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第5章 栄光を目指せ
第1話 歯に衣着せぬ
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「変かもしれないけれど……。
プリムローズ嬢、ロッタ。
ありがとうございました」
ジャンヌが寮へ入るなり、プリムローズとロッタに感謝の気持ちを伝えてきた。
律儀な性格を持つ彼女なら、言ってくるかもしれない言葉。
予想していたプリムローズたちは、自分たちに向ける礼を無言と目礼で返す。
ばつの悪そうな笑みの中に、どこか気持ちが吹っ切れた様だった。
「今日の出来事は、信じていた人から裏切られた気分になったわ」
「……、ジャンヌ」
親友の名を呼ぶ声が、小さく微かに震えていた。
ジャンヌが尊敬していた憲兵の人たちは、彼女の心を打ち砕くに行いをしてくれたのである。
プリムローズたちの表情は、彼女の現在の心境を表していた。
「そんな暗い顔しないでよ。
目標があるから、立ち直りが早いと思うわ。
自分が望む職業につきたい!
これがあるから、安心してと言いたかったの」
迷いなき口調と曇りなき眼が、ジャンヌの偽りない信念を感じ取れる。
『こんな時ー。
どんな言葉で慰めたらいいの』
ぐるぐる言葉が頭の中で駆け巡り、次々に浮かんでは弾けて消えていく。
プリムローズの傍らでは、戸惑いもせずに長年の友は同意する。
「ジャンヌと同じだよ。
親のコネは当てにできないし、最終試験を頑張るしかないな」
言葉に詰まっている間に、親友ロッタがジャンヌを励ましていた。
埋められない絆の深さの溝に、仲間外れにされた気持ちになる、プリムローズ。
「えーっと、それならチューダー侯爵令息が気になります。
お二人は、彼の実力を耳にしたことありません?」
他国出身のプリムローズは、フレデリカの兄のことをジャンヌとロッタへ尋ねてみることにした。
「私たちとは学年も違うし、身分もかけ離れている。
噂ですら、耳にしないんだ」
プリムローズは残念そうに、ロッタの話を聞いていた。
そして、2人から逆に意外な返しをされた。
「こうなったら、妹君にあられる。
チューダー侯爵令嬢フレデリカ嬢に、お尋ねになられたらいかがでしょう」
「それいいな、ジャンヌ。
兄君の弱点を、ひとつくらいは知っているかもしれない」
笑顔が出始める二人の会話を、一緒になり笑って聞いていた。
直接フレデリカへ本当に訊くのかと、プリムローズはなかば呆れていた。
ジャンヌの瞳には、完璧に近い整いすぎた顔が写る。
「チューダー侯爵令嬢とは、私たちは親しくありません。
きっと、プリムローズ嬢なら尋ねられますわ」
「聞きだせたなら、私たちにも教えて貰えると助かる」
「えっ!
……、私がするの!?」
性格上、プリムローズは頼られるとまんざらでもない。
しょうがないわねという顔つきをして、伸びた煌めく銀髪を耳にかけながら言う。
「まあ、そのつもりでした。
昼食を誘ってみて、まずは近況から伺ってみましょうか」
昼の食堂でフレデリカを探しだして、バザールで見掛けた侯爵令息の様子を聞き出す作戦になった。
この場だけだと受け流していたジャンヌとロッタは、プリムローズの性格と本気を知らずにいた。
昼の食堂で赤毛のライラと、クルクル巻き毛のフレデリカ。二人で並んでいると、特徴ある髪はそうとう目立つ。
プリムローズたちは、遠くからでも一発で探し当てた。
「まぁ、ごきげんよう!
フレデリカ様、ライラ様。
お会いできて嬉しいわ。お昼、一緒にどうかしら?!」
彼女らのテーブルの近くに、ロッタが自分たち用のテーブルを一人で持ち上げる。
残りの椅子は、ジャンヌとプリムローズが運ぶ。
「プリムローズ様、お久し振りですね。
その顔つきは、なにやらございましたわね」
ライラ・ヘーディン侯爵令嬢は、興味ありげにプリムローズに話題を振ってくる。
「単刀直入にお聞きします。
フレデリカ様の兄上様は、つい最近留学からお戻りになっていませんか?!」
無作法にも挨拶なしで、質問を投げかけてきたプリムローズ。
普段なら窘めるところを、彼女なら仕方ないと思ってしまう。
「【歯に衣着せぬ】とは、こんな状況を指すんだな。
あんな風に思っていることを、遠慮なく包み隠さず言うことだ」
側にいるジャンヌに、プリムローズの様子を見て耳打ちする。
言葉の由来を知っているかと質問してみたら、それまでは分からないよと頭を振った。
「衣は物を隠すだけでなく飾る働きもあることから、言葉を飾らずに率直に言うことと結びついたの」
「だから、【歯に衣着せぬ】なんだ!
