね」

「………。はぁ、はい…」

子供が話す内容ではないが、思わず素直に返事を返す身元不明な男性。

    
    食事がテーブルに並び、何かを呪文のように話すと3人は目を輝かして食べていた。
口をポカンと開けて、ただ見ていた紳士にお声がかかる。

「ほらっ、お食べなさい。
これは、とても美味しいのよ。
食べないと元気もでないじゃないの。
ぬすまれたお金は残念だけど…、あきめなさいな」

プリムローズが、皿にスープとパンを乗せて紳士の前に差し出す。

まさにあの言葉がフト頭に浮かぶ、身元不明な紳士である。

【意地をるより頬張ほほばれ】

三人が聞こえない小さな声で、ぼそっとささやく。

意地を張って食べずにいるより、いやしく思われても食べるほうがいいか。
なるほど、腹も空いてるしな。
   
「あの~、ありがとうございます!
これは、美味しいですな」

皿に受け取り、素直に食べ出した。
時おり、口の中のキズで顔をしかめる。

周りにいた客たちも、引ったくりにあった気の毒な者をなぐめる視線を送った。

「この魚介類のスープは、濃厚でパンとチーズを引き立てるわ。
あぁ、もう幸せな気分よ。
あまりにも美味しくて…、なんだか泣けてくるわ。
ご亭主、貴方は料理の腕は素晴らしいです」

「やっぱ、これとワインは思ったとおりに合うな!
こりゃ、最高の組み合わせだ!
お嬢が成人したら、ワインとまたこのスープ食べに行きましょうぜ。
その時は、お供します」

一気に飲み干し、ワインですっかりご機嫌なギル。
何年も先かなるだろうが、ワケわからないお願いをしてくる。 

「おっ、美味しいです!
このレシピを、教えて貰いたいぐらいよ。
え~っと…、私も一杯だけワインを飲んでいいですか?!
本当に図々ずうずしくて、申し訳ありません」

あきれてメリーを見て、プリムローズは笑いながら店員に注文していた。
なんとも賑やかな食事風景に、不思議と周りの客たちもにこやかな顔になってしまう。
楽しいうたげは、まだまだ続きそうであった。
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