【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 暗躍編ー

愚者 (フール)

文字の大きさ
8 / 142
第1章  奇跡の巡り合わせ

第8話 渇しても盗泉の水を飲まず

しおりを挟む
 先に入っていったギルが、それ以上に奥に入らず立ち止り。
入口近くで、静かにただ見つめていた。
プリムローズはそんな彼を不思議そうに見ていたが、馬小屋代わりの部屋を一緒にのぞくとその理由を知ることになる。

「お前は、綺麗な白く輝く毛並みだね。
大事にされているんだな。
あっ、ごめん。
腹の虫が鳴ってしまった。
昨日から…。
何も食べてないんだよ」

プリムローズの愛馬ヴァンブランは、人参の葉をくわえて彼の顔の前に差し出すような仕草しぐさをした。

「えっ!その人参にんじん食えってか?!
人様でなく、馬様だね。
駄目だよ…。
これは、お前のものだからさ」

せ細ったら少年が、ヴァンブランを優しくで話しかけていた。

お腹が空いても、人参をけして口にしない。
そんな少年に自然に涙する。
あんなに痩せて…、それでもヴァンブランに優しく出来る魂に胸を熱くした。

「【かっしても盗泉とうせんの水を飲まず】。
どんなに喉が渇いていても、盗泉という名の水は飲まない」

ギルの言わんとする意味を、頭に浮かべ心で呟く。
いくら困窮こんきゅうしても、不義や不正には関わらないか。

「ギル、彼を見ていてどう思う?
彼の心は美しいと思うわ。
彼を助けたいと考えるのは、偽善者ぎぜんしゃかしら?」

プリムローズは小声で、近くにいるギルにたずねた。

「俺には救う力がないが、お嬢にはそれが出来る。
自分で、偽善者と思えば偽善者じゃね」

意地悪そうに笑って返事する彼に、プリムローズは決意して強く頼んだ。

「ギル、弟分が出来たわよ。
彼を仕込みなさい、いいわね」

「へーい!お嬢、強く賢くするぜい!」

2人はヴァンブランのいる場所に入って行くと、鳴き声でプリムローズたちの存在を知ることになる。

 少年は驚いて二人を見ると、地面に額をこすり付けるように座る。

「何故、そんな事をするの?
早く、お立ちなさい。
この馬の持ち主で、これからヘイズに留学しに行く途中なの。
貴方はヘイズの国民なのかしら?
ご両親は、お国にいるの?」

プリムローズが、少年に矢継ぎ早に話す。

「両親は…、借金を残して亡くなりました。
馬の世話や荷物運びをして、そのお金を返してます。
身寄りは……、ありません」

まだ地面に頭をこすりつけるようにしている。
そのまま、二人に向かい返事するのだった。

「私の名前は、プリムローズ・ド・クラレンスよ。
今日から貴方は、私に仕えなさい。
誰に、その借金を払えばいいのかしら?
いくらぐらいあるの?
教えて、貴方の名前もね」

彼は彼女の質問の内容にビックリすると、下に向けて見えなかった顔を挙げた。

2人は同時に、その挙げた顔を初めて見て驚く。
真っ黒に汚れているが、とても気品ある顔立ちをしていたからだ。

「私は…、エリアスと申します。
借金の返済先は、船長が知っていると思います。
覚えてる額は…、金貨5枚でした」

船長の所へ連れていくよう言うと、その前に自分の部屋に来るようにエリアスに命じた。

「いけません、駄目です!
まだ勤務時間ですので、この場から離れられないのです」

頑固がんこ律儀りちぎな、この少年にあきれていた。

「はぁ~、わかったわ。
お菓子を持ち歩く癖があるの。
足しになるかわからないけど、これを食べなさい。
すぐに自由にするから、ヴァンブランとおとなしくココにいなさいね!」

白馬の側に行き背中をでてやると、首を振りそれは嬉しそうに鳴いている。

「ヴァンブラン…。
もう心配しないで、彼は助ける。
助けだして、ヘイズではお前を世話させるつもりよ」

愛馬に語ると、ギルをともない部屋に戻るのであった。

 プリムローズは部屋に戻ると、メリーにヴァンブランの世話していた。
エリアスという少年の話をした。

「お嬢様は、彼を助けて側に置くのですね。
彼と私は、境遇きょうぐうが似ておりますわ。
私も大奥様に、こうして助けて頂きましたから……」

彼女はそっと目を閉じて、昔の自分を思い返す。
貧しく毎日お腹を空かして、下ばかり見ていた自分をー。

「まだ私は、成人もしていない子供です。
本来は…、勝手にそんな事をしてはいけない。
でもね…、彼の魂は美しいの!
そんな彼に、未来を与えてあげたいのよ!」

タルモは話を聞いていて、プリムローズにも美しい魂があると思っていた。

「話の途中で失礼ですが。
プリムローズ様のご家族は、その行いを反対される方々なのですか?!」

彼は、彼女の背中を押すつもりで聞いてくる。

「タルモ殿……、いいえ!
よくやったと、きっと褒めてくれるはずよ。
あぁ~、そうだった。
タルモ殿の仰る通りだわ。
迷わない事に決めました。
彼をー、エリアスを助けだします」

プリムローズは、ピーちゃんの鳥籠を開けて首輪から金貨を取り出す。

「金貨5枚と言うが、相手は足元を見るかも知れませんぜ。
何せ、お嬢は…。
金を持っていますからな」

ギルがそう言うと、タルモが話に割って入ってくる。

「では、私が話をつけますよ。
私は商人で、交渉が得意です。
相手から、うまく値切りましょう」

3人は、タルモの値切りの言葉に目をパチクリした。

「では、軍資金の金貨5枚を預かります。
……、行かせて下さい。
ご恩返しを、少しはさせて頂きたい」

彼は手を広げて、プリムローズに差し出す。
その手には、エリアスを助けるのに必要な金貨5枚が握られていた。

 タルモは外見を変えると言い、隣の部屋に入って行く。
どうやら、着替えるようだ。
商人のタルモに、エリアスの今後をー。
未来のすべてを、ゆだねることに決めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

婚約破棄されたので、愛のない契約結婚を選んだはずでした

鍛高譚
恋愛
王太子の婚約者だった伯爵令嬢・カーテンリンゼ。 しかし、王太子エドワルドは突然の婚約破棄を言い渡し、彼女を冷たく突き放す。 ――だが、それは彼女にとってむしろ好都合だった。 「婚約破棄? 結構なことですわ。むしろ自由を満喫できますわね!」 ところが、婚約破棄された途端、カーテンリンゼは別の求婚者たちに目をつけられてしまう。 身分を利用されるだけの結婚などごめんだと思っていた彼女の前に現れたのは、冷徹と噂される若き公爵・レオポルド。 「契約結婚だ。君の自由は保証しよう」 「まあ、それは理想的ですわね」 互いに“愛のない”結婚を選んだ二人だったが、次第に相手の本当の姿を知り、想いが変わっていく――。 一方、王太子エドワルドは、自分が捨てたはずのカーテンリンゼを取り戻そうと動き出し……!?

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...