どうしてなんだろうと、ずっと引っ掛かっていたんだ」
モヤが晴れたようにスッキリしたロッタは、挨拶を交わしているプリムローズたちを見ていた。
自分たちと毛色が違う銀髪が、クルッと反転したと同時に話し出す。
驚くロッタとジャンヌを尻目に、淡々と付け加えていた。
「褒め言葉として使う場合は、第三者の率直な物言いを称賛する際に使われることがあります。
また、相手によっては「空気を読まずに相手の反感を煽るような発言」と捉えられることもありますわ」
後者を指してロッタは、この言葉を自分に向けて使ったんだろうと皮肉った。
「聞いていないと油断していたよ」
「私たち、そんなつもりじゃなかったのです」
陰口じゃないと本人へ釈明していたら、笑いを含んだ声が割って入る。
「プリムローズ様は、相変わらずね。
なんでもかんでも首を突っ込んで、お二人がお気の毒ですわ」
燃えるような炎の赤毛を持ったライラが、自分等との会話を中断したことに遠回しで嫌みを述べた。
見事なクセの強い巻き毛を揺らして、今度はフレデリカがプリムローズに返事を返す。
「あらまぁ、よくご存知ね。
先週、留学先のウィルスター国から帰国しましたのよ」
「偶然、ジャンヌ様がバザールでお見かけしたそうです」
ジャンヌの方へ流し目を送ってから、フレデリカが言いづらそうに話す。
「いつまでもフラフラしている兄に、とうとう父上が帰国を促したのです。
しかし、ケトラ男爵令嬢がよく兄に気づきましたこと」
黒髪の見事な巻き毛を揺らし、プリムローズへ顔を近づけてきた。
「あ、あのう~。
チューダー侯爵家は、ご家族の方々はよく似ておりますので……」
遠回しの言い方をしているが、分かる人はすぐに気づく物言いだった。
「クラレンス公爵令嬢がおっしゃるには、我がチューダー家はクルクル遺伝子爆発の一家ですからね」
「あら、フレデリカ様。
まだ覚えておられましたか」
プリムローズに以前言われたことを、ずっと根に持って覚えていたらしい。
「恥ずかしい話ですけどー。
留学先で付き合っていた彼女に、浮気されて傷心したままで帰国しましたの」
「ええー、こんな大事な話を、私たちにされても宜しかったですか!?」
プリムローズはいくら妹でも、ここまで暴露して良いか心配になる。
「誰にもこの話を漏らしません。
辛い思い出も、いつかは和らぎますわ」
同じ将軍職に就くスクード公爵令息を婚約者に持つ侯爵令嬢が、余裕かまして慰めの言葉をかける。
「ライラ様は、素敵な婚約者と仲が良いようで羨ましいですこと。
私と兄は縁がなく、婚約者なしの独り者ですもの」
「それでしたら、私たちもフレデリカ様と同じ立場です」
不穏な空気が漂いそうで、プリムローズが間に立って仲裁する。
当てはまるジャンヌとロッタは、一言も発せずに頷くだけにした。
「妹の私だけに、兄は教えてくれました。
かなりの額の宝石を貢がされてしまって、そのお金の分を働いて稼いでいたそうです」
ライラが神妙な表情で、興味ありげに訊いてくる。
ジャンヌとロッタは、その手の振る舞いは苦手とし無言を貫いていた。
「その浮気された令嬢に、かなり痛い目にあったようですね」
「ええ、そうなんです。
当分、女はゴメンだ!
俺には、やはり剣しかない。
こう申しておりました」
言い終えて、フレデリカはため息をついていた。
『家族の間でも、この様子だとひと悶着あったらしい。
心中、落ち着かないようだわ』
多分、留学が長引いたのは貢がされた金を貯めるために働いていたからだ。
誰でも察する考察していると、ロッタとジャンヌも同じように考えているようだった。
「チューダー侯爵令嬢。
無礼を承知で伺いますが、兄上様は学園に復学するおつもりですか?」
初めて開いた重い口調で、ロッタがフレデリカに質問した。
「気になりますか?」
はぐらかすように言われて、軍学園に通う令嬢たちの目付きは鋭くなる。
強敵になるかはわからないが、ライバルに躍りでた者を敵視するのは当然だった。
軍学園で騎士道を学ぶプリムローズたちと、淑女として学ぶ貴族の令嬢たち。
これこそが、他人から見たら奇妙な組み合わせである。
ご令嬢育ちのチューダー侯爵の娘フレデリカは、3人の殺気立つ気配をドコ吹く風の態度。
中立のライラは、ピりついた空気を勘づき。
彼女らの表情を見ては、血の気が引いて貧血を起こしかけそうになる。
「明日から、軍学園に復学します。
実技試験でトップになって、首席になるように父に命じられていました」
テーブルを手で叩きそうになるのを、プリムローズは理性で止めるが口は止まらない。
「なにそれ、厚かましい。
チューダー侯爵は、息子が首席になれると思っておられますの?!」
地位が一番高い公爵令嬢のプリムローズからしても、この場で言えるギリギリの言葉だった。
どさくさに紛れて、ロッタとジャンヌもプリムローズに続いた。
「失礼ながら、間際になって首席を狙おうとされるのか」
「最後の実技試験は一発勝負。
勝てるのではと、多少は希望を抱いております」
言い争うような会話に、周辺は耳を研ぎ澄ます。
学生たちは、おぉーっと聞き惚れていた。
自分達が思ったことを言ってくれて、勇気ある彼女らに感謝していた。
「プリムローズ嬢も、本来は該当する。
君も途中から転入したのだろう。
まっ、彼よりマシだけどね」
「実技試験の内容すら、彼女は知らなかったのよ」
親友同士で口喧嘩が勃発しそうになるが、原因の彼女は我関せずの態度である。
「存じなかったとはいえ、私も引け目を感じています。
チューダー侯爵令息は、2年も経ってからの復学。
これは問われるのでは?」
「うん、そこが他の生徒から不況を買っている。
留学先で卒業したんだ。
これで満足すればいいんだよ」
立場の悪い妹フレデリカは、正当な理由を述べてきた。
「悪者扱いしないでください。
兄自身も、復学は気が引けておりますわ。
将軍の息子としては、父は自国の学業も修めて欲しいのです」
チューダー家は、本当に家族関係が良好なのだろう。
兄を慕っているのを、言葉の端々から感じられた。
フレデリカを見ながら、プリムローズも兄のブライアンの優しげな笑顔が頭に浮かぶ。
彼女の思っていたような、単純な話では終わらなかったのだった。
プリムローズ嬢、ロッタ。
ありがとうございました」
ジャンヌが寮へ入るなり、プリムローズとロッタに感謝の気持ちを伝えてきた。
律儀な性格を持つ彼女なら、言ってくるかもしれない言葉。
予想していたプリムローズたちは、自分たちに向ける礼を無言と目礼で返す。
ばつの悪そうな笑みの中に、どこか気持ちが吹っ切れた様だった。
「今日の出来事は、信じていた人から裏切られた気分になったわ」
「……、ジャンヌ」
親友の名を呼ぶ声が、小さく微かに震えていた。
ジャンヌが尊敬していた憲兵の人たちは、彼女の心を打ち砕くに行いをしてくれたのである。
プリムローズたちの表情は、彼女の現在の心境を表していた。
「そんな暗い顔しないでよ。
目標があるから、立ち直りが早いと思うわ。
自分が望む職業につきたい!
これがあるから、安心してと言いたかったの」
迷いなき口調と曇りなき眼が、ジャンヌの偽りない信念を感じ取れる。
『こんな時ー。
どんな言葉で慰めたらいいの』
ぐるぐる言葉が頭の中で駆け巡り、次々に浮かんでは弾けて消えていく。
プリムローズの傍らでは、戸惑いもせずに長年の友は同意する。
「ジャンヌと同じだよ。
親のコネは当てにできないし、最終試験を頑張るしかないな」
言葉に詰まっている間に、親友ロッタがジャンヌを励ましていた。
埋められない絆の深さの溝に、仲間外れにされた気持ちになる、プリムローズ。
「えーっと、それならチューダー侯爵令息が気になります。
お二人は、彼の実力を耳にしたことありません?」
他国出身のプリムローズは、フレデリカの兄のことをジャンヌとロッタへ尋ねてみることにした。
「私たちとは学年も違うし、身分もかけ離れている。
噂ですら、耳にしないんだ」
プリムローズは残念そうに、ロッタの話を聞いていた。
そして、2人から逆に意外な返しをされた。
「こうなったら、妹君にあられる。
チューダー侯爵令嬢フレデリカ嬢に、お尋ねになられたらいかがでしょう」
「それいいな、ジャンヌ。
兄君の弱点を、ひとつくらいは知っているかもしれない」
笑顔が出始める二人の会話を、一緒になり笑って聞いていた。
直接フレデリカへ本当に訊くのかと、プリムローズはなかば呆れていた。
ジャンヌの瞳には、完璧に近い整いすぎた顔が写る。
「チューダー侯爵令嬢とは、私たちは親しくありません。
きっと、プリムローズ嬢なら尋ねられますわ」
「聞きだせたなら、私たちにも教えて貰えると助かる」
「えっ!
……、私がするの!?」
性格上、プリムローズは頼られるとまんざらでもない。
しょうがないわねという顔つきをして、伸びた煌めく銀髪を耳にかけながら言う。
「まあ、そのつもりでした。
昼食を誘ってみて、まずは近況から伺ってみましょうか」
昼の食堂でフレデリカを探しだして、バザールで見掛けた侯爵令息の様子を聞き出す作戦になった。
この場だけだと受け流していたジャンヌとロッタは、プリムローズの性格と本気を知らずにいた。
昼の食堂で赤毛のライラと、クルクル巻き毛のフレデリカ。二人で並んでいると、特徴ある髪はそうとう目立つ。
プリムローズたちは、遠くからでも一発で探し当てた。
「まぁ、ごきげんよう!
フレデリカ様、ライラ様。
お会いできて嬉しいわ。お昼、一緒にどうかしら?!」
彼女らのテーブルの近くに、ロッタが自分たち用のテーブルを一人で持ち上げる。
残りの椅子は、ジャンヌとプリムローズが運ぶ。
「プリムローズ様、お久し振りですね。
その顔つきは、なにやらございましたわね」
ライラ・ヘーディン侯爵令嬢は、興味ありげにプリムローズに話題を振ってくる。
「単刀直入にお聞きします。
フレデリカ様の兄上様は、つい最近留学からお戻りになっていませんか?!」
無作法にも挨拶なしで、質問を投げかけてきたプリムローズ。
普段なら窘めるところを、彼女なら仕方ないと思ってしまう。
「【歯に衣着せぬ】とは、こんな状況を指すんだな。
あんな風に思っていることを、遠慮なく包み隠さず言うことだ」
側にいるジャンヌに、プリムローズの様子を見て耳打ちする。
言葉の由来を知っているかと質問してみたら、それまでは分からないよと頭を振った。
「衣は物を隠すだけでなく飾る働きもあることから、言葉を飾らずに率直に言うことと結びついたの」
「だから、【歯に衣着せぬ】なんだ!
どうしてなんだろうと、ずっと引っ掛かっていたんだ」
モヤが晴れたようにスッキリしたロッタは、挨拶を交わしているプリムローズたちを見ていた。
自分たちと毛色が違う銀髪が、クルッと反転したと同時に話し出す。
驚くロッタとジャンヌを尻目に、淡々と付け加えていた。
「褒め言葉として使う場合は、第三者の率直な物言いを称賛する際に使われることがあります。
また、相手によっては「空気を読まずに相手の反感を煽るような発言」と捉えられることもありますわ」
後者を指してロッタは、この言葉を自分に向けて使ったんだろうと皮肉った。
「聞いていないと油断していたよ」
「私たち、そんなつもりじゃなかったのです」
陰口じゃないと本人へ釈明していたら、笑いを含んだ声が割って入る。
「プリムローズ様は、相変わらずね。
なんでもかんでも首を突っ込んで、お二人がお気の毒ですわ」
燃えるような炎の赤毛を持ったライラが、自分等との会話を中断したことに遠回しで嫌みを述べた。
見事なクセの強い巻き毛を揺らして、今度はフレデリカがプリムローズに返事を返す。
「あらまぁ、よくご存知ね。
先週、留学先のウィルスター国から帰国しましたのよ」
「偶然、ジャンヌ様がバザールでお見かけしたそうです」
ジャンヌの方へ流し目を送ってから、フレデリカが言いづらそうに話す。
「いつまでもフラフラしている兄に、とうとう父上が帰国を促したのです。
しかし、ケトラ男爵令嬢がよく兄に気づきましたこと」
黒髪の見事な巻き毛を揺らし、プリムローズへ顔を近づけてきた。
「あ、あのう~。
チューダー侯爵家は、ご家族の方々はよく似ておりますので……」
遠回しの言い方をしているが、分かる人はすぐに気づく物言いだった。
「クラレンス公爵令嬢がおっしゃるには、我がチューダー家はクルクル遺伝子爆発の一家ですからね」
「あら、フレデリカ様。
まだ覚えておられましたか」
プリムローズに以前言われたことを、ずっと根に持って覚えていたらしい。
「恥ずかしい話ですけどー。
留学先で付き合っていた彼女に、浮気されて傷心したままで帰国しましたの」
「ええー、こんな大事な話を、私たちにされても宜しかったですか!?」
プリムローズはいくら妹でも、ここまで暴露して良いか心配になる。
「誰にもこの話を漏らしません。
辛い思い出も、いつかは和らぎますわ」
同じ将軍職に就くスクード公爵令息を婚約者に持つ侯爵令嬢が、余裕かまして慰めの言葉をかける。
「ライラ様は、素敵な婚約者と仲が良いようで羨ましいですこと。
私と兄は縁がなく、婚約者なしの独り者ですもの」
「それでしたら、私たちもフレデリカ様と同じ立場です」
不穏な空気が漂いそうで、プリムローズが間に立って仲裁する。
当てはまるジャンヌとロッタは、一言も発せずに頷くだけにした。
「妹の私だけに、兄は教えてくれました。
かなりの額の宝石を貢がされてしまって、そのお金の分を働いて稼いでいたそうです」
ライラが神妙な表情で、興味ありげに訊いてくる。
ジャンヌとロッタは、その手の振る舞いは苦手とし無言を貫いていた。
「その浮気された令嬢に、かなり痛い目にあったようですね」
「ええ、そうなんです。
当分、女はゴメンだ!
俺には、やはり剣しかない。
こう申しておりました」
言い終えて、フレデリカはため息をついていた。
『家族の間でも、この様子だとひと悶着あったらしい。
心中、落ち着かないようだわ』
多分、留学が長引いたのは貢がされた金を貯めるために働いていたからだ。
誰でも察する考察していると、ロッタとジャンヌも同じように考えているようだった。
「チューダー侯爵令嬢。
無礼を承知で伺いますが、兄上様は学園に復学するおつもりですか?」
初めて開いた重い口調で、ロッタがフレデリカに質問した。
「気になりますか?」
はぐらかすように言われて、軍学園に通う令嬢たちの目付きは鋭くなる。
強敵になるかはわからないが、ライバルに躍りでた者を敵視するのは当然だった。
軍学園で騎士道を学ぶプリムローズたちと、淑女として学ぶ貴族の令嬢たち。
これこそが、他人から見たら奇妙な組み合わせである。
ご令嬢育ちのチューダー侯爵の娘フレデリカは、3人の殺気立つ気配をドコ吹く風の態度。
中立のライラは、ピりついた空気を勘づき。
彼女らの表情を見ては、血の気が引いて貧血を起こしかけそうになる。
「明日から、軍学園に復学します。
実技試験でトップになって、首席になるように父に命じられていました」
テーブルを手で叩きそうになるのを、プリムローズは理性で止めるが口は止まらない。
「なにそれ、厚かましい。
チューダー侯爵は、息子が首席になれると思っておられますの?!」
地位が一番高い公爵令嬢のプリムローズからしても、この場で言えるギリギリの言葉だった。
どさくさに紛れて、ロッタとジャンヌもプリムローズに続いた。
「失礼ながら、間際になって首席を狙おうとされるのか」
「最後の実技試験は一発勝負。
勝てるのではと、多少は希望を抱いております」
言い争うような会話に、周辺は耳を研ぎ澄ます。
学生たちは、おぉーっと聞き惚れていた。
自分達が思ったことを言ってくれて、勇気ある彼女らに感謝していた。
「プリムローズ嬢も、本来は該当する。
君も途中から転入したのだろう。
まっ、彼よりマシだけどね」
「実技試験の内容すら、彼女は知らなかったのよ」
親友同士で口喧嘩が勃発しそうになるが、原因の彼女は我関せずの態度である。
「存じなかったとはいえ、私も引け目を感じています。
チューダー侯爵令息は、2年も経ってからの復学。
これは問われるのでは?」
「うん、そこが他の生徒から不況を買っている。
留学先で卒業したんだ。
これで満足すればいいんだよ」
立場の悪い妹フレデリカは、正当な理由を述べてきた。
「悪者扱いしないでください。
兄自身も、復学は気が引けておりますわ。
将軍の息子としては、父は自国の学業も修めて欲しいのです」
チューダー家は、本当に家族関係が良好なのだろう。
兄を慕っているのを、言葉の端々から感じられた。
フレデリカを見ながら、プリムローズも兄のブライアンの優しげな笑顔が頭に浮かぶ。
彼女の思っていたような、単純な話では終わらなかったのだった。
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